100年俳句計画4月号(no.209)


100年俳句計画4月号(no.209)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー
猫の恋 むめも


特集
第4回
大人のための句集を作ろう!コンテスト
結果報告&優秀賞作品



好評連載


作品

百年百花
 桜井教人/都築まとむ/灯馬/美杉しげり


百年琢磨 しなだしん

新100年への軌跡
 俳句/瀬越悠矢/山下舞子
 評/桜井教人/とりとり


選者三名による雑詠俳句計画
関悦史/阪西敦子/加根兼光


へたうま仙人/大塚迷路

自由律俳句計画/きむらけんじ



読み物
愛媛県美術館吟行会/恋衣
Mountain Cabin Dispatch/朗善(翻訳監修:岩崎幹子)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
ラクゴキゴ/らくさぶろう
クロヌリハイク/黒田マキ
お芝居観ませんか?/猫正宗
百年歳時記/夏井いつき
近代俳句史超入門/青木亮人
mhm通信/若狭昭宏

読者のページ
俳句ポスト365
一句一遊情報局
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告




猫の恋
むめも

 野良猫の寿命は3〜5年、家猫は平均15年と言われているらしい。まだ目も開いてない時に保護した黒猫ジジは、恋することもなく、わがままいっぱいで19歳まで生きた。勝手気ままに外を闊歩し、自由に恋をして子供を産む猫の姿を自然と思う人もいる。でも猫は野生動物ではない。今うちにいるのはナナとココ。どちらももう猫の恋はできない。永遠に剥奪してしまった猫の恋心。猫にとってどちらが幸せなのか、当猫に聞くことはできない。
 だから私は縁あって家の子になってくれた猫たちの健康に気をつかう。狭い家の中を走り回って襖でバリバリ爪研ぎしても、日々トイレの掃除をして、早朝のごはん催促で頭に爪を立てられても、お腹をもふもふさせてもらって癒やされる。それが猫に恋する下僕の姿なのである。


目次に戻る


特集

第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト
結果報告&優秀賞作品



 昨年募集を行った第4回大人のための句集を作ろう!コンテストには、53作品の応募がありました。
 31人による大人コン選考会員の審査により、中町とおとさんの『さみしき獣』が最優秀賞に決定しました。また優秀賞は、井上さちさんの『水縹』、上田樫の木さんの『寒林』、マイマイさんの『鶺鴒と歩く』、初蒸気さんの『美顔器』、片野瑞木さんの『次女』、河野しんじゆさんの『てのひら』、中村阿昼さんの『駆け比べ』の七作品に決まりました。
 今月号では付録の最優秀賞句集に加え、優秀賞作品および選考会員による選考評要約をお届けします。選考評を参考にしつつ、各作品をじっくりと味わっていただけたら幸いです。


『コンテストの経緯」
編集長 キム・チャンヒ

 今回も昨年と同様、夏井いつき氏とキムとが「オリジナリティがあるか」「最優秀賞となったとき相応しいか」という視点で、全作品の中から最優秀賞候補を選びました。
 出来るだけ多彩な作品が候補に残るよう、技術や発想が近い作品群をまとめ、それらの中から一作品を選ぶという方法で行いました。4回目ともなると、力作揃いで、時に一句一句吟味しながら、最優秀賞候補を八作品に絞りました。
 そして、その中から選考会員の投票により、中町とおとさんの『さみしき獣』が最優秀賞に選ばれました。
 この「大人のための句集を作ろう!コンテスト」(以下「大人コン」)の特色の一つは、最優秀賞作品が一冊の本となって広く配布されること。今回の受賞作から、本誌読者に加えて、新たに『俳句新聞いつき組』の読者全員に配布することとなりました。更に例年通り、朝日新聞松山総局に於いても数に限りはありますが、希望者に配布します。沢山の方に喜んで頂ければ幸いです。
 またもう一つの特色は、優秀賞も全作品紹介し、その作者は今後このコンテストの選考会員となる資格を得ることです。
 これらが目指していることは、沢山の方に句集を手にして頂き、沢山の方に応募して頂き、沢山の方が作品を選ぶという循環を生むこと。俳句の読者と俳句作家を育む一つの手段として、「大人コン」が成長することを願っています。
 早いもので「大人コン」も次回は、5回目の節目を迎えます。
 沢山の方に愛されるコンテストとなるよう、コンテストの内容や予選審査の方法なども含め、新たに検討をしています。ご期待下さい。 



第4回選考評要約

大人コン選考会

 選考会員から寄せられた選後評を要約することで第4回「大人コン」のご報告と致します。

「さみしき獣」
中町とおと
 得票12名 合計18点

 全編に流れる悲しいまでのエロティシズムに圧倒された。上品で、甘くて、切なくて、恐ろしくて、哀しくて、アンデルセンの童話を思い出す。危うく美しい独特の世界観。読み進めるにつれ孤独感も伝わって来る。抜群の語感とイメージ力を生かして、音で意味で表記で、縦横無尽の「言葉遊び」。一句一句の世界の、想像を越える広がりと奥行。その世界に自由に出入り出来、十分堪能し、更に未知なるものと出会える楽しみ。一句一句がまるで短編小説のようだ。歴史的かな遣いが、たおやかな句の内容と合っていて魅力を増す。「春兆すグラスの縁の塩の味」「うすらひよ触れゐて遠き唇よ」「若鮎の膚に分るる水のすぢ」「つ・る・ば・ら、を音符のやうに男の子」「濡れ髪にほうたる付けてゐて正気」「目かくしで含ませてやる枇杷と指」「夏の野やまだ触れずおくシヤツの胸」「不知火を灯せさびしき王のため」「くちびるを読みあふ遊び小鳥来る」「饒舌な月夜の牡蠣は縫ひ綴ぢよ」

「鶺鴒と歩く」
マイマイ
得票10名 合計15点

 普段誰でも目にする光景が、作者の手にかかると扉が一枚、また一枚と開き、新しい感覚を呼び覚ましてくれる。知性的で現代的な雰囲気と、伝統的な季語を生かした俳句の両面を兼ね備えている。「飽きさせない仕掛け」が一番多様で、かつ全体の作品レベルが安定していて瑕疵が少ない。読み終えて癒されていることに気づき、また読み返したくなる。「ジェット機とねじれの位置に冬の帰路」「くちびるは記号そこから白い息」「飛び石を踏まない自由梅に東風」「菜の花にヒト、イヌ入れていた凹み」「熊蝉や万の書を閉じ地下倉庫」

「水縹」
井上さち
得票8名 合計12点

 作者が身を置く世界はなんと様々のもので満ち溢れているのだろう。堅実な作りは精度も高く、詩としての柔らかさも醸し出している。均整のとれた安定感のある取合せと、明るさやユーモアなどの人間味。感性鋭い作品が多く散見され、また病気と向き合う運命の記録が、俳句という表現手段の存在理由を再確認させる。オリジナリティを求めた言葉の選び方も楽しい。「月朧心は水でできている」「元素図鑑の上に花冷のダンベル」「ソプラノやりうりうとある落椿」「オルゴールの棘には春の月の影」「小鳥抱くように夫の手に無花果」

「次女」
片野瑞木
得票9名 合計12点

 下五の意外性が小気味良く、時折、世の中を斜めから見ているようなユーモア。些細な感興を軽やかに掬い取って絶妙の味付け(障りにならない程度の毒)で供される感じ。81句の長丁場を読み疲れすることなく、スルスルと読み下せるポップ感が爽やか。「鷹化した鳩と元から鳩の鳩」「悠々と海月はいつだって迷子」「上にまいります四角い残暑ごと」「菊膾立派な父はよく拗ねる」「ザボン掲げるお日さまよりは小さいが」

「駆け比べ」
中村阿昼
得票11名 合計11点

 観察に基づく爽やかな詩性。子育てをしつつ四季折々を楽しむ作者の日常が読み手の心を明るく掴む。作者の視線が決して甘過ぎず子供をクールに見つめている点も魅力。「子どもには子どもの軍手春の風」「浮いてくるおたまじやくしの大頭」「父さんの春の帽子を返しなさい」「もがきをる蜂ごとバケツの水流す」「ストーブと吾の間に夫がゐる」

「美顔器」
初蒸気
得票6名 合計9点

 尋常ではない世界感。取り合わせの自在。駆使する季語の幅広さ。気を引く言い放ち。それでいて、地に足のついたまっとうさや、時に繊細な感性を覗かせる上手さ。全力疾走すればめちゃくちゃ速い走者が少しおさえて走っているような余裕を感じる。「野薊のほうへ転がる咎の首」「チワワ棄ててきたわ沈丁花のとこに」「花桐や水の都の造幣所」「壺のごとき村に青田の溢れけり」「自転車の骸骨沈む鰡の河」

「寒林」
上田樫の木
得票6名 合計6点

 構成は練れていて、静かな読み応えがある。詩性。まざまざとした実感。あるいは切ないような若さのきらめき。大阿蘇、宇佐、福島などの固有名詞を使った句もいいし、ハザードマップなど「現代」を詠もうとする意欲にも惹かれる。「囓りたる肉に散弾猟期果つ」「犀のごと眠る夏野の火砕岩」「雪隠の紙のごわごわ黄蜀葵」「幾度も炎天を落ち棒高跳」「箒星埋めてコスモス揺れやまず」

「てのひら」
河野しんじゆ
得票3名 合計4点

 肝の据わった作者の姿を髣髴とさせる。身の回りの出来事を身に添った言葉で真正面から句にできる力量にただ感服。季語の斡旋も的確。観察とそれを楽しく享受する心の広さが心地よい。「青芝へ寝ころぶ為に髪を切る」「角ばつて乾く不本意大蚯蚓」「相槌の無き窓明し桃青し」「一夜明け喪服の蛍乾きけり」「退職を決めた月夜や歯を磨く」



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「水縹」
井上さち

月朧心は水でできている
お歯黒の口より寓話夜の梅
誰も止められぬ椿のざわめくを
サーカスの雨のテントや恋の猫
マウスピースの跡唇に浅き春
陽炎や部室は酢酸の匂い
元素図鑑の上に花冷のダンベル
春の雨下宿は骨董屋の二階
若草や腹這いで飲むシャンパーニュ
高く高く脚上げ清明の犬は
春の水雄々しく老いた河馬の尻
風光る四つの翼持つ化石
カフカ読む朧の魔法瓶より湯
Y字路の角の模型屋春愁
ソプラノやりうりうとある落椿
からっぽの電池が重い蝶の昼
オルゴールの棘には春の月の影
名人の棋譜を辿っている遅日
古代魚の横たわる部屋朧影
水船の低く進むや桜東風
菜の花を刈り倒すのが仕事とは
卒乳の夜の満開のさくらかな
大往生の骨美しき紋白蝶
翼軋む音して開く首夏の鍵
蜜柑咲き初むピッコロ鳴るように
兄弟子に結んでもらう夏の帯
みずうみの色なるセルの残像よ
映写技師の白手袋や虎が雨
光り合う月と花蜜柑の雌蕊
昼のように白き病室海芋咲く
入荷せるひよこ一万聖五月
銀の粉零して紫陽花の乾く
黒南風の巣なり桂浜闘犬場
著莪の花阿修羅は泣いているようだ
早苗田の奥は古墳と書いてあり
白南風に待つは胸板厚き犬
風死すやバスはゆらりとやってくる
布教所はビルの四階韮の花
耳の穴より草刈りの葉の欠片
劇とある毒性の蘭青嵐
内蔵を剥き出す工都日雷
轆轤止めれば河鹿のひひひひひ
繋がったままに光を飛ぶ揚羽
ゆっくりと珊瑚は白化日雷
星の終焉海月はかふんかふん
騙し絵の窓より白シャツの男
万緑や千のボタンの制御室
洗いたての月へ子象は鼻伸ばす
浜菊や皆先端に行きたがる
小鳥抱くように夫の手に無花果
血族やたわわな柿のなる空家
駆くる夢みているらしき望の犬
車内にはジャズくねくねの月の道
龍淵に潜む古地図に大隈邸
猪除けの空砲星の残りけり
色変えぬ松や紙幣は毛沢東
サックスの独奏月へ駆け上がる
モロッコの笛ぺらぺらと秋高し
チェンバロや無月に弾け行く果実
原子炉は三機や夜の雁来紅
投了や月さらさらと走り出す
鶏頭は夜をぐらぐらさせている
月代やバーボンボイスの老スィンガー
月満ちて行くよ筋腫のとくんとくん
死臭辿れば象舎の石蕗の花
立冬の太宰の本に木の匂い
星の入東風山の上ホテルかな
鷹の影海を見ている忠霊塔
大寒のからんくるんと木の玩具
吉原や投げ込み寺の門に雪
オリオンを蹄に大鵬逝きにけり
乳剤のとろんとろんと冬の水
荒星や炎へ変わり行きし紙
冬凪やさりりさりりと万華鏡
魔女の顔のトーベ・ヤンソン冬の星
中天にとどまる鷹の羽震う
離れ行く巨星と巨星山眠る
たかぶりを見せぬ男や冬の海
水縹なる一月の手術服
退院やお山の上の家は雪
啓蟄や子規の体に開きし穴

井上さち(いのうえ さち):1964年生まれ。2003年より「いつき組」組員。2011年「街」入会。2014年「街」同人。
俳人協会会員。季語の宝庫日土に暮らす。



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「寒林」
上田樫の木

「春めく」と告げマラソンの中継車
二月尽削る木の香の丸しまるし
金縷梅や右ポケットに「春と修羅」
齧りたる肉に散弾猟期果つ
堅雪の野越ゆイエスのごとく越ゆ
春陰のロザリオ故国より手紙
大阿蘇は凹んだ目当て鳥帰る
羊蹄や水に蠢く牛の舌
落ち椿ひとつ火口の静まりぬ
春の月光の縺れあつてゐる
白鍵の黄ばむ象牙や涅槃西風
鷹鳩と化して猫ども寝てばかり
襟章に青空映し新社員
万愚節電波時計は狂わない
アスパラガス齧る野心など捨てた
篠懸の花パレードの金釦
子猫鳴くふやけつちまつた段ボール
望潮夜は海から満ちてくる
卯波寄す浜はザビエル上陸地
西班牙の神父の椅子の円座かな
パライゾの寺に参るか緋鯉ひごひ
浮いている羽虫を井守食らはざり
石楠花や千切れ千切れて雲と日と
連山に雲無く新酒火入かな
取り取りの水筒浸かる噴井かな
犀のごと眠る夏野の火砕岩
籐椅子の日課となりぬ双眼鏡
月齧りて鵤の嘴の黄色かな
行々子産褥の熱去らぬ夜
太陽に腹ふくらませ浮いて来い
校則を破り氷菓を舐める防波堤
大南風廃工場の破船めき
魚屋の臓物入れに青き蠅
蜘蛛糸を吐く冷温停止の闇
繍線菊や風抜けてゆく猫の墓
宇佐神宮ココヨリ四里泥鰌鍋
雪隠の紙のごわごわ黄蜀葵
水滴を真珠とまとふ毛虫かな
ゴム長の踵迫れり夜盗虫
腐草蛍に試験管で溶かす星
ザリガニを餌にザリガニを釣る少年
夏服の少女よ水兵はあの日海に沈んだ
幾度も炎天を落ち棒高跳
くおんたむくおんたむ蓮ひらく
秋天を子のゼロ戦と鴎らと
秋の田の匂へる宇佐に詣でけり
火の粉浴ぶ異形の神や秋祭
フラスコを透かし円き夜ちんちろりん
片耳のウサギの墓標懸巣鳴く
曼珠沙華曼珠沙華窒息する眼
ハザードマップの赤き辺りにいぼむしり
秋分に鳴らす形見の弓弦かな
箒星埋めてコスモス揺れやまず
牛の群三つ飛び越え鶸の群
胴震ひせる秋駒の孕みゐし
杉の実鉄砲転校生の肩先へ
アフリカにオクラと人類の起源
猿の腰掛老師はいつも「沒問題」
赤土で埋める運動会の穴
飛蝗ばたばたバター色の夕陽
千の鵙鳴きをり万の贄求め
退勤の妻よりメール秋刀魚焼く
点すごと一粒置かれ栗羊羹
福島の齧れば林檎硬しかたし
大鋸屑のスープに浮かぶ夜食かな
独立を論じ夜長のウイスキー
鬼胡桃火焔の土器の一欠片
立冬やコントラバスは大き洞
星雲の座標図暗し花八手
古着屋の倫敦臭きジャケツかな
シャガールの年譜の長し室の花
喫茶「七転び八起き」改め鯛焼屋
風の夜にいなくなつた子マントの子
凍て星を意地悪そうな山羊と見る
寒林に入り爪痕が目の高さ
雪雪雪雪雪蕾雪雪雪
懐炉離し押す探鳥の計数器
哲伯父はミソと呼びけり鷦鷯
足跡と水掻き跡が雪の上
浮かびては寒鯉の口夜を吐き
白鳥の鞴のごとく哮るかな

上田樫の木(うえだ かしのき):1965年松山市生まれ。大分県由布市に妻と猫2匹と暮らす家具職人。工房のラジオから流れてきた組長の声に惹かれて俳句を始める。



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「鶺鴒と歩く」
マイマイ

ジェット機とねじれの位置に冬の帰路
くちびるは記号そこから白い息
薄紙の花は冬日を咲いている
紙の輪をつないで伸ばすクリスマス
蝶結び掲げ聖菓の乗り込みぬ
白菜の断面にあり既に花
白菜も妻も愛しておりにけり
G線上のアリアいつの間に雪か
よぎるものあり鷹の眼の金色に
数え日の絆創膏の美しき列
須らく冬眠鼠目ヤマネ
年を越すホテルの硬き歯ブラシと
解凍のごとく初湯に浸す指
街中に自動音声悴めり
善い人と言われる仕事始めの茶
ドフトエフスキー読了割るは寒玉子
帰り花愛を上書きするドラマ
龍の玉ほどに冷静ではいられぬ
魂の入口にある霜柱
待春のコルクボードの赤きピン
病院の空気の残るコートかな
立春のゼムクリップの弾けよう
飛び石を踏まない自由梅に東風
落ちた椿よ楽観主義者の見る夢よ
春愁は半熟茹で玉子のうす皮
暖かや電車に余生ありました
沈丁花満ち交番に点くあかり
シュレディンガーの猫も恋する猫ですか
朝寝して朝寝している妻を蹴る
烏の巣たぶん我が家のハンガーも
啓蟄の柿の種なら動くかも
卵なる象形文字の点に春
蒲公英を踏んだ音符が散らばった
海峡は春を眠るがごとみどり
捕まえておく遠足のレジ袋
鳥帰る日時計は日をうしなって
菜の花にヒト、イヌ入れていた凹み
花冷のつと伴奏のピアノから
日本語で聴くシャンソンも暮の春
花びらを乗せ紙コップ回りくる
ドアノブの真鍮花の雨を来て
針槐水門に星引っかかる
行く春の切取線の先の海
陽炎の記憶に石をひとつ積む
夏来る砂肝のこの噛み応え
解体の順番を待つ薔薇である
自己愛やピーマンの種掻き出して
先頭の人に蜥蜴を見る権利
小判草ひゃらひゃら街を見下ろして
黴生えたペットボトルの内側に
紫陽花の描けば描くほど多角形
暗がりにムカシトンボと遭う時間
六月のボトルシップに吹く風よ
水馬の水輪も水も流れ過ぐ
時々は外れて戻る蟻の列
梅の実の日常という瓶の中
まくなぎを過ぎまくなぎを過ぎまくなぎ
ぶら下がる裸電球どぜう汁
金色の光を帯びて世に毛虫
絶叫が灼けた新聞紙の中を
熊蝉や万の書を閉じ地下倉庫
百日紅路地に溢れて葬の列
心臓の破裂音とも花火とも
遮断機のキリンめきたる残暑かな
秋団扇丼鉢へ投げる賽
雨さっと過ぎてかなかな遠く近く
お隣に梨送られてくる時分
ときどきは飛ぶ鶺鴒と歩く朝
えのころや地図を逆さに読む番地
名月や古地図のごとく雲のあり
オーボエに始まる秋の嵐かな
次々と鶸、太陽の黄の揺らぎ
ものすごい色に紫芋の粥
きっと夕焼け月蝕の月面は
鎖骨から肩甲骨へ秋深む
秋晴よサーカスという胎内へ
飛翔し回転しひとつとなる影絵
深秋を走るモップの如き犬
さすらいの金の落葉と思う掃く
美術館通り冬芝刈る匂い
雪踏むやライカが彼の銃だった

マイマイ:1966年愛媛県生まれ。2003年より南海放送ラジオ「夏井いつきの一句一遊」に投句を始める。第1回大人コン「多面体」にて優秀賞受賞。2013年、句集『翼竜系統樹』上梓。



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「美顔器」
初蒸気

幔幕の息するごとく鐘供養
闘牛の腹の優しさ日輪号
風光る並ぶ墓標の露西亜文字
不発弾爆ぜよ爆ぜよ春の雪
革命の凱歌が塞ぐリラの路
野薊のほうへ転がる咎の首
情死ありし焼け跡濡れたつくしんぼ
小町忌のフィリピンダンサーのおいどかな
東風で薄める黒酢みたいな溜息を
チワワ棄ててきたわ沈丁花のとこに
春昼を木魚の中に寝るごとく
たんぽぽ咲きたり聖書を選びたり
雪豹と象と見て来し花衣
花の雲へ通勤快速突つ込んだ
さしすせそせはなんだつけ春鰯
お玉杓子孵りお薬飲む時間
粉挽き節のテープ伸びたる田楽屋
鵜馴らしや女の腕に抉り傷
蛤や大和魂にある重さ
憲法記念日岩波新書旧赤版
花桐や水の都の造幣所
卯波聞く殉難塔は碧き石
同銀と打つて卯の花騒ぎ出す
壺のごとき村に青田の溢れけり
臍帯に流るるわが血青嵐
名瀑の駐車場より湿りをり
この先に螢の渓などあるのですか
荒れ城に大蓮華咲く凶事かな
黒南風や狂犬疾駆する園庭
空き家より出火す島の半夏生
ホテイアオイ掻き分け泳ぎ来る目玉
吊り橋を揺する山百合大群生
夏深き残虐犯罪史借りて読む
籐椅子やギニアに生まれ落ちる夢
日蝕やレースの影は千の鬼
くちなしや情婦の家のペンキ塗る
いぢめるのはきみがひめぢよをんだから
芙美子忌や蒼き海峡ゆく砂利船
背嚢の缶詰が鳴く炎天下
賑やかに走る走馬灯の無音
幾万の向日葵白くエノラ・ゲイ
みささぎへいなづま鍵の開く音
秋分といふ太陽の開き癖
灯台の優しき白へ秋燕
鉄柵は空へ矢じるし桐一葉
腕ぶん回しコーナー駆けよ青蜜柑
椎茸焼く月色のバターたつぷりに
黄落や牧には王の馬駆ける
夜食なぜ夫人は殺されなかつたか
木犀や息も吸い続ければ死ぬ
秋風や横断歩道の通りやんせ
電子音しか聴かぬ日が暮れて鵯
イラン人の塊が秋祭にゐる
タクシーの二台待つ駅飛蝗群
自転車の骸骨沈む鰡の河
尻揉めば艶々黒き簑虫出づ
祖母の遺せし美顔器と万年青の実
鶏頭の折れていつまで赤きまま
爆ぜながらよく燃える椅子震災忌
不知火や新羅が攻めて来る噂
落し水が夜を穿ちて逃げてゆく
県道の濃霧に溶けずケモノの死
甕棺の尻は西向き神無月
溢るるシャンパーニュ黄昏の風花は
白鳥のこうと鳴きては星を吐く
彗星は散弾の如く枯野へ
硯の陸に小雪の水逃げ惑ふ
蓮掘の乾けば青き父祖の土
霜柱の農大を突つ切れば近い
霜のトラクターへ拳骨のごとく火を入れる
指に粘るオイル枯野の端で拭く
トランクへ日経を敷く大根引
水つぽく腐つて室咲の仕舞ひ
稚内駅前民宿痩蒲団
寒暁のプレアデス星団のごとき痰
凍死者へ掛ける日の丸熱き赤
枯茨戒名にある刃の字
顔見世やオペラグラスの僧ふたり
紅きべに赤き宝恵籠明かき声
愉快犯が竹馬で逃げてゆくよ
口開けてゐる節分の土間の闇

初蒸気(はつじょうき):1975年生まれ。転勤族として流れ着いた松山で俳句を始め、世間様に眉をひそめられる俳号を名乗って、はや10年ほど。妻はカリメロ(俳号)。



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「次女」
片野瑞木

何かって何だブランコ高く漕ぐ
理想像とはスカスカの春キャベツ
梅にうぐいす活動家に髭
ワレワレハ踏マレル麦ニナリマシタ
つちふるや一張羅にも海馬にも
留守番は砂吐く浅蜊十五匹
柳の芽吹かれパンプス脱げやすし
クリップに逃避願望鳥曇
鷹化した鳩と元から鳩の鳩
蝶の昼日当たり良好なる廃墟
桃の花邪気なき人の恐ろしき
パブロフの犬のごとくに待つ桜
次女五人集う四月馬鹿の風呂屋
草朧わたしの触角は短い
チューリップ赤ばかりある無人駅
一斗缶にぎっしり桜餅の葉っぱ
敷物のどうにも広すぎる花見
大口を叩けよ春の川渡れよ
てのひらのオタマジャクシのひちひちひち
春夕焼吸って吐くのが深呼吸
夏来る静止画像の水しぶき
シマウマの尻は横縞若葉風
三日目のハンカチ貸すと言われても
小満の洗顔料の泡重し
キッチンの蜘蛛に名前をつけるか否か
夏帽子目深に友をやり過ごす
サイダーばちばち灰色の空ばかり
洋館の古し蜥蜴の背の妖し
一団の去り香水が澱のごと
向日葵のうなだれ過ぎている庁舎
蝉は鳴くものポケットは破れるもの
おばちゃんて呼ぶなかき氷こぼすな
忘れ物係に二袋の金魚
炎昼をひしめきあって小籠包
朝凪の海と空とが同じ色
落ちてくるもののひとつに青大将
夏草に押し付けて消すマッチの火
カブトムシなめときゃ治る傷ひとつ
海水浴帰りの泣いたような顔
悠々と海月はいつだって迷子
かくまってあげよう秋の蛍なら
鉄板に水はじかせる終戦忌
上にまいります四角い残暑ごと
八月の博物館の埴輪の眼
ジューサーや二百十日をうなりだす
モールス信号刻む蜻蛉の尾の速し
鯔にへそドーナツに穴ある不思議
金秋を沈むダイオウグソクムシ
はたた神来るぞグリコはおまけつき
吹き飛んだ屋根の形に天高し
枝豆の殻の高さを競いあう
十六夜の何も入れてはならぬ壺
息吸って吸って角の金木犀
小鳥来る光や窓は嵌め殺し
うそ寒を裂いてシャッター開ける音
筆談具あります檸檬香ります
飛びそうな椎茸丸のまま煮込む
菊膾立派な父はよく拗ねる
ハンプティダンプティひょんの実が鳴らない
黄落やタイムマシンは修理中
冬浅し不許複製の鳥図鑑
初霜にきらきら祝福されし朝
木守柿見える第三講義室
山鳩のしゃがれて冬麗を歌う
枯芝の匂いリュックも髪の毛も
鷹渡る海は平らな振りをして
冬の霧ホテルの鍵の薄っぺら
後輪のかしゅんかしゅんと冬ざれる
立ちこぎの顔が痛ければ霰
人参や攻撃は最大の防御
コンビニのおでんをそんなにたくさん
微笑んでいるらし受付嬢のマスク
極月のネジ巻きすぎたような母
頭より太きカリフラワーをどうする
きよしこの夜十時半まではバイト
年越の止まらぬバターピーナッツ
珈琲の薄きを愛し冬の鳥
手のひらで溶けゆく雪や性善説
冬の雲歪んで映る大鏡
ザボン掲げるお日さまよりは小さいが
待春の魚肉ソーセージのピンク

片野瑞木(かたの みずき):1963年愛媛県生まれ。さえずり句会所属。2004年、当時10歳だった次女と参加した日土小学校句会ライブで俳句と出会う。



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「てのひら」
河野しんじゆ

阿武隈の空なでてやれ花樗
音紋の触るるや夏薊の山へ
緑陰や肘にひつつく地図剥がす
糸の目の女ヒマラヤ杉の木下闇
蟻の這う簡易テーブル畳みけり
青芝へ寝ころぶ為に髪を切る
夏草と同じ高さの猫の耳
銅像の鬣分ける夕立かな
馬あらば洗つてみたし後脚
角ばつて乾く不本意大蚯蚓
新涼の虹の根に抱くガスタンク
相槌の無き窓明し桃青し
手にありしシヤボン消えゆく間の秋思
よその灯の三つ四つ小さし一茶の忌
月影を耳の窪みに住まはせよ
落ちさうな牛案じたる芒原
泣いている風の匂ひや胡桃割る
雪催ひ砥石の汁の刃物色
凸凹の凸の氷の抜いた凹
父母と鳥鳴く島の牡蠣打女
風邪声でごつつあんですと言ふてみる
しあわせは百のおにぎり雪まろげ
七草や神住まはせる粥柱
紅梅や鉄鎖の錆びに触れぬまま
二月のクレーンの海吊るつもり
井戸有りき目印石の春浅し
猟期終はる中風の爺の夢に犬
亀鳴くや大往生の認定書
春陽をひしめくやうに人と人
銀行の半旗かたぶく初桜
あそこから上が建て増し霾ぐもり
遺失物保管倉庫や春の闇
雛様の烏帽子は猫に盗られけり
夜桜や別居の荷物三つだけ
堀の水どくどく吸ひて花始め
パンプスを包む新聞花の茣蓙
桜狩山神様に会ふつもり
花屑を付けたる人の長話
色物を分ける盥も春の湖
パンストの掛かる背もたれ土恋し
囀やねぢに合はせるねぢ回し
分解の時計そのまま春の果
ため息のやうな五月の水の底
噴水の終はり美し言い初むる
恋をすな焼いたイサキの骨立てな
雲水の袋の闇や新樹光
黒々と海に養分梅雨の雷
一夜明け喪服の蛍乾きけり
ペツトボトル潰す裸足の土踏まず
夏痩の私に跪くバスよ
緑青の深く息して梅雨入りす
我が風吹けよヨツトありつたけ来よ
錆止めの朱の乾けば丸き虹
慈悲心鳥母の記憶の兄の顔
干したれば他人の顔の水着かな
夢に棲む母よく肥えしアツパツパ
献血の婦人会らの夏帽子
枝豆や校歌は旧制女学校
どこをふみませう夏草びつしりと
アコオデオン縮んで秋思のパイプ椅子
コバルトの青の哀しき雁渡
鰯雲ペンチのきゆいと鳴いた日に
退職を決めた月夜や歯を磨く
十六夜のきりんは走る夢を見る
秋うらら象の脚だけ見える小屋
閉園の張り紙捲れ菊人形
火を囲む男の話種瓢
毛糸玉来るのは郵便ばかりなり
井藤副支配人五回目の落葉掃き
あごにマスクで頂いている辞令
外股の仲居の曳いて来し大根
室の花身の丈ほどの絵皿かな
大掃除亀の甲羅の溝こする
喪中欠礼砂糖の塊り割つている
ビニールにむりやり戻す新暦
春嵐海の匂ひの水たまり
かんぶくろねぢる両耳春きざす
愛の日のてのひらひらり鳩になる
目を閉ぢる大天使ミカエルの春光
ものの芽や優しい雨のまう上がる
出身地聞けばてふてふ飛び立ちぬ

河野しんじゆ(こうの しんじゆ):1955年生まれ。心は宇和島の「じゃこてん句会」にある松山市在住者。現在は「棚ぼた句会」にて俳句を楽しんでいます。



第4回大人のための句集を作ろう!コンテスト優秀賞作品

「駆け比べ」
中村阿昼

うぐひすの森で受付してゐます
駆け比べさへずり山のてつぺんへ
蝶々へ竹の釣竿振つてみる
子どもには子どもの軍手春の風
浮いてくるおたまじやくしの大頭
蕊だけの鉢となれどもチューリップ
デイジーの花びら今日も固さうな
母さんをほめてくれる子桜草
春の星でこぼこクッキー焼き上がる
亀泳ぎ子は駆け回る桜かな
父さんの春の帽子を返しなさい
霾るや射的の玉はあと一つ
イカ焼きを咥へたままの花吹雪
寝転んで茣蓙の花びら吹く子かな
せがまるるままに口笛風薫る
手より掌へ天道虫をくれし母
ぶらんこの足が若葉に触れて来し
ジーンズの中に草の葉聖五月
葉桜の枝垂れ枝垂れて虫食ひよ
三日月の尖から螢来ると言ふ
火ばさみでつつくアメンボ雨蛙
紫陽花がきれい畳んだ傘で指す
シーソーの相方にして夏の蝶
アマリリスの広き莟に蠅つるむ
瓜の花蘂の尖まで水溜めて
玉葱のとなりバナナを吊りにけり
食べこぼし拭いて冷房強にして
牛鬼の尻尾を夏雲に向けよ
海そこに見えてゐるのに夏の雨
裸子や胸に石蓴を盛り上げて
げぢげぢをもいちど見れば横向きぬ
白シャツのひらりと先を行くひとよ
おはぐろや生きて帰れる道ですか
団子虫追い越し蟻の走り来る
蜥蜴掴んだ指より瑠璃色の尻尾
蝉穴に蝉の抜殻突つ込む子
凌霄や押しピン錆びし掲示板
ばあちやんに蹴りとばされし御器かぶり
夕空の青きところに石榴の実
汗匂ふラジオ体操帰りの子
お向かひの猫を団扇であおぎけり
もがきをる蜂ごとバケツの水流す
カラー咲く井戸の隣の純喫茶
芋虫の食みこぼしたる独活の花
秋暑し見るともなしに畳の目
孟蘭盆の日傘差すのもめんどくさ
一尺の湯瀧に打たせ肩の秋
鶏頭の辻を過ぎてもまだ行くか
せうがない葛の花まで行つといで
梅の木を遠巻きにして曼珠沙華
子供らは蜻蛉の空へ指鉄砲
吾亦紅が好きと言ふなり真顔なり
白粉の種採るランドセル二つ
水引の花より指に移る蟻
柳散るからくり時計広場かな
マネキンの赤き絣や芋の秋
不揃ひなカフェの床板秋の潮
秋霖やケーキの尖をさつくりと
眠き日を眠れず暮れて秋の雨
秋麗この電車にも乗りません
子は服の草の実取つてまた草へ
父さんは竹伐る僕は箸削る
草紅葉左を来れば落とし穴
紅葉かつ散る秘密基地には竹の弓
山霧や手のひらに置くラムネ菓子
硝子戸にカーテン厚く菊の雨
配達のバイク過ぎゆく時雨かな
蛸飯の店で手招き冬帽子
お茶淹れて雨の向こうの石蕗の花
納豆を混ぜる横顔凛々しくて
悪友と小春日和の塩むすび
トラクターと犬を仕舞へり冬の星
初夢のアイロン掛けが終はらない
葉牡丹の並ぶ赤玉蒲団店
ストーブと吾の間に夫がゐる
冬の月細し自転車籠に葱
砥部焼の徳利そこに炭を継ぐ
噛むほどに手強き奴と寒の蛸
湯の町の冬の硝子の晴れてきし
蜜柑手渡すベーゴマ指南の秀さんに
走る子を呼ぶとき外すマスクかな

中村阿昼(なかむら あひる):1966年生まれ。1998年、「童子」入会、同年俳句集団「いつき組」参加。2009年、第一句集『でこぽん』出版。


目次に戻る

百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2015年度 第一期 第一回


「発心」 桜井教人

春風のしづか発心またしづか
遍路杖の鈴音かすかにして車中
花菜風過ぎ大塔の先端へ
男前すぎる仁王や初音きく
札所寺かならず名前つく巨木
(前書き 般若心経)
無色聲香味觸法(む しき しょう こう み そく ほう)ここでつまる
枝垂梅ばかりをほめて遍路の夜
朝霞それとも山寺の呼吸か
納経を待つ沈丁の香に座して
納経の墨あをあをとたつぷりと
龍天に虚空蔵菩薩来たまへば
初桜全山すでに龍である


1958年生まれ春から区切り打ちによる四国遍路を始める。遍路に出て初めて遍路が春の季語であることを実感。




「日土・春」 都築まとむ

暖かやかわるがわるに枝に鳥
梅ぱらりお灸教室のお誘い
早春のクリーム安っぽく匂う
つくし伸ぶ脚立ぼんやりしてる間に
おおごとよこがい菜の花咲かしちゃあ
菜の花を引くどっすんとふっとい根
菜の花になりたし胆力が足りぬ
春眠や夫と私は違う息
ヌタ山は風走るとこ花ふぶき
ホオジロの卵はビー玉の重さ
悪かったホオジロ卵にもんて来い
鎌振ってはるののげしの絮を浴ぶ


1961年愛媛県生まれ。第3回大人のための句集を作ろうコンテスト最優秀賞。八幡浜市日土町で柑橘栽培をしながら季語にまみれて暮らす。




「梅林」 灯馬

春愁のふらんすパンがながすぎる
三椏や猫の手相を占ひぬ
飼ひ猫の二日で終はる春愁ひ
猫去りしかたちに春の寒さかな
梅林の何処かにものを焼く匂ひ
観梅に具すに宜しき男なり
一山に梅を咲かせてみせ給へ
二ン月の機窓鯨に逢ひたしよ
三月のてつぺん甘さうな富士嶺
残雪の新宿らしき汚れやう
髪に縺れて春宵のトーキョーは
月おぼろ愈々艶めくチェロの臀


1970年生、福岡育ち。01年に松山へ。「ざくろ句会」にて俳句を始める。10年3月より猫と正式に同居。「はじめて句会」に(時々)参加。




「たまゆらの光」 美杉しげり

薄氷を踏む音夜の明ける音
春雪へ耳をさやけくしておかむ
ぞくぞくと本家へ集ふ春みぞれ
愛の日のあまつぶ金色にそだつ
ひばりひばり銀の炎を吐きつづけ
空よりも入江明るし春日傘
たまゆらの光を寄居虫のはしる
陽炎をいま鼓笛隊来るやうな
猫はたぶん春の水から出来てゐる
春塵きらきら楽聖の肖像画
ひるがへりやすくて春服とことば
手相見へ人かげゆつくりと朧


1960年生。第8回俳句界賞受賞。4年ほど前から小説も書き始め、短編「瑠璃」で第21回やまなし文学賞佳作。美杉しげりはその時からのペンネーム。




目次に戻る



百年琢磨




 強調する表現 しなだしん

「サラ跳ねる」 マーペー

ソの音で水菜サクサク切っており

 「水菜」は畦に水を貯めて育てるためこの名があり、この句の通りさくさくとした食感がたのしめる。一方、どんな音もその音高を聞き分ける絶対音感の人がいる。作者がそうなのかは存じ上げないが、「ソ」と断定することで一定の心地よいリズムが想われ、明るさも感じられる。

漢らの山風統べて畑焼けり

 「畑焼」の場面。風を読みつつ畑焼の火を采配する男たちの様が浮かぶ。「統べる」という措辞の効果だろう。

野に跳ねる馬の名はサラ草青む

 「サラ」という名はサラブレッドを想わせる。おそらくは仔馬だろう。「仔馬」も春の季語だが、敢えて「草青む」と、景に転じたことで空間が広がる句となった。


「初蝶」 一心堂

春待つやペンキの匂う造船所

 塗りたてペンキが匂うのは、ベンチというのが相場だが、この句では「造船所」が詠まれている。新しい船が造られているのかもしれない。「春待つ」という季語から、船の進水の日が遠くない事も感じられる。

春光の海へと長き参道は

 倒置となっているが、参道が春光の海へ続いている、ということだろう。福岡県福津市の宮地嶽神社では、階段を登りきったところから海へ続く長い参道が望められると聞く。「春の海へ」ではなく「春光の海へ」とすることで「光」が強調された。

朧夜の月読島に着く手紙

 「月読島」は月読神社のある隠岐を指すのだろうか。いずれにしても「島に着く手紙」というのが何とも幻想的である。


「きらきらす」 七草

薄氷やラピスラズリを護符として

 「ラピスラズリ」は、碧が美しいパワーストーン。作者はこの石を、護符として持ち歩いているのだろう。「薄氷」からは早春の朝、仕事に出掛ける場面が想像される。

春昼を遊ぶ海猫きらきらす

 「海猫」は夏の季語でもあるが、この句の主季語は「春昼」。敢えて「春昼」という抑えた季語を使い、海猫の光は「きらきらす」と独立して表現することで、その眩しさを強調している。

椿湯の燕の便り逢ひにゆく

 道後の「椿の湯」を詠ったものだろう。今年も燕が巣作りをはじめたことを便りで知ったのだろう。「逢ひにゆく」と行動まで詠んだことで、その思いが伝わる。



しなだしん
1962年新潟県生まれ、新宿区在住。「青山」同人、俳人協会会員。句集に『夜明』『隼の胸』。


目次に戻る



新 100年の軌跡


2015年度 第一期
第一回


 緋と瑠璃と 瀬越悠矢

緋と瑠璃と組まるれば雛ガラス館
春ショール手話ぱたぱたと笑ひ合ふ
校庭の四方にゴール卒業す
縦長の口にはじまる卒業歌
永き日や三か国語のアナウンス
人が人をあやめていよよ鳥交る
鷹鳩と化し首づかひたどたどし
鷹鳩と化すやトルソー胸あらは
口笛つたなき椿のむかふかな
のどかさや珈琲豆充つ麻袋
半時に電車一本春の雨
花さいて見本太郎の大家族
淡雪やわが町となる隣町
半仙戯くだくだしきは笑ふべし
その名より先に生まれし仔馬かな


瀬越悠矢
1988年、兵庫県生まれ。大学院より句作をはじめる。関西俳句会「ふらここ」所属。




 ふらここ 山下舞子

サックスを背負つてバレンタインの日
テディベア捨てやうと春からの春
鴨川を渡る前髪風光る
肌を脱ぐやうにふらここ踏み締める
亀鳴くやインヒールなのまるわかり
蒲公英の頭上誰かの紺の傘
おぼろ夜のあたためられてゐる両手
放課後はパーティーに呼ぶ雛の家
女性誌の一年間や山笑ふ
わらびもちいただきまして帯と化粧
ごみ箱にRECYCLE ME!春の泥
なびきたる髪に追ひやられし蝶々
服仕舞ひ終はりて桜餅ふたつ
春愁やごみ袋なるもの多し
それぞれの春に国道から府道


山下舞子
1994年生まれ。愛媛県松山市出身。第13回・14回 俳句甲子園出場。関西俳句会「ふらここ」所属。




県道の春 桜井教人

校庭の四方にゴール卒業す 瀬越悠矢
 学校にはいろいろなゴールがある。ものとしてのゴールもあれば、こととしてのゴールもある。ゴールと卒業がやや近いが、それによってゴールの種類が見えてくる。卒業という希望の言葉が、四方に拡散する光となって行く光景が美しい。

永き日や三か国語のアナウンス 瀬越悠矢
 まず三か国ってどこだろうと想像を巡らせる。次にどんな状況だろうと想像する。国際化社会といわれて久しいが、アナウンスどころか日本の某繁華街は日本語が聞こえる方が少ない状況だ。そんな中でも日永は変わらず私たちの心持ちをのびやかにしてくれる。

蒲公英の頭上誰かの紺の傘 山下舞子
 頭上としたことにより、蒲公英の生命の存在感が大きく増した。雨が降っているのかいないのか、そこに人がいるのかいないのか、句からはよく読めない。しかし、蒲公英のやさしさに見合うだけの人の優しさを感じる。

それぞれの春に国道から府道 山下舞子
 この句を読んで、国道には国道らしい春、府道には府道らしい春があることに気づいた。もっとも私が通るのは県道だが。そして道路だけではなく、そこを行き交う人々にもそれぞれの春がある。ただ、国道といえども番号の大きな国道にはとんでもない奴が潜んでいることを私と私の愛車は知っている。


1958年生まれ。愛媛県今治市在住。俳都松山市の小学校に勤務。第3回選評大賞および第4回選評大賞入選。



着目点 とりとり

 「緋と瑠璃と」は、この人独特の着目点が面白いと思いました。たとえば、

校庭の四方にゴール卒業す 瀬越悠矢
のサッカーゴールと卒業との微妙な関係。

縦長の口にはじまる卒業歌 瀬越悠矢
の歌う顔が目に見えるような口への着目。

永き日や三か国語のアナウンス 瀬越悠矢
の空港に感じる永き日。

のどかさや珈琲豆充つ麻袋 瀬越悠矢
の麻袋で午後の喫茶店を表す描写。

花さいて見本太郎の大家族 瀬越悠矢
の市役所(?)の記入見本を俳句にしようという発想。

 「ふらここ」は、女の子らしく明るいところに好感を持ちました。

サックスを背負つてバレンタインの日 山下舞子
 バレンタインなんて関係ないもん、という明るさがいいですね。

テディベア捨てやうと春からの春 山下舞子
 「春からの春」が理解不能。「テディベア」「捨」「春」は面白い組み合わせだと思います。


ごみ箱にRECYCLE ME!春の泥 山下舞子
 着目点はすごく面白いですが「ごみ箱」と「泥」が近いかな。

これからが楽しみな二作家でした。


1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。


目次に戻る



超初心者から中上級者まで楽しめる
100年投句計画

 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。今回の先選者は、阪西敦子さんと加根兼光さん。後選者は、関悦史さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。
(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)
写真:藤


選者三名による雑詠俳句計画


先選者 阪西敦子

 今年も沈丁花が咲いた。私の住むマンションが表に持つ唯一の植物。なぜこの花を選んだのかわからないけれど、よい花だと年々思う。日々膨らんで白を増す蕾を眺めるのもよいし、咲けばその香りで眠くて疲れる春の朝の頭を軽くしてくれる。しかし、特に夜がいい。治安のそれほどよいともいえない繁華な街で、姿の見える前から匂う沈丁花は、帰宅の安らぎそのもの。


綿虫や川面に影の少なき日 一走人

 川面に影が少ないとはどういう日だろう。日が弱いのかもしれないし、冷え込んだために、人がまばらなのかもしれない。人に関わらず、鳥も、獣も姿を見せない停滞したような一日。そんな日にも綿虫は変わらず空を占めていて、むしろ、その存在によって、冬の一日の不在を際立たせる。綿虫の存在感とは言いにくい妙な存在の状況を、ふと目を留めた川に映った、それも影によって、遠回しに、しかし十全に言い当てている。



寒雀七羽揃ふや急降下 未貫
 電線なのか、囲いの針金なのか、どこかの高みに寒雀が六羽までいて、七羽目が来た途端に、全機急降下となった。重みに耐えかねたのか、そもそも来るのを待っていたのか。また一羽ずつ高みに移って、揃うと地へ下る。

堀端の梅咲く径の昼下り 喜多輝女
 梅の木のある堀があって、その堀沿いに径が走っている。梅の開花は日の当たり方によって大きく違う。堀にある梅は、開けた斜面に日をよく受けて、他に先駆けるのではないか。そんな梅と変らぬ掘に今年の春を喜ぶ。

さざ波に影を隠して寒の鯉 ほろよい
 影は、影のことでもあるが、姿のことでもある。わざわざ隠すというくらいだから、ここでは影を言っているのだろうけど、全体的に隠されている印象。わずかにその背の斑紋だけが残り、あとは失せたような寒鯉のあやうさ。

匂いの先はフライの揚がる春 富士山
 フライの揚がる匂いというのが、正しい順であって、そういう春というだけの句。しかし、句の中でそれは知覚の順となって、途端にそれがいかにも春らしくなる。〈土の香は遠くの草を刈つてをり 虚子〉をふと思う。倒錯の妙。

バラバラに来て水鳥の大円団 森 青萄
 今は大円団となった目の前の水鳥の陣も、そもそもは一羽ずつ寄って来たものであったという。作者の見留めたこれまでの経緯を知らされることで、その目の前の鳥たちの色も大きさも生態も動きも様々な様が浮かぶ。



逝く人の手を握りたる朧かな シャビ
暮れかぬる母を施設においてくる 迂叟
フィルムの残り枚数春の風 北伊作
歩く人走る人あり春の道 エノコロちゃん
仕事始椅子の高さに慣れにけり 人日子
飛び石を一つ飛ばしに寒明くる 省三
待春の木馬は雲になりたくて 樫の木
寒夕焼サイドミラーの痛さかな 元旦
堤防に足垂らす子や遠霞 瀬戸 薫
紅梅を目印として車庫入れす ひでやん


先選者 加根兼光

 黄砂が降り始めてかれこれ半月以上にもなる。我が家のベランダからいつもはくっきりと見える石鎚もこのところ、希にしか姿を現さない。今日は特に頂上付近の春雪をぼんやりと見せているだけだ。そんな石鎚のように今年は春が姿を現すのを躊躇しているようにも思える。と言っていたらここ2、3日メダカが動き始めた。やはり春は正直だ。新しい餌でも仕入れることにしよう。


綿虫や川面に影の少なき日 一走人

 弱々しく漂う綿虫。フォーカスを綿虫からずらすと冬曇りの冷え切った空からはフラットな光が川面を照らすことも無く照らす。普段なら有る、水に映る木や橋の輪郭も淡い墨絵の影ほどにぼかされている。そんな一日、というだけの景。
 その影の少なさが今の作者の心情でもあるのだ。喪失を言葉に出せないでいるかのように薄い影が水と共に動く。喪失の影は綿虫ほどの不確かさで心に漂う。



春たつや地にも空にも成長点 小市
 立春の地と空の景と気分を「成長点」という語で見事に表現した。地から生え出ずるもの、空を高く高く舞うもの。それら全てが春の切っ先として伸びてゆく。「にも」「にも」の繰り返しもこの句の成功の要因になっている。

妖精のお得意の技花の昼 アンリルカ
 「妖精のお得意の技」とは何か。宙返り?急停止? いや人を幸せにすること? 花の昼だからきっと幸せ、いや花の奥に潜む不穏なものも見え隠れする。妖精だからと言って性善説は取らない方が良いのかもしれないな。

山吹やピアスは横にゆらんゆらん てん点
 山吹の濃く鮮やかな黄色が目に入る。長めのピアスを付けた女性がゆったりと歩く姿が「横に」で表現される。「縦に」だと急ぎ足。下五の字余りも揺れの優雅なスローモーション映像を倍増しているようだ。

不真面目な形に脱いで春手套 しんじゆ
 「不真面目な形」とは何だろう?と思わせるところがこの句のキモ。独りで脱いだ手袋を眺めているのか或いは不真面目なことをするために脱いだのか。春手套としたところもいかにも大げさに脱いだ感覚を現している。

紅梅を目印として車庫入れす ひでやん
 紅梅が咲く庭にある車庫。この花の時期以外は花も無く、木だけがバックでの車庫入れのただの目標。しかし今は見事な花を目標に出来る。ひょっとすると自宅では無く実家か他家かもしれない。車庫入れも梅を愛でる季節である。



やんわりと傘ことわりて春時雨 のり茶づけ
沈丁の香や人体の透きとほる もね
飛び石を一つ飛ばしに寒明くる 省三
さざ波に影を隠して寒の鯉 ほろよい
待春の木馬は雲になりたくて 樫の木
冬芽あをしピエロの胸をひらく鍵 緑の手
烏帽子山はるかに春の海濁る 越智空子
笹鳴きの明日は違ふ声で啼け ポメロ親父
遠ざかる春夕焼を背負う汽車 まこち
三月の雨や屋根葺く人の背に 蓼蟲


後選者 関悦史

 昨日から花粉症がひどくなりましたが、これを書いている今日は三月十一日。東日本大震災から丸四年の日です。のんきに花粉にかまけていられるというのも、決して当たり前のことではない。震災の後しばらくは余震が凄まじくて、水や食料も普通には手に入りませんでしたが、はたしてあの頃、あの緊張感の中で花粉症などは出ていたのかどうか記憶がありません。震災中にそういう句でも作って残してあればわかったのですが。


特選句

朝湯して広間に五人山葵漬 みちる

 さほど大人数ではないので、気心の知れた者同士の旅でしょう。「山葵漬」以外も当然あるのでしょうが、「朝湯」「広間」との組み合わせで、さっぱりした清潔な旅館でのくつろいだ朝食という印象になっています。

蝦蟇置かれたる春灯の湯殿かな もね

 これも自宅ではなく、旅館か何かの大浴場らしい句。「置かれた」なので作り物ですが、「春灯」と「湯殿」の湯気の中で愛でられている「蝦蟇」から「湯殿かな」の結びまで、視角が間然するところなく広がります。

開戦日仏間へ通す考の客 大阪野旅人

 「考」は「死んだ父」の意。戦争の犠牲になった亡父を知人が訪ねてきたといった筋が浮かび上がり、「父」の字であればそれだけのことですが、見慣れない「考」が歴史の非情さや粛然たる感じを与えています。



並選句
春雨に生き生きしたる鬼瓦 杉本とらを
春朧映写機のごと豆を挽く 野兎
ボトルにもカバー柔らか春日あび レモングラス
エアメール雲雀は空へ子はパリへ のり茶づけ
強東風や南蛮渡来の菓子届く 幸
春野菜パスタを待ちて街眺む 小雪
油性より水性が好き春の月 藍人
村の道覆い尽くせよ春の雪 富士山
スリッパの左右決めかね春愁ふ ヤッチー
雪原のただ一両の豆戦車 小市
居座つて春の炬燵へ成り上がる 森 青萄
冬空の青はきりりと胸を刺す 和音
下萌えや絶えて久しき便りくる 迂叟
凩に筋肉質の松の幹 多満
ギンガムな春白いボタンに赤い糸 かのん
春暁のヌーベルバーグな寝覚めかな 南亭骨太
英語詩の音楽めいて春の昼 アンリルカ
薔薇の芽やふと見る左手薬指 エノコロちゃん
生酔の酒の半に初湯かな 人日子
待春の文机よりの樹樹と空 高木久美子
きさらぎてふ言葉のひびき水ひかる 省三
昼寝して夜寝て入試どうするの 柊つばき
春昼や長くくの字の坂を押す ミセスコナン
弦硬く今早春武練習中 ちろりん
桃の花伸ばした母の指の先 ほろよい
落雪の響きわたりて結跏趺坐 哲白
傷心や菜の花まみれなる縦走 一走人
雪融けて13日の金曜日 未貫
狼の昔は人と仲よけれ 鯉城
ケイタイに千のアドレス春愁 樹朋
桜蘂降る黒髪のつと立ちたれば 七草
老いの手を包む僧の手雪解光 てん点
春昼の枕木修理完了す ぴーす
菜の花や誘い合いたるバス旅行 おせろ
浅き春浅草寄席の灯をくぐる 八木ふみ
じゃんけんのぐーで連勝桜草 ゆりかもめ
本命を切り取る弥生十四日 八十八五十八
北斎の富士に大波春北風 樫の木
洗い物にほのかに残る野焼きの香 青蛙
朝練の凍える空気矢を放つ 喜多輝女
春の夜の極上ティッシュにむせぶ鼻 うに子
物干せば盆笊に春縮れゆく 妙
いつの間に増えて福豆の幸せ 越智空子
梅咲きてひかりの子等の遊ぶ声 まんぷく
禿頭を撫で待つ春の停留所 元旦
病児なだめて手袋の兎かな しんじゆ
照葉の杜が歓ぶ風光る ポメロ親父
白梅やぼんやりとしたおばあさん 遊人
惜しまれて消ゆる老舗や初蝶来 瀬戸 薫
大原の雪は地球を休ませる 松ぼっくり
テストだぁもうすぐ冬が終わるころ まこち
人ならば壮年根株時雨けり 春告草
金縷梅や金糸卵の舌触り みさきまる
冴え返る百鬼夜行の闇なれば ひでやん
偏頭痛雨水の朝と訴える 青柘榴
薄れ行く母の記憶や春の雪 蓼蟲
少女持つ御朱印帳や春の風 あおい
春惜しむ鳥の羽軸のペンの先 恋衣



関悦史(せきえつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。雑誌「現代詩手帖」俳句時評欄担当(2012年1月〜)

阪西敦子(さかにしあつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

加根兼光(かねけんこう)
映像 俳句プロデューサー。1949年、大阪府堺市出身。関西大学法学部法律学科卒業後、CM制作会社に勤務。CMチーフプロデューサーとして30年以上に渡り、1000本以上のCM制作に携わる。50歳を過ぎて始めた俳句で2007年秋、第9回俳句界賞受賞。映像と俳句のコラボレーション、俳句の新しい展開を目指す。俳句集団いつき組組員。現代俳句協会会員。




目次に戻る


へたうま仙人


文 大塚迷路

 さあ、誰が何と言おうと本格的な春ぢゃ!
 春が大好きな人も、ちょっと苦手な人もとにかく春ぢゃ。
 やってきたものはしょうがない。春をおおいに満喫しましょうぞ。
 今月も、心の中も頭の中までも春爛漫な句が集まりましたぞ。心をしっかり持って、心置きなくとっかかって頂けたら嬉しいですぞ。


生牛乳に告ぐ憎き〜値段や〜鳥騒ぎ KIYOAKI FILM
点字盤弱視の吾や赤ランプ KIYOAKI FILM
 高柳重信の多行式俳句を思い起こさせる句ぢゃ。重信よりある意味難解みたいそうな感じはするが、「値段や」で少し拍子抜けしたような気がせんでもない。と、独り言を言いたくなったりしたぞ。何はともあれ、誰もまねをしようとは思わないこのパッチワーク的句柄、ワシはなんとなく好きぢゃ。

大きめのバッグにつめし幸二つ ケンケン
切り裂きて逆さに持てば幸薄し ケンケン
 幸が二つとは二人分の幸ですかのう? 大きめのバッグの中でほどよくシェイクされた幸は、春の陽にきらきら輝くグラスに注がれていくのぢゃ。と思いきや、いきなり幸薄しとは只事ではないのう。人生さまざまぢゃ。逆さに持たず普通に持てば、幸も厚くなるというもんぢゃ。

香りして探す所に水仙が 真帆
光あび銀色の花猫柳 真帆
 まあなんと素直な句ぢゃ。なんのてらいも媚びもなく、見たまま香ったままを言葉にできるとはいうことは素敵なことぢゃ。凹凸のない春風に運ばれてくるかすかな香りや、光の優しい屈折を大いに楽しみましょうぞ!

コンビニに瀬戸内シラスと青菜あり  台所のキフジン
春憂う白群の空若き腕 台所のキフジン
 近くて遠い故郷がふと近くに感じられ、甘酸っぱい望郷の念に駆られるときはありますのう。それがコンビニであったりスーパーであったり、街を走っていく故郷の観光バスであったり様々ぢゃが、故郷があるというのは実にありがたいことぢゃ、とつくづく思うのう。思わず買った故郷のものを食卓に並べ、あの頃にタイムスリップしてくだされ。

コロネパン下からたべる春の空 誉茂子
 独特のかたちのコロネパンをかじった時のじわーとはみ出るチョコレートの感覚は、確かに春の空ぢゃ。手と口の中にあるコロネパンと、遠く近く広がるぼよんとした空はまさしく春の真っ只中ぢゃのう。つくづく幸せを感じる長閑な良い風景ぢゃ。

水を汲む形に春の北斗星 ひでこ
蝶生まる小学校のあたりから ひでこ
 「蝶」と「小学校」で新一年生を想像させるところは手練れの心憎さぢゃのう。小学校の周りに咲き誇る菜の花までも見えてくるようぢゃ。蝶のように穏やかに華麗にすくすくと感性を育んでいって欲しいものですのう。

退屈な部屋には赤い椿かな 小木さん
落ちてよりいよいよ赤くなる椿 小木さん
 何も置いていない退屈な部屋には、真ん中に一枝の椿が置いてあるだけぢゃ。深紅の椿ゆえに殺風景さは増すが、その反面、心がゆっくりと満ちてくる時間の流れこそがまさしく初老の初老たる所以ぢゃ。いよいよ潔く赤くなって頂きたいもんぢゃ。

春水やまたこの橋を渡ります 未々
 以前渡った時もこの橋の下には春水が流れていた、という時間軸の設定が見事ぢゃ。今からこの橋を渡るという宣言が、まだかすかに冬の水が残る水面に清々しく響いておるぞ。
 ぢゃがのう、清々しさという曲者が往々にしてへたうまの道を邪魔することもあるのぢゃ。こんな旬な句は花筏に乗せて遥か大洋へ追放!!

寒鯉は上目使いに泡吐く 坊太郎
春光や祝慶長音フェリー発つ 坊太郎
 水底に佇む寒鯉をよく観察されたのう。水底から水面までの距離を「上目使い」で過不足なく表現しておる。下五の字足らずも泡のぽこん感を醸し出すのに一役買っておるぞ。
 春の港を発つフェリーの大きさを「長音」で表すところなんぞ、なかなかの業師ぢゃ。底抜けのおめでた感満載のフェリーが水平線に小さくなっていく映像がお見事ぢゃ。
お見事過ぎて、こんな句を作られたら映画監督の仕事が無くなる的危機感漂う花曇りの彼方へ追放!!

癌の画像のごとき寒月の雲 だなえ
皿を打ち砕く一矢や寒の明 だなえ
 まだ一本芯の残っている寒の明の空気感を「皿を打ち砕く一矢」とは恐れ入谷の鬼子母神ぢゃ。おそらく真白であろう皿のど真ん中を射抜いた矢の軌道の残像が、空中にまだ焼き付いているようぢゃ。皿の割れる鋭い音も聞こえてきたぞ。
 ぢゃがの、少々おいたが過ぎたぞ。過ぎたおいたは、葱しょって帰る鴨と一緒に鳥雲に追放!!

周波数同じ人たち春の空 あきさくら洋子
鳥雲に狂った時計への愛着 あきさくら洋子
 なんと詩的な表現であろうか、ぢゃ。あまりそっちの方へ行き過ぎると、意味不明自己陶酔でかなりの確率で引いてしまうが、この二句は良い加減で徳俵の上で微笑んでおるぞ。読む人のそれぞれの感覚で味わってもらったらもうそれでよい、との作者の潔さも気持ちがいいぞ。(ま、ちょっと危ないと言えば危ない句ではあるがの)
 こんなすれすれの句は、地表すれすれを飛ぶ初燕の背中に乗せ時空間へ追放!!


 とまあ、春の陽気に誘われ大量の追放者を輩出させてしもうたが、ここでその気とあの気になられてはちと往生するぞ。へたうまの道は果てしなく遠いのぢゃ。とことん極め切ったと思ったら更なる道が通せんぼをするのぢゃ。道草を食いつつ、横道に逸れつつも今の調子で邁進しましょうぞ。
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。



へたうま仙人
 年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
 好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
 嫌いなもの 上手な俳句
 将来の夢 大器晩成


目次に戻る


自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 先日近所のかつて隆盛を極めた某大手スーパーへ、「もずく」を買いに行った。見つからないので、若い女性従業員に、「もずく」はどこですか?と訊いたら、「もずく」て何ですか?と訊き返された。「もずく」とは、海にあるその……と説明してまで買おうと言う気がなぜか一瞬にして萎えた。だいたい散髪屋でモヒカン刈り頼んだら、モヒカン刈りて何ですか?と訊く従業員に説明してまで刈ってもらう気になれないのと似ている(ちょっと違うか)。かつて流通革命とまで言われたこのスーパーも、この春で消滅らしいが、むべなるかなの感は否めない。



いかんせん空めった切るこの黒い電線 多満

 「いかんせん」を平たく言えば、「どうしようもない」ということになりますが、およそ俳句から縁遠そうなこの言葉から句をはじめたところに意表をつかれます。せっかくの美しい空が電線によって邪魔される……よくある光景といえばそれまでですが、構成次第で平凡な景が非凡になる。それに「めった切る」という乱暴とも思える言葉の選択も強い。電線によって分断されてしまった空への焦燥感を倍加しています。こういう類の表現の強さは自由律ならではのものです。



恋だの愛だの蛤ぱかんぱかん のり茶づけ
 網の上で蛤が焼かれているのでしょうか。そのうちぱかんぱかんと蛤が開く……まさに春そのものの光景です。そこに突然悩ましい恋と愛をぶっつけたところに妙味があります。理屈ではない感性で捉えた句……俳句を愉しむとは、こういうことではないかとも思う。

画像乱れる日永の洋食屋 もね
 最近は洋食屋と看板があがっていても、名ばかりレトロで実際は洒落た店が多いのですが、この洋食屋はどうも昭和の名残のある洋食屋の感じがします。なにしろ店のテレビの画像が時折乱れる。そこへ「日永」というゆったりした季語……時間が上手に止められています。

財布売り場みんなぱかぱか開けてみる  しんじゆ
 なんとなく春らしさを感じるのは、「ぱかぱか」というオノマトペが効いているからでしょう。女性の場合財布の品定めは、とりあえず次々手にとって開けてみる……この屈託のなさが心地よいし、なるほどと妙に納得させられもします。結局は買わないような気もするけど……。

馬に春愁ただ立っている ミセスコナン
 春愁は人間だけのものではない、馬にもある。と言いきったところにこの句の強靭さがあります。「ただ立っている」とたたみかけてよけいな思惑を与えない……いわば全く無駄のない短律句。立ち姿のよい句というのでしょうか……。

良性と言われることのうそ寒さ  台所のキフジン
 なんとなく心にひっかかる句なので取り上げましたが、「うそ寒」は秋の季語。「うそ寒さ」をなんとなく寒いと解釈すれば、良性と言われたもののなんとなく心が寒い……という句意になる。それでも定型。たとえば「寒き日に良性と告げられる」では、だめなんでしょうか。



海岸列車は二度とまる うに子
差し出した手にある温さ 和音
啓蟄に奥の院のざわめける たま
風船が君を連れてきた 恋衣
草矢射しあの人に遇う駅 迂叟
ぽんと枇杷の木 北伊作
みんな春風のせい君とこうなったのも ひかるん
健さんも文太も圧縮古紙 だなえ
ヨーデルを転がし春隣 元旦
電話番夕日が退屈 ゆりかもめ


並選
俳句つづける意志を固めて春を待つ ケンケン
大安に引く凶みくじ 杉本とらを
ぎゅうにゅう之いつきのみとははるの雷かな  KIYOAKI FILM
年の差を数へ月朧 野兎
株分けの桜草持ち切れず レモングラス
身の底にためる笑い 幸
ぶらんこの下にくぼみ 藍人
無防備な春眠のライオン ヤッチー
爪の黒インキ取れぬ作業帽 小市
ホースケさんの駅で落ち合ふ三者三様 森 青萄
薬局の中に雨が降る みちる
筍子に傾いてゆく昨今 南亭骨太
あの山はまだ冬浅春や エノコロちゃん
海が見たくてはや五日 人日子
予報は氷雨外出はキャンセル 坊太郎
北風に古傷のなお痛む 一走人
もう少し降られたら雪女に会えさう 鯉城
どっちにあろうと椿 小木さん
飛梅におみくじ結ぶべからず 樫の木
凍てつく風にて春月は割れるでせうか 緑の手
桜のトンネル抜ければ空と海の碧 喜多輝女
また一人聖人生れし二月早朝 まんぷく
偽善者の塊春霞 あきさくら洋子
儂は花粉症なんかじゃないわい ポメロ親父
雪の毛布にくるまる地球 松ぼっくり
しゃぼんだま狭小恐怖症のごと出てはじけ  大阪野旅人
バルタン星人のごとく紅きアロエの花 青柘榴



きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。



【100年投句計画】投句方法
 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可)、俳号(なければ本名の名前のみ)、本名、電話番号、住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。
ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、4月20日(月)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがきFAXでも投句できます。


さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(俳句ポスト365のページ参照)


目次に戻る

愛媛県美術館吟行5
トーベ ヤンソン生誕100年記念
「ムーミン展」


文 恋衣


 早春の朝、南行ひかる、猫正宗、チャンヒ、恋衣の四人は、愛媛県美術館に集まった。トーベ ヤンソン生誕100年記念『ムーミン展』を観るために。展覧会の会場ロビーでは、ムーミンと仲間たちの椅子が華やかに迎えてくれた。
 フィンランドを代表する芸術家、トーベ マリカ ヤンソンのムーミンは、トロール(北欧の妖精)だという事を初めて知った。「ねえ、ムーミン」は河馬ではなかったのだ。

瞳青き無口なほっぺ春の虹 南行ひかる

 ムーミンと愛すべきムーミンの仲間たちが、住むムーミン谷のお話は、4つのコーナーに分かれて原画 習作 スケッチ等約200点により紹介されている。

1「ムーミン谷の四季」

 フィンランドの長い寒い冬の一面を表すかのごとくムーミンファミリーに冬の経験はない。冬眠をしているらしい。
 ムーミンは、ひとり目をさます。

「ムーミン谷の冬」表紙絵のための習作より
寒月のとろけて青い夜の瞳 チャンヒ
眠りから覚めて出逢わぬはずの冬 猫正宗

 ムーミンの知らない冬の世界、冬の好きなヘムレンさん。ムーミン谷の冬。ムーミンの青い瞳に映る世界は、友の日常である。

谷に友達たっぷりと橋に雪 恋衣

2 ムーミン谷の風景

 洪水の後にやってきたムーミン一家。ムーミンパパの建てた家には、スニフやじゃこうねずみの部屋も。ムーミン谷の様々な世界。

北窓を開く新しい太陽 恋衣
自由な島孤独な樹海春の星 南行ひかる

 「ムーミン谷の仲間たち」「ムーミンパパ海へ行く」挿絵、習作のインク作品群は、静かに自然の美しさと厳しさを語りかける。

蒲公英の中にムーミンの尻尾の毛 チャンヒ
太陽と遊び疲れて月朧 恋衣

 「ムーミンパパの思い出」でわかる大切な家のできるまでと谷の風と光のインク絵の世界。
 「ムーミン谷への不思議な旅」のスサンナたちのめざすムーミン谷の水彩画とインク絵の風景との色彩の対比が際立つ。

初夏の光ムーミン谷の森 猫正宗
どこまでいってもムーミン白夜光 猫正宗

 そして谷は、十一月へ。やがて冬へ。

3 ふしぎな生きものたち

 トーベ ヤンソンは、ふしぎな生きものたちを介して自然の持つ力を伝えようとしたのだ。

ムーミンの不思議な鼻にある孤独 南行ひかる
残る雪ムーミン谷の迷子たち 南行ひかる

 更に人には、共に生きるものが必ずあると。

半夏生世界の果てまでニョロニョロ 猫正宗
世界とは鳥と蜻蛉と君と僕  猫正宗

4 自然のちから

 ムーミン一家と仲間たちの受ける嵐、激しい雨、雪、はたまた彗星が落ちるという話。ムーミン谷へ自然の脅威が襲いかかる。

流星を追ってスナフキンの背中 猫正宗
彗星が落ち水底に森ひとつ 恋衣

ムーミンのそのやわらかそうな姿形は、あらゆる苦難に、立ち向かえる形かもしれない。
ムーミントロール立像を見て思った。

春風にニョロニョロに会う平和 チャンヒ
春の月見上ぐる橋へ愛は果て 南行ひかる

 美術館を出る四人に春の雪が降ってきた。きっと今、ムーミンが目をさました。

トロールを描くこと冬を生きること チャンヒ


恋衣
俳句を、短歌を読むことを、絵画を見る事を、音楽を聴く事をこよなく愛する俳人。美術館吟行も愛します。



取材協力:「ムーミン展」愛媛実行委員会(愛媛県、愛媛新聞、テレビ愛媛、東映)、愛媛県美術館


美術館吟行会今後の予定
いずれも『100年俳句計画』編集室までお申し込み下さい。(TEL 089-906-0694)

「想い出のマーニー×種田陽平」展
日時: 4月4日(土)午前10時〜
場所:愛媛県美術館
参加費: 無料(入館料は各自別途)
申込み締切:4月2日(木)

「カラフル!ワンダフル!びいどろの神髄、色彩の魅力」展
日時: 5月3日(日)午前10時〜
場所:瓶泥舎びいどろ ぎやまん ガラス美術館
参加費: 無料(入館料は各自別途)
申込み締切:4月9日(木)
http://www.iyokannet.jp/



目次に戻る


Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.21


Our car stops here
Let's talk of the mallard and the ringneck
Spring lake yamanaka

青首と真鴨の事を話しをり


(直訳)
ここに車を止めて
青首と真鴨について話そう
春の山中湖



The ski season is over in the northern hemisphere and spring has arrived to Lake Yamanaka. Nick gave a wonderful performance of the Saeint Saens cello concerto in a significant charity concert for those who were orphaned by the tsunami. I was extremely happy when, in the finale, Nick sang "hometown" in Japanese.

北半球のスキーシーズンが終わり、山中湖に春が来た。ニックは、サントリーホールの「全音楽界による音楽会」で、サンサーンスのチェロコンチェルトを弾き終えた。フィナーレの合唱「故郷」を日本語で歌うニックを見て、私は嬉しかった。

Mountain Cabin Dispatch's side story by C.Rosen/山小屋通信 番外編 : 作 朗善
Supervising translator : Mikiko Iwasaki/翻訳監修 : 岩崎幹子



ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2013年7月より山梨へ移住。


目次に戻る



JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第49話
「スピーク ロウ」 ウォルター ビショップ Jr.


春宵の青を刻んでいく鍵盤 猫正宗

 久々にブイシー系のテーマである。まずジャケットが良い。煙草吸うビショップの横顔。湿気煙草っぽいのを挟む指がしなやかで、視線の上にSPEAK LOWと在る。背景は淡いブルー。
 ウォルター ビショップ Jr.の楽歴は輝かしい。大物ベーシスト、オスカー ペティフォードや帝王マイルス デイヴィスのバンド、アート・ブレイキーとジャズ メッセンジャーズでも活躍。白人女性ジャズ ヴォーカリストの最高峰、アニタ オディの伴奏者としても有名で、極めつけはチャーリー パーカーのピアニストだったこと。ベテラン域に達する頃には大学で音楽理論を教えた。

黒鍵や仔猫のごとく自由なり 夜市

 演奏はスタンダート ナンバーがズラリと並ぶ。A面1曲目「サムタイムス アイム ハッピー」のスイング感と唄心が、まず聴者のハートを解してくれる。2曲目「ブルース イン ザ クローゼット」はかつてのボス、ペティフォードのオリジナル。ハイテンポな仕上げが開放感を醸し出しており、3曲目の大作「グリーン ドルフィン ストリート」とのコントラストも鮮やかだ。

マイルストーンへ朧を駆け抜けろ  チャンヒ

 A面3曲目でアルコソロを披露するのは、このレコーディングの数カ月後、ジョン コルトレーンのバンドに抜擢されるジミー ギャリソン。B面の1曲目、ドラムスのGTホーガンが好演する「アローン トゥゲザー」へとモダン派ジャズメンが好んで取り上げるスタンダード ナンバーが2曲続く。B面2曲目「マイルストーン」は、ビショップのもう一人のかつてのボス、マイルスの作品。チャンヒさんは「この演奏、とにかくカッコイイっすよね」と評した。そう言われてしまえば他に形容のしようもない。

囁きはまだ春眠の中に居る 蛇頭

 B面3曲目はアルバム タイトルでクローザーの「スピーク ロウ」である。「三文オペラ」のクルト ワイル43年の作品。意味は「囁き」だろうってことで直訳俳句が3句詠まれた。一説では禁酒法時代のアメリカで流行った不法酒場(SPEAKEASY)でのひそひそ話、なんてことも。ニューヨーク在住のバーテンダー、後閑信吾は2012年の世界大会において、抹茶とラムをミックスしたオリジナルカクテル「スピーク ロウ」で優勝した。なんてこぼれ話もある。

春光にひろい集める音符かな  のり茶づけ

 今回のサブテーマは「オールド フォークス」で日本のレーベル「イースト ウィンド」からリリースされた。プロデューサーは故伊藤八十八氏。氏は「スピーク ロウ」を大いに意識して制作に携わったのだと思う。出来栄えはメインテーマに迫る。音も良い。



http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。
次回のJAZZ句会は、4月19日(日)13時より。テーマは『イーズ イット/ロッキー ボイド』です。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU vol.1』(マルコボ.コム)を発売中。


目次に戻る



ラクゴキゴ


第49話
『愛宕山』〜春を代表する一席〜


あらすじ
 大阪ミナミをしくじってしまった太鼓持ちの一八と繁八。つてをたよって京都の祇園で働いている。
 室町あたりの旦那が「時候もええし、ひとつ野がけでもしようやないか」ということで、芸者、舞妓、太鼓持ちらを連れて鴨川・二条のお城をしりめにころして野辺にかかっていく。
 春のいい気候の時分、空にはひばり野には陽炎。遠山には霞がたなびき、れんげたんぽぽの花盛り。麦が伸びた中には菜の花が彩るという陽気。一行はにぎやかにやってくる。
 はじめにえらそうに言っていた一八と繁八も、さすがに愛宕山は険しく、ねをあげそうになりながらも二十五丁登り切った。ここは「試みの坂」。まだ上に辿り着くまで二十五丁あると聞き、ここで一服することになった。
 旦那は遊びで「かわらけ投げ」をやろうと言い出す。一八、やってみたもののなかなかうまくいかず負け惜しみで「大阪の人間はかわらけてなしょうもないもんは投げん。お金を投げますわ」と言うと、旦那、20枚の小判をそこから下の谷へめがけて撒いてしまった。
 拾った者に小判をやると言われ、一八、傘をさして谷に向かってダイビング。なんとか無事に着地し小判を全部かき集めることが出来た。
 ミッション成功かと思いきや、「一八、どうやって登る?」と尋ねられ、困ったものの一世一代の知恵を出す。
 嵯峨竹の反動を利用して、谷底からビヨーンと帰ってくることが出来た。
「えらいヤツや。上がってきよった。ところで金は?」
「ああ、忘れてきた!!」



 東京にも同じ噺がありますが、上方の、鳴り物をふんだんに入れて演じる陽気な春爛漫の山を描く方に軍配を上げたいと思います。
 人間国宝の桂米朝師は著書の中で「この噺を演る時に、“いっぺん本当に愛宕山に行ってみなあきまへんな”と、習った師匠に言うとその師匠“行ったらやれんようになるで、この噺うそばっかりやさかい。”と言われた」と書いておられます。
 まあ、落語はそんなもんでしょう。演者と聴き手が虚虚実実のかけひきをくりひろげるというのがおもしろいところなようで。
 愛宕山は924メートル。京都市内の最高峰だそうです。かわらけ投げは昔から人気が高かったようで、昭和初期には七合目の茶屋跡の屋根側から谷に向って投げていたということです。落語だけではなく大念仏狂言にも登場します。
 しかしまあこの噺にも春の季語が次から次に出てきます。
 ひばり、陽炎、れんげ、たんぽぽ、青麦、菜の花、蝶々、遅咲きの梅……そして何より「野がけ」これが一番のテーマですもの。
 どうでっしゃろ、「愛宕山」を聞いてから“夏井いつきと行く野がけツアー”なんて。
 知り合いの旅行社に企画だしときます(笑)!!

本当も嘘も包んで春の山


目次に戻る



新聞記事に隠された俳句を発掘する
クロヌリハイク


黒田マキ


1月の不用意言動◎
(愛媛新聞より)

2月でも約束守るその律儀
(愛媛新聞より)

3月がピークに何も無理しない
(愛媛新聞より)

4月でも9黒北○▽○
(愛媛新聞より)

5月はよ他人の力を当てにしな
(愛媛新聞より)

6月は進む現状北東
(愛媛新聞より)

7月は厳しい努力継続で
(愛媛新聞より)

8月の心の交流楽しみに
(愛媛新聞より)

9月なら大抵交通事故注意
(愛媛新聞より)

10月も目一杯だしなる金
(愛媛新聞より)

11月未知の異性の口車
(愛媛新聞より)

12月辛抱すれば光差し
(愛媛新聞より)


目次に戻る


お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第30回 「四国劇王3」

 時期を逸したのですが、「四国劇王3」('15年1月17日、18日、シアターねこ)について。
 劇王とは、'02より日本劇作家協会東海支部と長久手文化の家が始め、後、全国に広がった短編演劇のコンテスト。20分以内、役者3名以内、等のルールで、一人一票の観客票と『各公演の入場者数÷審査員の人数』の審査員票で「劇王」を決定します。四国では3回目。四国各県と広島から16劇団が参加し、審査員には県外の演劇関係者に加え、本誌「雑詠俳句計画」でもおなじみの加根兼光氏も。
 ところで、観客というのは貪欲なもので、常に何かをほしがっています。そして、どちらかというと刺激的でわかりやすく、すぐ反応ができるもの―端的にいえば、笑い―を求めがちです。無論、ちゃんと笑わせることができる劇団は、概ね他のスキルも高い。ただ、評価基準が笑いだけに偏りがちになるため、この手のシステムでは観客票と審査員票が大きく異なることもしばしばでした。
 そんな中、愛媛大学医学部演劇部世界劇団の『鼓動の壺』は、特に笑い押しした作品でなかったのにもかかわらず、その圧倒的なパフォーマンスで観客票、審査員票ともにごっそりとかっさらい、劇団率いる本坊由華子が四国劇王に輝きました。
 独得のダンス、歌、生演奏、家族のささやかな日常の芝居、等が交錯しつつ、過去から未来に繰り返し続いていく子壺(子宮)から骨壷までの人の一生。抽象と具象が綴れ織りになった、舞台ならではの表現でした。
 残念ながら全国大会『劇王天下統一大会2015』('15年2月27日〜3月1日)では無冠に終わったようです。それでも、本坊由華子という才能を全国の演劇人に知らしめたということでは大いに成果があったようです。
 本坊氏は、本作をもって学業に専念する(揺らいでいるとの噂も聞きますが)とのことですが、なに、演劇という表現が彼女を放っておかないでしょう。そんな自らを捕まえて離さないものに出会える人、その出会えたものによって「才能の奴隷」(by『ましろのおと』)になれる人がどれほどいることでしょう。妬ましくも羨ましさを抱かざるをえません。

初星や劇場という壺中天

才能の奴隷となりて竜天に



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。


目次に戻る



百年歳時記


第23回 夏井いつき

 有名俳人の一句を紹介鑑賞するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月ご紹介していきます。


哈爾濱の空筒抜けや採氷す もね

 「哈爾濱」は「ハルビン」と読みます。旧満州国における歴史も含めてさまざまな連想が広がる固有名詞です。夏冬の温度差が激しく、冬はマイナス40度以下になることもあり、非常に乾燥しているので降雪がほとんどない土地なのだそうです。氷の町と呼ばれる「哈爾濱の空」を「空筒抜けや」と表現することによって、痛いほど真っ青な空が見えてくるかのようです。
 採氷の作業において、雪は品質を落とす要素となりますので、「哈爾濱」の気候は「採氷」にうってつけ。上五中七でハルビンの「空」を見上げる視線を高く大きく広げ、下五にて湖面に広がる「採氷」の光景を描きます。筒抜けの冷たさと明るさに満ちた作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』1月30日掲載分)


黒北風じゃ蒙古が来るぞ子を盗るぞ 太郎

 まずは、「黒北風」が吹いてきそうな西高東低の気圧配置だぞ、凶暴な風がくるぞと脅し、さらに「蒙古が来るぞ」「子を盗るぞ」と畳み掛ける三段切れが見事に成功しました。俳句において三段切れはタブーとされていますが、考え方を変えればこれも一つの技法。うまく使いこなすと、武器になるテクニックの一つです。
 「(蒙古襲来の度に吹いた神風)黒北風」が吹く=「黒北風」が吹くと「蒙古」が来る、という逆説的発想。大事な我が「子」を盗られるかもしれないぞと訴える調べが危機感を煽ります。民族の記憶としてインプットされている感情が、季語「黒北風」を表現する要素として巧みに使われていることに感心させられた一句でした。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』3月6日放送分)


狛犬の毬は何色春の風 ぐわ

 最初は「春の風」と「狛犬」を取り合わせた句という意味での既視感があったのですが、中七「毬は何色」という発想が実に素敵で、次第に強く惹かれていきました。
 石の「狛犬」が手を置く「毬」は当然ながら石の色をしていますので、私は今まで、あの毬は何色だろう?なんて考えたこともありませんでした。中七「毬は何色」というフレーズに続き、下五「春の風」という季語が出現したとたん、その「毬」の一点からみるみるうちに色が生まれ、色が広がり、石の色をした「狛犬」も色を取り戻していくかのような鮮やかな心地。見えない色を見せてくれる驚き。「春の風」という季語の力による言葉の魔法です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』2月27日掲載分)


あはすためひらく法悦蛤に 破障子

 「法悦」とは【1:仏法を聞き信仰することにより心に喜びを感ずること。2:うっとりするような深い喜び。陶酔。】と辞書的意味が二つありますが、2と解すればよいでしょう。二枚貝である「蛤」に対して「あはすためひらく法悦」という詩的把握に驚きます。
 「蛤」は「貝合わせ」の貝でもあり、夫婦和合の象徴でもありますので、「あはすためひらく法悦」はエロティックな匂いも色濃く立ちのぼる表現。「蛤」の貝肉の色や大きさが艶めかしくもありシュールでもあり、「蜆」「浅蜊」ではないまさに「蛤」ならではの恍惚感です。これから「蛤」を食べる度に「あはすためひらく法悦」という詩語を思い出すに違いない、愛唱の一句です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』2月20日掲載分)


さくらさくらはるかはるかに方舟 山之口卜一

 「さくらさくら」と繰り返す詠嘆、「はるかはるか」と伸びていく視線の先に密やかにおかれた詩語「方舟」が、読者の思念を遠い遠い時空へと誘います。
 この「方舟」はノアが大洪水を逃れるために用意した、あの方舟でしょうか。それとも、作者の想念を閉じ込めるための小さな方舟、散っていく「さくら」を愛しむ方舟、葬るための方舟……など、さまざまな解釈が生まれる深い作品です。「さくらさくら」と咲きこぼれる花は「はるかはるか」にある異次元空間へと滑り込んでいきます。その「さくら」の一片は小さなひかりとなって、静かな水に浮かぶ「方舟」の哀しみを慰めるのかもしれません。
(徳島県俳句連盟第五一回大会選句集 夏井選および徳島市長賞)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


目次に戻る


会話形式でわかる
近代俳句史超入門


第10回
文 構成 青木亮人

 大学で俳句を研究する青木先生と、その教え子で俳句甲子園の出場経験もある大学生の俳子さんが雑談を交えながらの近代俳句史超入門。

虚子さんは“大小説家”に憧れていた……!?

 二人は大学の教室で高浜虚子について論じあっています。

虚子の人生
青木先生(以下青) ……そういうわけで、今度は虚子の経歴から俳句観を見てみましょう。
俳子(以下俳) はい。虚子さんは「松山出身・子規さんの弟子・花鳥諷詠」くらいで、あまり知らないんです。
青 正岡子規の生涯は司馬遼太郎が『坂の上の雲』で英雄的に描いたこともあって知られていますけれど、虚子の人物像が思い浮かぶ方は少ないかも。でも、彼の人生も面白いですよ。
俳 あっ、碧梧桐さんと女性をめぐっての三角関係の話ですか? わくわく。
青 碧梧桐と虚子が下宿していた大家さんのお嬢さん(大畠いと)にまつわる話ですね。いとさんに想いを寄せていた碧さんが病気で入院している最中に虚子がいとさんと結婚してしまったので碧さんは傷心旅行に出かけて自暴自棄に新傾向俳句を主張した……という。
俳 碧さんの新傾向俳句、私も知ってます! 「相撲乗せし便船のなど時化となり」(解説1)とかヘンな句を詠んだやつですよね。失恋の痛手が碧さんをおかしくしてしまったとは……ぬう、憎きは虚子! 出陣じゃ、具足をもて!
青 出陣って、どこに行くんですか。それに今の話は冗談ですって。
俳 ……どのあたりから?
青 傷心旅行と新傾向俳句あたりから。両者は八、九年ほど開きがあるので別物です。ご安心を。
俳 不安にさせたのは先生じゃないですか、全く。あやうく鞄から軍配団扇を出すところでしたよ。(おもむろに鞄から取り出す)
青 こ、これは戦国大名とかが采配を振るう団扇……なぜこんなものを鞄に?
俳 ヤフーオークションで買ったんです。
青 いや、出所を聞いているんじゃなくて。
俳 具体的で突飛なモノと直に接することでいい句が浮かぶかも……と思い、購入後は鞄に入れて折々眺めてみるんです。これも「写生」の特訓ですわ、ほほ。
青 で、いい句は詠めたのでしょうか?
俳 ……。

小説家への憧れ
青 虚子に戻りますと、彼の人生は順風満帆でなく、それなりに浮世の苦労やつらさを味わった一生でした。
俳 話の切り換えが素早いですね、先生……。虚子さんの苦労って、例えば?
青 図らずも「俳人」になってしまったこと。彼は最初から俳人になりたかったわけではありません。
俳 うそっ、子規さんといい、虚子さんといい、二人とも俳人を目指したわけじゃなかったとは……虚子さんは何になりたかったんですか? 牛乳売り?
青 またマニアックな。彼が若い頃から憧れたのは、小説家です。
俳 子規さんと同じ!
青 そう。虚子は子規に後継者の話を持ちかけられた時に断りましたが、二人とも「文学者=小説家」を夢見た共通点があった。こんな逸話があります。子規が虚子と碧梧桐を明治の新調と絶賛した「明治二十九年の俳諧」(解説2)の後、虚子が瘧(マラリア)にかかり病床で苦しんだことがあったのですが、部屋の壁に「大文学者」と書いた半紙を貼り付けて『こんな高熱が何だ、俺は絶対に文学者になるんだ、うぅ……』と念じ続けていたとか。
俳 さっきと同じように適当なことを仰っていないかしら? 女性をからかうと後が怖いですよ、特に月の出ない夜道はね。
青 「怖い」の意味が違うような。今の話は虚子が『子規居士と余』(解説3)で紹介したもので、『〜』の独白は想像で補いましたが、事実のようです。この話は続きがあって、虚子の「大文学者」云々を伝え聞いた子規が「大文学者の肝小さく冴ゆる」と虚子に半紙で書き送ったらしい。
俳 さすが! 皮肉をピリッと利かせたお見舞いの句で、子規さんにはこういうウィットがありますよね。
青 ええ、子規は熟考して推敲するタイプでなく、即興の挨拶句を詠む方が巧かった気がします。で、虚子は『子規居士と余』で先のエピソードに続けて次のように記しました。「実をいえば十七字の詩形である俳句だけでは満足が出来なかったのである。世人が子規門下の高弟として余を遇することは別に腹も立たなかったがそれほど嬉しいとも思わなかったのである。(略)余は今でもなお学問する気はない。けれどもどこまでも大文学者にはなろうと思っておる。余の大文学者というのは大小説家ということである」。虚子にとって「文学」は「小説」であり、俳句は「文学」でなかった。自分は子規のように「学問する気はない」し、俳人で有名になっても嬉しくない、「大小説家」になりたかったというのです。
俳 ……この話、「遠山に日の当りたる枯野かな」(解説4)「桐一葉日当りながら落ちにけり」(解説4)を詠んだ後に発表したんですか?
青 そうです。
俳 ええー。
青 ちなみに以前紹介した「打水にしばらく藤の雫かな」(解説4)「金亀子擲つ闇の深さかな」(解説4)よりも後。
俳 (白目)
青 しっかり! あ、口からエクトプラズムが……
俳 う、すいません…って、人の涎を微妙な表現で指摘しないで下さい! そうだ、一句浮かびました。「俳子の唇よりたらくと春の泥」。
青 虚子の句ね(解説5)。そもそも人間の口から春泥がたらたら……ゾンビ映画ですか。
俳 (涎を拭きながら)虚子さん、そこまで才能があったのになぜ小説にこだわったんですか?

高校を中退
青 自分の持っている才能と望む分野が合致するとは限らないし、むしろ一致する方が稀かもしれない。自分の才能に気付けない人も多いですし、自分の長所が分かっていても違うことをやりたい人はたくさんいる。虚子は江戸時代から続く古臭い十七字より、明治の新社会や人間像の全てを余すところなく描く西洋流の小説家になりたかった。幸田露伴や二葉亭四迷の作品のように、江戸からの読物と全く違う小説こそ「文学」だった若き虚子にとって、俳句方面の才能はさほど大切でなかったのでしょう。
俳 うーん、もったいない。
青 若き虚子は「文学者」になりたい一心で高校を中退して、定職に就かずブラブラするほどでした。
俳 えっ。危ない橋は渡らないというような、慎重なイメージがあったのに。
青 松山で十代を過ごした頃は「聖人」と綽名が付くほど真面目でしたが、碧梧桐と一緒に京都第三高校に進学し、京都で下宿した頃から「文学」に夢中になって、もう放蕩三昧。
俳 意外……昭和時代の太宰治とか、そんな感じだったんですね。
青 そう、近いかもしれない。その頃の碧梧桐と虚子は仲が良く、下宿先を「碧虚庵」と名付けて「小説家になるぞ、碧!」「よっしゃ、虚!」とか言って気炎を上げていました。折しも学校制度が変わり、二人は仙台の高校に転校することになったのですが、行ってみたら何だか合わないので碧虚はあっさり退学します。
俳 何と無謀な……。
青 でも、碧虚コンビが「文学」にハマッた大きな原因は、郷里の先輩である子規が先鞭を付けたものでした。(続く)


青木亮人(あおき まこと) 1974年、北海道生まれ。現在、愛媛大学准教授。著書に『その眼、俳人につき』(邑書林)など。



解説

解説1
「相撲乗せし便船のなど時化となり」 明治43(1910)年、碧梧桐作。子規の「写生」を一歩進めた新傾向として有名になった。
本文に戻る 解説1

解説2
「明治二十九年の俳諧」 明治30年、子規が新聞「日本」に連載した長編俳論。
本文に戻る 解説2

解説3
『子規居士と余』 大正4(1915)年刊、虚子著。明治末期から「ホトトギス」に断続的に発表されたものをまとめた単行本。
本文に戻る 解説3

解説4
いずれも明治期の作品。
本文に戻る 解説4

解説5
「鴨の嘴よりたらくと春の泥」 昭和8(1933)。
本文に戻る 解説5



目次に戻る



まつやま俳句でまちづくりの会通信


第49回 文 若狭昭宏

松山城歳時記化計画 2015春

 定期的に行われる松山城歳時記化計画。今回は2月14日、バレンタインデーの開催となった。
 午前10時にロープウェイ乗り場に集まったのは鯛飯、キム、恋衣、ひでやん&まこち親子、松山東高校のジョニー&ケミカル&キリキ、若狭、花香の10名(敬称略)。
 今回は時期的に季語が少ないのではないかという声もあり、目を凝らし耳を澄ましての季語調査を始めた。いつもどおりのルートで松山城を目指して歩き出し、バードウォッチングの得意な鯛飯氏に鳥の声や特徴を教えてもらいつつ、花のつぼみや団栗、柑橘類に足を止めた。上に登っていくほど花が増え、足元には日本蒲公英、空を仰げば早咲きの桜が目に入った。のんびりと散策し、城の上まで来ると鮮やかな紅梅! ……と、よしあきくんが出迎えてくれた。そこで途中参加の游士&タケニーの二人を加え記念写真を撮り、昼食をとりに「べこ屋」まで移動。
 食後、残念ながら用事のため鯛飯、恋衣、游士の3名は解散したが、一同は「坂の上の雲ミュージアム」へ。そこで土曜コンサート、創作舞踊家の木室陽一氏によるコンテンポラリーダンスを観賞した後、いよいよ公開句会を始めた。ほとんどの客はコンサートが終わると帰ってしまったが、俳句初心者で、投句はまだ自信がないという新田青雲の生徒一名が選句に参加してくれて、アットホームで初々しい雰囲気の中、スクリーンに表示された句に鑑賞を述べていった。

桜並木咲きし桜を思いつつ タケニー
幾万の物の芽そよぐ内耳かな ジョニー
ひこばえや折り紙みたいな空の色 花香
紅梅や松山藩の藩主かな まこち
春空に古木は半身を思ふ ひでやん
ゴンドラのしづかなる日の余寒かな ケミカル
棟梁の梅や大樹の膨らみぬ キリキ
梅ふふむ銃後の海の堅さかな 若狭
青空の下にニッポンの蒲公英 チャンヒ

 最高点はキム チャンヒ&ひでやんの2人。共に吟行句らしく、写生を生かした句だった。ちなみにひでやん氏の句だが、落雷を受けたか朽ちて半分になってしまったか不明の、存在感のある古木があり、また、吟行中に息子のまこちの姿が見えなくなり、半身が割かれる思いをしたというエピソードがあった。
 他、「蘖(ひこばえ)」とは切り株や弱った幹から若芽が出ることと知ったり、選評で「銃後」とは銃=戦争をしている所から見た後ろ=送り出した人や土地と知ったり、実りの多い会になったのではないかと思う。
 最後に、吟行で撮った写真に自分たちの句を合わせたスライドショーを見て、余韻に浸りつつ終了した。
 余談だが、創作意欲の湧いた高校生たちはそのまま次の作句活動に移り、後に行われる俳句対局の練習までしてバレンタインデーを過ごしたようだ。


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


目次に戻る



俳句の街 まつやま
俳句ポスト365


協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


優秀句
平成27年2月度


【冬服】
《地》
冬服の詐欺師に鬢の白髪かな クズウジュンイチ
冬服入れてやろうお米も入れてやろう ねこ端石
冬服に潜める顎の頷きぬ 紗蘭
源氏名の燐寸の残る冬の服 加和志真
冬服を脱いで脱輪を助ける 理酔
冬服の我だけ異物丘と空 山香ばし
硝煙の匂ひK氏の冬服に 雪うさぎ
冬服や巨大看板には戦車 三島ちとせ
冬服でねむるだうしたらいいのか 紆夜曲雪

《天》
しんしんとソムチャイさんの冬服に るびい


【白梅】
《地》
白梅のがくはよほどに赤くある 山風禅
白梅へ尾をかゞやかす鳥の朝 紆夜曲雪
白梅の樹下や他界の子の遊ぶ 中原久遠
白梅は静かなる群衆を飼ふ 紀貴之
白梅にわがたまのをを繋ぎおく とおと
闇に白梅拘束の続報は ミル
白梅や千年前もここに人 山香ばし
泣き声が白梅よりもずっと先 葛城蓮士
白梅ひらくマリアの呼気の音たてて 緑の手
白梅や僧の隣りて少し酔ふ 木好
白梅のお宮の裏のラブホテル 初蒸気

《天》
白梅を挿頭しやりたし相撲取 きらら☆れい


【蛤】
《地》
蛤を酒で煮立てて既に酔ふ こま
この椀はこの蛤に無礼なる 雪うさぎ
蛤やはらから集ふ遊山箱 こりのらはしに
蛤や御幸の間にて顔合せ るびい
百人の宴蛤ひとつずつ スズキチ
蛤を買うて帰るといふ英断 ポメロ親父
蛤やむかし洲崎は遊郭ぞ トレ媚庵
蛤に商売女のごとき舌 初蒸気
蛤や眠らぬコンビナートの火 まどん

《天》
あはすためひらく法悦蛤に 破障子


【春の風】
《地》
まへかごに卵うしろに春の風 どかてい
春風や父にもどらぬブーメラン でこはち
春風に追越されたねレトリバー 三重丸
春の風にはかに猫のなまぐささ 小市
春風を混ぜて麻雀中華街 四万十太郎
サーカスのテントは魔窟春の風 雪うさぎ
春の風丘の上より馬賊去る クズウジュンイチ
俺たちはまだ春の風を許さない 森田欣也
春風や息の重なる給水所 蘭丸
ランナーへ手を振る車窓春の風 このはる紗耶
動脈は春風のリズム空は四角なれど 妹のりこ
吸う吸う吐くすうすうはくはく春の風 笑松

《天》
狛犬の毬は何色春の風 ぐわ



4月の兼題

投句期間:3月26日〜4月1日
花冷【晩春/時候】
ちょうど桜の咲く頃には天候が定まらないことがよくあり、それによって一時的に急に寒さが戻ることをいう。

投句期間:4月2日〜4月8日
暖か 【三春/時候】
季語として「暖か」と言った場合は、春になって陽気が温暖であることをいう。季節の変化に関係のない物や心理的な暖かさ(温かさ)は季語とならない。

投句期間:4月9日〜4月15日
春の月【三春/天文】
春の夜の大気中には水分が多く、空気の透明度が低くなり、物の形がくっきりと見えない。月も大気中の水分や塵のために、輪郭がにじんだように潤んで見える。

投句期間:4月16日〜4月22日
黄金週間【晩冬/動物】
昭和の日、憲法記念日、みどりの日、こどもの日と、4月下旬から5月上旬にかけて祝日が集中していることに加え、週休二日制や振替休日によって生まれる大型連休。「ゴールデンウィーク」。

投句期間:4月23日〜4月30日
初夏【初夏/時候】
5月上旬の「立夏」から夏が始まる。以降、初夏、仲夏、晩夏と、立秋まで続く夏のうちのはじめの時季。強い生命力にあふれる季節。


《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)

※募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。



目次に戻る



一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成26年2月度


【飯蛸】
駅弁の飯蛸小指にも勝てぬ 紫水晶
飯蛸の頭と見ゆるもの齧る ポメロ親父
飯蛸の蛸の部分を噛みちぎる 唐平
飯蛸の蕾のごとく歯に爆ぜる 鞠月
つぶつぶや噛むほどに飯蛸である マイマイ
飯蛸の飯のはずれが続きけり 蓼虫
飯蛸や何でも食うと言ったはず 花芙蓉
飯蛸の頭寄せ合う朝の市 七草
防人の涙抱きて飯蛸は 烏天狗
飯蛸や淡路に向かう便も絶え 三河のポンポコ
飯蛸の捌き方Yの求め方 凛太郎

《天》
飯蛸の雄ひと盛を買い叩く だんご虫


【碑】
雪解けて石碑が守る用水路 三河のポンポコ
下萌や土手より高き干拓碑 唐平
ふらここと句碑だけ残る寺の跡 ひまわり
石碑背に遠足列を解く合図 不知火
プルトップ立て立春の碑としたり ねこ端石
野火走る思いもかけぬ句碑ひとつ 七の字
すみれ咲き継ぐ食肉センター慰霊の碑 風
詫助や碑に軍犬とおぼしき名 ドクトルバンブー
碑はガダルカナルの椿奥 犬のコロ
鵺の碑や謂れ語るに懐手 矢野リンド
さくらさくら移動劇団殉難碑 稲穂

《天》
風花の歌碑へ駿馬を走らせよ 亜桜みかり
春の海向く碑津波の到達点 ひなぎきょう


【魚氷に上る】
魚氷に上る青さを零で割った空 海田
どれもやや傾ぎ魚氷に上りおり 甘泉
魚氷に上りあぁ伸びをしているよ 雪うさぎ
魚は氷に光を入れる乳母車 ほろよい
魚氷に上る口笛のふしまわし マイマイ
魚氷に上る洗車ブラシの寝癖かな 日暮屋
魚氷に上る翔太小五の人生観 きうい
響動もして生まるる島よ魚は氷に 牛後
魚は氷に上り地殻に億の皹 樫の木
清廉な月を目指して魚は氷に きとうじん
魚氷に上る星を見上ぐる犀である 亜桜みかり
漫ろ神の物につきたる魚は氷に 朗善
鉄木真の嫁取りありて魚は氷に 稲穂

《天》
魚氷に上る俺は竜を起こす 理酔


【薔薇の芽】
錆び付いた鉄扉に薔薇の芽の灯る ほろよい
守衛ツンケンと洋館に薔薇の芽 日暮屋
薔薇の芽と薔薇色なりし棘の痕 森青萄
薔薇の芽とユーモレスクを聞いた朝 犬のコロ
ガーシュインの旋律薔薇の芽は紅 旧重信のタイガース
薔薇の芽や最後にしまう譜面台 牛後
オルガンの祈りの中へ薔薇芽吹く 妙
マグダラのマリアに触れて薔薇芽吹く 樫の木
薔薇の芽や私はピカソになるところ ねこ端石

《天》
薔薇の芽や王女の愛でし小さき国 雪花



※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとに活字化したものです。俳句ならびに俳号が実際の表記とは異なっていたり、同音異義語や類音語などで表記されてしまっている場合がありますのでご了承ください。



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

投句締切:4月12日
アネモネ【晩春/植物】
キンポウゲ科の多年生球根植物。地中海沿岸原産。秋植えの球根からニンジンに似た葉を出し、3〜4月頃、約30cmの花茎の先にケシに似た花を咲かせる。

山葵漬【晩春/人事】
4〜5月頃の初々しい山葵の葉を刻み、酒粕に漬けたもの。静岡伊豆地方や長野の産物が有名。

投句締切:4月26日
墓石
季語ではない兼題です。「墓石」という字が詠み込まれていれば読み方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

茅花流し【初夏/天文】
5月頃に吹く、湿気をふくみ、雨を伴うことの多い南風を「ながし」といい、白茅の花穂が白い絮(茅花)をつける頃に吹くながしのことをいう。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


目次に戻る



100年俳句計画 掲示板



NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  4月7日/21日(火)11時40分〜

あいテレビ(TBS系列、全国)
 『プレバト!!』
   隔週木曜 19時〜20時49分
  4月2日/16日/30日(木)予定
※組長がゲストの俳句ランキングづけで出演! 放送日番組欄を要チェック!

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
 兼題「新社員/桜草」4月5日〆
   「春の星/みどりの日」4月19日〆
 インターネットでも配信中。詳しくは番組webサイトへ。
  HP http://www.baribari789.com/
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)、住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。


執筆
松山市の俳句サイト「俳句ポスト365」
http://haikutown.jp/post/
 毎週水曜締切/翌週金曜結果発表

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜発刊タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
 俳句選者:夏井いつき
 写真選者:キムチャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日前後締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
【問い合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089ー912ー2491

本阿弥書店「俳壇」(1月号より連載)
 『十二か月添削教室』
 4月号 4月14日発売
*誌上で俳句を募集しています。


句会ライブ、講演など

NHKカルチャー春の特別講座(名古屋)「夏井いつきの赤ペン俳句講座」
 4月4日(土)14時〜16時
受講料3300円(受講生2800円)
 申込 NHK文化センター名古屋教室052-952-7730

NHKカルチャー春の特別講座(高松)「夏井いつきの赤ペン俳句講座」
 4月12日(日)13時〜15時
 受講料3024円(受講生2700円)
 申込:NHK文化センター高松教室087-823-6677

南楽園大句会ライブ
 4月26日(日)13時30分〜
南楽園中央芝生広場
 (※雨天時 管理棟休憩所)
 参加無料/賞品有り
 *併設企画『夏井いつきと行く南楽園句会ライブバスツアー』
 今治〜松山発着(日帰り)5500円
 問合/申込 南レク観光 0895-32-1020

第三回俳句対局龍天王決定戦
 5月2日(土)13時〜
子規記念博物館4F和室
出場&観戦ともに参加無料
申込等詳細は40頁参照



目次に戻る



魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

ハッピーな人々
坊太郎 一句一遊やへたうまに投句を始めて、もうすぐ一年に成ります。一生ないと思っていた一句一遊、天句に入ったときは本当にびっくりしましたが、初心者としては兼題と解説が書かれていることがうれしいところです。また年齢や性別に関係なく感動出来る俳句は良いナと思います。
編 「初電話」の回ですな。天ノートゲットだぜ!

小雪 二月号では、天に選んでいただきありがとうございました。丁寧な選評に感無量でした。実は、病院の高層階から見た景を詠んだのですが、入院したことさえよかったと思ってしまう、俳句の力を実感しました。……ところで魚のアブク編集者様。これは、あまりにも遅きのお返事ですが、私の自転車は、ロードがラピエール、クロスバイクはフォーカスです。ラピエールは海外ブランドにしては珍しく女性仕様で乗りやすいです。編集者様は、何に乗ってますか?
編 どうも、後半に食いつく担当です。MTBはサルサの29er、ロードが組員のきとうじんさんに頂いた正体不明のクロモリ(ペイント済)に乗っております。ちなみに妻はセンチュリオン乗り。……自転車知らない人には暗号文だな!

朝日新聞 愛媛版 俳壇と歌壇
こうや 大変だ大変だっ!! 出遅れたっ!! 組長、祝!! 朝日新聞愛媛版俳壇選者就任。読んでますよっ!! 私は、歌壇に投稿してました。唯一第一首になった歌です。《ひさかたの天の夕焼け夕飯のなすを三本焼きはじめたり》
編 をを、「夕焼け」からのカット切り替えが実に俳句っぽい鮮やかさ!

100年の旗手を終えて
七草 「100年の旗手」の機会を頂き有難うございました。超ご多忙で、体調も一番お悪い時の組長にご指導頂き、有難い気持で一杯です。組長とのメールのやり取りは、貴重で楽しい時間でした。編集室の皆様、温かいエールを下さった句友の皆様にも御礼申し上げます。有難うございました。
編 お疲れ様です! 一端休憩の100年の旗手。現在新企画始動中。

ラブリーアニマル
うに子 2月号表紙のフンの上でまったりまどろむ羊にノックアウトされました。
編 動物吟行したい。もふり吟行。

天の句いろはカルタへ
北伊作 三島ちとせさん、ヤッチーさん、ひでやんさん、「を」の句選んで頂いて有難うございます。
ひでやん 「遠国」の句に一票入れていただいた和音さん、瑞木さん、北伊作さん、ありがとうございました。ちなみに、兼題「ゐ」の八句を息子まこちに見せてどれがいいか聞いたら、なんと二番の句でした。「遊び心があっていい。」ということです。嬉しいけど、なんか複雑な心境……。
編 ファンがゐていいじやない(無点な僕)。そして恐れていた事態が……。


突発企画『天の句いろはカルタ』

 北伊作さんの発案で始まった突発企画。先月号に掲載された投句への、選句&選評(互選)を掲載しています。不肖編集室一同も参加しています。

兼題「ゐ」
選句結果

3点句

和音、瑞木、ひでやん選
居住まひの美しき先生桜餅 のり茶づけ

和音 庭など手入れが行き届いた純和風の家屋。お茶の先生かな……桜餅のつぶつぶ艶々の感じがきりっとした佇まいを鮮明に際立たせてます。
瑞木 お茶会の場面を思いました。立ち振舞いが美しい人は見ていて気持ちがいいです。
ひでやん この句から見えてくる和装の似合う上品なこの「先生」は何の先生だろう。お茶かお花か、お琴か……もしかして理科の先生とか政治家の先生?!


2点句

南亭骨太、北伊作選
居住ひのぎこちなき様春小袖 ヤッチー

南亭骨太 この季節、暖かくなってきたけどまだ冬物やストーブを片付けるには少し早いし、部屋も私も何となく落ち着かない。まあいいか今日は春らしく装ってどっかオシャレなカフェへでも入ってこようか。春小袖の季語がとてもよい感じです。
北伊作  居住ひ……の句が二句「ぎこちなき」と「美しき」両方とも面白く具体的で良く分かります。美しい小袖と若さゆえのぎこちなさ可愛らしさに一票。


1点句

ゐるゐないゐるゐないゐる散れる花 ひでやん
のり茶づけ 「ゐ」の表記を活かした字面のおもしろさ。作者の意図している所は正直分からないのですが、不思議な句ですね。

亥の子餅よいよいよいと納めけり 北伊作
正人 かるーいリズムが魅力の一句。よいよい……っと運んだかと思いきや、唐突に終わる。けりの納めで餅がボスッと座るのがグッド!

威勢よく福豆飛んで面飛んで 和音
三島ちとせ 豆まきの光景。力強さがよい。豆を当てられているのは父親だろう。このようにこの成長を感じられるくは気持ちがよい。


今月の無点くん

胃袋を食べては酒を小正月 三島ちとせ
井より風吹きあがるなり蕨狩 正人
胃薬を飲み春寒の街へ 瑞木




兼題「ゑ」
投句一覧

1 酔ふ吾も染井の花も朱の差して
2 衛士の頬照らす篝火春の星
3 餌は蜜白梅に鳥鳥鳥
4 ゑ蝋燭人魚の描きし花ゆすら
5 笑み返しもう振り向かぬ春ショール
6 絵葉書のやうに初蝶訪れる
7 慧を得たる僧のありけり沈丁花
8 ゑびすやの固き引き戸や桜冷え

〈参加方法〉
1:「投句一覧」から好きな句を選ぶ。(選句)
2: その句の感想を書く。(選評)
※1〜2、俳号(本名)、〒住所、電話番号を明記して、編集室「天の句いろはカルタ」宛にお送りください。一人一句まで。選句は番号と俳句を共に記入して下さい。
※番号はお間違えなく!

 今回の締切は4月10日(金)必着です。
Eメール宛先 magazine@marukobo.com

※誌面の都合上、内容を抜粋する等、選評全文を掲載できない場合があります。あらかじめご了承ください。


〈担当のこぼれ書き 次回以降のはなし〉
次回、コーナーお取り潰し!? 沙汰を待たれ候。



目次に戻る



鮎の友釣り

201
俳号 破障子

蛇頭さんへ 怪しい同窓生ですみません。JAZZ句会では楽しく遊ばせてもらってます。思えば大学のサークルでDJの真似ゴトをやっていたのがJAZZ句のコヤシというか放送人の始まりというのか、妙な繋がりですw

俳号について 東京BS句会で星野高士先生に「破障子=やぶれ しょうじ」にしたらと、句集の賛の口約束まで頂戴。迷いつつ(?)継続使用してます。

ハンコと私 俳歴は浅いですが、ハンコ作りは三十ン年です。写真の印面は「破」、右手のが現物(陶印)です。組長をはじめプロアマ問わず俳号印を文字通り押しつけるのが近頃の趣味。一週間で実印の欲しい方、拙作でよろしければ相談に乗りますよ。

次回…とおとさんへ 「大人コン」最優秀賞受賞おめでとうございます。そんな方と「○裏」でチームを組ませて頂いたのに、お役に立てませんでした。目下、ハイポニストとして鋭意修行中です。ゴゴゴ……(効果音)。


目次に戻る



告知


4月26日(日)開催
南楽園句会ライブ

 今年も春の南楽園にて、夏井いつきの句会ライブを行います。南楽園は数万株の花が開花期を迎え、最も華やかな季節。今年は南楽園創立30周年&宇和島伊達400年祭で、園内のイベントも盛りだくさんです。
 句会ライブの優勝者にはキム チャンヒのライブペインティングがプレゼントされます。
 また、昨年同様、日帰りバスツアーも行います。今治発〜北条〜松山〜松前〜伊予を経由します。バスには組長も同乗します。
 料金は、お一人5500円(各自昼食持参)/7000円(昼食付)。
 詳しくは、南レク観光までお問い合わせ下さい。

南レク観光
電話 0895(32)1020



夏井いつき第一句集
『伊月集 龍』
新装版近日発売!



句集Style作品好評発売中

句集『境界 -border- 』
岡田一実

第32回現代俳句新人賞受賞作家、岡田一実による句集登場!

仕様:135mm×135mm、72ページ
定価:1300円+税


句集『デカパンのピカソ』
日暮屋

「第3回大人のための句集を作ろう!コンテスト」優秀賞を受賞した日暮屋の第一句集登場!

仕様:135mm×135mm、72ページ
定価:1300円+税


お求めは http://shop.marukobo.com/ まで

誰もが句集を出版できるかたち
句集Style

あなたの句集を 20,000円(税別)〜 制作します
6月10日(水) 申し込み締切(原稿締切6/15、7月末納品)
詳しくは http://marukobo.com/style/ まで



俳句対局
第三回「龍天王決定戦」出場者募集

俳句対局とは、囲碁や将棋の対局戦を模した、一対一の句合わせ対決の句会です。 トーナメント戦で対戦を行い、三代目「龍天王」を決定します。
出場観覧問わず、多数の参加、お待ちしております。

日時
 5月2日(土)12時30分〜受付
 13時開始 15時終了予定

場所
 松山市立子規記念博物館4階和室

出場&観覧
 ともに無料
 出場される方は、事前に編集室までお申し込み下さい。

出場&観覧定員
 出場 4名(超過の場合事前予選)
 観覧 30名(先着順)
*出場申込締切 4月10日(金)
*出場が決まった方は、当日スーツや着物にてお越し下さい。観覧のみの方は、服装の指定はありません。

賞品
 優勝/準優勝に賞品あり

問い合わせ先
 『100年俳句計画』編集室
 089ー906ー0694
 magazine@marukobo.com

主催
 ハイクライフマガジン『100年俳句計画』

後援 松山市(予定)



俳句新聞いつき組
4月新規ご購読お申し込みの方には
2号(2015年4月号)よりお届けします!
※2号は2015年4月中旬発行予定!

2015年「雪の座」決定!&「花の座」ノミネート20句

大好評「プレバト!!」のちょこっと裏話

そのほか内容充実のフルカラー全8ページでお届け!

※1号より購読希望の方は、事前にその旨をお伝えください。

A4サイズ8ページフルカラー仕様
参加登録料(※初回のみ)1,000円(税込)
年間購読料 3,500円(税込)/年4回発行
*年1回、夏井いつきの句集シングル付録あり。

まずは無料の0号「創刊準備号」と購読のご案内をお送りいたします!
※0号「創刊準備号」を既にお持ちの方は、0号に掲載しております案内にしたがって購読料をお支払いいただくことで、正式な購読の申込となります。

ご購読のお申し込みは……

「俳句新聞いつき組」購読希望の旨、本名(ふりがな)、俳号(無ければ不要)、郵便番号、住所、電話番号、生年月日を明記して、下記のいずれかの方法で申し込んでください。

 ハガキで申し込む
  790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
  有限会社マルコボ.コム
  「『俳句新聞いつき組』購読申込」係

 FAXで申し込む
 FAX番号:089−906−0695

 メールで申し込む
 kumi@marukobo.com
 (件名を「いつき組購読申込」としてください。)



目次に戻る

編集後記


 絶版となって久しい神野紗希さんの句集『星の地図』の新装版の広告に、驚いた方がいらっしゃるのではないかと思う。
 句集『星の地図』は、若い俳人が廉価に句集を発表できないかと企画した新書版の句集のひとつ。初版は、12年前の2003年に発行し、廉価とはいえ制作には数十万円かかった。そのため、この企画自体がその後続かなかった。
 それでも俳人が、もっと容易に句集として作品を流布する手段が必要だという思いは消えず、そして生まれたのが「大人のための句集を作ろう!コンテスト(以下「大人コン」)」であり、超廉価に出版できるシステム句集スタイルである。
 したがって、最優秀賞を受賞された中町とおとさんの句集『さみしき獣』と句集『星の地図』とは、地続きのような企画。「大人コン」によって流布した句集から、句集スタイルが生まれ、その句集スタイルから句集『星の地図』を発行できることは、個人的にもとても嬉しい出来事である。
 しかも今回の句集『星の地図』は、絶版のない仕組みで制作できた。このことは、作家にとっても、読者にとっても、とても重要なことだと思う。
(キム)


目次に戻る

次号予告 (210号 5月1日発行予定)


次回特集

第4回
大人のための句集を作ろう!
コンテスト
表彰式

あたらしい俳句推理ゲーム!
など


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2015年4月号(No.209)
2015年4月1日発行
価格 771円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子