100年俳句計画2月号(no.207)


100年俳句計画2月号(no.207)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー

天玲


特集
第8回
夏休み句集を作ろう!コンテスト
結果報告



好評連載


作品

百年百花
 三津浜わたる/加根兼光/めいおう星/松本だりあ


100年俳句計画作品集 100年の旗手
 七草/マーペー/一心堂


百年琢磨 平敷武蕉

新100年への軌跡
 俳句/晶美/堀下翔
 評/瑞木/マイマイ


選者三名による雑詠俳句計画
関悦史/阪西敦子/加根兼光


へたうま仙人/大塚迷路

自由律俳句計画/きむらけんじ



読み物
愛媛県美術館吟行会/恋衣
Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
俳句Gathering/久留島元
ラクゴキゴ/らくさぶろう
ホンヤクサイホンヤク/黒田マキ
お芝居観ませんか?/猫正宗
百年歳時記/夏井いつき
近代俳句史超入門/青木亮人
もうひとつの俳句のまちづくり/岐阜県大垣市役所 近藤哲也
mhm通信/暇人

読者のページ
俳句ポスト365
一句一遊情報局
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告





天玲

 キウイの枝はしぶとい。蔓状で、枝の先端にいかなるセンサーがついているのか、見事に均等な螺旋を描き、あらゆるものに巻きつき伸びるが、いよいよ巻きつくものがないとなると折り返して自らにも巻きつく。
 そうして伸びすぎた枝、余分な枝は、葉の落ちきった一月、かなりの量剪定して落とす。この時季を逃すと枝に水が通り始め、伐ると樹液を垂らし、樹力が落ちてしまうからだ。
 落とされた夥しい量の枝は、園に放置すると病菌の巣になるので、次なるひと月をかけてすべて集めて束にしていく。これを家では、義父の一年分の風呂の燃料とする。
 蜜柑や杉の枝も良いが、キウイの枝は細くなめらかで、「焚きつけによいよええ」とは亡き義母がよく言うことだった。


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特集

第8回
夏休み句集を作ろう!コンテスト
結果報告



 第8回を迎えた「夏休み句集を作ろう!コンテスト」(主催 朝日新聞、マルコボ.コム、日本俳句教育研究会、共催 松山市教育委員会)。このコンテストは、全国の小中学生が、自分の一年間で作った俳句40句を、句集に仕上げて公募する企画です。今年は全国から、435作品(小学生371作品、中学生64作品)の応募がありました。
 審査は昨年11月、三浦和尚(愛媛大学教育学部教授)、夏井いつき(俳人)、松山市立潮見小学校教諭の赤松聖則、松山市立栗井小学校教諭の兵頭俊昭、菅井弥(朝日新聞松山総局総局長)、キム チャンヒ(本誌編集長/装丁賞のみ)の計六名で行い、「最優秀賞」、「優秀賞」、「学校賞」、「装丁賞」、「一句賞」の各賞を決定しました。
 1月10日に松山市立子規記念博物館にて、表彰式を行い、夏井いつきによる句会ライブなどを楽しみました。
 本特集では、最優秀賞作品の40句と各賞を抜粋して紹介いたします。



最優秀賞 小学生の部
『キャッチ』
松山市立番町小学校 5年
栗田大愛

左右なやむ十才迷う二月
脳にまだ去年の鬼や年の豆
妹に公式教わり二月去る
走者へと春色エールピアノ弾く
制服の弟春の一等星
荷物軽くしている心春の朝
くん風やひみつのハンドル右に切れ
鹿の子鹿の子ひみつのドアのかぎはどこ
だきしめた初夏に海風のゆうわく
モコモコと生まれる初夏を運ぶ船
梅雨晴れ間お隣さんと競う家事
ひまわりの背にあこがれる五年生
完敗の記憶を初期化ソーダ水
満点じゃない日守宮が待っている
風に乗れ向こうの夏は甘いはず
アイデアの湧き出る教室暑し暑し
炎天や宙にドア描き開けゴマ
炎天下デザートどっちか決めかねる
手花火やあの子へ少し近づいて
ひまわりと能天気な父前向こう
カラーテスター染まってしまった日の西日
秋すべてキャッチしそうな大きな巣
負けず嫌いのみこむ神や抜穂祭
恋するシーン月は主役か脇役か
地蔵様額の傷へ秋の風
坂道を駆ける父の背赤とんぼ
その先に危険はあるか赤とんぼ
交換したはずの歯と会う長い夜
デラウェアへ恋の時代は幕を閉じ
ヒーローじゃなくても良いよ柳散る
寝待月先に出てきた大人の歯
満月に踊り円周率に沈む夜
満月を丸飲みウソをついた夜
冬晴れがおもかる石を軽くする
伊勢の千木かっこつけてる冬の雲
街へ急ぐ冬帽の母追いかける
笑いながら笑いながらと母晦日
四世代光のトンネルくぐる除夜
人の数だけ電波みんみん初もうで
きょうだいの寝息窓から冬桜

受賞の言葉
 俳句は2年生の終わりに、NHK「それいけ俳句キッズ」に参加したのがきっかけで作り始めました。今回の句集では、季節ごとにならべて、テーマや気分が同じものが揃うように工夫しました。一番気に入っている俳句は、「完敗の記憶を初期化ソーダ水」です。天声人語に掲載され、転校した友達のお母さんや遠くの親戚など、いろいろな人に「すごい」と褒められたからです。



最優秀賞 中学生の部
『トビウオの地球』
松山市立椿中学校 2年
三瀬未悠

朝顔の微熱が包む旧校舎
筆洗は青にそまって秋めいて
初秋へ駅前の行列はパンダ
ロケットを飛ばせ目的地は秋だ
爽やかにインディゴブルー団総統
ゼッケンの解れ八月十五日
金風の日をペットボトルに詰め込んで
マネキンのかけらでつくる昼の月
秋分の小筆が言うことをきかぬ
秋雨がやんだ国旗掲揚台前へ
さかさまにすれば蚯蚓は鳴きそうだ
シマウマの翼じゃ月に届かない
追っ手はいないさイモ虫の駆け落ちに
小春の仕事は飛行機雲づくり
口癖を隠して道化師のマスク
長官のものですこの冬の空は
暖房は効かない出席簿は固い
顔色が悪いよ六花病かい
松山の聖樹を引っ越しする君へ
雪兎寂しい思いばかりする
負けません桜の国の新種です
変身は静かに春日を浴びながら
卵焼き日和ぶらんこがきしんでも
ラクガキは踊ってくれない春夕焼
笑わない蛙へ新作の魔法です
春の日のコンペイトウは傷薬
前髪はななめで菠薐草カレー
郭公の声だ改革の声だ
赤色の毒で地球が夏になる
転校するなんて空(から)のラムネ瓶
神様の涙を溜めて夏田かな
地平線なんてゴキブリが断ち切るぞ
空想癖患者には麦茶が効きますよ
夏めくや花ドロボウは名乗らない
バナナ食う先生だって信じたい
炎天やおとぎ話は嘘ばかり
雲の峰昼休みまでつぶすとは
二年部室や西日の味のホコリ吸う
カルピスも理科もキライだ夏の果て
トビウオになれない地球を出られない

受賞の言葉
 小1から応募しているので、今回だけ出さないわけにはいかないと思い応募しました。句集で一番工夫したのは、表題の句が句集の最後の句になる構成にした点です。句数が足りず、今までで一番切羽詰まった状況で作ったので、図らずも自分の不満とかが詰め込まれた作品になったと思います。初めて後から読み返しても「意外と面白い」と自分でも思える句集が出来ました。



子規博特別賞
『悲しい夜と明るい朝』
愛媛県立松山西中等教育学校 2年
福原 音

僕はどうしてもこうなのか悲しい夜
片蔭や右派と左派との交差点
霊園の空引き裂かれたまま灼くる
白百合や深夜テレビジョンの闇
今日も生きようとして林檎がまずい
鼻先の尖った僕は雪を食う
冬天や叫んでろ叫んでろ
数学の答えのような夏が来る
ギター弾く夜長コーラは少しぬるい
この朝にかけてみようと思うんだ

受賞の言葉
 今回一番工夫した点は、句の並びやストーリー性で良い違和感を作ったことです。一句一句の良さが見えつつ、まとまって勢いのあるものを作りたかったので、何回も作り替えたり、好きな句でも、泣く泣く使わずに我慢しました。自由律俳句と定型句と上手く混ぜて、全体に納得の出来る作品になったと思います。この句集で、今の14歳の気持ちを表現できました。



優秀賞


『ひまわり』
高知市立江陽小学校 1年
鳥海勇翔

しんにゅうせいきょうはかいだんひとつあがる
なつのかわカメのピラミッドすぐくずれ
あめなのにせみがないているあさ
コンクリートせみのしたいはアリだらけ
きたかぜふくせきれいちょこちょこあるいてる

受賞の言葉
 俳句は、景色とかきれいだなと思った時に作っています。一番工夫をした点は、リズムよく作るところ。(応募冊子に)40句書くのが大変でした。(受賞作品が)新聞にのってうれしかったです。学校の先生やおじいちゃんやおばあちゃん達にも見てもらえました。

(おかあさんより)元々絵を描くのが好きなせいでしょうか、空の変化や景色の美しさに心を寄せることや、ある一点が気になったりするようで、俳句を作るというより、ぼそっとつぶやいたのをそのまま俳句にしていったという感じでした。



『風』
松山市立東雲小学校 2年
河村和仁

春の風さいしょにあたっただいぶつさん
すなのつぶ車に一つ夏休み
白さぎのふみ出すかくど三十ど
風かおるブンブンごまはすきとおる
山ちょうでひとつすいこむ夏の雲



『海色の風船』
愛南町立家串小学校 3年
兵頭玲勇

ヒマワリを目ざしてのぼるのぼりぼう
じいちゃんのシップ三まい扇風機
スズメバチゆうびん局へむかってる
天高し知らない国の旗へ風
ぴかぴかのどんぐりは先生のもの



『ハーモニー』
大洲市立大洲北中学校 1年
岡田真巳

若葉風明日は開校記念の日
先輩に教わる校歌夏近し
ホルン吹く蜻蛉の止まる譜面台
ちり取りの氷を払う飼育小屋
ピカピカにトイレ磨いて卒業す



装丁賞 優秀賞


『夏の思い出2014』
愛媛大学教育学部附属小学校 2年
菅 真都


『クロ』
横浜市立いずみ野小学校 6年
松下昇馬


『ぼくのあばらがおれたなつ』
松山市立西中学校 2年
田哉汰



装丁賞 入賞


『黄金』
愛南町立家串小学校 2年
高魚璃空


『生き物』
松山市立余土小学校 3年
戸巻陽翔


『つめたい肉球』
大阪市立片江小学校 4年
馬場叶羽


『花火咲く』
広島大学附属三原小学校 4年
宇根志保


『たんぽぽわたげ』
京都市立上賀茂小学校 4年
古谷真理


『禁断症状』
松山市立西中学校 2年
鈴村直樹


『風花や』
今治市立桜井中学校 2年
野村有花



一句賞 優秀賞


千葉県市川市立新浜小学校 1年
稲川晃成
しゅんぎくを7さいになったらたべる


松山市立番町小学校 1年
栗田想生
うんどうかいなみだこらえてはがぬけて


松山市立味生小学校 2年
平原晴香
ふゆわらびおばあさんになったらわかること


愛南町立家串小学校 3年
伊勢雅姫
アマリリスの中に海の音がある


愛南町立家串小学校 3年
小川大飛
スズメバチ死んだ足をおりたたんで


松山市立番町小学校 4年
栗田暖乃
海沿いをアイスクリームまでのきょり


松山市立久枝小学校 6年
岡崎唯
消しごむで消すのは事実と夏の空


松山市立道後中学校 1年
高橋凜太朗
春風吹いてもドブネズミはドブネズミ


松山市立桑原中学校 2年
宮井桃歌
囀りやレタスはみ出すサンドイッチ


愛光中学校 3年
中矢温
ピカドンの語感は軽し蟻の塔



一句賞 入賞


愛南町立家串小学校 1年
伊勢小葉
せんせいとうまとびしたよくものみね


今治市立桜井小学校 1年
野村颯万
どうぶつえんいきてるにおいなつのそら


愛媛大学教育学部附属小学校 2年
玉井沙和
見つけたいにじいろトカゲおうちどこ


愛南町立家串小学校 2年
末弘力也
はつもうで石のかいだん三十だん


愛南町立家串小学校 2年
高魚璃空
日曜のかえる一ぴきうんどうじょう


内子町立天神小学校 2年
平井遥陽
先生のくつ下にあな山わらう


愛南町立家串小学校 3年
高魚涼
野良犬が役場へ行くよいわし雲


愛南町立家串小学校 3年
織田凜花
雲のみね魚がぴちとはねました


広島大学附属三原小学校 3年
平木結菜
妹とさくらの海で笑い合う


松山市立石井小学校 3年
三谷ふわり
しゅくだいのプリント五まいあり2ひき


松山市立みどり小学校 4年
田井綾乃
お日様とくるりと海へもぐりこむ


愛南町立家串小学校 4年
山本航太
満月のドラゴンはたまごをうむ


松山市立みどり小学校 4年
吉田陽南大
青しばにそびえたつ影ジャングルジム


砥部町立広田小学校 5年
土井愛美
ブランコをうしろにふってシュシュおちる


愛南町立家串小学校 5年
前田真吾
黒南風やザクッと魚をさしている


愛南町立家串小学校 5年
黒田真希
黒板が青く光った浅い春


愛南町立家串小学校 5年
小川叶
夏の風はん画の海は真っ黒だ


松山市立石井北小学校 6年
藤岡朗子
兄たちの巨大サンダルのさばる玄関


宇和島市立九島小学校 6年
入江佑香
夏近しN字を回して点対称


宇和島市立九島小学校 6年
戸田雅敏
エックスは何が入るか蟻の道


新居浜市立宮西小学校 6年
羽藤れいな
三分で薫風の海渡り切る


松山市立道後中学校 1年
武田歩
春を待つ開放禁止のトビラかな


大洲市立長浜中学校 2年
坂本梨帆
玄関のケースに鍵と種袋


松山市立雄新中学校 2年
小網柊哉
ぶらんこの影は水たまり揺らす


松山市立西中学校 2年
鈴村直樹
盆の路錆びて黒ずむ鎌を振る


松山市立道後中学校 2年
鈴木大河
鳥の巣にかくまってほしいこの僕を


八幡浜市立真穴中学校 3年
大下雅子
天の川私は多分ここにいる


八幡浜市立真穴中学校 3年
河野彩奈
怒られてマスクの中で言い返す


大洲市立長浜中学校 3年
竹内愛深
水草生い影の自分をじっと見る


八幡浜市立青石中学校 3年
井上創一朗
水泳部プールに一礼引退す



学校賞


学校賞 最優秀賞

愛南町立家串小学校


学校賞 優秀賞

宇和島市立 九島小学校


学校賞 奨励賞

内子町立 天神小学校
砥部町立 広田小学校
広島大学附属 三原小学校
八幡浜市立 青石中学校
八幡浜市立 真穴中学校




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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2014年度 第三期 第三回


「キッズリターン」 三津浜わたる

風花や港へつづく商店街
進路指導室水仙のうつむけり
爆竹の残骸冬ざれの校庭
教室に帰らう冬すみれちぎりすて
裏門にパトカー停まる花八手
荒星や夫婦喧嘩の階下より
オールナイトニッポン枯野めくノート
フェリー反転して冬夕焼へ帰りゆく
待春の線路に耳をあててをり
入学試験終へてバッティングセンターにひとり
陸橋より汽車ながめをる遅日かな
バスケットボール弾み止み卒業す


1969年生まれ。第4回俳句甲子園の神野紗希さんの作品を見て俳句をはじめる。第17回俳句甲子園実行委員長。




「二十年」 加根兼光

しんしんと五時四十六分雪
着膨れの中を動脈太く行く
浮寝鳥ゆれて昨日は晴れだった
凍蝶の凍蝶としてほのかな赤
チュニジアの太鼓玄関へとスミレ
片足を春泥深きところまで
プラムの木咲かせ無かったことにしてくれ
第二関節春潮へ折れ曲がる
まわるまわるブランコの空消えるまで
夜をかけてサマルカンドの群青
待てませんチューリップなら赤いもの
宿主いまミモザの根元より立てり


1949年、大阪府堺市出身。映像俳句プロデューサー。2007年秋、第9回俳句界賞受賞。映像と俳句のコラボレーション、俳句の新しい展開を目指す。




「黎明」 めいおう星

百八つ沖へ沖へと去年修す
時の沖ゆ轟轟たるや初日の出
初電話銀世界より火の國へ
無人交番あらたまの長春花
賽と散る仕事始の一家族
女正月柱に神の座めく瘤
ヴァレンシアの冬日あふるるトマト缶
杉田久女忌がしやりと眠るマリオネット
ねむれよい子よ真紅のコート月に掛け
絶対離の斯く輝けり寒の星
ギシギシと羆の闇の沈殿す
黎明や悴む鳥の薄まぶた


1958年、松山生まれ、東京在住。
俳句の缶詰に漂着してよりいつき組組員。




「魔除け目玉」 松本だりあ

鉤鼻で睫の長き焼栗屋
ハーレムの玻璃戸の歪み冬の蠅
冬帝の聖者の岩の顔削がれ
旅鞄の新しき傷冬深む
年を越す刑務所あとのホテルかな
あらたまの魔除け目玉や硝子玉
片言のジロさんバザールの三日
東西の風合ふところ橋は雪
国旗掲ぐ清掃船へ冬の波
終着駅のアガサクリスティ冬茜
寒禽や鐘は優しく撞きなさい
コーランへつくばんで礼春隣


1942年生まれ。双子座。句集『ダリア』(編集アトリエまる工房)。句集『海に遊んで』詩集『おばあちゃんの魔法の苺』(有限会社マルコボ.コム)。




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読者が選ぶ人気俳人!

100年俳句計画作品集 100年の旗手


(2015年1月号 〜 2015年3月号 2/3回目)


 炯眼 七草

物怪の瘤持つ杉や寒鴉
雪折れや夜を渡りて谺せる
手水鉢ざらり寒雀ちちち
倚坐像の幽かな笑まひ寒明くる
朝まだき雉の鋭声の止まざるを
目覚めしは炯る眼玉か春の夢
さう此処は樹海への道雪解風
その内に富士は霞となりてゆく
春雨の中に居たりと気付きけり
将門の首塚青きヒヤシンス


松山で俳句を始めて2年半。現在東京在住。そのうち地元長崎市に帰り、俳句を楽しみながら「若い老後」を送る予定です。



 春かたまく マーペー

凍蝶や薄く透けたる薬包紙
冬萌のモンマルトルに売れぬ画家
炭足して向かいの山を明るうす
霰酒大和のくにの風姿花伝
アフガンの赤き土から出て人参
国境の島より吹きぬ虎落笛
寒蜆がらんごろんと掬い上ぐ
発条はもう春かたまけて撥ね出さん
クレソンの萌黄色なる香を立てぬ
斑雪はらはらミルフィーユほろほろと


俳都松山にずっと暮らしながら、初めて俳句を詠み、2011年12月「一句一遊」に初投句。吟行と称しながら、日暮屋とともに旅に出かけるのが楽しみ。



 冬鴎 一心堂

ソマリアに軍靴鳴りゆく聖夜かな
裸木が魔王のように立っている
冬鴎鳴けば廃墟の無音かな
連合市場極月の空青し
小晦日眠りつきたる工場群
外套に今宵の酔いを包みゆく
沈黙の伴天連島に冬の虹
堂崎や信徒のごとき野水仙
水仙の匂えば夜の海荒れて
寒月や青きインクで書く手紙


1959年生れ、父は靴職人、父の屋号「一心堂」を俳号とする。福岡市在住、賞罰なし。



読者が選ぶ人気俳人!
「100年の旗手」連載者推薦募集

 今求められているのは、読者が読みたいと思う俳句作家。「100年の旗手」は、連載する俳人を、編集室ではなく、読者が選ぶコーナーです。
 「この人の作品集を読んでみたい」と気になる俳人を、1人3名まで推薦してください。その中から、推薦の多かった方に、編集室より原稿依頼を行います。
 あなたのお勧めの俳人を是非推薦してください。

 推薦の方法

「この人の作品集を読んでみたい」という人を3名まで選んで(自薦は不可)、その俳号と活動場所(句会、誌面等)、推薦者ご自身の俳号(本名)、住所、電話番号を明記して、100年俳句計画編集室「作品集推薦」係へ送ってください。ハガキ、FAX、Eメールで受け付けています。Eメールの場合は件名を「作品集推薦」としてください。また、専用のインターネット投稿フォーム(http://www.marukobo.com/100kishu/)でも受け付けています。※投稿フォーム利用の場合を除き、推薦は他の投稿等とは分けてください。

締切 毎月末日

 現在連載している3名の方以外なら、一度連載された方も含め、どなたでも推薦できます。
 今回連載を行った3名の作品集の感想もお待ちしています!


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百年琢磨
 冬の時代 平敷武蕉

「寒鵙」 一心堂

反戦歌遠くに聞いて冬の鵙

 鵙は秋から初冬、警世のごとく鋭い声で高鳴きするが、冬が深まるにつれて静かになる。反戦運動も冬の時代。やがて反戦の歌も消えていくのだろうか。

冬蝶ひらひら原爆資料館

 冬蝶は冬の日に弱々しく飛び、やがて命を閉じる。昨年、原爆の恐ろしい体験を語る被爆者に対し、「死に損ないのくそじいじぃ、早く死ね」と、罵声を浴びせた中学生がいた。人々の心の荒びと記憶の風化のなかで、原爆資料館も冬蝶のように消されていくのかも知れない。


「天辺」 七草

大北風やオラショ捉ふる猫の耳

 外は嵐のような寒風が吹きすさぶ。まるで世の中に不穏到来を告げているようで、思わず平穏を願う祈りが口から出る。その祈りを猫が耳をそばだてて不安そうに聞いている。猫は戦争の足音を聞き分けているのかも知れない。

荒星やチヴィタヴェッキア殉教図

 俳句では扱いにくい宗教の題材をよくぞ詠みこんだ。その心意気を良しとしたい。

雪吊りの天辺とまりたき鳥も

 一幅の絵のような凛とした雪国の冬の風景をうまく捉えた。芭蕉の「枯れ枝に鳥のとまりたり秋の暮」が思い出される。


「若菜」 マーペー

 俳号の「マーペー」に魅かれた。マーペーは石垣島に伝わる悲恋物語の美女の名。首里王府の強制移民令で恋人と引き裂かれる。マーペーは山の天辺で恋人を偲びつつ、悲しみのあまり石になったという。

土間広き家に暮らしてかじけ猫
神主の居らぬ分社の注連飾り
デパートの鯛を俎始かな

 一句目。我が家にも猫が三匹いるのでよく分かる。猫は狭い空間を好む。広い空間を与えられて居心地悪く戸惑っているのである。マーペーさんの句にはどこかおかしみが滲む。掲句の二句もそうだし、「月のしずく受け止めたのか仏の座」にもそれがある。資質のなせる持ち味なのでしょう。



平敷武蕉
1945年、沖縄県生。著書『沖縄からの文学批評』。俳句評論集『文学批評は成り立つか』で第三回銀河系俳句大賞を受賞。俳句誌『天荒』編集委員。文学同人誌『非世界』編集責任者。


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新 100年の軌跡


2014年度 第三期
第三回


 旅 晶美

抜けし後の蒲団の竜の洞めきぬ
旅行鞄へ雪一片を入れてゆく
スケート靴に大気傷つけられてゐる
見る人の背筋伸びたる寒稽古
ロングコートなにをかくしてゐるのだらう
門前まで冬将軍の立ち並ぶ
道々の大根に飾られてをり
壊さないやう手折りたる氷柱かな
白菜の葉をひらきけり抱かれたく
脚浸す炬燵の中の宇宙めく
おでんにもできる順序のありにけり
砥ぐほどに包丁に月冴え返る
冬流星背中の熱を重ねては
一角獣になりそこなつて散れば雪
ある時はかばんの中に冬帽子


晶美
1990年生まれ。本名、高岡晶美。
岡山大学大学院環境生命科学研究科在籍。第11回俳句甲子園児、週末活動句会句集『WHAT』に参加。




 掴む 堀下翔

石に座るもうすぐ冬であることを
背を高くして山茶花の思はるる
ここからは雨後なり平賀源内忌
知つてゐる枯野にすこしゐるつもり
枯枝を掴みて離す手なりけり
だから、さう、粉雪アクロバット以後
蜜柑山古ぶる雲のなかりけり
おほきさのことなる風邪薬の箱
とほりなほした裸木が水木だつた
木のやうに聖樹が雨に濡れてゐる
地球より火星の見ゆる寒さかな
正月の景ドラえもん第一話
ぼろぼろの投扇興の畳かな
冷たい手が二つで月も見えてゐる
それからはずつと切株春隣


堀下翔(ほりしたかける)
1995年北海道生まれ。「里」「群青」同人。筑波大学に在学中。




雪 片野瑞木

スケート靴に大気傷つけられてゐる 晶美
大気という言葉から、屋外のスケート場を思った。よちよちと滑っているくらいでは大気は傷つかない。足を高く上げスピードを出して滑る人がいるのだ。

一角獣になりそこなつて散れば雪 晶美
「雪」に新しい定義づけをした一句。伝説上の動物である一角獣になれなかったカケラが雪として散っているのだという。この美しいイメージを得るために、作者はどのくらい雪をながめていたのだろう。

だから、さう、粉雪アクロバット以後 堀下翔
いきなり接続詞、読点、感動詞、読点。意味らしい意味のない上五から始まるのは「粉雪」を強調するためか。静かな粉雪の世界から動きのあるアクロバットの残像へ。そしてまた静かな粉雪へと視線が戻っていく。

石に座るもうすぐ冬であることを 堀下翔
ここからは雨後なり平賀源内忌 堀下翔
それからはずつと切株春隣 堀下翔
一句の中に時間の経過を読み込もうとした句が多かったのが印象的だった。


1963年生まれ。愛媛県八幡浜市日土町在住。第2回、第8回選評大賞最優秀賞。



もやもやしたいですか マイマイ

背を高くして山茶花の思はるる 堀下翔
 平易な言葉しか使っていないのに像を結ばない。「む」はそんな句群だ。掲句も「背を高く」したのが誰(あるいは何)なのか謎のまま、突然「山茶花の思はるる」と続く。繋がりがわからない。私の脳は句を繰り返しつぶやき答えを得ようとする。いや、答えは無い。無い答えを構成しようとする脳の働きこそが恐らく作者の意図なのだ。

木のやうに聖樹が雨に濡れてゐる 堀下翔
 元々の材質が「木」だろうが、そうでなかろうが、聖樹は「木のやうに」濡れている。作者はそう感じた事実だけを述べてこの句から去っていく。ああ、もやもやする。

見る人の背筋伸びたる寒稽古 晶美
 「旅」は一転して読み手に負担をかけない句群。掲句、説明は不要。読み手の脳でくっきりと像を結び、あるいはその人の背筋をも伸ばすかもしれない。

おでんにもできる順序のありにけり 晶美
 「うん、そうだろう」と思う。でもこの実感を過不足なく俳句にするのは難しい。それぞれの材料ばかりを見ていてはこんな句はできない。「木も見て森も見る」作者なのだ。


2003年11月頃よりラジオに投句を始める。いつき組選評大賞2007年優秀賞、2008年奨励賞受賞。句集シングルに『翼竜系統樹』。


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超初心者から中上級者まで楽しめる
100年投句計画

 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。今回の先選者は、阪西敦子さんと加根兼光さん。後選者は、関悦史さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。
(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)
写真:白鯨


選者三名による雑詠俳句計画


先選者 加根兼光

 専門学校で「映像俳句」という授業を月1回のペースで行っている。NHKで放送する兼題ムービーを学生たちに作ってもらうためだ。映像と俳句のコラボレーションが自身の課題でもあるので「教える」という行為に自信はなかったがお引き受けすることになってもう3年。学生たちの反応を楽しむほどの余裕はないが毎回苦労して準備する内容を学生たちと共有できる瞬間は楽しみだ。「私は教育者ではない伝達者です」と常々言っているが。


月冴ゆる対角線に電車往く 小雪

 澄み渡った夜の月。その下を進む電車は「対角線に」。情景句から複数の視点を考えた。市街電車が交差点を横切る。小高い山から見る斜めに進む電車。作者はやや高い所から見下ろす。視界下部には電車、視界上部に月。「往く」は離れてゆく動きか。「冴ゆる」「往く」と動詞で終える上五下五からは月は増々冴え電車は離れてゆく動きが強調される。やはり心の別離でもあるかのようだ。



失言を飲み込みましょう葛湯練る かのん
 思わず口をついて出そうになる言葉を寸でのところで押しとどめる。それは相手を傷つける言葉かもしれないし、怒りの一言かも。ぬらぬらと混ぜられる葛湯はその言葉を溶かすように温かいものだ。

シジフォスとなりて落葉を掃いてゐる 小市
 「シジフォスとなる」はやや直接的すぎる気もするが落葉を掃くという行為に対してシジフォスのような徒労を持ってきた切り口の斬新さに感心した。落葉を掃くことに何を見出すかと問う句である。

冬日ゆるゆる耐熱ガラスの湯に溶くる 越智空子
 「ゆるゆる」というオノマトペが陽光そのものでもありガラスポットに溶け行く何かでもあり、また湯に陽光が溶け入る情景でもあるというある日の温かさの情景。湯の煌きが増してゆくのが分かる。

雪の原この世は美しき牢獄 アンリルカ
 どこまでも広がる雪原。純白であるがゆえにそこに浸み込むように悲しみも広がる。牢獄の現世であるが雪原の白はあくまでも美しく果ては見えない。しかしその雪原を愛する。現世の牢獄と同じく。

朔旦冬至双子の月とすり替わる 恋衣
 朔旦冬至。本来吉日であるこの日と中七以下が不協和音のように響く。双子の月は地球ではなく他の惑星の光景。19年に一度のこの日、地上では密かに他の惑星の月とすり替わった月を眺めるのか。



黄金の毛布鼻の上まで引き上げよ 幸
花八手玄関の戸が閉まらない みちる
霜焼けの安全靴で走り出す 理酔
井戸水の光に洗ふ冬菜かな もね
ゲルニカや時雨の街へ消えゆく背 緑の手
寒菊や夜の終りの星一つ てん点
老人と鳩と落葉と三輪車 雨月
一茶忌の畑に埋めたる物の皮 樫の木
ビル群はつひの遊び場ゆりかもめ うに子
落葉掃くジャングルジムは骨ばかり 瀬戸 薫
寒いよう忘れられた恐竜 まこち


先選者 関悦史

 私は普段はさして忙しくないというか、むしろ暇なくらいなのですが、この年末年始はやたらいろいろ重なっています。週刊、月刊、隔月刊、季刊、年二回刊行の全ての締切が重なり、書いても書いてもキリがない。
 年を越したら一息つけるかと思ったら、どうも新たに週刊の連載が増えるらしい。しかも寒さが厳しくなってからやたらに眠い。季節性鬱らしいので、昼間なるべく外に出て日にあたるようにはしているのですが。


白菜のような巨乳とメール打つ さとう七恵

 一見非常に俗っぽい素材に見えますが、物欲しげな陰に籠ったところがなく、いやらしい句にはなっていません。むしろ開放的な可笑しさがある。スイカやメロンならまだしも、巨乳の形容として「白菜のような」というのは聞いたことがなく、これが誇張法として効いています。そしてただ見ていたり、驚いたりしているだけではなく、思わずメールを打ってしまったというのが妙な実感があって、いい意味でばかばかしさがあります。



枯蔦を手繰り寄せれば乱歩邸 みちる
 これは語順の工夫の勝利です。蔦や蔓植物と乱歩というのはほとんど付き過ぎの部類なのですが、何の気なしに手繰り寄せてみたら乱歩邸が出てきたという意外性への展開で、枯蔦の手応えが生きました。

室咲きやタンの燻製噛むほどに 妙
 室内で温められて咲いている植物の視覚的な生々しさと、噛んでいる「タンの燻製」の味覚、触覚的な生々しさが響きあっている共感覚的な句です。その両者の中間に、奇妙な非在の肉感が発生するような妙味あり。

狼の末裔として犬のコロ 樫の木
 「コロ」という名前が小型犬か仔犬っぽく、「狼」との落差で可愛さを出していますが、あまりかけ離れた形態だと連想もしないので、日本犬の成犬なのかもしれません。かすかな野生味が可愛さを引き立てています。

渋滞の聖夜を縫うて救急車 うに子
 冬場は救急車の出動が増えるようで、このところ拙宅の近所にも連日のように来ます。渋滞の中「聖夜を縫うて」進む救急車は、そうした生活実感ややかましさとともに、わずかながら聖性も帯びているようです。

病室の向かひ大学冬休 みさき
 退屈な入院生活の中、向かいの大学の冬休みという変化は大きく感じられるのでしょう。閑散とした中に清潔感がある句です。「病院」「大学」と白っぽい建築物件だけを大づかみに打ち出しているためでしょう。



欅枯れ石の教会ふくふくと 小雪
おにぎりに新米とあり道の駅 迂叟
バリウムの舌にざらつく漱石忌 ゆりかもめ
病室のがらんとしたる師走かな ぴいす
これっきりダムに沈める冬紅葉 八木ふみ
古里は鴨の住み家となりにけり こぼれ花
小春日やレンタサイクル並ぶ駅 瀬戸 薫
蹴飛ばされ熱さ絶頂足温め 青柘榴
初雪やまなこだんだん見開きぬ 遊人
末枯れや煉瓦造りの文学館 未貫


後選者 阪西敦子

 夏ごろから増えていた体重を戻そうとして、年末年始に試みをはじめた。よいスニーカーを買った。気軽に申し込んだ煤逃吟行が思いのほかハードだった。良く寝た。これに加えてiPhoneのバージョンアップで加わった「ヘルスケア」機能に体重、BMI、脂肪率を入力し折れ線グラフ化し、増減に一喜一憂し前日のよくわかる要因を反省するのみ。題して「反省だけならわたしもできる」ダイエット。今のところ、そこそこ順調。


特選句

外は雪内に燃えんとする炎 コナン

 外は雪が降りだした。そのことが寒さをより感じさせ、今日はもう内にこもってしまおうということになって、焚きだした暖を取るための炎。外の雪の勢いがますのにつれて、内の炎も勝ってゆくように感じている。

窓開けて受け取る荷物花八手 杉本とらを

 簡単な宅配便がとどいた。忙しいころや寒さの折など、玄関に行くのを省いて、うらの窓から受け取ることもある。窓の外には思いがけず八手が咲いていてその上を荷物が渡る。八手のつつましさと明るさが見える。

鉄よりも鉄の臭いのする冬菜 和音

 寒い季節に育つ冬菜は、それ自体寒に強いことはもちろん、滋味があって体調管理には欠かせない。鉄はその滋味ともいえる。地の力を十分に蓄えた鉄の匂いは、頼もしくはあるが嫌なものではない。



並選句
落ち葉掃く大空を背に落ち葉掃く 春告草
忙しやあとは注連縄飾るだけ カシオペア
熱燗や敗者になると決めている あおい
取られたる餌を取り戻す寒鴉 鯉城
凍蝶のとぶこともなし夕日影 哲白
とんとんと嘯く終相場かな ヤッチー
浮き砂洲は鳥の楽園冬浅し 樹朋
固き手の穂先走らぬ師走かな 南亭骨太
潔く二つに割れて冬林檎 和音
長生きの家系に生れて実千両 恵馬
太陽系第三惑星年新 藍人
不揃いの冬木の影や夜会場 のり茶づけ
山茶花や犬の歩幅に合はすなり ゆりかもめ
にはとりの冬日つついてをりにけり もね
良しも無く悪しきも無くて注連飾る おせろ
底冷えや煮込みにどつとふる七味 小市
凍星や夜明けの歌がラジオより 八十八五十八
ヒヤシンス大好きだった平和な日 レモングラス
餅と餅形付け合っていかり肩 しんじゆ
電飾の下でチャリンと社会鍋 喜多輝女
うるむ灯に時雨るる新宿蚤の市 まんぷく
小春日やかの山砦を攻め落とす ポメロ親父
佛前の友の土産の大根焚 えつの
初声の相も変わらずからすかな エノコロちゃん
旧軽の空まで続く冬木道 富士山
本気冗談飛び交つて冬の市 北伊作
二た三ところ水ひかりゐる冬田かな 省三
色深く石の横なる石蕗の花 人日子
寒村や文太も健もいぬ日本 ちろりん
しぐるるや二階に眠るコレクション むらさき
それぞれの思い違えどクリスマス 台所のキフジン
はや喜寿へあのときめきを忘年会 松ぼっくり
古日記好きといふ字の燃え残る みさき
発見す不法投棄のゴミの霜 ひでやん



関悦史(せきえつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。雑誌「現代詩手帖」俳句時評欄担当(2012年1月〜)

阪西敦子(さかにしあつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

加根兼光(かねけんこう)
映像 俳句プロデューサー。1949年、大阪府堺市出身。関西大学法学部法律学科卒業後、CM制作会社に勤務。CMチーフプロデューサーとして30年以上に渡り、1000本以上のCM制作に携わる。50歳を過ぎて始めた俳句で2007年秋、第9回俳句界賞受賞。映像と俳句のコラボレーション、俳句の新しい展開を目指す。俳句集団いつき組組員。現代俳句協会会員。




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へたうま仙人


文 大塚迷路

 お正月が過ぎたと思うとったら、すぐそこにもう立春が持っておる。北国の方々にはまだまだ遠い春ぢゃが、雪の下では春への扉が着々と作られているはずぢゃ。
 今月も、厳冬を乗り切れそうになくなりかけそうな気がしないでもなさそうな句が隙間風と共に舞い込んでおるぞ。
 鬼は外気分で読んで頂けたら幸いですぞ。


正月の石鎚山が真白い 真帆

 これはまことに正攻法ぢゃ。写生とは一味違う見たまんま俳句ぢゃ。正月に輝く石鎚山の姿が鮮やかぢゃのう。こういったど直球を昨今は誰も忘れておる。こねくり回すだけが表現の道ではないぞ。時にはこんな大胆な素直さも必要ぢゃなあ。

御使いの狐に雪やこんこんと 元旦

 まるで童話の中のワンシーンのようぢゃ。足跡もすぐに消される雪の中を一直線に行く狐に、雪は地に降るのとはまた違う雪を降らせているのかもしれんのう。「お使い」ではなく「御使い」とは、なかなかの神秘性をも醸し出しておるぞ。

十二月ロシア語話す人といる ケンケン

 なかなかに不思議な設定ぢゃ。このロシア語を話す人はロシアの人ではないことはわかるが、そのことがかえって謎を深めていくのう。十二月とロシア語の衝突にも必然性は見えてくるしのう。うっかり立ち止まってしまったら、なかなかに手強い句ぢゃ。素通り、素通り。

脳味噌の池に寒鯉ありにけり KIYOAKI FILM
旅鴉一筆箋に肉団子 KIYOAKI FILM

 なんとも面妖でめんどくさそうな句ぢゃ。心象風景か、本当に脳味噌の中に寒鯉が泳いでいるのか。いやいや「ありにけり」ぢゃから物体としてあるのであって、泳いでいるのではないな。やっぱり脳の中に鯉が在るんぢゃろうな。どちらにせよ、面倒なものが脳に入り込んだもんぢゃ。が、ちょっとうらやましいぞ。春までどうぞ仲良く付き合ってくだされ。

綿虫やペダルくるくる待ちぼうけ だなえ
綿虫よスローパンチの友となれ だなえ

 なんともゆるゆるな感じが、寒さを吹き飛ばしておるぞ。そういえば、あきらかにすっぽかされて、結構高そうな自転車のペダルを惰性で回しながら遠くを見ているこんな中年、この前確かに見たぞ。ちょっと涙が出たぞ。やけくそにならず、綿虫ともなんとか仲良くして頂いて、始まったばかりのこの一年を乗り切って欲しいもんぢゃ。

珈琲豆ゆつくりとひく寅彦忌 ひでこ

 寺田寅彦は聞くところによると大晦日に亡くなったそうぢゃが、そういうことに鑑みると、大晦日にゆっくりと曳く珈琲豆が寅彦の顔に見えてくるから不思議ぢゃ。珈琲好きで、珈琲に関する随筆集も出していた寅彦を偲ぶにはうってつけの深い句ぢゃ。

最悪の事態真冬の深呼吸 柊つばき

 すまんが笑うたぞ。最悪の事態のことを考えれば考えるほどツボに入って大変ぢゃったぞ。とってつけたような「真冬の深呼吸」のとどめには、ぐうの音も出んかったわい。これは「真冬」以外では成立せん句ぢゃ。お見事!

寒鯉の泥を一旦吸うて吐く 小木さん
寒鯉のしばらく口を開けたまま 小木さん

 をを、なんという写生ぢゃ!寒鯉の姿がありのままぢゃ。池の中のささやかな時間の経過までさりげなく描写しているところなんぞ写生の王道を行き過ぎて、回転禁止の青春ぢゃ! ぢゃがのう、世の中過ぎたるは猶お呼びでないがごとし、ぢゃ。これまた失礼致しました的クレージーな猫の世界へ追放!!

病棟に母呼ぶ声す冬銀河 坊太郎
弔いの細き煙や冬木立 坊太郎

 「冬」が表現として少々つき過ぎの感はあるが、あくまでも、ぢゃ。母を呼ぶ声だけが響く病棟。「声す」の切なさと無常感。煙突が吐く細い煙と冬木立との場違いな一体感。どれをとってみても深い悲しみが伝わってくるのう。そんな気持ちにさせる句は元来苦手なんぢゃが、「嫌い嫌いも好きのうち」という世界的に有名な格言にもあるように、好きと嫌いは紙一重なのぢゃ。ぢゃがこんなしっとり句は申すまでもなく、昨今は「嫌いなものは嫌い」が本流よ、的ミシュラン三ツ星の彼方へ追放!!


 とまあ、今月も断腸の思いで追放者を出してしもうたが、へたうまの道は常に、右肩上がりつつ左肩下がりぢゃ。恐れるものは少しはあるが、まあそこそこなのぢゃ。今の調子でまた集おうぞ。
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。



へたうま仙人
 年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
 好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
 嫌いなもの 上手な俳句
 将来の夢 大器晩成


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自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 首を傾げたくなるような記事を見た。消費者庁によると、脚立、梯子の事故が増えているらしい。その70%が50歳以上で使用上の注意をよく確かめよう、と言っている。脚立については、天板を跨がない。梯子については、上から三段目以上には上らない。脚立も梯子もそんな不自由なものだとは、ちっとも知らなかった。もういっそのこと税金とって脚立梯子使用免許でもつくればよい。五年無事故なら脚立梯子ゴールド免許……。



とうとう追いつかれて師走 多満

 最近はなにかにつけIT化されたおかげで、昔に比べ師が走りまわるということも少ないのだろうけど。それでも具体的にははっきりと見えなくても、なにかに追いかけられているような気になるのが師走。新年を迎えるためにうまく帳尻を合わせて、あれとかこれとか手を打ってきたはずなのに、やっぱりと言うかとうとう一杯一杯になってしまった……そんな複雑な感情を「とうとう追いつかれて」という表現がみごとに言い当てていると思う。結局は追いつ追われつと言うのが、人生なのだろう。



たい焼きを三枚に下ろす 藍人
 腹から齧りついたり、家まで冷めないように励ましたり……というユニークな鯛焼きの句はそこそこ印象に残っているが、三枚に下ろすというアプローチは初めてで、ちょっとびっくりした。もうこれだけでインパクトは十分。三枚に下ろしてどう食べるつもりなのか……考えさすだけで句の力はある。

うつむいたまま融けてゆく婆 台所のキフジン
 積もった雪がどことなく婆さんに似ていて、やがて徐々に融けだしてゆく。あるいは、うとうとしている婆さんがうつむきつつ眠ってゆく……という実景なのか。いずれにせよ婆さんの儚さへの視線がよいと思う。

机の棚の奥に枯葉ためこんでいる 樫の木
 この句、読むたびに不思議さが増して行く。机の棚の奥に枯葉がたまる状況を推理させられるからだろう。公園で本を読んでは挟まってくる枯葉なのか、それとも棚のそばには窓があり樹があって……。静かに深く読み手に委ねられた句と言える。

鮟鱇の大口開けてわつはつは 鯉城
 単純豪快。「わつはつは」が効いている。が、ざんねんながらどうみても有機定型の句。無視するのもちょっともったいないのであえて取り上げた。「わつはつは大口開けている鮟鱇だ」「わつはつは鮟鱇が大口開けている」で、意図しているニュアンスは十分以上に出る。ここは自由律のコーナーなので、自由律でがんばってください。

自販機にミルク買う雪女 迂叟
 「雪女」でなければなんの面白味もないのだが……それだけに妄想の産物「雪女」に、いかに現実的なことをさせるかが、妙味といえる。深読みすれば、お乳の出ないちょっと悲しい雪女かも。ちなみに「雪女郎お豆腐買って文春も(くぼえみ)」という句もあります。



首筋の雪が痛い 理酔
言い訳ばかりの冬のなまたまご さとう七恵
エンピツにキャップがいるまで使い冬 ケンケン
女ですだって冬でもたわわな乳房 ヤッチー
西陽が決断を迫ってくる 多満
寄鍋にしてはさびしい もね
スマホという劫火 小市
モノクロのピカソと影と足跡と 北伊作
足湯続ける雪女 恋衣
正月や蚕の朝に貧乏あれ KIY0AKI FILM


並選
地下道に響く大嚏 杉本とらを
青麦抜けて赤い列車どこへ レモングラス
幼子の泣きまね上手 幸
空車来るまでの地団駄 南亭骨太
凩の音旅人の慟哭に似て 和音
社外相談役の四角い口 みちる
湯たんぽ抱いていて遅刻 妙
また絨毯につまずく のり茶づけ
ガードマン道端の握り飯冬 ゆりかもめ
ゆらゆらきらきら鈍色に冬の日は舞う 緑の手
一面の雪分校跡の第十六投票所 元旦
サンタ帽この前髪はだめでしょう しんじゆ
とりあえず冷凍ひきのばす廃棄 うに子
爆弾低気圧てふ凶器のやうな風と雪 喜多輝女
極月の腹の虫にも二分の銀の魂 まんぷく
恵比寿っさんが鯛釣り上げて夜神楽の序  ポメロ親父
まもなく吾も六十の年男 エノコロちゃん
予報は晴れ電車に乗る 坊太郎
終活始めの日向ぼこ 人日子
光より矢より早く今日大晦日 ちろりん
ぶったまげた親父の初電話 松ぼっくり
シクラメン一服して立ち上がる女 たま
年重ね歩幅小さく春を待つ カシオペア
彗星に成れず寒星になった 青柘榴
空は鈍色ペチカにほぐす紅茶かな あおい
警報の出るほど雪の降ると言う コナン



きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「青穂」同人。句集『圧倒的自由律 地平線まで三日半』(象の森書房)、写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。



【100年投句計画】投句方法
 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可)、俳号(なければ本名の名前のみ)、本名、電話番号、住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。
ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、2月20日(金)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがきFAXでも投句できます。


さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(俳句ポスト365のページ参照)


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愛媛県美術館吟行3
「遊亀と靫彦 − 師からのたまもの 受け継がれた美 −」連動所蔵品展
「日本美術院と近代日本画」ほか


文 恋衣


 高校生以外のための俳句甲子園(まる裏)の翌日に、葦信夫、うに子、更紗、しんじゅ、雪花、チャンヒ、南行ひかる、野風、ひでやん、理酔、恋衣の俳人十一人が美術館に集まった。
 作品の展示替えをしながら開催されている「遊亀と靱彦」展と、二人が理事長に就任した日本美術院の画家の作品を中心とする所蔵品展「日本美術院と近代日本画」を鑑賞した。

神世から口伝を語る冬灯 ひでやん

 まずは「遊亀と靱彦」展より。歴史や神話を丹念に取材を重ねて描きあげていったという、靱彦の作品の中の人物が、語りかけてくる。(木曽義仲が、遥かなる時を経た遣唐使が、戦いの前の男が、戦う男が。)
 今回の靱彦の展示品の中に、女性を描いた作品は数少ない。前回の吟行では、小さなそれでいて全てを見渡しているような、卑弥呼の瞳が印象的だった。

郭公や額田王の憂鬱 しんじゅ
耳成と畝傍と香具が春を待つ 恋衣

今回は、額田王の、大きな淋しげなどこか遠くを見やるような眼に、卑弥呼とは違った目の描き分けに魅入る。
 師である靱彦と比べ、遊亀の展示作品には、女性を、少女を描いた作品が多い。

女の描く娘の目には蝶 チャンヒ
三面鏡右の女の春愁い 恋衣

 正面から、右、左から、その豊かな視線を追う。靱彦の描く谷崎潤一郎の男の眼、その作家の作品「細雪」を遊亀が挿絵で描いた女達の眼。
 師弟に受け継がれる心の作品の中に繋がりが。
 靱彦の愛蔵品や、遊亀の触れては愛しんだという黒光のする狗子像を見ながら其々に、1階の企画展から2階の所蔵品展へ移動。

ー美術館中庭ー
触れたればかさと遠のく枯葉かな 理酔

 ロビーから見える中庭の樹齢140年を越える三本の大きな楠は、まるでステンレスサッシュに囲まれたキャンバスの中。
 「日本美術院と近代日本画」展の常設展示室1に到着。さあ、横山大観、平山郁夫など近代日本画の世界へ。

大船を三人で曳く山眠る ひでやん
雪を塗り重ねて新しい何か チャンヒ

そして当日のお題、愛媛県今治市出身、大智勝観の大きな「初夏十二社」に挑む俳人達。

秘すことのありて二人の木陰かな 葦信夫
画布に緑満ち冬の玻璃割れさうな 更紗
緑深き湖畔の鳥鳥初夏をすふ  南行ひかる
初夏の二階に友を訪えり 理酔
亀の子鳴くまで大王松に居る しんじゅ

 一面の緑のたおやかさに、ひきこまれる。

 日本の画家達は、少しずつ海外へ目を向け、対象となる題材、表現の仕方に変化が。

白と黒の海から生まるる冬銀河  雪花
荒海の筆勢着ぶくれてゐる場合か 更紗
裏街の碧き鎧戸雪もよひ うに子

 隣の常設展示室2では「大正から昭和へ―近代日本洋画」の展示。大正から昭和へ、時代の変化を取り入れていく岸田劉生、藤田嗣治などの油彩の深き陰影の魅力。

無口なる男の春の淡きこと 葦信夫
ダンサーめく肢体すべらか月冴ゆる  野風
一心にロバと恋するアマリリス 南行ひかる
捨てられて今しあわせな雪の村  うに子

 常設展示室3に移動すると、銅版画「吉田勝彦―小さな永遠」の展示。

停車場の屋根は空色からつ風  野風
エッチングの小径は延びる日脚伸ぶ 雪花

約二時間の吟行を終え、さらさらと短冊を残して俳人は帰って行った。

棘のある枝に小さき鷽やさし 葦信夫
オーロラの指輪賜はる春の夢 更紗


恋衣
俳句を、短歌を読む事を、絵画を見る事を、音楽を聴く事をこよなく愛する俳人。


取材協力:取材協力:「遊亀と靫彦」展実行委員会(愛媛県、あいテレビ) 愛媛県美術館


*次回愛媛県美術館吟行会は、1月31日(土)13時30分より、「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」です。
参加ご希望の方は、編集室までお申し込み下さい。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.19


Hokkaido potato
Grows big in volcano
Does this almost rhyme?

火山晴れ寒晴れ馬鈴薯よく育つ


(直訳)
じゃが芋は北海道
火山育ちはでっかいどう
どう、韻が踏めそう?



We are enjoying the snow in Hokkaido because there is none in Yamanakako.
We ski in the morning, practice cello in the afternoon and go out on dinner dates in the evening. Perfect.

僕たちは北海道の雪を満喫している。何故なら山中湖はまだ全然だから。僕らは朝スキーをして、午後にチェロの練習、日が暮れたら夕飯に繰り出す、デートみたいに。最高だ。
(写真の山は、蝦夷富士こと羊蹄山です。 訳:朗善千津)



ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第47話
「マッコイ タイナー プレイズ ジョン コルトレーン」


 予てより、僕は“レコード コレクター”であることを何処か否定的に捉えて来たし、決して自分はその類じゃない、との思いもあった。でもそれは、オリジナル盤や希少盤を追っかけ大枚を叩いたりしない。廉価でも内容の伴わない、或いは好みじゃないアルバムに手を出さない。なんてところを境界線としていた節がある。
 次のテーマ ミュージシャンがマッコイ タイナーと決まった時、僕は即座に「リーチング フォース」と「リアル マッコイ」という彼名義の代表2作を推薦した。内心、かなり得意げに。これに「僕はライヴ盤の“プレイズ ジョン コルトレーン”が好きだなあ!!」と、光海さんが控えめながらも毅然と応えてくれた。
 確かに、僕が先に挙げた2作は、評論家の評判から揃えておくべきアルバムとして入手した。「俺はレコード コレクターやったんや」と反省。

躊躇はぬ疾走ありき寒明忌 破障子

 寒明忌が川東碧梧桐の忌日であることを確認した上で、僕は唸って選とした。
マッコイ タイナーは55年、コルトレーンと出会い60年に彼のバンドへ加入。以来、“ピアノのコルトレーン”と称されるほど彼のサウンドづくりに貢献した。しかし、あまりにも急激にフリージャズへ傾倒するコルトレーンに付いて行けず、65年末に袂を分かち67年、ブルーノート レコードと契約。同年4月には今回のサブ テーマである「リアル マッコイ」を収録する。が、その3ヵ月後に師匠であるコルトレーンが急死してしまう。このレコーディングに参加したドラマーは、彼と同時期にコルトレーンの下を去ったエルヴィン ジョーンズだった。

春は浅く遥かなるアフロ ブルー 蛇頭

 97年9月23日、ニューヨークのヴィレッジ ヴァンガード、即ち「マッコイ タイナー プレイズ ジョン コルトレーン」はコルトレーン生誕71年の記念日にライヴ録音された。メンバーはマッコイのピアノにベースがジョージ ムラーツ、ドラムスがアル フォスターである。アルバムの全てがコルトレーン作か所縁の曲で、彼のオリジナル中一番美しい「ナイーマ」が1曲目、一番カッコいい「アフロ ブルー」が5曲目。勿論僕の私見だが、共感者は多いはず。

離れても離れても蝋梅の中にいる チャンヒ

 この句にも唸らされてしまった。一面に凛と咲き薫る感じはコルトレーンの“シーツ オブ サウンド”ってところで、マッコイは常にその影響下にあり、彼自身その音づくりの立役者だったのだから後継者というより分身的存在なのかもしれない。

左手の強き想ひの吹雪くかな 南亭骨太

 マッコイの左手から放たれるスケール感溢れる音群が、60年代前半のコルトレーン サウンドの象徴と言っても過言じゃない。それは今回の2枚のアルバムでも十分に体感できる。



http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。
次回JAZZ句会は、2月22日14時より。テーマは『スピーク ロウ』ウォルター ビショップJr. 。詳しくは、44ページ句会カレンダーをご覧ください。


このコーナーで紹介した俳句とエッセイ、堤宏文さんの写真とを組み合わせた『JAZZ HAIKU vol.1』(マルコボ.コム)を発売中。


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俳句Gathering
場を作るということ



俳句Gathering実行委員会
久留島元

 「俳句で何か、お祭りをしたい」
 俳句ギャザリングというイベントのきっかけは、他愛ない思いつきからだった。ふつう俳句のイベントというと、硬派なシンポジウムか大先生の講演会。俳句の勉強にはいいが、それでは俳句のイメージは堅く、古くさいものに固定されてしまう。もっと風通しのいい新しい企画、俳句に接したことがない人にも楽しんでもらえるイベントはできないか。
 実際に動き出したのは2012年。徳本和俊、久留島元が企画を練り、三木基史を代表に迎えて、実行委員会が発足した。目的は、第一に俳句を知らない人も俳句好きな人も一緒に楽しめるイベントであること。第二に、なにより企画する自分たちが楽しめること。
 2012年12月22日。神戸三宮 生田神社会館で、第一回俳句ギャザリングが開催された。ここでは「俳句の魅力」を語るシンポジウムや句相撲大会に加え、地元アイドル「Pizza Yah!」チームと俳句初心者の男性チームとが俳句甲子園形式で戦うという、不思議なバラエティショーが展開された。
 第一回目は80名前後の参加者を得た盛況。まず一つめの花火は高らかにあがった。この成功に気をよくした私たちは引きつづき「Pizza Yah!」に出演を依頼。さらに関西で活躍する小池康生氏(俳句)と小池正博氏(連句)のふたりによる「W小池トークショー」を企画した。内容は俳句、川柳の共通の祖先にあたる連句を会場一体となって体験するというもの。第二回大会は、2013年12月21日に開催。
 ただ正直なところ、第一回、第二回ではアイドルを俳句というステージに誘い込むために会場、音響などの設備に注意を向けてしまい、さまざまなほころびが生まれていた。そのため第三回では大きく方向転換することにした。
 昨年12月20日。三回目の俳句ギャザリングは「関西6大学俳句バトル」の副タイトルを冠した。関西の大学生が三人一組になり、天狗俳諧や俳句甲子園形式で競いあうトーナメント。学生の多くは俳句甲子園出身者だが、大学で俳句を始めた者もおり、イベントのため呼び集められた者もいた。まだ俳句甲子園の影響は強いが、ストイックな高校生とは違う、遊び心や視野の広がりを予感させる句もあった。

数え日や喪服の人と行き違ふ 林友豊
数え日の塔にょんにょんと光るなり 野住朋可

 他にも当日は歌人、土岐友浩氏をまねき、最近ツイッターや文学フリマで活発な学生短歌会や若手歌人の動きを紹介してもらった。興味深かったのは、新しい場に自分たちの短歌を流通させたことで新たな読者を発見していったという点である。
 「俳句ギャザリング」という場は、まだまだ未成熟だ。しかし、私たちが俳句を楽しむためには、誰かを待つよりもまず自分たちが場を作っていくことが大事ではないか。
 今年から俳句ギャザリング実行委員会は、三木の提案で「30歳定年制」をしくことにした。私たちは補佐にまわり、企画の主体は後進に譲る。「今」若い人間が俳句を楽しめる場にしていくためだ。
 2015年の「俳句ギャザリング」がどんな場になるか。まだまったく見えていない。


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ラクゴキゴ


第47話
『鬼の面』〜 母を想う娘のキモチ 〜


あらすじ
 大阪 船場の近くにある、お面の店。
 そこに毎日来るおせつという女の子、大きなお店で子守をしている12歳。
 面屋の主人、何で毎日外から店をのぞいているか尋ねると、並んでいるお多福の面が、里に住む母親とうりふたつだという。
 それならば買って帰ればと言うと、お金は全て里に送っているため、一文も無いと答える。
 面屋の主人、「持って帰り。わしゃ急にその面が要らんようになったんや。」と、おせつに面を持たせた。
 おせつは喜び、毎晩箱から面を出しては「お母はん、達者そうやなあ、ほなおやすみ」と話をしていると、部屋の外を通りかかった店の主人、少しいたずら心がはたらき、鬼の面と取り替え、次の日おせつがびっくりしたところでお多福の面をかぶって出て行き踊ってやろうということに。
 取り替えたのはいいが、その日に限って店が忙しく、おせつがびっくりして「これはお母はんの身体が悪いにちがいない」と思い店を飛び出してしまう。主人はそれさえも気づかなかった。
 里までテクテク歩いて帰る途中、バクチをしている集団に会うが、たき火の煙の中から鬼の面が見えたので皆びっくりして金もそのままにして逃げ出してしまう。
 やっと家に帰ったおせつ、母親の身体はいたって元気なので安心するが父親は「だんなさんが心配してはるにちがいない、このまま連れて行くわ」と、また船場の方へ。
 途中、先ほど置いてあったお金を警察に届けようととりあえずふところに入れて店へ着くと、店中おせつを探していたようで事情が分かり皆安堵する。
 主人、自分がいたずらでしたことをわび、父親にもゆっくりしていってくれと言う。
 父親、先ほどのお金の話をすると主人は「そんなバクチの金、誰も自分のやて名乗り出るやつはおらん。届けても全部あんたのもんになりますわ」と。
 父「そんな大金が! わー、来年は大金持ちになりますわ」
 すると鬼の面がニヤッっと笑った。
 主人「ああ、来年の話したさかいやろ」



 私の好きな句に、「鬼もまた心のかたち豆を打つ 中原道夫」があります。
 この句を思い出すと、なぜか一緒にこの「鬼の面」の噺が浮かんできます。
 別に人情噺ではないのですが、12才のおせつが母親を想う「心のかたち」が聴く者をジーンとさせるのです。
 ただ、「来年の話をすると鬼が笑う」という言い伝え、現在の子供たちに通用するかなあ?
 まぁこれも諸説あるようですが、えんま様に仕える鬼というのは人間の寿命を知っており、その寿命が切れるのも知らずに来年の話をしている者をせせら笑う、というのがブラックで面白いですね。
 今でも街でたまーに見かけますが、節分の次の日、四つ辻に豆と一円玉がバラバラと落ちていることがあります。
 これ、私も昔親から言われてやってたことがあります。豆と一円玉をちり紙に包み、節分の夜に四つ辻に置いて帰ってくるのです。きつく言われていたのは「絶対ふり返らずに帰ってくるんよ!」と。もう一つは「一円玉が落ちとっても拾ったらいかんよ!」と。
 厄落としの行事だったのでしょう。だから拾ってしまった人に自分の厄が行くんですね……おおコワ。愛媛だけの風習でしょうか? これを読んでいる他県のみなさま方はこんなことやってませんでしたか?
 話は変わりますが、この度私に弟子が出来まして愛媛でがんばっていくことになりました。名前を「ひめさぶろう」と申します。どうぞお見知りおき下さいまして、お仕事をいただけたらと思います(笑)。
 もちろん、俳句の世界にも引きずりこみますので。

節分の鬼役譲り合ふてゐる


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新聞記事に隠された俳句を発掘する
クロヌリハイク


黒田マキ


さかのぼるシロウオ巻き取り有罪に
(愛媛新聞より)

副総理「成人の日」の神戸市の
(2014年11月6日朝日新聞より)

幸福の黄色いハンカチ海月姫
(愛媛新聞より)


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お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第28回 「異なる劇団同士のコラボ」

 狙ってなのか偶々なのか、異なる二つの劇団のジョイント企画が、ちょうど同じ日('14年12月16、17日)に上演されました。
 一つは劇団花火とunit.ぷらりぃんという松山の二つの劇団が、一つの脚本(渡部奈緒)をそれぞれの演出(湯川潤、渡部奈緒)と役者陣で上演する『メランコリーとの戯れ』(シアターねこ)、もう一つは名古屋の劇団 よこしまブロッコリーと松山の劇団 ボンヤリマドグチが、同時刻 同じニュースを契機に、名古屋と松山で起こった出来事を描くという二つの芝居『私の中のガラパゴス』(作 演出 にへいたかひろ)『暗い部屋の傾向と対策』(作 演出 古田通子)を上演する企画『遠い町の話』(ヒロヤ画廊)。
霜降る夜合わせ鏡の孤独たち
 かつて宮崎駿が「人と人が出会うことで、その人の違う一面がみえるのが一番面白い」というようなことを語っていましたが、劇団同士のコラボも、そんないつもと違う面が引き出されることを期待しての試みでしょう。
 このように県内外を問わず行われている劇団同士、あるいは劇団を超えた役者同士の交流ですが、これほど盛んになったのは割合最近ではないかと思います。その直接のきっかけは本稿でも何度か書いた、シアターねこの尽力が大きいのでしょう。しかし、そういった劇団や役者同士の交流の源流をたどっていけば、一部を除き当時のほとんどの松山の劇団が参加した、子規100年祭記念演劇公演『深き森、赤き鳥居のその下に』(作 演出 高瀬久男、'01年10月13、14日、松山市民会館)にたどり着くのではないかと思います。(事実誤認あればご指摘、よろしくお願いします。)
衝突し変わる二つの銀河さえ
 それにしても、正岡子規もまさか百年後の松山の演劇シーンにまで影響を与えているとは思ってもみなかったに違いありません……いや、意外にそうでもなかったのかも。なにしろ、取り合わせといった技法的なことから句会に至るまで、俳句というものが、そもそも出会いの悦びに満ち溢れているのですから。



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。


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百年歳時記


第21回 夏井いつき

 有名俳人の一句を紹介鑑賞するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月ご紹介していきます。


鯨待つ砲手の洟の乾きけり クズウジュンイチ

 一読、行ったこともない南氷洋の捕鯨船の甲板に自分がワープしていることに驚きました。上下に揺れる船、冷たい波飛沫、悴む手、鯨が近くにいると分かる緊張感、「砲手」の横顔。垂れた「洟」がそのまま乾いているという描写のなんたるリアリティでしょう!
 さらに一瞬も気が抜けない時間の経過が「乾きけり」という詠嘆となります。「けり」は、元々は【気づき】を意味する語。その状況は兼ねてからそこにあったのに、今、気付いた!という意味から、詠嘆や強意を示す語となりました。「鯨待つ」状況、「砲手」という人物、その「洟」がバリバリに「乾き」きる状態、それらが抜き差しならぬ映像として読み手に迫る、迫力の「けり」の一句です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』12月12日掲載分)


蝦蟇の膏売り生姜湯売りと隣り合う 篠原そも
生姜湯の微妙に溶けぬ物も飲む 空見屋

 兼題「生姜湯」の二句。「蝦蟇の膏売り」と「生姜湯売り」が「隣り合う」という状況って?と想像するのが楽しい前句。大道芸大集合のイベントかもしれないし、時代劇の役者さんたちのささやかな休憩時間かもしれません。この二つの職業の取り合わせの妙が一句の味わい。どんな会話がかわされているのでしょうか。
 後句は「生姜湯」の一物仕立です。熱い「生姜湯」が次第にぬるくなってくると、何やら舌にザラザラするものを感じるような気がします。その「微妙に溶けぬもの」は「生姜湯」の何かの成分なんだろうけど、自分の心の中にある溶けきらないわだかまりかもしれない……と読ませるのが、助詞「も」の効果になります。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』12月12日放送分)


磯鋼色なれば木枯の産道 八幡浜日土・海田
 「鋼色(はがねいろ)なれば」の「なれば」という表現は、三つの解釈が可能です。確定条件(原因理由)で読むと「磯が鋼色なので」という意味になり、恒常条件なら「磯が鋼色のときはいつも」、偶然条件は「磯がたまたま鋼色で」という意味になります。
 どの意味で読むかを考えるのは、読み手の愉しみ。私は三つ目の偶然条件で読みました。今日の磯は何と寒々とした「鋼色」の光景なんだろう、まるで木枯が生まれてくる産道のような鋼色だよ、と偶然目にした光景に感嘆する作者がそこにいます。
 五七五の調べを外した破調のリズムですが、句の内容に似合った力強い響き。「木枯の産道」という詩語に強く惹かれた作品です。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊12月19日放送分)


災の字は火の氷るごと冬至粥 花屋
 「冬至粥」は厄災や邪気を祓う風習。「災」という字はいかにも厄災っぽいよ、だってこの一字は「火」が氷ってるみたいじゃないかという思いが「冬至粥」を煮る行為を意味あるものにします。
 厄災をやっつけるように、「災の字」を溶かすように、「冬至粥」を煮る「火」はあたたかい色に揺れています。熱々の「冬至粥」をふうふう食べれば、人々の心にある氷った「災」をことごとく溶かしてくれるに違いありません。喉から腹におちてくる粥の熱さが、「災」が溶ける実感となって季語「冬至粥」を表現します。冷たいイメージを持つ「冬至」の一語が「氷る」に、熱いイメージの「粥」が「火」の一字に印象を重ね合う点もよく工夫されています。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』12月26日掲載分)


牡丹鍋これは銀次の十頭目 理酔
 なんと言っても巧いのは、「これは銀次の十頭目」という表現。この措辞だけで、「銀次」が猪撃ちであり、猟の世界に少しずつ慣れてきている男であることが読み取れます。さらに「これが」ではなく「これは」ですから、他にも撃った猪の肉はあるんだけれども「これは」銀次の撃ったヤツだよ、というニュアンスになります。このあたりの助詞の選び方がベテランらしい巧さです。
 「牡丹鍋」とは、猪と牡丹の絵柄が取り合わせられている花札の一枚から生まれた隠語です。花札の世界に、隠語としての「牡丹鍋」や「銀次」という名が似合いますし、季語の持つ色のイメージ「牡丹」の赤、「銀次」の「銀」の取り合わせもニクイ作品です。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』12月19日掲載分)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


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会話形式でわかる
近代俳句史超入門


第8回
文 構成 青木亮人

 大学で俳句を研究する青木先生と、その教え子で俳句甲子園の出場経験もある大学生の俳子さんが雑談を交えながらの近代俳句史超入門。

続 虚子の俳句

 二人は大学で高浜虚子の句について延々と論じあっています。

虚子句の多様さ
青木先生(以下青) これまで虚子の句をいくつか挙げましたが、それは序章に過ぎません。彼の凄さは、これから紹介する作品にこそあるのです。フフフ……。
俳子(以下俳) 薄気味悪い含み笑いですが、迫力があるわ……。では、虚子さんの真の姿を見せてもらいましょうか。さあ、かかってきなさい!
青 「大寒の埃のごとく人死ぬる」(解説1)。
俳 ……いいんですか、こんなこと詠んでも。今の総合俳句雑誌や一般句会で出したら即座にアウトですよ。
青 虚子は現実のありのままを詠んだだけで、人間社会の善悪は関係ありません。人はある時、「埃のごとく」あっけなく亡くなることだってあるはず。次の句はどうでしょう。「一を知つて二を知らぬなり卒業す」(解説2)。
俳 えっ。「卒業」といえば学生生活の別れとか、これからの希望とか、その淋しさや嬉しさといった気持ちを詠むのが定番と思うんですけど、何だそりゃ。
青 普通、季語「卒業」に対して「一を知つて二を知らぬなり」なんて力まないですよね。この表現のギャップがユーモラスですし、句の内容には人としての悲哀みたいなものもある。
俳  悲哀?
青 自分ではそれなりに色々学んだと思いこみ、「一」が全てと信じているから、この世界や世間に「二・三・四……」があることに気付きもせず、学んだ「一」だけを後生大事に抱いて「卒業」し、人生の次の段階に進もうとしている。本人はそれに気付かないまま将来に夢を膨らませて「卒業」したんですよ。傍から見ると滑稽ですが、その人のことを考えると悲しくもありませんか。
俳 もしかして虚子さんってイヤな人? 何だか、意地悪ばあさんみたい。
青 うーん、現実を冷静に見ていた俳人と考えるべきじゃないかな。それに、人のすることはたいてい滑稽でかっこ悪いものですし、多くの人はそれに気付かずに自分のしていることを当然と思いこんでいる。そこに人としての悲哀が……。
俳 (途中で遮る)うおお、暗い! 悟ったフリしてネガティブ思想をまき散らすガンダムのアムロみたいな作品はノー! 虚子さんに明るい作品はないんですか。ほら、笑顔の人を詠んだ作品とか。
青 「口あけて腹の底まで初笑」(解説3
俳 ……ヘンな上に気色悪い。先生、私に恨みでもあるんですか。
青 「初笑深く蔵してほのかなる」(解説4)。
俳 おっ、うまい。こういう上品さ、いい感じです。
青 「スリツパを越えかねてゐる仔猫かな」(解説5)。
俳 かわいい! 虚子さん、やれば出来るじゃない。
青 「手鞠唄かなしきことを美しく」(解説6)。
俳 ……切ない。女の子が一人で遊んでいそう。ダメ。
青 「褄とりて独り静に羽子をつく」(解説7)。
俳 着物の褄を取るということは、さっきの女の子より年齢が上の女性という感じね。「羽子」の響きが美しくも切なさをそそるわ……って、人生の寂寥感が漂っているじゃないですか! 
青 「ベンチあり憩へば蜘蛛の下り来る」(解説8)。
俳 うん、飄々としてユーモラス。平凡な日常の一コマという感じでいいですね。
青 「映画出て火事のポスター見て立てり」(解説9)。
俳 映画館を出て「火事注意」的なポスターを見て立っている……それで?

「ただごと」俳句
青 そう、この句にはオチがありません。虚子は、時に無内容に近い「ただごと」句を平気で詠むことがありました。
俳 お、俳句以外のことを久しぶりに喋りましたね。ボタンを押したら虚子句を朗読するロボットみたいになってましたよ。
青 そのアイディア、いいですね。ボタンを押すと「大寒の」「手鞠唄」句あたりを明るく朗読する「きよしくん」ロボット。目覚まし代わりにも使えそう。
俳 朝からそんな暗い句を誰が聞きたいんですか。
青 松山の新ゆるキャラとして「よしあきくん」の兄弟分という設定で売り出すんですよ。俳句朗読は「ドラえもん」の声優、大山のぶ代さんを彷彿とさせる機械音で……。
俳 先生の商才のなさがよく分かりました。俳句にお戻りになられては?
青 「川を見るバナナの皮は手より落ち」(解説10)。
俳 フハハッ。こんなのが「俳句」として提示されたら大笑いしちゃいそう。虚子さん、俳壇の王様だったんですよね? なのに、こんな「ただごと」句を発表していいんでしょうか……。
青 そうです。誰もが傑作を詠もう、凄い句を作ろうと汗を流して苦闘する中、虚子は「バナナ」句を無造作に「俳句」として発表しました。王者だから出来たことですし、王者以外にはこういう句を「俳句」として発表できなかったでしょうね。実際、中村草田男は「バナナ」句に衝撃を受けています。
俳 うそっ、「降る雪や明治は遠くなりにけり」を詠んだ草田男さんが?
青 普通の俳人はここまで無造作で無内容な句を「俳句」として提示するのは難しい。俳句に深く関わった俳人ほど傑作を詠もうとしますし、脱力するような句は公表しにくくなる。ところが、虚子は「バナナ」句を発表した。草田男は、この句には「偶然」の出来事が「偶然」のまま詠まれている、その無造作さはまさに「俳句」そのものと絶賛しています。
俳 何だか禅問答みたい。
青 こういう例えはどうでしょう。俳子さんは俳句甲子園出場者だから分かると思うんですが、もし俳子さんのチームが決勝まで勝ち進んだ時、「バナナ」句で勝負に出ますか?
俳 ご冗談を。そんな句を出したら負けるに決まっているじゃないですか。きちんと作り込んで、ディベートに耐えられる作品で勝負に出ます。
青 でしょう? 決勝戦で「バナナ」句を平気で出すのが虚子なんですよ。俳句甲子園で信じられている「俳句らしさ」を全く無視した作品を出して、涼しい顔をしている感じです。誰もが句の「意味」を求め、納得しやすい「内容」を求めている。理解できる句が「俳句」だとも信じている。ところが、虚子は無内容に近い句も「俳句」として発表した。この節操のなさ、適当さは凄いですよ。例えば、次の有名な句もそう。「流れゆく大根の葉の早さかな」(解説11)。
俳 ……? 意味は読んだまま、という句で、さっきの「バナナ」句と似ている気もしますが、どこか違う。
青 む、どこが?
俳 「早さかな」。私には詠めない気がします。(続く)


青木亮人(あおき まこと) 1974年、北海道生まれ。現在、愛媛大学准教授。著書に『その眼、俳人につき』(邑書林)など。



解説

解説1
「大寒の埃のごとく人死ぬる」 昭和十五(1940)年作。『五百五十句』所収。
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解説2
「一を知つて二を知らぬなり卒業す」 昭和十三(1935)年。『五百句』。
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解説3
「口あけて腹の底まで初笑」昭和十七(1942)年。『六百句』。
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解説4
「初笑深く蔵してほのかなる」 昭和二一(1946)年。『六百五十句』。
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解説5
「スリツパを越えかねてゐる仔猫かな」 昭和十八(1943)年。『六百句』。
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解説6
「手鞠唄かなしきことを美しく」 昭和十四(1939)年。『五百五十句』。
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解説7
「褄とりて独り静に羽子をつく」 昭和十三年作。『五百五十句』。
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解説8
「ベンチあり憩へば蜘蛛の下り来る」 昭和十六(1941)年。『六百句』。
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解説9
「映画出て火事のポスター見て立てり」 昭和十六年。『六百句』。
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解説10
「川を見るバナナの皮は手より落ち」 昭和九(1934)年。『五百句』。
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解説11
「流れゆく大根の葉の早さかな」 昭和三(1928)年。『五百句』。
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もうひとつの俳句のまちづくり


岐阜県大垣市役所俳句文化推進グループリーダー
近藤 哲也

第7回

 第7回目は、芭蕉蛤塚忌全国俳句大会をご紹介します。
 「蛤塚忌」の由来である「蛤塚(はまぐりづか)」とは、『奥の細道』の「蛤のふたみに別行秋ぞ」の句に合わせて、大垣市の船町湊跡、奥の細道むすびの地につくられた句碑のことです。
 そして、今回第26回を迎えた全国俳句大会は、芭蕉の遺徳を偲び、芭蕉の忌日(10月12日)に近い日曜日に開催しています。事前投句として、一般の方から3,000句を超える応募を、小、中、高校生の方から30,000句を超える応募を全国各地よりいただきました。
 当日10月19日は、雲一つない晴天に恵まれ、午前中は、奥の細道むすびの地記念館で、芭蕉蛤塚忌の式典を行いました。奥の細道を演目とした厳かな献吟、詩舞の後、献句を披講し、舟から句流しをして式典を盛り上げました。これは、芭蕉がこの地で奥の細道の旅を終え、舟に乗って伊勢桑名へ旅立ったことにちなんでいます。舟の名前は「蕉風丸」といいます。
 また、午前中は、当日投句の応募が行われ、川のほとりや美しい桜紅葉の下で俳句作りに取り組む多くの人々が、まちの風景にとけこんでいました。
 午後は、会場を総合福祉会館に移して全国俳句大会を開催しました。事前投句の表彰や、記念講演として高野ムツオ先生に「俳句の言葉の力」と題して、東日本大震災を題材とした俳句について講演をしていただきました。
 私は、この4月に俳句文化推進グループに配属され、今回の俳句大会に携わりました。全児童生徒が参加した小中学校や、特別支援学校からの参加などがあることを知り、俳句には、少しのコツさえわかれば、誰もが参加できる素晴らしさがあると感じています。これまでは、俳句というと、少し難しい感じがあり、一部の人が作るものだと思っていましたが、決してそうではないことを知りました。
 この芭蕉蛤塚忌全国俳句大会が、市民はもとより、多くの人が俳句に関わる機会となり、大垣市の特色を生かした俳句大会として発展させていきたいと考えています。


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まつやま俳句でまちづくりの会通信


第47回 文と写真 暇人

2月14日バレンタインデーは…!

 この通信の本題に入る前にまずはご報告から。去る1月11日に行われた「第13回高校生以外のためのまる裏俳句甲子園」は、皆様のおかげで無事終了することができました。ありがとうございました。Facebook審査員も定着してきたのか思いのほか好評だったみたいです。この模様は次回の報告とさせていただきます。
 次にお詫びです。事前に予告をさせていただいておりました、「Ustream」による当日の模様の動画生配信ですが、やはり会場内では、用意していた無線LANの電波状況が悪く、思うような通信速度が得られなかったため、配信ができませんでした。期待されていた方には申し訳ありません。ただし、低画質ではありますが、予選の模様を収録しております。近日中にYouTubeでご覧いただけるよう、現在準備中です。もうしばらくお待ち下さい。
 さて、来たる2月14日は……そう、バレンタインデーでございます。私個人的には全く縁がない行事ではありますが……このバレンタインデーに、mhmはなんとイベントを企画しました。もうおなじみ「松山城歳時記化計画〜バレンタインデー編」です。
 当日は、朝10時に松山城ロープウェイ乗り場前に集合していただき、東雲口側より季語調査を兼ねて動植物を観ながら松山城を散策(吟行)します。途中「べこや」にて昼食をとり、最終的には「坂の上の雲ミュージアム」にて句会を行います。参加費は100円です。ひと味違うバレンタインデーを過ごしてみませんか? お申し込み、お問い合わせはmhmまでお願いします。
 次号では、まる裏俳句甲子園を振り返りながら、感想や反省点も含めて記事を作成していきたいと考えております。つきましては皆様のご意見、ご感想を、mhmもしくは一〇〇年俳句計画の編集室宛にお送りいただきたく、宜しくお願いいたします。
 今回、まる裏俳句甲子園終了後の打ち上げの席では、まる裏俳句甲子園にある意味での変革をもたらすかもしれないようなご提案もいただきました。現時点ではまだ、それをどうするのかは未定ですが、定例会等で話が決まれば、追ってお伝えしてまいります。
 mhmでは「まる裏俳句甲子園」、「松山城歳時記化計画」を含めて、いろいろな企画を立案しては実行に移しております。しかしながら、予算も人員も不足しているのが実情です。もし活動にご興味がある方、まる裏を変えたい方は、ぜひmhmの活動に参加していただきたく、お願い申し上げます。定例会は毎月最終火曜日(時期によっては変更あり)となっており、偶数月には懇親会もございます。ご興味のある方はぜひmhmまでご連絡をお願いします。


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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俳句の街 まつやま
俳句ポスト365


協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


優秀句
平成26年12月度


【冬の鵙】
《地》
黄金の飛礫のごとく冬の鵙 麗門
此処ガ彼ノ玉川上水冬ノ鵙 あつちやん
鍵穴にぴしりと火花冬の鵙 雪うさぎ
詩の贄として言葉あり冬の鵙 トレ媚庵
冬の鵙啼きてわれらの一万年 葦信夫
眼球に死角一点冬の鵙 有櫛水母男
土塊の乾きの匂う冬の鵙 紅の子
冬の鵙人を泣かして貯めた銭 日暮屋
冬鵙の尾ほどのこゑのさやうなら  紆夜曲雪

《天》
誰もゐない楽しき家や冬の鵙  杉山葵


【鯨】
《地》
オキアミの雪崩るゝ如く鯨割く  藻川亭河童
輸送機の眼下はるかに鯨の背 スズキチ
西ノ島育つ鯨が来たる日も 奈津
鯨飛ぶかつて前肢だったもの 理子
星幾つ死なば鯨は人となる ヤスハル
使い古した歯ブラシと日本がくじらを捕る理由  ねこ端石
映写機の光ずどんと鯨撃つ はまゆう
鯨の血のいろ晴れの日のそらのいろ  葛城蓮士
瞑想の鯨はきっと歯が痛い 田中ブラン

《天》
鯨待つ砲手の洟の乾きけり  クズウジュンイチ


【牡丹鍋】
《地》
牡丹鍋嗅がせ胎児を弾ませる 中原久遠
脂身の厚みおそろし牡丹鍋 毛利あづき
鉄黒き匂いをさせて牡丹鍋 カリメロ
傍らに骨齧る犬牡丹鍋 樫の木
鼻と尾は酒に化けたる牡丹鍋 蘭丸
一升瓶灰に突き立て牡丹鍋 江戸人
ハイライト五箱提げてよばれる牡丹鍋  初蒸気
煙草吸う人にしなだれ牡丹鍋  清永ゆうこ
牡丹鍋村の娘がまた消える 可不可

《天》
牡丹鍋これは銀次の十頭目  理酔


【冬至粥】
《地》
冬至粥瓦斯の炎の几帳面 鞠月
喉元に邪鬼の一匹冬至粥 今野浮儚
灰汁色の夜のしっぽや冬至粥 妙
仏壇と雀に小分け冬至粥 しげる
よく世話をするとほめられ冬至粥 ちえ
十日目の一人湯治や冬至粥 小市
冬至粥すかすか骨にしみとほる いさ
冬至粥放屁の割れる仕舞風呂 竹庵

《天》
災の字は火の氷るごと冬至粥  花屋



2月の兼題

投句期間:1月29日〜2月4日
蛤【三春/動物】
マルスダレガイ科の二枚貝。汐干狩などで浅蜊とともにポピュラーな貝として知られる。殻は滑らかで様々な模様がある。身は上品な味をしており、また殻も様々な目的で利用される。

投句期間:2月5日〜2月11日
春の風【三春/天文】
春に吹く風。その中でも特に、東または南から吹く、暖かく穏やかでのどかな風のことをいう。「春風(はるかぜ/しゅんぷう)」。
《※こちらの兼題は、愛媛マラソンとの連動企画での出題です。》

投句期間:2月12日〜2月18日
水菜【初春/植物】
アブラナ科の一〜二年生葉菜。京都付近が原産といわれ、畦(うね)の間に水を引き入れて作るのでこの名がある。関東地方では「京菜」とも呼ばれる。

投句期間:2月19日〜2月25日
三月【仲春/時候】
陽暦の三月のことで、仲春の頃にあたる。暖かさと寒さが交互に続きながら、次第に春の気配が見え始める。


《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)

※募集の兼題は変更される場合があります。「俳句ポスト365」のサイトで最新の情報をご確認ください。



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一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成26年12月度


【隼】
隼の切り裂いてより濃き大気 牛後
隼を追わば光の中の点 てん点
逆光に隼つぶてとなりて落つ  ひなぎきょう
夕日の隼弾丸となり海へ墜つ 菜々枝
切り岸の隼落暉へ直滑降 緑の手
動中の静隼の目にある憂い  まつばあちゃん
目に宿る月と太陽隼は かなた
隼の目に湿った土の匂い 天玲
隼の嘴にネズミのようなもの 一走人
隼から逃げるには呼吸が間にあわない  日暮屋
隼の俯瞰しておる自衛権 オセロ
アッシリアの王よ放たれた隼よ 太郎
隼や祖父の語らぬ従軍記 樫の木

《天》
 ※該当句無し


【生姜湯】
お上手を言うて生姜湯よばれたり  お手玉
気を変える生姜湯や雨はいつ止む  かのん
生姜湯や無き胃のあたりほのほのす  緑の手
生姜湯を干して風の子もういない 痛快
鯉の墓作る生姜湯喉を焼く 紫水晶
生姜湯に隠す不届き者の貌 はまゆう
生姜湯や金一封の薄きこと 鰹飯
背中より生姜湯渡す選果中 ゆめ
下宿屋の婆の生姜湯五部屋分 きうい
生姜湯を啜りオペラ歌手の無言 伊佐
生姜湯をぐいと室町車庫を出る もね
生姜湯や早期退職ときたか あねご

《天》
蝦蟇の膏売り生姜湯売りと隣り合う  篠原そも
生姜湯の微妙に溶けぬ物も飲む  空見屋


【磯】
小春日や磯の香まとう軍手干す 野薊
磯の香の国道渋滞暮早し 江刺のカナ女
磯菊と祠おさめて島の崖 もも
岩穴の大注連縄や磯しぶく 妙
磯波がしぶく吹雪が横殴る 青花
磯風にますます猛るどんどかな  のり茶づけ
啄木の磯詠む詩や冬来る    宇和島風花会・さくら
磯を行く時雨やさしき日の決意 きうい
早暁や磯靴の踏む波の花 ほろよい
磯笛や天に海鼠を突き上げて 日暮屋
釣人の磯の焚火の輪をあとに 青柘榴

《天》
磯鋼色なれば木枯の産道  海田


【聖菓】
山積みの聖菓売れゆき星静か きのと
雪の白賜う聖菓の箱の上  ドクトルバンブー
さっき箱ぶつけて心配な聖菓 雪の兎
聖菓切るどの窓からも万の星  ターナー島
諳んじる聖句聖菓を切りながら 樫の木
銀の粒すくう聖菓や匙は櫂 野風
クリスマスプディングに会ふ旅のカフェ  はまゆう
聖菓買う童話のごとき夜はじまる  紫水晶
戦の傷を持ち聖菓囲む国境の家 日暮屋

《天》
聖戦の処刑のニュース聖菓切る  妙
人参がともしび河馬へ聖菓かな  マイマイ



※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとに活字化したものです。俳句ならびに俳号が実際の表記とは異なっていたり、同音異義語や類音語などで表記されてしまっている場合がありますのでご了承ください。



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

投句締切:2月1日

季語ではない兼題です。「碑」の字が詠み込まれていれば、読み方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

魚氷に上る【初春/時候】
古代中国の七十二候のひとつで、立春以後の第三候。川や湖の氷が割れ、その隙間から氷上に魚が跳び上がることがあり、それをいったもの。

投句締切:2月15日
薔薇の芽【初春/植物】
萌えはじめの芽は美しい紅色をしているが、伸びるに従いその品種の色に変わってゆき、大半は蕾をつける。

黒北風【仲春/天文】
三月頃に冬型の気圧配置に戻ることがあり、それによって吹く強い北西の風。京都府北部の丹後地方の漁師たちによる呼び名で、海が荒れるため漁師たちが忌み嫌う風である。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


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100年俳句計画 掲示板



NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  2月10日/24日(火)11時40分〜

あいテレビ(TBS系列、全国)
 『プレバト!!』
   隔週木曜 19時〜20時49分
  2月5日/19日(木)予定
※組長がゲストの俳句ランキングづけで出演! 放送日番組欄を要チェック!

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
 兼題「浅き春/目張」2月8日〆
   「雛あられ/遍路」2月22日〆
 インターネットでも配信中。詳しくは番組webサイトへ。
  HP http://www.baribari789.com/
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)、住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。


執筆
松山市の俳句サイト「俳句ポスト365」
http://haikutown.jp/post/
 毎週水曜締切/翌週金曜結果発表

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜発刊タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(夏井選)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
 俳句選者:夏井いつき
 写真選者:キムチャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日前後締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
 各季節上位4句(年間16句)には「愛媛県の旬な贈り物」をプレゼント。
【テーマ(兼題)】2月のしまなみ
(当地周辺でみつけた季語なら何でも可)
【問い合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089ー912ー2491

本阿弥書店「俳壇」(1月号より連載)
 『十二か月添削教室』
 3月号 2月14日発売
*誌上で俳句を募集しています。


句会ライブ、講演など

長崎国際文化交流事業句会ライブ
 2月5日(木)長崎市立西山台小学校
 2月6日(金)長崎市立西北小学校

愛媛マラソン応援&マラソン俳句選句
 2月8日(日)堀之内公園特設ブース

今治国際ソロプチミスト俳句キッズ表彰式
 2月22日(日)今治市民会館

日本俳句教育研究会研究発表会
 2月27日(金)今治市日吉小学校
 詳細は日本俳句教育教育研究会のブログページをご覧下さい。
HP http://info.e-nhkk.net
参加費 400円(当日500円)

瀬戸内海俳句大会
 2月28日(土)中島総合文化センター



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魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

先々月号の選評大賞
瑞木 選評大賞、ありがとうございました。二回目の時に最後の一文に不完全さが残ったまま賞をいただいていたので、六年ごしにやっと宿題が出せたようで嬉しいです。
編 完全勝利(?)おめでとうございました! かつてない満場一致。

妙 みちる様、神楽坂リンダ様。選評ありがとうございます。詠んだ以上にいい句に思えてきて、嬉しく読ませていただきました。これを励みに農閑期のダラーっとした気分を立て直し、作句に励みたいと思います。
編 俳句農閑期なのかリアル農閑期なのか。次回はぜひ選評も挑戦!

まる裏俳句甲子園
西条の針屋さん 1月11日に行われた「まる裏俳句甲子園」に参加させてもらいましたが、今回の大会で若い力で優勝したチームは素晴らしかったと思います。私も「一句一遊」には参加させてもらっているものの「雑詠句」には最近出してなかったりするのでエントリー紹介で俳句についての紹介もなく寂しい思いをしたので気を入れ直して以前のように「雑詠句」等にも参加させてもらい俳句についての紹介をしてもらえるようにしないと、と思いを強くしました。これからも「いつき組」の1人としてよろしくお願いします。
編 投句忘れ? 今回のまる裏で触発された人は多い模様。

好評発売中 赤ペン俳句教室
元旦 「赤ペン俳句教室」読ませていただきました。表紙も着物姿のイラスト。何だかトレードマークのようで、組長はいつも着物だと思われていないですか。知らない人から「あれ、今日はお洋服なんですね」なんて言われたりなんかして(笑)
編 ずばり言われてるようです。あと「世界一コワイ俳句の先生」とか。

表紙裏 美術館吟行
北伊作 ロバートキャパ展私も行きました。モノクローム美しいですね。「頽れる兵士」にまつわる真贋論争や事故で亡くなった愛人ゲルダタローは岡本太郎氏のタローからとか興味は尽きません。まだの人は是非。(終わってますね。)
編 2月から始まるムーミン展もおもしろそう。一緒に吟行しませう。

類想類句?
ひでやん 一月号開いた瞬間、「え!他にも√の句が!」と驚きました。四番の句の方も同じように驚いたかもしれませんね。さて、皆さんの選句結果や如何に。今回無点くんだと三連続無点くんです。
編 チーム√ズを結成しよう。

滑り込み
喜多輝女 スミマセン! また20日であること忘れてました〜!! 気が付いたのがすでに1時過ぎ、だめもとで投句致します…。
編 まとめ開始は翌朝なので…。(内緒)


突発企画『天の句いろはカルタ』

 北伊作さんの発案で始まった突発企画。先月号に掲載された投句への、選句&選評(互選)を掲載しています。不肖編集室一同も参加しています。

兼題「る」
選句結果

2点句

三島ちとせ、ちろりん選
瑠璃色の空に数多の冬鴎 北伊作

三島ちとせ 瑠璃色と、冬鴎の色の対比が、美しいです。きっと冬空の切ない空気感も伝わってきました。

ちろりん 風景の切りとりは平凡か……とも思ったがリズムが好いので。


1点句

√2の割り切れなさや漱石忌 ひでやん

瑞木 頭痛持ちの漱石と割り切れない悩ましさが似合っています。

ルイボスティーなみなみ注ぐ女正月 瑞木

ひでやん 季語に女という文字が入っているからか、最初、なみなみ注いでいる女性を思い浮かべましたが、これは男性が注いでいると読んでもおもしろいのではないかと思います。

√6解けないままの冬の雨 さとう七恵

正人 数学ギライとしてはもうすっかり√のことなんて忘れてしまった。解けない時間を肯定するような季語の置き方が好み。

ルミ子より迷惑メール夜の寒し 正人

のり茶づけ チェーンメールか? それともお金の無心か?ああ迷惑! 寒い寒い。

留守番は両足の無き案山子です 三島ちとせ

北伊作 案山子なら一本足であろうと思いますがそれさえ無い無残な姿、猶且つ留守番をせよと言う……シュールな一句に。


今月の無点くん

ルンバてふ掃除機踊るワンルーム ヤッチー
類句の嵐皆笑う年忘れ のり茶づけ




兼題「を」
投句一覧

1 をとこありけり桜と酒を愛しけり
2 遠国と媼言ひをる里に春
3 緒は臍に戻らぬ冬の虹厚し
4 鴛鴦静か浮かぶ水面の空に鳥
5 踊り女の神話を語る指の先
6 をんな居て大地蠢めくをとこ居て
7 をかしきや雨粒背負ふ初鴉

次回兼題 「ゐ」から始まる句

〈参加方法〉
1:「投句一覧」から好きな句を選ぶ。(選句)
2: その句の感想を書く。(選評)
3:「次回兼題」の音から始まる句を一句書く。(投句)
※1〜3、俳号(本名)、〒住所、電話番号を明記して、編集室「天の句いろはカルタ」宛にお送りください。一人一句まで。選句は番号と俳句を共に記入して下さい。
※番号はお間違えなく!

 今回の締切は2月10日(火)必着です。
Eメール宛先 magazine@marukobo.com

※誌面の都合上、内容を抜粋する等、選評全文を掲載できない場合があります。あらかじめご了承ください。


〈編集担当 けんだいこぼれがき〉
 日常で「い」と「ゐ」を区別して使うことはまずないですねえ。ぴんとこない。電子辞書でひいてみます。「ヰ」となってるのが「ゐ」の言葉。

 1:緯
 2:為
 3:尉
 4:帷
 5:胃
 6:威

 この単語、実は「ゐ」だったのか!な驚き。



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鮎の友釣り

199
俳号 りぼん

みしんさんへ 何でもそつなくスマートにこなす「現代風大和撫子」のあなたから目が離せません。以前、スリムな首にスカーフをキュッと結び、紺ブレで「お も て な し」のパフォーマンスをされた時は、滝川クリステルが舞い降りたのかと思いました。これからも天然のりぼんをよろしくね。

俳句との出合い 小学校の体育館、全校児童が集まる中「5分で1句」に挑戦、子ども達は次々と手を挙げるのに私は一句もできず、大いに落ち込んだのであります。

写真 ふくし句会の一員でありながら、ふくし句はめったに投句してないことをこの写真を見ながら反省。この頃は「ボランティアとは?」をちょっぴり熱く語っています。

次回…蛇頭さんへ あなた様の巧みな話術に乗せられ、ふくしワーカースクール「俳句教室」のお手伝いをするうちに、苦い体験も吹っ飛ぶくらい句会の楽しさに「どんぶりこ」とはまっていました。句会で点が入ると、帰り道の自転車のペダルも軽ガール!
 ガールを少し過ぎた今、老後の楽しみを教えてくださり感謝してます。


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告知


2月8日(日)愛媛マラソン吟行会
 今年も愛媛マラソン吟行会を行います。
 マラソン部蛇頭部長をはじめ、鉄人さん、一走人さん、青石榴さん、逆ベッカムさん、ねこ端石さん、まるにっちゃん他、十数名がランナーとして参加します。応援は当日参加も可能ですが、事前に登録していただくと、事前に連絡が出来、大変助かります。
 多数の参加お待ちしています。

壮行会
当日午前8時 愛媛新聞社前集合

主な応援ポイント
 1:平田交差点付近
 2:パルティフジ夏目店前
 3:ゴール地点(堀之内)

※各応援ポイントでは句会旗、手旗などで、応援します。
※移動方法、防寒対策など各自宜しくお願いします。
※情報はマルコボ通信やメルマガ、朧庵などで随時アップします。

100年俳句計画マラソン部
参加フォーム(ランナー&応援)
http://marukobo.com/marathon/



100年俳句計画
大お花見大会

日時
2015年3月29日(日)
8時〜20時(雨天決行)

場所
道後公園内(松山市)

今年もやります!!
奮ってご参加ください!



俳句新聞いつき組
只今お届け中の最新号は……
1号「復刻創刊号」(2015年1月号)

大好評のテレビ番組「プレバト!!」俳句コーナーのあれやこれやを番組スタッフと夏井いつきが語り合う!
「雪の座」ノミネート20句発表&「花の座」作品募集!
そのほか内容充実のフルカラー全8ページでお届け!
※次号(2号)は2015年4月発行予定です。

A4サイズ8ページフルカラー仕様
参加登録料(※初回のみ)1,000円(税込)
年間購読料 3,500円(税込)/年4回発行
*年1回、夏井いつきの句集シングル付録あり。

まずは無料の0号「創刊準備号」と購読のご案内をお送りいたします!
※0号「創刊準備号」を既にお持ちの方は、0号に掲載しております案内にしたがって購読料をお支払いいただくことで、正式な購読の申込となります。

ご購読のお申し込みは……

「俳句新聞いつき組」購読希望の旨、本名(ふりがな)、俳号(無ければ不要)、郵便番号、住所、電話番号、生年月日を明記して、下記のいずれかの方法で申し込んでください。

 ハガキで申し込む
  790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
  有限会社マルコボ.コム
  「『俳句新聞いつき組』購読申込」係

 FAXで申し込む
 FAX番号:089−906−0695

 メールで申し込む
 kumi@marukobo.com
 (件名を「いつき組購読申込」としてください。)



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編集後記


 昨年12月号からスタートした、愛媛県美術館吟行の評判が思いの外いい。
 この企画の発端は、僕の大学の後輩のNさんが、愛媛県美術館に勤めているという情報を得たことによる。ここ数年、美術館からは足が遠のいていたのだが、昨年夏、美術館のシルク印刷のできるアトリエを格安で借りることができることを知り、Nさんに相談して、糸井君Tシャツを制作した。そのついでという訳でもないのだが、愛媛県美術館の企画展もいくつか見学していくうちに、俳句とコラボできないかと思い付いた。
 愛媛県美術館で開催している企画展のほとんどは、全国を巡回しているソフトを買ったものである。愛媛県美術館でなくても、観られる作品も多い。そんな美術作品も、愛媛に来れば俳句とコラボし、新しい命が吹き込めらたら、この土地ならではの作品展になるのではないか。
 更に今回は、巡回展の作品だけではなく、愛媛県美術館常設作品の魅力を、俳句の力で見直すことが出来ればもっと面白いと考えた。そして、できあがったのが、今月号の記事である。愛媛美術館に行った際は、常設展もお忘れ無く。
(キム)


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次号予告 (208号 3月1日発行予定)


次回特集

第13回
まる裏俳句甲子園!


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2015年2月号(No.207)
2015年2月1日発行
価格 617円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子