100年俳句計画10月号(no.203)


100年俳句計画10月号(no.203)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー
奇跡 日土ぽぽんた


特集
第17回俳句甲子園報告

特集
句集Styleスペシャル!
「だれもが句集を出版できるかたち」でやってみた!全評文!
その3



好評連載


作品

百年百花
 夏井正人/井上さち/眠/キム チャンヒ


100年俳句計画作品集 100年の旗手
 杉本とらを/てん点/幸


百年琢磨 しなだしん

新100年への軌跡
 俳句/藤田夕加/ローストビーフ
 評/桜井教人/とりとり


選者三名による雑詠俳句計画
関悦史/阪西敦子/加根兼光


へたうま仙人/大塚迷路

自由律俳句計画/きむらけんじ



読み物
えっ?日暮屋が句集を出すってよ!
Mountain Cabin Dispatch/ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
ラクゴキゴ/らくさぶろう
クロヌリ俳句/黒田マキ
お芝居観ませんか?/猫正宗
百年歳時記/夏井いつき
近代俳句史超入門/青木亮人
もうひとつの俳句のまちづくり/岐阜県大垣市役所 高田雅章
mhm通信/正人

読者のページ
俳句ポスト365
一句一遊情報局
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告




奇跡
日土ぽぽんた

 S61.11.2 次女誕生
 予定日より3か月早く「898g」の極小未熟児でした。先生からは、「無事育つかは50%です」と言われましたが……母の私は大丈夫!!この子は元気に育つ!!と信じてました。
 初めてのクリスマスもお正月も1人病院で過した娘。何年か前の一句一遊の兼題「聖誕祭」、金曜日に読まれ1人伊予柑採りしながら涙 涙
聖誕祭保育器の子の手を握り
 お陰様で大病もせず育ち、ご縁もあってお嫁に行き幸せに暮らしております。
 結婚式直前のさえずり句会にて発表した句
茄子の花可愛い嫁でいなさいよ
 俳句に出会い、組長に出会い、皆様に出会ったのも奇跡です。ありがとう!!


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第17回 俳句甲子園 報告



 去る8月23、24日に松山市にて開催されました、第17回俳句甲子園の結果を報告します。
 また、NPO法人俳句甲子園実行委員会メンバーであり、俳句甲子園公式作品集の編集協力をなさっている山口亜希子さんの寄稿を、合わせて掲載いたします。


現状の戦い方では
開成高校の時代は続く
キム チャンヒ

 今年の俳句甲子園決勝戦は、順当に勝ち進んだ昨年の覇者開成高校と、敗者復活戦からしぶとく勝ち上がった洛南高校Bという、奇しくも昨年と同様の対戦となった。そして、3対0の圧勝で、開成高校が8度目の優勝を手にした。しかも今回で3度目の2連覇となる。
 結果から見れば、もはや代わり映えしない大会に見えてしまう今年の俳句甲子園だが、そんなことはない。
 今年の特徴を挙げれば、初出場チームが善戦をしたこと。特に、山口県立徳山高等学校と石川県立金沢桜丘高等学校は、予選ブロックを突破し、その実力を見せつけた。特に石川県立金沢桜丘高等学校は、投句審査でのエントリーで実戦経験がほとんど無いにもかかわらず、準決勝戦まで進んだことは特筆すべき出来事だった。俳句初心者である高校生への俳句の指導方法や俳句甲子園での戦い方が確立しつつあることを伺わせる。
 逆にこのことは、俳句甲子園での戦い方が、画一的になっているとも言える。
 それはディベート(鑑賞点)において、相手の句のいいところを見つけて一旦は褒めつつ、相手の句のウイークポイントを突くという、第4回大会での松山東高校の戦い方を踏襲し洗練させた戦法。季語や助詞などの単語が如何に機能しているか、或いはしていないかを即座に判断し突くそのやり方は、既存の俳句の方法論からはみ出さない中では、非常に有効なやり方である。また、俳句初心者にとって習得しやすい方法でもあるし、そういう知識は必須でもある。
 そんなやりかたを極めているのが、現在の開成高校と言える。したがって、同じような方法論で俳句を作り、同じような戦術でディベートしたのでは、この王者に歯が立たない。まだまだ開成高校の時代は続くのだろう。
 常勝チームから世代交代する時が来るとすれば、それは、俳句甲子園に出場する高校生達が大きく進化したときだとも言える。
 既存の俳句を習得した上で、そこからはみ出す表現を試みる世代の登場だ。俳句甲子園によって俳句を始めるのではなく、それ以前から俳句に親しみ、自分の表現として俳句を選んでいる世代。
 「夏休み句集を作ろう!コンテスト」の応募者数の増え方を見ていると、そんな世代は、もうすぐそこまで来ていると実感する。


第17回俳句甲子園結果

優勝 開成高等学校
準優勝 洛南高等学校B
3位 石川県立金沢桜丘高等学校
   愛光高等学校

個人最優秀賞

湧き水は生きてゐる水桃洗ふ
 愛知県立幸田高等学校 大橋佳歩

個人優秀賞

流星は象の余生のしづかさへ
 愛媛県立松山東高等学校A 森 優希乃

映写幕真白に帰して敗戦忌
 開成高等学校 山本卓登

青春って何だ私だ炎天下
 福岡県立筑紫丘高等学校 徳勝有紀

飛魚のいつかは越えてゆくツバル
 愛媛県立松山東高等学校B 越智和歌音

溶岩の余熱のごとき大蛾生る
 愛媛県立松山東高等学校A 石丸響子

玉の汗校訓といい九条といい
 愛媛県立伯方高等学校 藤岡磨美

つばめ魚海にまつすぐなど無いが
 広島県立広島高等学校 青山ゆりえ

ひよこじゃないようなひよこのいる夜店
 岩手県立黒沢尻北高等学校 高橋倭子

地図海図星図飛魚おびただし
 開成高等学校 永山 智

臆病な飛魚だっているきっと
 熊本信愛女学院高等学校 浦田 姫佳



わたしの夏
山口亜希子

当人以上に泣く聴衆
 「流星や手紙届かぬ国に来て(洛南B)」が敗者復活し、準決勝進出を決めた瞬間、某男子がボロボロ泣き出した。去年も、「夕焼や千年後には鳥の国(広島)」が最優秀賞に発表されたとたん、声を出して泣く男がいた。作者の父でも恋人でもないのに、ふたりとも作者当人より泣いていた。
 かくいう私も震災の年、「ヒロシマを語り継ぐ意味かたつむり(広島)」と「でで虫やみちのくの水脈甦れ(金沢泉丘)」のディベートに、親でも引率者でもない身で大泣きに泣いた。全役人政治家必見のあの討論、忘れがたい。
 俳句が好きで、いろいろ顔を突っ込んできた。わけても俳句甲子園で出会う俳句の感動は格別で、これが忘れられなくて毎年松山へ行く。舞台裏では、大勢の大人が惜しみなく汗を流しているのも清々しい。
 美しい俳句のシャワーと汗まみれのお酒。これを浴びる三日間が私の夏だ。

夏井いつきさんとの出会い
 2000年の夏も松山にいた。夜、旧知の地元俳人と句会をしようという話になり、「目下売り出し中」の夏井さんを主客に迎えた。清記用紙には、「抒情性の恢復」を目指す我々の句にアバンギャルドな句が点在、披講すればことごとく夏井さん作で、印象は鮮烈だった。
 この時、俳句甲子園は第三回開催を翌月に控えていた。一方、句座の主を務めた私の元上司は、朝日新聞広告局が開催する第二回俳句甲子園の相談役として多忙のさ中。合間を縫って私の出張に同行していたのだった。

憮然としなかったふたり
 話はその前年に遡る。
 「子規新報」の編集後記に(い)という人が、「(朝日の俳句甲子園事務局からの便りに)憮然としてしまった」と書いた。それを読んだわが上司は結社誌「河」に、「わたくしはもっと憮然としている」と書いた。(い)とは夏井いつきさんだろう。いまや「毒舌着物先生」としてお茶の間で大人気の方だが、当時、毒舌と言えばこの人のわが上司と、向かい合い和気藹藹、句座を囲んだのだ。
 この時ふたりは互いを認識していたのだろうか。
 夏井さんは、知らぬ素振りをしていたのかもしれない。わが上司に認識はなかったと思う。初対面だった夏井さんとの別れを惜しみつつ帰京した。俳句ブームは最高潮だった。
 こちらの俳句甲子園は、つごう三年実施して役割を終えた。汗まみれで運営を担っていた舞台裏の懐かしい人たち、今どこで何をしているのだろう。

『一冊まるごと俳句甲子園』
 それから10年。第13回俳句甲子園開催に照準を合わせ、私は俳句甲子園の特集本を作った。三年前に世を去った元上司に背を押される事態も重なった。
 好評でたちまち完売の一方、次々立ちはだかる「無理解」という難題。挙句の果てが、寄稿者の一人がネットに展開した批判だった。それは的を射てもいて、今回の編集上の欠点をズバリ指摘した、「さすがは俳句甲子園卒業生」なのであった(彼らとディベートなどゼッタイにするもんじゃない)。聞きしに勝る俳句甲子園である。

そして『公式作品集』へ
 その指摘を引いておこう。
 「ざっと目を通してみた感じでは(略)「大人」が顔を出し過ぎじゃないですか、この本。高校生の生の声が聞こえない、したがって、俳句甲子園がどう面白いのか、その熱気が伝わるのかどうか心もとない気がします。」

 大人が裏で頑張るから大会は開催されるし、その大人に御登場いただいた本だから売れた。大人として言わせてもらえば、「コンニャロめ原稿料返せ!」。
 折しも、「卒業生たちの成長のために」と、OBOG責任編集「俳句甲子園公式作品集」創刊の話が実行委員会であがったらしい。山本修嗣実行委員長(当時)から協力要請があったのは、その秋だった。
 私は二つ返事で引き受けた。高校生の生の声が聞こえる編集に再チャレンジする好機と思った。

実行委員会に入会
 元上司の教えに「当事者になれ」という言葉がある。編集者や記者は傍観者であってはならない。我々がその作品(や出来事)の第三者では、面白いはずがない、と。
松山の人でなく、出場経験もない私が当事者となるには、実行委員会入会という道がある。運営の内側から俳句甲子園を知る努力を始めた。
 その点、OBOGは当事者意識の塊である。男の涙は信じないが、OBが俳句甲子園で泣くのだけは仕方がない。彼らが編集実務を覚えさえすれば、いつか必ず、俳句甲子園の熱気が伝わる本を作るだろう。

よき編集者によき作家
 俳人を目指す卒業生は増えた。高齢化で俳壇が先細りを嘆く中、明るい話である。同時に私は、俳句の編集者輩出を待望している。なぜなら、多くの新しい俳人たちは、既成の俳壇へは登っていかないから。未知の道を行く作家には、信頼できる編集者の伴走が不可欠だ。
 新しい俳人と新しい俳句編集者が、新しい俳壇を築く。その日は遠からず来ることを、第17回大会で実感したのだが、詳細はまたいずれ。

(やまぐち あきこ/編集者、國學院大學講師)


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句集Style スペシャル!
「だれもが句集を出版できるかたち」でやってみた!全評文!
その3



 評文シリーズ最終回。先月号、先々月号に引き続き、句集スタイルにて出版され、販売されている句集の評文を紹介いたします。



理酔句集「海峡都市」を読む舟旅
都築まとむ

 淡々と詠まれた現実がチクリと胸に刺さる。十七音の中で言葉のバランスが絶妙。的確な描写と動詞の使い方が臨場感を生むのだろう。

むしり喰う流刑の島の干鰈

 「むしり喰う」というこの複合動詞の後に「流刑の島」が出てくる。一瞬脱獄をイメージしてしまうのは「むしり喰う」という荒々しい動作からか。それが干鰈とわかった途端、かつて流刑の島であった地の歴史を噛みしめているような気分も味わう。季語「干鰈」ならではの句と思う。

嘴にもがく蜥蜴の声を聞く

 この映像もリアル。この場面において冷徹な目を持つ作者には、もがく蜥蜴の声にならない声が聞こえたのだ。

側溝に猫の流れて鳳仙花
鮮血や鮪は海をぶちまける

 激しい表現の奥に詩が潜んでいる。だから読み進めることをやめられない。もっとこの句集の深い所を知ろうと奥へ奥へと踏み入ってしまう。
 そこで清らかな風のような句に立ち止まる。

君が蒔く花の種買う昼下がり

 自分ではなく「君が蒔く花の種を買う」何とあたたかな昼下がりであろう。日常に見つけた小さなしあわせをしみじみと感じる。

そうかここは青梅の路だったのか
嫁が君母の生まれし島の歌
風花や君がケーナを吹き始む

 風花とケーナの取り合わせが美しい。青い空から風花がやってくる。「吹き始む」でこれから息を吹き込むケーナや唇が見えてくる。作者の「君」へのまなざしがやさしい。まだ物語は始まったばかり。
 そして犬の句は特に印象的で好きだった。

鳥帰る海に背いて犬の群
死期近き雌犬に汗舐められる
鶏頭の群れて野犬の近寄れず
海峡を撃てば枯野の犬となる

 何故故郷の海峡を撃つのか?撃っても撃っても撃っても海峡はそこに平然とある。その海峡に向かう心の叫びをこの句に見た。この孤高の「枯野の犬」こそが作者自身なのだ。
 句集「海峡都市」を読みながら、私はある時は大きな波に揉まれ、ある時は小さな波に揺れる舟になった。この句集からは確かに潮の匂いがした。舟旅から戻ったような心地よい疲れが残った。



『嫁入り支度』に寄せて
山澤香奈

 なんと直球なタイトルでしょうか。タイトル通り、おつきあいから結婚に至るまで、「嫁入り」までの日々を綴った一編です。
 「嫁入り支度」と言うくらいだから、うきうきした砂糖菓子のように甘い作品ばかりか、というと、決してそうでばかりではないのがこの句集の面白いところではないでしょうか。

結婚は奇跡ではなく四月尽
薬指囚はれ葉月十九日
春待ちて婚礼衣装隠しをり

 決してイチャイチャラブラブな様子だけではなく、客観的にも「嫁入り支度」を詠んでいるのがまた面白いのです。
 そして、所々に見られる、エロスを感じさせる句は、作者のある種のテーマではないかと思います。

手も舌も馴染むまで離れずに蓮
まどろみの乳房の求められ雨月
姫はじめ疵なら肌の内に在る
ウエディングドレスの乳房月の冴ゆ

 ウエディングドレスの乳房に注目するなんて!(たしかにドレス着用時のボディメイクは大変です。)
 こういった句は、賛否両論あるかもしれません。しかし、きっと作者は今は「人妻」でのエロスを詠んでいるんだろうなあと想像に難くないのです。それだけ、作品を通して、はっきりと伝わってくるのはすごいことだと思いました。

愛しくて海に零るる桜かな
戯れに鶏頭折れば曲がりけり
正しさはわからずに蛇穴に入る

 これらの句達は「嫁入り」句だと詠んでも、そう捉えなくてもいいのでしょうけれども、こうして一連の句を味わうと、「嫁入り」に対する嬉しさの反面、どこかに感じる不安や決して一筋縄でいかない感情を、隠すことなく表現されていることが窺えます。
 作品を読み終わった時に、一体どんな人と結婚されたのか掴みきれず、なんだか不思議な気持ちになりました。でも、ふっと納得したのは、もちろん、「嫁入り」には相手もいるんだけれども、これは作者の「嫁入り支度」である、ということです。一環して作者の側から見た「嫁入り」を詠んでいるという姿勢はぶれておらず、感心させられました。
 あくまでも作者の女性的な視点に拘り、突き進んだ作品と言えるのではないでしょうか。これだけはっきりと「嫁入り支度」を詠んだ作品はなかなか他にはないと思います。
 きっと作者なら結婚生活のあれやこれも、刺激的で素敵な句に詠まれているのではないでしょうか。そんなことを思う、読了した夜なのでした。



鈴木牛後句集『暖色』の雪国
朗善

 「大人のためのまる裏俳句甲子園」決勝戦の兼題は「雪」。ある年私は雪の句を作りあぐねて、北海道の牛飼俳人鈴木牛後さんに、「雪の句分けて下さい。」と冗談半分でお願いしたことがある。だって処女句集「根雪と記す」には、雪の名句がずらり。こんなの詠めたらなあ、と溜息をつき、結局できなかった。ところが、翌年引っ越した山梨県が120年ぶりの豪雪で、帰宅難民や雪かき腱鞘炎を体験し、雪に這いつくばって、雪の句をたっぷりと詠まされた。

働いてゐて炎帝に跨がるる

 季語「炎帝」の姿が働く人の上にまざまざと見えるように、体を使った分だけ前より少しリアルに、牛後さんの詠む雪国が見えてくるような気がする。

雪に酔うて話し尽くされたる話

 ロシア人は酒を飲むのではない、飲み尽くすのだ。あたかもそのようにして「話し尽くされたる話」。「雪に酔うて」が簡潔にして雄弁。

初雪がくるつれてくるついてくる

 初雪が天空からくるくる降ってくるリズムの句。雪を跳ね回る犬が見える。

ここからは去年の雪と雪下ろす

 今年分は済んだ。去年の雪は頑固だ。やれやれと苦笑して、わが身を励ます。

深雪晴乳のかすかな暖色に

 冷たく輝く青空と白銀の雪景色の中、迸る牛の乳の白は暖色だという。温度でなく、色の暖かさを言ったところが鮮やか。

裸ひとつこの地に捨つるため稼ぐ

 海に遊ぶ裸もあれば、野に働く裸もある。身一つで生まれ死ぬる潔さ。

ストーブに小さき窓ある忌服かな

 喪に服す人の生活がストーブの小窓を見つめる姿から始まる、映画のようだ。 

斃獣と呼ばれしものを露に置く

 「へいじゅう」(死んだ家畜)という音読みも物哀しく、「呼ばれしもの」「露に置く」の一語一語に、牛飼い人の万感がこもる。



『静止画の街』City of static pictures
紗蘭 Saran
恋衣

 独立している俳句の一句一句を編むという作業は、結果的に作者を高みに立たせるのではないか。
 「夏休み句集を作ろう!コンテスト」にて、5つの句集を発表している著者の「俳句の魅力を伝えたい」句群を順に繙いてみよう。この句集は、4章から構成されている。

1 白と黒の間
春の風このいすにすわっていたのは

 問いかけのこの句から始まる。誰。何処へ。春の風を受けた人に何かが、始まる予感を提示する。

憲法記念日白と黒の間
完敗の日に限って冬晴

 明らかに、存在する物への疑問を自分に問いかける。そして、格闘する。思いと現実は、時に異なるのだと気づいていながら。

帰国する朝五時冬天の匂い
タイプするほどに冬めく活字体

 帰国の朝のときめきの中、他国の冬天の匂いを、タイプする活字体の冬めく様を、臭覚で、皮膚感覚で捕らえてみせる。

2 落ち椿
金縷梅一色だけの万華鏡

 覗き込むほどに、万華鏡とは不可思議な物である。一色だけとは、万華鏡に捧げる美しき形容、取合せの金縷梅の表記も見事である。

落ち椿ぽとりと影の濃くなりし
鬼灯の心臓燃えてしまいそう

 心の動きを物の色にして鮮やかに読者をとらえてはなさない。

一つ目の団栗深く青く割れる

 二つ目の団栗も差しだして。

3 不死鳥
五十二番リフトに蝶の飛んでくる

 五十二番を最終基だとすると、最後のリフトと蝶を追うのが一番基。ここでも数詞をうまく入れている。団栗に繋がるごときリフトである。

羊の毛かる空は青くなった
不死鳥の羽より夏の生まれたる
新涼をつかんだような猫通る

 動物に託し、軽やかに詠みながら冷ややかな眼も持ち合わせる。

静止画の街や小鳥の飛んでくる

4 小石のひとかけら
春の城造る小石のひとかけら
吊革の全て春闘に揺れる
鍵盤の沈んだままの立夏かな
薫風のボンバルディアの明るさよ

 最終章は、物づくし。生活の中の小石が、吊革が、鍵盤が、搭乗のボンバルディアが、語りかける。
 そして最終句は、

制服を売り浅き春手放して

 制服を売る、制服のない世界とは浅き春を手放すということなのか。考えたこともなかった。鮮やかだ。更に高みをめざす俳人紗蘭がここに。



 
『HAIKU Letter from Spider Garden』 は蜘蛛を救う
山澤香奈

 私が著者のナサニエル ローゼンさんについて知っていることは、国際的な素晴らしいチェリストで、ニックと呼ばれていて、素敵なHAIKUを詠まれるということでしょうか。私は残念ながら、ニックさんにお会いしたことがありません。コンサートも、近くで開催されていながら、足を運ぶことが出来ず、悔しい思いをしています。
 そんな中、読んだニックさんの句集。「100年俳句計画」で連載されていたHAIKUとエッセイが一冊にまとめられています。
 正直、英検2級(だったかしら……)ほどの英語力しかない私には、英語というだけでちょっと敷居が高い気もしていました。
 しかし、そんな杞憂はあっという間に吹き飛びました。
 HAIKUと俳句、そしてそのHAIKUの直訳に加えて、素敵なエッセイまで。
 ネイティブの方が読んだら、全く違うんだろうなあ……と思いつつ、そろそろと、HAIKUを口に出して読んでみます。私の持てる英語力を駆使して。口に出してみると、HAIKUも、訳された俳句の味わいも一段と深まるような気がするから不思議です。
 詠まれたHAIKUの中には、チェリストであるニックさん、そして日本での生活 自然を満喫し、愛してるニックさんの姿が見えてきます。

concerts are finished
shoeshine and lot offlowers
next year please be kind

靴光り花香りたる弾き納め

 今年は我が家の周りの蜘蛛の巣がやけに目につきます。その蜘蛛達が普段よりかわいらしく思えるのは、もしかして、ニックさんの蜘蛛たちに向けられる視線の優しさを、この句集を通して知って影響をうけたからかなあ……なんて思っています。

no spider garden
giant spidersinside house
let's make friends,okay?

山に棲むおほきな蜘蛛を友として

 現在もニックさんの連載は続いています。続編が出るならば、またニックさんと蜘蛛の素敵な関係の続きも知ることができるのかなあ、と楽しみになってきます。
 それまでに、もっとHAIKUを味わえるように、すこしでも英語の勉強をしようか、なんてこっそり決意してしまう、素敵な句集です。



堀内 統義著『まぼろしの日々、日々のまぼろし』推薦文
神山 恭昭

 堀内統義さんは地名の研究者でもあります。彼の地名の研究は地名の由来や歴史だけでなく、そこで暮らし生きてきた民の生活をもいきいきと描いてゆきます。
 さらに堀内さんが単なる研究者ではなく、発掘してきた地名を詩の中にちりばめて、輝かせている詩人なのです。
 たとえば「いのち」という詩の中では「音地」、「隠畑」、「東平」などの地名が遠い日に亡くなった姉や懐かしい行商人とともに時空をこえて現れます。ぼくたちは幻想的に黄昏てゆく山間の田や畑の中で風のようにそれらを見送るのです。
 ぼくは20代前半の頃、「私映画」と称した短い映画をひとりきりで作り、上映していたことがあります。その中の作品に山道のはてにある橋を渡り、渡りきった橋を振り返って、また前を見ると渡ったはずの橋が目の前にある、という映画があります。
 ぼくはこのシーンに堀内さんの「いのち」の中の
 
くぐってもくぐっても届かない
夕闇が垂れる
ぼくが生れおちた日の奥へ
笑い声が
産声のように散り崩れる

というところをかさねてしまいます。ぼくらが共有している幼いころの空白が、この小さな不条理のふたつのシーンを結びつかせようとしているのではないかと、ぼくは勝手に思ってしまうのです。
 世間で「現代詩は絶滅危惧文学だ」といわれて久しいのですが、ぼくの作った「私映画」をこの40年間で何人の人々が観たことでしょうか。おそらく20人もいないと思います。それは現代詩などよりもはるかに孤独で不幸で可哀そうな芸術なのです。
 なんか、堀内さんの新詩集の推薦文を書いているのかグチを書いているのかわからなくなりました。ごめんなさい。
 堀内さん、今度あの朴訥としていて、それでいてしみじみとひとに聞かせる朗読をぼくの映画のバックでしてください。そしてふたりで「詩映画」といふジャンルをこっそりとお互いの家人にも内緒で作りましょうよ。ふふふ……。
(こうやまやすあき 自称絵日記作家)



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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠
2014年度 第二期 第三回


「ミュンヘン」 夏井正人

湖までを来て秋川の注ぐ場所
蛇行する河の形の秋茜
白秋やチーズの球の生まれ初む
ヒース氏の分も買い足す山椒の実
生木割る音の湿りや轡虫
子規の忌のきりきり捻子を巻く玩具
秋分や眼下はミュンヘンの灯
親指へざらつく月のクレーター
待つことの楽し鶉に水をやる
山上憶良へ地続きの花野
幼年の恋よ椿の実の碧よ
初陣のリュックへ吾亦紅を挿す


1986年愛媛県出身。第5回俳句甲子園予選リーグ三戦三敗敗退。「いつき組」。2012年第3回北斗賞佳作。各地の句会を転戦し武者修行中。




「をーんをーん」 井上さち

三日月や機体は時差を遡る
霧の北海ベルトサインの点灯す
コロッセオのような空港昼の月
世界の中心たる金風の凱旋門
天の川塒はケバブ屋の二階
マロニエや運河渡れば音楽院
をーんをーんとノートルダムの秋の鐘
小鳥来るスリ師物乞い祈る人
金秋のルーヴル便座の無きトイレ
白風や巴里のメトロの少女掏児
アラブ屋のまるで腐っているような桃
秋麗の巴里やわれらは小人族


「いつき組」「街」俳人
季語の宝庫日土に暮らす。




「朝の院」 眠

甘さうな玉蜀黍を戦はす
コスモスのくたりと伸びる夜明けかな
槿落つ門の石柱黒々と
蜩や水の流れは此処ぞ打つ
かなかなにゆるやかさあり朝の院
ざつくりと銀杏黄葉となりにけり
指振ればすぐに寄りたる赤蜻蛉
つづれさせ来世も人として逢はん
きちこうの墓群の山のこんもりと
左脳より右脳へ渡る小鳥来る
秋の雨仮設櫓の重さうな
長月の羽根やしづもるやうに浮き


「不思議」ということばが「不思議」です。第32回現代俳句新人賞受賞。




「バラード」 キム チャンヒ

中年の疲れた空にもうトンボ
秋の蛍の黒く涙のかたち
水の澄む気配 命の去る気配
秋の蚊が使い回した注射器で
頬杖の男は像となる白露
名月のバラードが怪しさの訳
腐乱した秋思の零れだすを見た
現実は黒ずむ秋の向日葵
いつかの汽笛は花野へ消えにゆく
どの道も間違いじゃなく小鳥来る
猫じゃらし持てば子どもを愛せるよ
十月を木は穏やかに零れゆく


1968年生まれ、愛媛県出身。本誌編集長。句集『COSMOS』(マルコボ.コム)。『桝形浩人とキム チャンヒの超俳句入門』(マルコボ.コム)




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読者が選ぶ人気俳人!

100年俳句計画作品集 100年の旗手


(2014年10月号 〜 2014年12月号 1/3回目)


 実石榴 杉本とらを 

三叉路の六角地蔵赤のまま
柳散る下にタクシー五六台
見廻りの巡査見て居る運動会
無花果の路地から路地を迷ひけり
野良犬の屍浮かぶ秋の川
実石榴や癖ある父と暮らす家
仏壇の鈴にとまれる名残りの蚊
鵙晴や脚の古傷嘗むる猫
タンメンのスープ飲み干す暮の秋
ラジオより鶴来るニュース流れけり


1960年生れの自称江戸っ子。せっかちで慌て者で心配性。川柳の本が無くて、たまたま買った俳句の本が切っ掛けで、だらだら10年。パイオニア音俳句で組長に惚れて、いつき組を名乗っている。



 おかあさん てん点 

手を繋ぎ生まるる双子朝の月
芋の露母の睫は濡れて銀
おかあさん秋蝶けふも来てゐます
朝霧や吊橋だだだだと少年
浮桟橋の錨鈍色初嵐
秋蝉の夕日に溶けてしまひけり
輪のいびつ正して男踊かな
秋ともし点字に一つづつの影
月代や吸ひ取り紙の文字逆さ
猫の目の青玉めきて後の月


愛媛県宇和島市生まれ。2009年3月「一句一遊」に恐る恐る初投句し、以来俳句のある生活へ。
現在「東京俳句の穴〜通称ロマンチカ〜」等で勉強中です。



 琥珀の夜 幸 

銃弾の痕ボスニアの夏燕
黒日傘スペイン坂をゆるやかに
教会の聖歌隊すきとおる秋
マルセイユの卓にパエリア月上る
コンソメの琥珀深まる夜半の秋
帯どめの珊瑚秋光集めおり
色鳥や母の指貫細かりし
独り居の秋の昼なり喪服干す
子を亡くせる友に添う日の草の花
兄の椅子ずっとこのまま秋の星


1948年東京生まれの東京育ち。退職後、季語を知っていくこと、心に染み入る俳句に出会える事が喜び。
今後は「色」をテーマにした句集を出すことを目標に日々励んでいきたいと思っています。



読者が選ぶ人気俳人!
「100年の旗手」連載者推薦募集

 今求められているのは、読者が読みたいと思う俳句作家。「100年の旗手」は、連載する俳人を、編集室ではなく、読者が選ぶコーナーです。
 「この人の作品集を読んでみたい」と気になる俳人を、1人3名まで推薦してください。その中から、推薦の多かった方に、編集室より原稿依頼を行います。
 あなたのお勧めの俳人を是非推薦してください。

 推薦の方法

「この人の作品集を読んでみたい」という人を3名まで選んで(自薦は不可)、その俳号と活動場所(句会、誌面等)、推薦者ご自身の俳号(本名)、住所、電話番号を明記して、100年俳句計画編集室「作品集推薦」係へ送ってください。ハガキ、FAX、Eメールで受け付けています。Eメールの場合は件名を「作品集推薦」としてください。また、専用のインターネット投稿フォーム(http://www.marukobo.com/100kishu/)でも受け付けています。※投稿フォーム利用の場合を除き、推薦は他の投稿等とは分けてください。

締切 毎月末日

 現在連載している3名の方以外なら、一度連載された方も含め、どなたでも推薦できます。
 今回連載を行った3名の作品集の感想もお待ちしています!


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百年琢磨
 情景と情感 しなだしん

「鰯雲」 竜胆

火の国の芒野原の人となる

 この「火の国」はやはり熊本を指すのだろうか。阿蘇辺りの芒原はさぞ壮観だろう。「人となる」は、その大きな芒原に佇ち尽くす作者の過不足ない心境と想像した。

岩稜の竜胆にある宇宙の地図

 「竜胆」の花弁にある花脈を、見立てで「宇宙の地図」と比喩したのかもしれないが、「宇宙」はやはり大き過ぎかと思う。

万国旗揺れて攻めくる鰯雲

 「攻めくる」がこの句の眼目。だがこの句の造りだと、「攻めくる」のは「万国旗」か、「鰯雲」なのかが曖昧になる。

臥待や未だに耳の順はず

 「耳順う」は六十歳のこと。自嘲的な詠み口に「臥待」はややつき過ぎの感もあるが、毒を食らわば……といったところか。


「時々俳句」 岩宮鯉城

熟田津の波をくりだす土用波

 「熟田津」は道後温泉付近にあった古の船着場で、万葉集に登場する。「波」が二度出てきてややしつこい感じもした。下五は「土用かな」や「土用照」などとするのも一つの手かもしれない。

赤子とて氏子のひとり夏祓

 「夏祓」は六月三十日に各地の神社で行われる除災行事で、いわゆる茅の輪くぐり。「氏子」は氏神を守護する地域住民。茅の輪を作るのも氏子の仕事である。この句では生れたばかりの「赤子」を詠う。「赤子とて氏子のひとり」は一つの理屈であるが、「夏祓」によって景が鮮明になった。「茅の輪」でなく「夏祓」と包括した季語により、神聖さも醸し出されている。


「星月夜」 うに子

砂に足とられて笑ろて浜相撲

 海水浴の場面だろうか。地域のことばを使い「とられて笑ろて」としたこところから楽しさが伝わる。「浜相撲」の季語性は気になるところだが。

精霊舟すすみはじめてみな無口

 汀から離れてゆく精霊流しの舟。舟を流すまでは、がやがやしていた人々が、みな急に口をつぐむ。それぞれの故人を偲んで離れてゆく精霊を見送っているのだ。情景も感情も伝わる句。

三泊でたりるふるさと星月夜

 「帰省子を客間に寝かせ米を研ぐ」という句もあり、この句の「三泊でたりる」は帰省子の感覚を詠んだものかもしれない。星月夜には帰省子が帰ってしまう、少しの寂しさが託されているように感じられる。



しなだしん
1962年新潟県生まれ、新宿区在住。「青山(せいざん)」同人、俳人協会会員。句集に『夜明』『隼の胸』。


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新 100年の軌跡


2014年度 第二期
第三回


 シンデレラ 藤田夕加 

地上より生まるる銀河ペンライト
墓参り遮断機のなき道進む
山手線にも終電蚯蚓鳴く
無花果を知らぬ人在りオホーツク
止まずして二百十日もまた終える
子規忌には毎年子規になる人よ
新生姜好むような年になり
天高し富士より高し理想かな
恋よりも愛とは何か月を待つ
無月なら不安も隠せし黒瑪瑙
水澄みて午前一時のシンデレラ
金木犀血の騒ぐ音さえ聞こゆ
最下位が指定席です運動会
悩み事ミルクレープと秋の空
特別なもの含みたる桃ひとつ


藤田夕加
1987年2月生まれ。愛媛県新居浜市出身。愛媛新聞「ヘンデス俳談」において注目される。週活句会句集『WHAT』vol.1、vol.2に参加。




 媚薬 ローストビーフ 

熱帯夜媚薬代はりのチョコレート
晩夏のカクテル誰彼となく無言
夏果つるピエロくの字に折れにけり
炎天やキャッチャーの指傾ぎ見る
タクシーのおやぢのあくび花火の夜
ラムネしゆわしゆわ後進の頼もしき
曇天や青年突き刺さるプール
シャワー浴ぶけふの脱ぎ捨てられてをり
氷水バイクのキーを抜かずゐる
自転車のフレーム細し蝉時雨
ルノアールの女の斜視や杏の実
走るメロス光る甘藍畑かな
猥談を盛り上げてゐるオクラかな
新涼や好きな映画のアンケート
ブレザーの語源は真紅水澄めり


ローストビーフ(羽田大祐)
1988年生まれ。吹田東高校にて俳句を始め、第7回、第8回俳句甲子園に出場。4ヶ月間よろしくお願いします。本名、羽田大佑。




探偵ナイトスクープ 桜井教人

子規忌には毎年子規になる人よ 藤田夕加

 道後温泉近辺によく行くが、必ず坊ちゃんやマドンナに会う。しかし、子規に会った記憶がない。どんな格好なら子規であると識別できるのだろうか。そう考えながらこの句に引き込まれた。子規になるとは心象なのだろう。今年の子規忌には私も子規になって、彼の提唱する写生句を詠みたい。

悩み事ミルクレープと秋の空 藤田夕加

 探偵ナイトスクープという番組で、学食のミルクレープがきれいに食べられないという依頼の回があった。この番組を見ていると、他人にはどうでもよい悩みなのだがその解決過程になぜか感動してしまう。そこには真のオリジナリティーがあるからかも知れない。作者には秋の空の何が悩みなのかをいつか語ってもらいたい。

自転車のフレーム細し蝉時雨 ローストビーフ

 某局の旅番組で火野正平が乗っている自転車がフレームの細いタイプである。格好いいが普通の自転車が二十台は買える。そんな自転車で蝉時雨の中を快走するとストレスも吹っ飛ぶに違いない。

夏果つるピエロくの字に折れにけり ローストビーフ

 確かにピエロは人形のようにくの字に折れる。それがピエロのピエロたる所以であり、そこからファンタジーが生まれる。ショーは短く、サーカスの興行もすぐ終わる。その感覚が夏果つるの季語とシンクロする。


1958年生まれ。愛媛県今治市在住。昔から探偵!ナイトスクープの大ファン。第3回選評大賞および第4回選評大賞入選。



持ち味  とりとり

 藤田夕加さんは、からっとドライな感じがいいと思いました。

墓参り遮断機のなき道進む 藤田夕加

 「遮断機のなき」踏切で、墓周辺の風景が見えてくるのがいいですね。草の生い茂った田舎道でしょうね。

天高し富士より高し理想かな 藤田夕加

 これだと三段切れになるので「富士より高き」のほうが良くないですか。

 ローストビーフさんは、詩人ですね。私にわかる詩とわからない詩がありましたが。

熱帯夜媚薬代はりのチョコレート ローストビーフ

 熱帯夜のチョコレートはねっとりとして媚薬になるかもしれません。

夏果つるピエロくの字に折れにけり ローストビーフ

 あやつり人形のピエロでしょうか。「夏果つる」を映像にしてくっきりとユーモラスに見せてくれました。

ルノアールの女の斜視や杏の実 ローストビーフ

 「杏の実」ってなんか不完全な感じがする、それをルノアールで表したのはお見事でした。


1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。


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超初心者から中上級者まで楽しめる
100年投句計画

 「100年投句計画」は、読者の投句コーナーです。

 「選者三名による雑詠俳句計画」は、雑詠句の選句欄です。投句の中から先選者二名が、それぞれ天地人の句を選び、先選より漏れた句の中から、後選者が特選、並選を選んでいます。今回の先選者は、阪西敦子さんと加根兼光さん。後選者は、関悦史さんです。

 「へたうま仙人」は、ヘタな句を褒め、巧い句を追放する、世の選句欄とは真逆のコーナーです。どんなにヘタな句でも褒めてくれるので、自分の俳句に自信のない方、何はともあれ褒めて欲しい方に最適(?)。担当は大塚迷路さんです。

 「自由律俳句計画」は自由律俳句の選句欄です。自由律俳句に挑戦することで、自由律俳句ならではの楽しさを味わうと共に、有季定型の俳句との思わぬ共通点も見えてきます。選者は、きむらけんじさん。
(投句方法は「100年投句計画」コーナー末尾参照)
写真:白鯨


選者三名による雑詠俳句計画


先選者 阪西敦子

 「これが終わると夏が終わったんだなあと思う」と人々が口々に言う旅から戻る飛行機は、暑い雲の上にばりばりと上がってぼこぼこの雲の上を進み、1時間後に再びその雲をごりごりと突破して東京に降りた。確かに夏が終わっていて、夏ばてだけがいまだに残る。


夕月夜少し遅れて来る電車 みちる

 夕月がでていて、すこしは光を加えている。人々の帰宅の電車が遅れている。かといって夕方の遅れは、朝ほどにせっぱつまったものではなく、待たれて到着する電車はことさらに月光を受けて、一日の終りの時間を迎える満足に満ちた駅へ滑り込む。夕月に一日の疲労も、電車の遅れも、その人ごみも、穏やかに赦すような心持であろう。



できたての更地の空の赤とんぼ あらた
 更地にも新旧があって、新たな更地が出来て、やがてそのままとなった更地は、景色に溶け込んでしまう。壊して無くした結果である更地に「できたての」というのは不思議な把握だが、赤とんぼの嬉しさ、秋の広さがなんとなく伝わる。

片蔭に立ち母しばし子を送る のり茶づけ
 玄関先の出来事。玄関を大きく離れるほどではないけれど、すぐに家に入ってしまうこともなくて、その片蔭の中で子が出かけてゆくのを送るともなく見送る母。「片蔭」に現れる季節の移り変わりの中に、それに関わりなく繰り返される習慣が照らされる。

独り身の匂いの淡し葛の花 一走人
 ふとした風に突如香る葛の花。独り身である作者に、その香りが淡いのか、それともその傍らにあって、独り身の人の匂いの淡さを思うのか、どちらも感覚的な感慨であるが、いずれであっても葛の花の、不規則ともいえる香りを浮かび上がらせている。

夜半の雨ほどの長さの胡瓜もぐ ひなぎきょう
 感覚的と言えば、これほど主観的な把握もないのだけれど、夜半の雨ほどの胡瓜という。止みやすいことか、雨脚の消えやすさか、としても胡瓜にすればどれほどの長さかしれないが、その雨の名残のある胡瓜をもぐ。



居酒屋の金魚に餌をやりにけり 杉本とらを
山の息吐き出してをり独活料理 迂叟
パラソルは蕾となりぬニースは雨 小雪
秋の蜂とつとつ当たる窓ガラス のり茶づけ
木曜は定休日なり秋団扇 みちる
底に傷二百十日の果実かな ちとせ
コロッケ揚げて明日明後日は台風で ポメロ親父
半夏雨客なき刻も渡船発つ 坊太郎
指からめからまれ烏瓜の花 省三
赤とんぼ青といっしょに鬼になる まこち
八月や万の姿を鏡店 幸


先選者 加根兼光

 春、真ん中で縦に割れていた歯を抜くか、そのまま残して治療するか迷って抜かずに置いたものがこのところ痛み出した。大阪の仕事を退いた関係で松山の初めての歯医者に行くことになったがさて医者との呼吸というか間合いというかが分からない。まあしばらく通ってある程度お互いが分かったところでこの1本を抜いてもらうか。そんな悠長なことを言っている間にも歯は痛み出すのだが。


名月に背く一瘤駱駝かな もね

 名月を頂く夜も更けた。辺りは降り注ぐ月光に青く染められる。普通は見事な月を眺め愛でる夜であろう。駱駝も休息の時。しかしここに描かれた駱駝は名月に背くという。「背く」は「背を向ける」の意もあるがここでは敢えて「背信」と読もう。本来は月の砂漠で人と共に月を愛でるのであるが、この夜は月に背を向けひたすら走り続け何かから逃れる如く月光からも逃れる如く。瘤の中に月に背く暗きモノを隠しでもしているかのように。



秋の蜂とつとつ当たる窓ガラス のり茶づけ
 秋の深まりとともに衰える蜂は蜜を求めることにも疲れたのか、透明な窓に何度も当たっては戻ることを繰り返している。「とつとつ」のオノマトペが切なく響く。冬を迎えるころ静かに死んでゆく雄蜂なのであろう。

秋の虹砕けて星の環となりぬ ちとせ
 秋空の虹は消えやすく儚い。淡い色も哀れさの象徴のようである。その虹が砕けるように霧散して星々の連なりになった。空の星は艶やかな色を持つものではないがひと時、虹の七色を残すように輝き闇へと消えたのだろう。

コロッケ揚げて明日明後日は台風で ポメロ親父
 台風情報を聞きながら自家製のジャガイモコロッケを揚げている。大きな台風らしい。2日間は暴風雨の影響が残るだろう。まあ深刻な事態にはならないかもしれない。コロッケは余るほどに揚がっているのだしね。

美しき夏のあしあとめぐる午後 アンリルカ
 夏も終わる。この夏はほんの少しの嫌なこととほとんどが美しい思い出だった、と思いたい。だが残るのは「あしあと」だけ。再び足跡に自分の足を合わすのだけれど、波にさらわれるようにすぐに消えてしまう美しさ。

風鈴の糸の如くに透きとほる 松ぼっくり
 江戸風鈴であろうか。同じガラスでも河内風鈴ではなさそう。澄んだ響きが「糸の如く」という直喩と響く。透き通るのは風鈴から透ける空の色でもあり、遠く空に消えゆく音色でもある。



台風の夜や内耳の軋む音 南亭骨太
夕月夜少し遅れて来る電車 みちる
防人の任期三年今日の月 もね
山桜桃もぎて記憶の底へ捨つ 緑の手
独り身の匂いの淡し葛の花 一走人
秋茄子や僧は音痴でありました てん点
旅人も手より加わる踊りの輪 八木ふみ
やや硬き鉛筆で描く栗の毬 八十八
帰省子の予定びっしり書く手帳 ぴーす
鳩ぽつぽの歌碑を見つける秋日和  空
赤とんぼ青といっしょに鬼になる まこち


後選者 関悦史

 積読本を読めるだけどんどん読んでいますが、読んでも収納スペースがないのは変わらないので、部屋は空かない。一度大量に処分して後悔したことがあるので、それにも慎重になる。「親の家の片づけ」が社会問題化してきましたが、私の場合は先祖代々の物の溜まった「親の家」で私一人が生活している状態なので、死んだらおそらく、稀覯書だろうが何だろうが全部親類に可燃ゴミとして捨てられる。どうしたものだかと。


特選句

月明や鳴き龍の喉ふくふくと てん点

 月のもとで天井画の龍が生気を帯びたという句ですが、日光東照宮薬師堂の鳴龍を画像で確認すると、「喉ふくふくと」が確かにその通りで説得力と愛嬌あり。いかにもこれから声を立てそうな感じがします。

日本語のわかる鰻を捌きをり おせろ

 残酷味を介した共感と申し訳なさを示すのに、黙っているしかない魚を「日本語のわかる」と知的生命体に見せ、その内面を捏造してしまったところが味噌。日本人が絶滅に追い込んでいる鰻となればなおさら。

入道雲砕けて空を高くする ミセスコナン

 スケールの大きい気持ちのいい句です。ただ砕けた後まで全部「入道雲」が主格の文章になっているので、砕けて空が見渡せるようになった開放感が出にくくなっているのが惜しい。他の言い方も探ってみてください。



並選句
店中に風鈴提ぐる瀬戸物屋 杉本とらを
はたた神つれて強気の帰り道 さとう七恵
オペラ座の怪人の影良夜かな レモングラス
亀鳴くや嘘の言い訳聞いている 迂叟
中華街色なき風にある匂ひ ヤッチー
何か起きさう街白くなる炎暑 小市
軽鴨のエス字に進む運河縁 小雪
秋草や日にち薬の処方箋 あらた
美少女の四肢投げ出して晩夏光 藍人
夏盛り京に露人の闊歩する 富士山
送り火の消えて虚空に息一つ 南亭骨太
妣ヒノエ馬チチンプイプイ瓜の馬 空見屋
盆前の数珠つなぎ替ふ命玉 かのん
安全旗掲げ新築青田風 ほろよい
樹の地図を辿ればそこは蝉の城 緑の手
甘言の耳にこそばし合歓の花 一走人
身に入むや曇る小諸の七回忌 蓼蟲
あの酒が辞世となりぬ新走 蓼蟲
朝顔の赤の一滴沈みけり ゆりかもめ
音高く響く風鈴しまひけり お手玉
羅の三味線抱ける木曽路口 八木ふみ
秋雨も不意の伴とし木曽の旅 八十八
若母の一人で二人抱く昼寝 和音
クーラーもとうとう修理できぬまま ぴーす
餃子屋はギョーザだけです生ビール 青蛙
施餓鬼寺家族総出の笑い声 おせろ
湿気たる花火もたのし父帰る うに子
蜘蛛の囲の葉面散布に浮かび出る 妙
八月を語り部の杖ゆつくりと 空
阿修羅像側面の顔夜の秋 ポメロ親父
晩涼やケータイ忘れ一日過ぐ 元旦
秋雨や雑草の根の逞しき ふーみん
ギィと鳴き足の裏より蝉飛び去りぬ まんぷく
尻も手もときに頭も蠅叩き 坊太郎
梅雨明けや三方窓の開けられて 人日子
手すさびのもてあそびゐる猫ぢやらし 省三
破かれたアンネの日記流れ星 北伊作
ひっそりと逝けぬノウゼンカズラかな ちろりん
八月の白い隊列甲子園 池田喜代持
ぼうぼうと墓への道の秋の芝 エノコロちゃん
仰向けの昨日鳴きたる法師蝉 ひでやん
めっちゃめちゃなみをうってる台風くる まこち
己を知らずすごした夏の日かな アンリルカ
正午なり必ず正座敗戦日 幸
手向ひし蝮に銃を向けにけり 鯉城
戦への怖れ届けよいわし雲 哲白
雨風を素通りさせて女郎花 遊人
旅終へてわが家の床の裸足かな 松ぼっくり
デジタルになれずに老いぬ蝸牛 大阪野旅人
朝顔や雨粒弾く葉の産毛 瀬戸
向日葵やうなだれた日もありました 青柘榴
空游ぐ縦横無尽赤蜻蛉 カシオペア
軽皇子の塚や鶺鴒見失う あい
いかづちや目だけ動きぬ談話室 春告草



関悦史(せきえつし)
1969年茨城県生。「豈」同人。第1回芝不器男俳句新人賞城戸朱理奨励賞。第11回俳句界評論賞。2011年第一句集『六十億本の回転する曲がつた棒』刊行。翌年、第3回田中裕明賞。共著『新撰21』『超新撰21』『俳コレ』(以上、邑書林)、『虚子に学ぶ俳句365日』『子規に学ぶ俳句365日』(以上、草思社)他。雑誌「現代詩手帖」俳句時評欄担当(2012年1月〜)

阪西敦子(さかにしあつこ)
1977年神奈川生まれ。1985年より作句、および『ホトトギス』生徒児童の部へ投句、2008年より同人。「円虹」所属。 2010年、第21回日本伝統俳句協会新人賞受賞。共著に『ホトトギスの俳人101』『俳コレ』など。

加根兼光(かねけんこう)
1949年大阪生。俳句集団「いつき組」組員。第9回俳句界賞受賞。



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へたうま仙人


文 大塚迷路

 すっかり秋ぢゃのう。
 他の季節の時には思わんのぢゃが、行ってしまった夏ほど名残惜しいものはないのう。何かに敗れたような感覚は、去っちまった夏にしか味わえないみたいで、それがどーしたと言いつつ毎年秋は深むのぢゃ。とか何とか言いながら、今月も手強いへたうま句の淵に深く沈んでくだされ。


とってと泣く空を彩る花火なり たっ君

 花火も名月も、手が届いたら思わず自分だけのものにしたくなるのう。そういう心理の隙をうまくつついたのう。欲しい気持ちはようくわかるが、花火は夜空へのプレゼントなのぢゃ。そのおこぼれを我々はもっともっと楽しもうぞ!

脳みそもぐにゃぐにゃになる夏休み 柊つばき

 ははは! 夏休みが目の前から失せて久しいが、思い起こせば特に夏休みの最後の方は、究極のぐにゃぐにゃの脳みそぢゃったのう。決して暑さのせいではないのぢゃが、暑さのせいにしたいのは万国共通ぢゃ。徹底的にぐにゃぐにゃにしたら、その先に何かが見えたかもしれんかった脳。

車車貴女水菜の雨を浴びなさい  KIYOAKI FILM
バッテイングセンター君や浮き輪の鯖  KIYOAKI FILM

 俗世では、長いと言われているワシの仙人人生においてすこぶるの問題句が届いたぞ。
 こんなフレーズの入った小説を読んだことも無いし、こんな社説も読んだ事も無いし、坊主も神主も神父も、水菜の花言葉を教えてくれなかったし、カナヅチの鯖についての説教もなかった。ワシの脳みそは薄めのハイボール状態ぢゃ。

フォークの神様岡林信康銀やんま 小木さん
 銀やんまはトンボの中でも最大級ぢゃが、「岡林信康」がわからんとさっぱりぢゃ。岡林信康の音楽にはずいぶんと御世話になったが、銀やんまの威風堂々さ、並びになんか説教じみた容姿と、氏の風貌が最大公約的に重なったぞ(私見)。でも、銀やんまの首振る仕草は、むしろ橋幸夫ぢゃ(私見)。

秋時雨水琴窟に吸ひ込まれ 未々

 ちょっと冷ややかな、それでいて暖かく澄んだ音を奏でるのぢゃろうなあ。水琴窟を初めて聞いた時、なぜかしら空を見上げた事を思い出したぞ。地と空の間に我々が存在している不思議感が「吸ひ込まれ」の激しい表現ではちともったいない感はあるにはあるが、秋時雨と水琴窟の出会いの繊細感はいかにもいかにもぢゃ。じ〜〜んときたぞ。

迎火を焚く虫鳴いて父の影 どんぐりばば
軍服に風とうしけり終戦日 どんぐりばば

 「戦後戦後とテレビは言うが戦後の次の日は戦前 へたうま仙人」などと都都逸もどきの事をのたまっても、その流れの中に我が身が生活している事は間違いないところぢゃ。季重りではあるが、鳴く虫が切なくもあり、健気でもあるのう。だんだん細くなる迎火の炎や軍服の袖の先には、何が待ち構えているのかのう? ちょっと考えたぞ。

木にとまる蜻蛉の羽をつかみたり 真帆

 晩秋ともなると蜻蛉の勢いも落ちてくる。今まで捕まえる事なんか考えてもみなかった蜻蛉に戯れに触ってみると、飛び立たない。以外にも簡単に捕まえることの出来た蜻蛉に驚きを感じると共に季節の流れを感じている作者の目はまぎれもなく俳人の目ぢゃ。「つかみたり」を「つかめたり」と勝手に変更して読んだのは、かなり厚かましかったかもしれん。いや失敬!

ひぐらしが鳴いて戦争とおくなる ひでこ

 助詞の使い方は難しいらしいが、この句の「が」の事を言うのかのう? ワシにはようわからんが、この句の場合は「が」が深いと感じたぞ。ひぐらしの声がフェイドアウトしていく感じが、とおくなっていく戦争とよく響き合っていると感じたぞ。まだまだ夏には何かが潜んでおりますな。

その話でまた盛り上がる夏の夜 ケンケン
風ゆるむ四天王寺の八月だ ケンケン

 久しぶりに会った気の置けない仲間での夏の夜のひと時。箸が転がっても大笑いの日々が甦ったようだ。「夏の夜」が渋いぞだ。
 どこにも属さない心意気が「四天王寺」にびんびんだ。世間の風はゆるんでいるかもしれんが、そこはやっぱり八月だ!
 郷愁と現実に一石を投じるかもしれないかもしれないこんな句は、今圧縮されているかもしれない地層の狭間へ追放だ!

秋彼岸私は花を持つ係り 台所のキフジン
「平和」とすカッコ書きなる秋暑し  台所のキフジン

 そっけなく「私は花を持つ係り」などと言うあたり、只者ではありませんな。空々しい挨拶をするより、私は心からの花を手向けますというさりげないメッセージが泣かせるぞ。
 カッコ書きのまたまた空々しいカッコ悪さを「秋暑し」に託す技も、もはやこの場では異端ぢゃ。異端が居たんぢゃいたたまれんのぢゃ、的追放!!


 今月も、ちょっとやそっとでは倒れない強い句のオンパレードぢゃったが、まだ平常心を保っておりますかのう?
 幸いにも、こんな調子でますます力漲らせ来月へと邁進ぢゃ!!
 ぢゃが、くれぐれも油断召されるなよ。



へたうま仙人
 年齢 卑弥呼がおっぱいを飲んでいた頃、ワシは青春真っ只中ぢゃった。
 好きなもの 霞のシャーベット(PM2.5抜き)
 嫌いなもの 上手な俳句
 将来の夢 大器晩成


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自由律俳句計画


選者 きむらけんじ

 ちょっとひと言。「玉虫の光を消して待ち伏せる」「新涼や顔をよせたる猫の腹」……など思わず選びたくなるような上手な句なのですが、どう考えても有季定型句なのです。他にもそんな句が毎月数句リストの中に入ってきます。ご存じのようにこのコーナーは自由律俳句を扱っていますので、良いなと思ってもざんねんながら選ぶことはありません。もったいないので有季定型の句は、是非俳句計画等に投句されて光を当てられることをおすすめします。とはいえ、ここは専門の自由律俳誌でもありませんので、守備範囲は広めに心掛けていますので引き続きよろしくおねがいします。



長い塀だな長い原発の塀だな 大阪野旅人

 ここは原発の良し悪しを言うところではないので誤解のないように書かなければならないけれど……。おそらく作者は不本意ながらも原発に頼りながらも日々生きていかねばならない、というような現実に対するある種の焦燥感を持たれているのではないかと思う。「長い塀」という比喩と「だな」という詠嘆のくり返しが、その気持ちを上手く表現している。またこの句は「長い塀」と「原発」のたった二語で構成されている。徹底した省略がかえって心の奥を雄弁に語る……自由律の特質がよくあらわれていると思う。



深窓の令嬢の立泳ぎ 和音

 深窓の令嬢がクロールしたり、バタフライしたりだったら選んでなかったかもしれない。「深窓の令嬢」という、今どき絶滅言語になりそうな言葉と、やりそうにもない行為の安易な取り合わせ……そんな感じもするのだけれど「立ち泳ぎ」に意表をつかれた。これは個人レベルでしかわかってもらえないかもしれないけど、なんかオモシロかった。計算のうちなら相当ですねえ……。

言い訳ばかりの口に枝豆 あらた

 枝豆だから、言い訳が言い訳としてなさけないものになる。考えてみれば人生の大半はなさけないことの繰り返しかもしれない。ならば悩むことはない、言い訳の口には枝豆いれてなぐさめてやればよい……そんな気にさせる自然体の佳句だと思う。

眼の玉を残して蝉は土に還る まんぷく

 そう言われれば蝉の眼玉は、つるんとしてビーズのようでもあるから体は風化して土に還っても眼の玉はそのあたりにコロコロしていそうな……とも思うがそんなもの見たことはない。しかし作り話にせよ、いかにもそう思わせるのは創作のちから。

転寝や内臓に乳酸菌ばっかり ちとせ

 「転寝(ころびね)」は、うたた寝のことだろう。気持ちのよいのは優しい風が来たり、愛する人がそばにいたり……なのだろうけど、このうたた寝は腹に乳酸菌をたらふく入れているらしい。たぶん乳酸菌の働きに期待してのうたた寝らしい。不思議なうたた寝が気になった。

もう戦前かもしれぬたくあんかじる 大阪野旅人

 この句には憲法の解釈を変更して、集団的自衛権の行使を容認する……という昨今の時事が背景にあるのだろう。時事ネタを扱うのは川柳の得意分野だろうけど、切り口次第では、こんなユニークな句もできる。「戦争が廊下の奥に立ってゐた(渡辺白船)」のような俳句史に残るような句もあるし。



色なき風に色を塗る もね
夕立後街のにおいを嗅ぐ 元旦
鬼灯赤ければ口づける たま
いま再生しているおとといの切り傷 多満
長生きの途中の夏バテ中 ケンケン
蟻の巣穴を塞ぐ角砂糖 杉本とらを
治験を決めし外はおそらく蝉時雨 緑の手
雨音けたたましく鳴りたる夜明け ふーみん
赤子にある照れ笑い 幸
炎昼や何言はれても一人 鯉城


並選
蔦に食べられた木の擬似化 さとう七恵
みんな一緒に恋してる案山子 レモングラス
線香花火の玉の震えふたりで見ている 多満
合戦か法螺鳴る石鎚山開き 迂叟
夜食に噎せる ヤッチー
冷えすぎた部屋を憎むビール 小市
山奥の鉄花線震える顎ぞ感ずる KIYOAKI FILM
バゲットの配達を待つゼラニウムの窓辺 小雪
三者面談待つ子はスマホ我は汗 藍人
愚痴言うなかれビール飲み干せよ のり茶づけ
十七年鳴かぬトロンボーン磨いて金の秋  南亭骨太
必ずや片付けられる廃船 みちる
青蛙に隣りてシカト芥川 空見屋
観光バスを待たせ大鍋の薯を待つ ほろよい
音を返してほしい風鈴 一走人
反抗期なコスモス 小木さん
案山子とふなっしーがシュール ゆりかもめ
夏バテに赤ひげ薬局の旗 和音
さみしいときはさぼてんと話す うに子
秋の野をすたこらさっさ ポメロ親父
勤明けの女性い寝るや朝電車 坊太郎
腹見せて蝉が死んでゐる 人日子
からから風の切れっ端 北伊作
蠅叩きコックロ―チ爆裂す ちろりん
ゴメン秋の蚊叩く エノコロちゃん
炎帝を怒らせているのは地球 ミセスコナン
走り出す子の居て秋の小学校 台所のキフジン
深海魚の目だけ澄む月夜 松ぼっくり
扇風機の発熱 青柘榴
日がな一日貧乏葛と戦へり カシオペア
ノウゼンカズラ食ミテサバンナノ夢見ルキリン  ひなぎきょう



きむらけんじ
1948年生まれ。第一回尾崎放哉賞他。自由律俳句結社「層雲」同人。写俳エッセイ『きょうも世間はややこしい』(象の森書房)、句集『昼寝の猫を足でつつく』(牧歌舎)、『鳩を蹴る』(プラネットジアース)他。特技 妄想、泥酔。



【100年投句計画】投句方法
 件名を「100年投句計画」とし、投句先(複数可)、俳号(なければ本名の名前のみ)、本名、電話番号、住所を明記してお送り下さい。投句はそれぞれ二句まで、詰め俳句は季語を一つのみお送り下さい。一つのEメールまたは一枚のハガキに各コーナーの投句をまとめて送っていただいても構いません。
ただし、「選者三名による雑詠俳句計画」と「へたうま仙人」は、選択制(どちらか一方のみ投句)となります。また「雑詠俳句計画」は欄へ寄せられた二句を各選者が選ぶ形式です。各選者に個別に投句を行うのではない点にご注意下さい。

それぞれ締切は、10月20日(月)

投稿ページ http://marukobo.com/toukou/
投稿アドレス magazine@marukobo.com
はがきFAXでも投句できます。


さらに多くの投句をしたい方へ
 松山市が運営する『俳句ポスト365』など、無制限に投句を受け付ける場もございます。ぜひご活用下さい。(俳句ポスト365のページ参照)


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えっ?日暮屋が句集を出すってよ! 2


文 日暮屋

 この度、句集を発表するにあたり、自分なりにハードルを掲げた。条件として、大人の「句集を作ろう!コンテスト」(以下「大人コン」)で優秀賞をとること、その理由として自分の句に対するある一定の評価、賛同がほしかった。別に自分の句集なのだから、そんなことどうでも良いといえばそれまでだが、スローガンの100年後も残るためには、より多くの人が買ってくれるほうが、確率が上がるのは明白だろう。裏づけのない独りよがりの句集など、果たしてどれだけの人手に渡るか。仮に無償で配布しても結果は見えている。
 以前、仕事でサンプルの無料配布をして、後日アンケートをとる作業をしたが、サンプルの多くが、使用されないまま埃をかぶっていた。ところが有償サンプルにしたとたん、使用率は飛躍的に上がった。やはり、身銭を切ったときは真剣だった。
 句集も同様と考える。額に汗した身銭を切った本となれば、そうは簡単に資源ごみになることも無いだろう。しかも、お金を出していただく以上、いい加減なものは出せない。だからこそ大人コンの評価が必要だった。
 前年、現在における自分の立ち位置を知りたいとの思いで、ピースが足りず、スカスカの状態ながら「大人コン」に応募したポケットという作品が、一次審査を通過したのだが、今年の作品「ビストロケルン」はそれに比べて実詰まり感があり、はるかにポケットを凌駕していることが、自分でもはっきりわかった。去年より上にいけるはずだ。つまり最低でも最終選考に残る。
 ある日、気の置けない句友の野風さんから今日、マルコボでマガジン発送の袋詰めを手伝っていたら、マガジンに大人コンの結果が出ていて、優秀賞に日暮屋が載っていると言う嬉しいフライングのメールが来た。その後、受賞者のみに送られてきた他言無用の審査員の評価表に目を通してみた。よし、これなら句集を出してもよかろうと、自分自身に合格点をつけた。早速、その意向をマルコボの編集長、キムさんに伝えた。まだそのころは、ビストロケルンそのまんまで句集を作ればいいかなと思い、それから特に何をするでもなく、数か月が過ぎた。
 やがて盛夏、僕は3日前にやらかしたぎっくり腰と戦いながら、ファーストボールの第4レーンに女性用のできるだけ軽いピンク色のボールを持ち、みじめなほどの格好悪さで指が抜けなくなってもがいている。あーッ、自分で申し込んだボウリング大会とはいえ……。成績は聞かないでほしい。夕方に控えているいつき組のビアガーデンまで少し時間が空いた。キムさんの発案で、句集の打ち合わせをすることに。この夏一番のうだるような暑さ、迷うことなく喫茶店に逃げ込んだ。そこで、どうせ自前での句集なら、せっかく一定の評価を得た作品の骨格は残した上で、ビストロケルンを引きずりすぎない形の、デラックス版としてもっと句を増量しようと相談のうえそれに決定!
 さあ、そうと決まれば使える句を捜す作業に取りかかる。ラジオ、俳句ポスト365での金曜句、句座等での特選、並選をいただいた句、そして自分自身がどうしても載せたい句をファイルから抜き出してみる。そしてその句の季節を細かく分類してみる。次に、どの句をはずし、どの句を入れるか、その季語のつながりはどうか、ぎくしゃくしてリズムに無理がないか、見れば見るほど迷いが生じてくる。いやいや、この入り方であれば、たしかにビストロケルンの骨格は保っているものの、引きずり過ぎている。もっと意外な入り方はないものか? そして、終わり方はどうするのか、流れを大切にしながらストックの中から句を盛り込んでみる。やはり最後は、はっとする展開で、良い意味で読者を裏切りたい。そんなことをいろいろ考えながら、切り取り、貼り付けとを繰り返しながらマウスが悲鳴をあげはじめる。
 盆休み前、台風の襲来を気にしながら全く動けない週末、この段階で二通りの句集を編んでみた。自分としては、あとから編んだものの方がいいかなあと思っている。どのくらい増量するのかとか、ページあたり何句か、章立てしてみようかとか、表紙はどうするのか、これからも沢山、いろいろなパーツで悩まなければならないことが続くことになるだろう。男ながらも産みの苦しみか?
 数句ずつ掲載され、それをページをめくりながら読む喜びこそが、句集特有のものだと思う。ページごとの余韻を味わいながらも次の一句はどう来るのかと、わくわくしながらページをめくってもらえるように構成できると良いのだが、果たして出来ばえやいかに。



日暮屋 1959年2月生まれの野村町出身。吟行の旅好きで、ギター、自転車、写真、蕎麦等とにかく多趣味。毎日浴びるほどの酒を飲む。


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Mountain Cabin Dispatch


ナサニエル ローゼン(訳:朗善)
山梨で暮らす世界的チェリスト ナサニエル ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.15


Colder feet at night
no frostbite yet be careful
Let's buy new snowshoes

足夜寒霜焼け雪沓もうすぐだ


(直訳)
夜の足冷えてきた
霜焼けはまだだが気をつけろ
新しい雪沓買おう



We feel the excitement of winter approaching. There are concerts to play and to attend, boxing matches to enjoy and exercise classes to prepare our bodies for ski season. And, of course, there is sun and sky.

僕らは冬の到来にわくわくしている。演奏し、コンサートを聞き、ボクシングマッチを楽しみ、エクササイズのクラスでスキーシーズンに備え、そして、もちろん(冬めいてきた)太陽と空にもわくわくするよ。
(訳:朗善)



ナサニエル ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2013年7月より山梨へ移住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第43話
「ザ ポール ウィナーズ」


 本来ならば前回の一番人気句を詠み、キム チャンヒの俳画を獲得した「まこ」さんに今回のテーマ アルバムを選定してもらうのだが、聞くと彼女は熱烈な中島みゆきファンらしい。アルバム『時代‐Time Goes Around‐』なんてリクエストが来たら丁重にお断りするのに難渋する。そこで、もう一人の俳画獲得者である蛇頭(僕)に、その権利を譲ってもらうことにした。
 で、今回取り上げたアルバムが『ザ ポール ウィナーズ』。前回の小島のり子トリオと同様にギターとベースを伴った三人編成のユニットである。

秋意満つスネアドラムのブラシ捌き 光海

 澄み渡る青空の下、溌剌とメインポールを操るスーツ姿の紳士3人は、56年度3大アメリカ ジャズ人気投票、つまりダウン ビート、メトロノーム、そしてプレイボーイ誌の楽器別人気投票のウィナー(優勝者)である。右からドラムスのシェリー マン(37歳)、中央がギターのバーニー ケッセル(34歳)、そして左にベースのレイ ブラウン(31歳)。
 小島トリオであれば、小島のフルートと田口のギターが交互にテーマとアドリブを展開する。ベースの鈴木が正確なビートを刻みながら適宜2人のソロに絡み、自らソロも披露するというスタイルで聴衆を沸かせる。
 一方、ポール ウィナーズはフルートじゃなくドラムスだから、これはギター トリオの演奏だ、と思って聴いて頂いた方がこのユニットにとって幸いする。アルバム『ザ ポール ウィナーズ』のA面1曲目、デューク ジョーダン作曲の「ジョードゥ」を聴くと「ドラムスを単にリズム楽器と言って良いのか?」という心地よい疑問が湧いてくる。さらに、B面の2曲目、ブロニスロウ ケイパー作曲の「グリーン ドルフィン ストリート」あたりでは「ドラムスは単なるリズム楽器ではない」と誠に愉快な確信が持てるはずである。それほどシェリー マンのドラムは良く唄っている。

何処までもゆける秋天のジャズギター チャンヒ

 今回の句会でチャンヒさんは「これまでのCTIシリーズのレコードには音がいっぱい詰まっていて、まるで音の洪水のようだったけれど、このトリオの音は隙間がいっぱいあって、それでちゃんとスウィングしてる」と語った。残念ながら、これをイメージに彼が詠んだ句は、今回登場しないが、迷わず僕は一票投じた。誠に言い得て妙である。
 登場の句は、ジャズ ギターの開祖と言われたチャーリー クリスチャン仕込みのホーンライクに良く唄うバーニー ケッセルのギター ソロに敬意をこめてチャンヒさんが詠んだ句である。

レイ ブラウン導く光遠銀河 南行ひかる

 音響技術の発達もあり、まるでギターを弾くように軽々とベースを弾く時代であったとしても、生音で他の楽器と、ちゃんとコミュニケーションできる正統派ジャズ ベーシストの仕事は本当に心地の良いものである。その頂点に君臨し続けたレイ ブラウン。
 南行ひかるさん、チャンヒ賞は逃しましたが僕の句も天国のレイに捧げさせてください。

秋麗の一音に艶レイ ブラウン 蛇頭



http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。


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ラクゴキゴ


第43話
『本題』〜 和食のマナーを学びませう 〜


あらすじ
 村の庄屋さんで婚礼があるというので、村人たちがお祝いを贈ったところ、36名が招待され、ごちそうの席が用意されているという。
 しかし、誰ひとりとして本膳の作法を知らない。
 恥をかくわけにはいかないので、物事をよく知っている「先生」に教えてもらうことになった。
 先生、一人一人に教えていると、今夜の宴には間に合わないので、自分がやる通りに見て真似をすれば間違いないと伝える。
 一同、安心して庄屋さんの家へ。主人のあいさつの後、お酒が出てきていよいよ本膳スタート。
 先生が汁椀のふたを取ると、全員が同じようにふたを取る。
 先生が汁を一口吸うと、皆一口吸う。隣の男は次の席の男に「一口だけだぞ。二口はダメだ。」
 次に先生がご飯を一口食べると、同じように一口だけ食べるよう伝わってゆく。
 その様がおかしくなり、先生が笑ってしまった拍子に鼻先にご飯つぶが二粒ついてしまった。
 「これも作法か。」と次々に鼻の頭にご飯つぶを二粒ずつつけてしまうさわぎに。
 先生もあわてて、もうさっさと食べて失礼しようと次の椀を見たところ、これが里芋の煮っころがしで、先生が箸でつまもうと思ったがつるりとすべり、膳の上に芋がころころと出てしまった。
 これもまた全員同じように真似をするのでえらいことになってしまう。
 先生、「今のは違う!」と隣の脇腹をひじで突いたところ、これも作法と思い、次々に隣をひじで突き始めた。
 36人目の最後の男、横には柱しかなく、誰も突けないので一言「先生さま、この礼式はどこへやるだ?」



 本膳料理をちゃんと食べたことのある方はいますでしょうか?
 室町時代に成立し、江戸時代に発展したといわれていますが、大きな宴会ではなんと七の膳まであったといいます。
 料理の提供の仕方の中には、硯蓋と呼ばれるものもあり、これは実際に硯のふたにきんとんやようかん、寒天などをのせて出したらしいです。今ではほとんど見かけませんね。
 さて、この噺のように誰かの真似をして失敗するストーリーは何パターンかあります。
 この噺は原話があって、元和年間に出版された笑話本「戯言養気集」の中の「芋ころがし」であるとされています。
 林家木久扇師の師匠、林家彦六師や現三遊亭金馬師らが得意にしている落語です。
 大洲出身の私は、ぜひみなさんに大洲産の里芋を食べていただきたい! 粘りが全然ちがいます。
 この季節、いもたきが盛んに行われておりますが、大洲のちょっと甘めの出汁にごろごろと地元の芋が入っており、油あげにも出汁がよおくしみてて旨いのなんの。シメはうどんですかね。
 ビールでもよし日本酒でもよし、特に河原で月でも愛でながらの一杯(いもたき? 酒?)はたまりません。
 どなたかご一緒いたしませぬか。もちろん句会付きでね。

 芋炊やもと二級酒と呼んだ酒


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新聞記事に隠された俳句を発掘する
クロヌリハイク


黒田マキ


2年ぶり具材に口だしいもうまし
(愛媛新聞より)

野の錦快進撃のプレーヤー
(2014年9月10日朝日新聞より)

秋の夜ゴルフ仲間とフラダンス
(愛媛新聞より)


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お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第24回 「『ヒロシマ』原爆詩集」

 季節はずれで申し訳ないのですが、みなさんは「原爆忌」という季語とどう接しておられるでしょうか。いいかげんに生きている私などは、季寄せ等でこの季語に遭遇してしまうと、とても太刀打ちできない、抱えきれないものに対面してしまったような、そんな落ち着かない、おろおろした気持ちになってしまいます。ましてやこの季語に取り組んでみようなどという気力は露ほども湧きません。
 無論、それは私がこの季語が持つ事実に真摯に対峙してこなかったからです。だから(敢えて書きますが)季語でさえ直視できない。
 「『ヒロシマ』‐原爆詩集‐」(く☆す主催、語り スオウアキラ、山本清文、大汐美沙、'14年8月3日、シアターねこ)に行ってきました。原民喜、水野潤一、峠三吉などの原爆詩を朗読する会です。それ以前から同様のものが開かれてはいたのですが、二〇一二年から現在の様な形となり、毎年行われてきました。
 しかし、今年は今まで語りの中心となっていた方の名前がありませんでした。その方は、その方の歴史において、あの8月のことをどうしても表現せざるを得ない、切実な思いと強い意志を持っており、それがこの朗読会の中心にありました。

八月にまだ使えない季語があり

 当事者や体験者、それに匹敵する強い動機を持った人にしかできない表現というのが確かにあります。私がこの会に参加していたのは、朗読される詩の内容はもちろんですが、それ以上に、舞台に立つその方の、身体や声、佇まい、在りようから伝わる意思や想いを受け止めに行っていたのだと思います。
 しかし、彼らはいずれ去っていきます。
 その時、伝えねばならない事実、それに伴う痛みや思いをどう伝えていけばいいのか。
 この会は引き継がれました。大事なことだと思います。でも、引き継ごうという意志、それだけでは足りないのかもとも思いました。
 多分、私も宿題を出されたのだと思います。
 もし可能なら、あなたもそこで何が語られているか確かめに来てくれませんか。
 来夏もきっと開かれることでしょうから。

朽ちれどもまた来年も百合白し



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。


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百年歳時記


第17回 夏井いつき

 有名俳人の一句を紹介鑑賞するページは世に数々あれど、「市井の逸品」とも呼べる一句を取り上げ鑑賞する記事はそんなに多くありません。
 百年先に残したい佳句秀句奇々怪々句を見いだし、皆さんと共に味わおうという連載は、名づけて「百年歳時記」。夏井いつきの目に触れた様々な作品を毎月ご紹介していきます。

法師蝉船霊さまへ申し上ぐ 亜桜みかり
 「船霊」とは船の守護霊です。御神体として女の髪、男女1対の人形、2個のサイコロ、一文銭十二枚、五穀などを、帆柱の根の部分に納めるということを今回初めて知りました。
 「法師蝉」が鳴きはじめると、台風シーズンの到来。「板子一枚下は地獄」と言い習わされる自然の驚異を骨身に知っているのが船乗りたちです。「船霊さまへ申し上ぐ」は、彼らの信心深さを思わせる措辞であり、敬虔に頭を垂れる姿でもあります。
 「法師蝉」のつくつくぼうしつくつくぼうしという鳴き声は、「筑紫恋し」と聞きなされてもいたようです。船乗りたちの陸を恋う思いもまた、つくづく恋しつくづく恋し、なのでありましょう。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月15日掲載分)

さるのこしかけさうここからは蟲ノ国 とおと
 「蟲」とは精霊でも生物でもない妖しい生きもの。森の中を奥へ奥へと入っていくと、周りは鬱蒼と暗くなり、湿った匂いが鼻先に漂い始めます。ふと目をやった古木に「さるのこしかけ」を見つけ、「さうここからは」と思わずつぶやく作者。そう、ここからはいよいよ「蟲ノ国」に踏み入るのです。
 「さるのこしかけ」という名は滑稽なようでありつつ、怖ろしくも感じられます。猿が平然とこの茸に腰をおろし、森に入ってくるものを睥睨しているのかような、滑稽と恐怖。「さるのこしかけ」を横目に見ながら、いよいよ「蟲ノ国」へ踏み込めば、ひんやりとした冷気が首筋をよぎります。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』8月22日掲載分)

別れ烏や屈強の山正面に ターナー島
 烏という生き物は親子の情愛が深いのだそうです。秋になってやっと親離れ子離れをするというのが、季語「別れ烏」の本意です。
 それにしても「屈強の山」というのは面白い表現です。親の元を離れて、いざ飛び立った子烏の前に立ちはだかっているのが、この「屈強の山」。高く聳えた猛々しい山なのでしょう。「別れ烏や」と7音で季語を詠嘆し、さらに「屈強の山」という7音が中七に聳え立ち、下五「正面に」と5音で納める構造と調べが、一句の内容を際立てます。子烏の心細さを、我が心の不安として生々しく受け止める作者だからこそ、この季語の世界において「屈強の山」という詩語をつかみ取れたのに違い有りません。
(ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』9月5日放送分)

マチボウケと名づけますこの秋草に るびい
 いきなり「マチボウケと名づけます」というフレーズがでてくると読者はキョトンとします。何にそんな名前をつけたんだろうと。
 中七の切れはこの台詞を語る人物から離れ、下五「この秋草に」という光景に切り替える効果があります。そうか、「秋草」の小さな花々が咲く野にこの人はいるのだと腑に落ちるのです。しかも人を待っているのだと。
 いつもの場所のいつもの待ち合わせでしょうか。いつもいつも待たされるのは私。いつだって待つのは私。風の「秋草」は待つ人の心のようにゆらゆら揺れます。「この秋草」に「マチボウケ」と名をつける女心もまた、ゆらゆらと揺れつづけているのです。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』9月5日掲載分)

名月のうたげ麗妃は産室へ 中原久遠
 「名月のうたげ」がただの宴でないことは、後半「麗妃は産室へ」という措辞で分かります。「麗妃」という人物を、清王朝末期、皇帝の寵愛を受け西太后に疎まれたあの「麗妃」だと読んでもいいし、中国四千年の歴史の中の一人の妃だと考えてもよいでしょう。
 「名月のうたげ」は、無事に世継ぎが産まれますようにという願いの宴でしょうか。虚の世界に浮かんだ「名月」は、読み手の心をうっとりと魅了します。「産室」という場は月の満ち欠けと出産の関わりを想起させ、「麗妃」という名の文字通りの麗しさは「名月」という言葉と美しく響き合います。やがて届く出産の報に、座はさらに湧き上がり、名月はその光を強くするのでありましょう。
(松山市公式サイト『俳句ポスト365』9月12日掲載分)


*百年歳時記は、南海放送ラジオ『夏井いつきの一句一遊』や
 松山市公式サイト『俳句ポスト365』(http://haikutown.jp/post/
 などに投句された俳句を紹介します。


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会話形式でわかる
近代俳句史超入門


その4
文 構成 青木亮人

 大学で俳句を研究する青木先生と、その教え子で俳句甲子園の出場経験もある大学生の俳子さんが雑談を交えながらの近代俳句史超入門。

正岡子規の凄さ、そして碧虚の時代

 道後温泉本館前で偶然会った二人は、そのまま俳句について語らっています。

批評家子規
青木先生(以下青) ……そういうわけで、子規が凄かったのは「俳句」の価値観が他の誰とも違った点でした。彼は句作の天才というより、従来と全く違う「俳句」の価値を定めた批評家として、間違いなく近代俳句の祖といえるでしょう。
俳子(以下俳) 秀句を詠めるかどうかが凄い俳人の唯一の基準というより、多くの句からどれを「俳句」と見なすかも大事で、子規さんはその目利きが凄かったということ?
青 今から見るとね。実は、俳句は選句がとても重要な世界で、というのも大部分の人は何が「俳句」か、よく分からないまま句作をしている気がします。
俳 えーっ、そう? その道数十年の先生とか、たくさんおられるじゃない。
青 多くは「俳句らしさ」に浸ることを優先させて、「俳句」そのものに出会ってしまった俳人は少ないんじゃないかな。それが良いか悪いかは別にして、愛好者と玄人の違いといった方がいいかも。生花や歌舞伎、骨董、音楽や絵画もそうだけど、分かりやすいものや好き嫌いだけで満足する愛好者と、その道の玄人が見る凄さというのは違うんですよね。玄人は大量の作品を味わい、色んなタイプの発想や傾向があることを知り、歴史と同時にその時々の流行も踏まえ、実作者と鑑賞者の立場の違いも分かった上で、自分の好みの偏りを意識しつつも作品そのものの価値をズバッと見抜く力がある。それにはセンスも必要で、単にその世界に長く居るだけでは目利きにはなれない。この点、子規は目利きとしてずば抜けた知識とセンスがありました。優れた句の存在と同じぐらいにその句の何が優れているかを指し示す批評家や選者の存在が、実は重要なんですよ。
俳 そこで前回の話に戻ると、批評家子規さんに見出されたのが高浜虚子と河東碧梧桐だったんですね。
青 そう。彼らは二十代の若さで子規に絶賛され、子規門の双璧と全国に知られます。ただ、二人は自作をそこまで秀句と感じていなかったらしく、「のぼサン、凄いな」と他人事のようにびっくりしたらしいですね。
俳 それって凄いことじゃないですか? 本人も気付かない作品の可能性を、子規さんがズバリ指摘したということですよね。
青 そうそう、昔、「ズバリ言うわよ!」という占い番組がありましたよね。あれに近い…いや、違うかな…そういえば細木数子さん、今はどこで何を…(白目)
俳 ちょっと、話がずれてますよ、戻ってきて下さい。今は六星占術じゃなくて、碧 虚の話ですよ。
青 (頭を振る)いや、失敬。あまりに長い立ち話で気が遠くなってしまって。
俳 まだ半日よ。俳句史を全て聞かせてもらうまでは引き下がりませんからね、落とし前は付けてもらうよ。

碧虚コンビ
青 任侠映画の姐さんですか。話を戻すと、子規に礼讃された碧虚は子規没後も明治新派のスターとして活躍し続けます。ところが…
俳 知ってる! 二人は俳句観の違いで衝突するんですよね。碧梧桐は新傾向俳句、虚子は守旧派。互いに慕っていたのに俳句で争わねばならなくなった、その狭間に苦しむ若き二人の愛憎劇……「愚か者と笑いますか もう少し時がゆるやかであったならああ」(歌う)
青 (慌てる)ストップ、今日は休日で人も多いんだからやめて下さい、しかも大昔の「白虎隊」(テレビドラマ)のテーマじゃないですか。恥ずかしい。
俳 二人の苦しみを代弁しただけ。いやはや、時の流れとは残酷なものよのう。
青 言葉遣いの時空も歪んでいますよ。でも、碧梧桐と虚子が争ったのはその通りで、そこに愛憎劇に近いものがあったのも事実。
俳 ほら、そうでしょう?
青 だからといって幕末の会津藩白虎隊とは事情が違うと思いますけど。二人とも松山出身で学校時代からの親友、東京の下宿では大家の娘さんをめぐって三角関係的になったり、子規の後継者を競う立場でもあった上に、俳句観も違っていた。両者の間には個人的な感情のもつれ等、色々なことがあったのは間違いない。
俳 えっ、三角関係? 知りたい知りたい。
青 目が輝きすぎ。二人の人生もなかなか波瀾万丈で、子規のように詳しく追うと面白いんですけど、それをやると二日間はこの本館前で話し続けなければならないので、今回は割愛。
俳 ブーブー。悪代官め。
青 ムチャ言わないで下さい。で、子規の「俳句」眼で一本釣りされた碧虚コンビは、子規没後に互いに反目しながらも近代俳句に大きな影響を与えた存在で、この二人を語ることが俳句史になるというぐらいです。
俳 川上監督率いる巨人軍の王 長嶋コンビ?
青 古いなあ(笑)。まあ、大きな影響力を持った点では似てるかも。本当は子規についても語ることはあるんですが、日が暮れてしまうので、子規没後の碧虚コンビに移りましょう。まずは俳壇のホームラン王、虚子からいきますか。

俳句界の巨人、虚子
俳 (ホームラン王? という疑問が脳裏をよぎりつつ)私のように俳句を詠む側からすると、虚子さんはよく分からないんですよ。
青 どういうところが?
俳 まとまりがないのよね。うまい句もヘンな句もごちゃまぜで、それに虚子作品を褒める人は神のように絶賛するし、否定する人は「彼は俳壇政治がうまかっただけ」と激しく批判するし。作品に落差がありすぎて、その評価も何だか感情的で……でも、とりあえず有名で、句碑もたくさんあったり。どう距離を取っていいのか分からないのよね。
青 子規は若くして亡くなった上に明治という「過去」の俳人だから英雄として評価しやすい一方、虚子は昭和戦後まで長寿を全うした上に近代俳句最大の結社「ホトトギス」を率いた存在だから、その影響力の大きさのために賛否両論あるのかも。現代の実作者すら賛否いずれにせよ虚子に言及して自分の立場を明確にしなければならないほど、「虚子=近代俳句」の影響は今なお巨大で、「現役」俳人として実作者に意識させるところが子規と違うところかもしれない。感情的な評価が多いこと自体、虚子が「現役」であり続けている凄さかもしれませんよ。
俳 あと、虚子さんは子規さんのように爽やかじゃないのね。徳川家康や山県有朋とか、そんな感じ。
青 老獪な政治家、という感じですね。子規のように鮮やかに散った革命児は愛されますが、長寿を保った権力者はさほど好まれない。虚子にその一面はあるかもしれませんが、いずれにしても虚子を無視できない理由は一つあります。
俳 あのぼんやりした顔?
青 いやいや、写真の角度によってはイケメンですよ……と、脱力するようなことを言わないで下さい。虚子が凄いのは実作と選句眼が超一流だったこと、これに尽きます。だからこそ現代の実作者も無視できない「現役」作家なわけです。(続く)


青木亮人(あおき まこと) 1974年、北海道生まれ。現在、愛媛大学准教授。著書に『その眼、俳人につき』(邑書林)など。



解説

高浜虚子(明治七年〔1874〕〜昭和三四年〔1959〕)
 松山藩士族出身。同郷の先輩、正岡子規に見出されて俳人となり、後に「ホトトギス」主宰として俳壇に君臨し続けた。実作、選句眼ともに超一流だった上に、門人から史上に名を残す俳人が輩出したため、近代俳句そのものを形成した巨人。子規の「写生」を継承し、最後まで「客観写生」「花鳥諷詠」を提唱した。俳人初の文化勲章受章者。



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もうひとつの俳句のまちづくり


岐阜県大垣市役所俳句文化推進グループリーダー 高田雅章(俳号:がしょう)
第3回

 第3回目にご紹介する取り組みは「俳句甲子園大垣地方予選大会」です。
 俳句甲子園といえば松山市というほど、全国に浸透しています。俳句甲子園は今年度17回目を迎えますが、岐阜県での地方予選はこれまで1度も開催されておらず、芭蕉生誕370年である平成26年に岐阜県初の俳句甲子園地方大会開催会場として「奥の細道むすびの地」大垣市が名乗りをあげました。
 地方大会を開催するためには、2校以上かつ4チーム以上の参加条件をクリアしなければなりません。私は、松山市からいただいた俳句甲子園DVDと俳句甲子園開催要綱を携え、大垣市内の高校すべてを訪問し、俳句甲子園への参加をお願いして回りました。大垣市内の高校に俳句部は無く、多くの高校で協力は難しいと言われ、気落ちすることもありました。
 しかし、その中でも、大垣北高校、大垣東高校、大垣商業高校、大垣工業高校の4校がこの主旨に賛同して下さり、大垣地方予選大会の開催に名乗りを上げることが出来ました。
 それから俳句指導員とともに、月1〜2回高校を訪問し、俳句づくりやディベートの練習を行いました。練習を通じて、生徒との信頼関係が出来るまでに、3か月はかかったと思います。3か月もすると、季語も定型も知らなかった生徒が、学校生活の中で感じたことを率直に、そして力強く俳句に詠み込めるようになりました。私は、俳句に取り組む高校生をメディアで取り上げてもらうため、新聞社やケーブルテレビに取材依頼をしました。放課後にひとつの教室に集まり、俳句の作成や鑑賞など練習の様子がテレビなどで取り上げられたことで、大垣市内で「俳句甲子園」という言葉を耳にする事が多くなりました。
 岐阜県には俳句甲子園常連校の飛騨神岡高校があり、大垣の高校が松山の全国大会に出場するには、飛騨神岡高校に勝つことが求められます。
 もうひとつの方法として、参加7チーム以上になれば、大垣地方予選大会が2会場開催となり、どちらか1会場で大垣の高校が全国大会に出場できるため、2会場開催を目標に締切りぎりぎりまで、高校訪問を行いました。
 そんな努力が実り、大垣地方予選大会で2会場開催が決まりました。しかし、ほっとしたのもつかの間、大垣地方予選大会に飛騨神岡高校と三重県の強豪、高田高校がエントリーしてきました。もし飛騨神岡高校と高田高校が抽選の結果別々の会場となれば、大垣の高校が全国大会に出場する可能性はかなり低い確率となります。私は運を天に任せるしかありませんでした。
 そして、6月14日俳句甲子園大垣地方予選大会当日、いよいよ運命の各会場の抽選の結果発表です。
 厳正なる抽選の結果、第1会場はすべて大垣の高校となりました。白熱した、大垣地方予選大会の結果、第1会場「大垣東高校」第2会場「飛騨神岡高校」が勝ち抜き、8月の松山への切符を手にしました。次回は全国大会です、ご期待ください。


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まつやま俳句でまちづくりの会通信


第43回 文と写真 正人

恒例「まる裏翌日吟行会」下見編
『伊丹十三記念館』へ行こう

 高校生以外のためのまる裏俳句甲子園、通称「まる裏」は次回で第13回を迎える。毎年、全国各地から俳句ファンが集まるこの機会。せっかくだから翌日には吟行会もやろうじゃないか、ということで数年前から「まる裏翌日吟行会」が実施されている。
 2015年の吟行会は昨年に続き、美術館吟行を行う。行き先に選んだのは松山市にある「伊丹十三記念館」。伊丹十三は多彩な経歴(映画監督、俳優、エッセイストその他様々)を持ち、愛媛とも縁の深い人物なのだ。
 しかもこの「伊丹十三記念館」、館内にカフェがある上に、徒歩2分の場所に食事の出来るお店がある。「吟行をする以上、うまい飯と句会は外せまい」と欲望に忠実なmhmメンバーは一も二もなく吟行地の下見に乗り出したのだった。

 9月6日(土)朝10時50分。下見に集まったのはあねご、キム、雪花、正人の4名。市内からバスで約20分。停留所で降りるとすぐに建物が見える。川沿いの敷地はまだ残暑の暑さ。その中に、黒を基調にしたシックなデザインの建物が鎮座している。
 アプローチ脇の車庫には伊丹十三の愛した英国車「ベントレー」が展示されている。車庫の柱には伊丹自身のエッセイから引用した解説文の刻印。すぐ近くまで迫って見られる展示や軽妙な語りのエッセイが親しみを誘う。
 館の中に入るとチケットを購入して右手へ進む。最初の部屋は常設展示室だ。扉が開くと、いきなり人の顔が現れる。笑顔の写真。「やあ、いらっしゃい」と吹き出しがついている。伊丹十三本人の写真だ。
 常設展示室では彼の名にちなみ、13のコーナーが設けてある。テレビマン 料理通 猫好きなど、映画監督 俳優としてのみならぬ彼の魅力が細やかに紹介されている。
 中でもイラストレーターとしての活動を紹介するコーナーでは手まわし式のイラスト閲覧台が面白い。天井まで伸びる白い帯が手回し式の装置に繋がっており、手元のハンドルを回すと、帯に描かれた絵が次々に現れる仕組みだ。展示内容だけでなく、展示の仕方そのものを楽しめる美術館は吟行にはうってつけだろう。
 展示の工夫は絵だけに留まらない。テレビマン CM作家時代の活躍を紹介するコーナーでは当時のCMやTV番組を実際に資料として放送している。CM一つ作るにあたっても人を驚かせる 楽しませる工夫が凝らされたメイキングは一見の価値ありだ。
 続く企画展示室には、時期に応じて毎回独自のテーマを設け、掘り下げた内容を展示している。1月12日(月 祝)の吟行会本番ではどんな内容になっているか楽しみだ。
 企画展示室を抜けると館の中庭に出て、観覧は終了となる。庭に面したカフェで温かい飲み物を飲むのもいい。
 吟行会の参加費は入場料 食事代を含み2000円強となる予定。多くの方と句座を囲めれば幸いだ。


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)またはFacebook(http://www.facebook.com/mhmhaiku)まで。


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俳句の街 まつやま
俳句ポスト365


協力 松山市

「俳句ポスト365」は松山市が運営する俳句の投稿サイトです。
毎週新しい兼題が発表されます!

http://haikutown.jp/post/


優秀句
平成26年8月度


【炎天】
《地》
炎天裡釜朦朦と塩の華 めいおう星
炎天にこれより煮出す豚の骨  ポメロ親父
炎天下ギザの水売り声嗄らし 公毅
濁音を吐く炎天の鴉なり 葦信夫
炎天を報道ヘリの掻き毟る 牛後
炎天や鋸引くやうな犬のこゑ  写俳亭みの
恋文の白さで炎天を鳥は ミル
炎天やまだ突っ立って太陽の塔  ねこ端石
炎天の角を曲がるとはや戦前 可不可

《天》
幾度も炎天を落ち棒高跳  樫の木


【夏深し】
《地》
伊能図の空白に居て夏深し 根子屋
保津川図屏風左隻に夏深し とおと
夏深し骨が横たふ展示室 蘭丸
夏深し印度更紗の碧い鳥 露玉
夏深む荘の玻璃戸の潮湿り 松本だりあ
筆洗の水の鈍色夏深し ぐわ
ガムシロップ垂れゆく夏の深さまで  塔山音絵
夏深しおさびし山の風をまつ  ちびつぶぶどう
錫杖の列往く夢や夏深し 雪うさぎ
夏深し46サンチ砲は電車になった夢を見る  ねこ端石

《天》
夏深し海の底めく閉架書庫  可不可


【法師蝉】
《地》
仏壇の金箔暗し法師蝉 とりとり
法師蝉ピース一本供えけり あい
法師蝉空の手前で落ちてしまう ミル
つくつくぼうしつくつくのときぶるぶるす  塔山音絵
油臭き木の電柱や法師蝉  クズウジュンイチ
ぼた山は熱を孕みてつくつくし 七草
はじまりはをはるはじまり法師蝉 野風
またひとつひこーきおちて法師蝉 花屋
この秋があの秋となるつくつくし じろ

《天》
法師蝉船霊さまへ申し上ぐ  亜桜みかり


【猿の腰掛】
《地》
まだ樹皮を猿の腰掛噛んだまま  大塚迷路
胞子吹く猿の腰掛ごと倒す 理酔
猿の腰掛といふ死に近きもの  クズウジュンイチ
ひとつだけサルノコシカケあたたかい  有櫛
狼煙守猿の腰掛焼べにけり 可不可
猿の腰掛老師はいつも「沒問題」   樫の木
年寄りばかりですからと神棚に猿の腰掛  ねこ端石
(株)猿の腰掛兄弟社 葦信夫

《天》
さるのこしかけさうここからは蟲ノ国  とおと



9月の兼題

投句期間:9月25日〜10月1日
万年青の実【晩秋/植物】
万年青(おもと)はユリ科の常緑多年草。江戸時代から観賞が流行し、変形種や斑入りなどの品種が育てられてきた。球形の実は、秋が深まるにつれて青から朱赤色に熟す。

投句期間:10月2日〜10月8日
鰡 【三秋/動物】
ボラ科の魚で、浅瀬や湾内に生息する。長崎などでは卵巣から“からすみ”を作る。成長にしたがって名を変える出世魚で、特に大型のものをいう「とど」は、「とどのつまり」の語源でもある。

投句期間:10月9日〜10月15日
黄落【晩秋/植物】
イチョウ、ナラ、クヌギなどの、秋になって黄色くなっていた葉が、秋の終わりが近づき散り落ちる様。それぞれの木に、それぞれの趣がある。

投句期間:10月16日〜10月22日
夜寒【晩秋/時候】
冬まではまだ少し間がある晩秋、夜になって少し肌寒さを覚えること。暖房を入れるには幾分早く、着るものを増やしたり、早々と就寝したりする。

投句期間:10月23日〜10月29日
神無月【初冬/時候】
陰暦の10月のこと。古くからの俗説で、この月に諸国の神々が出雲の国に集まるため、諸国は神が居なくなるといわれ、神々が集まる出雲では神在月(かみありづき)と呼ぶとされる。


《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


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一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成26年8月度


【みどりの冬】
溜息とみどりの冬を鋤き込みぬ 妙
鍬先にみどりの冬の食らいつく 稲穂
みどりの冬納屋のわずかの糧かわく  篠原そも
みどりの冬土間の野良着の生乾き 痛快
血管を青くみどりの冬の雨 野風
翅青く縮れみどりの冬の羽化 妹のりこ
みどりの冬犬の足跡だけの畑 とうへい
みどりの冬山の獣は尾を立てて 人日子
ウリ坊の重なりおうてみどりの冬 笑吉

《天》
みどりの冬かつて祖父母に赤い夏  牛後


【鮓】
祝言のまことに長き穴子鮓 篠原そも
指揮官は伯母棟上の鮓七升 抹茶もなか
鮓を押す法事の厨沸き立ちて  ひなぎきょう
喪が明けてよりの淋しき鮓の石  ターナー島
鮓めしを扇ぐ子供の前のめり 烏天狗
鮓食わす放浪癖は夫に似て 連睡
空の鮓桶戸口に積まれ昼のBAR ふづき
柿の葉鮓吉野の午後は晴れらしき  若草俳句会 風
幕間の膝にころがる稲荷鮓 小雪
押鮓や七福神の包紙 蓼虫

《天》
中部 〜関西
御詠歌は少し端折って散らし鮓  青花

京都 西日本
鯖鮓の一本あます夕まぐれ

京都
鱧鮓の骨カリコリと一周忌

大阪
ばってらを買いて渡しの舟を呼ぶ

兵庫
穴子鮓押して封ずる癇の虫


※夏井「各地の名物鮓で俳句を作っていたら止まらなくなりました、というたくさんの俳句にまとめて天を差し上げます。」


【盆路】
盆路や初めて鎌を扱いぬ マーペー
盆の路忘れておりぬ鎌二丁 エノコロちゃん
盆路を刈りし匂いの総身に ターナー島
無縁墓の横に草投げ盆の路 なおき
盆の路錆びて黒ずむ鎌を振る なおき
豪快に鎌振り下ろし盆の路 なおき
沈黙の男三人盆の路 なおき
盆路の軽トラ二杯草の山  旧重信のタイガース
盆路のここに爆弾落ちたらし  旧重信のタイガース
生意気だった弟に不器用な盆路を作る  日暮屋
盆路刈り進みまたここも人の絶えた家  日暮屋
盆路の仕上げは婆のお墨付き 殻嵩はるお
盆路と半ば重なり獣道 ポメロ親父
盆路の先霊峰の輝けり 樫の木
赤錆の色濃き蛇口盆の路 みいみ
道はすべて盆路となり憲法九条 ねこ端石

《天》
頂上に出会い盆路出来上がる  めろめろ


【俳句甲子園】
俳句甲子園差し入れのタルト百 ふづき
披講してどよめく俳句甲子園 ひでやん
次の句が分かれ目俳句甲子園 ひでやん
俳句甲子園固唾を呑んで最終句 一走人
俳句甲子園カレーかっ込み戻る席  やのたかこ
俳句甲子園敵将暴れ駒の異名  ドクトルバンブー
俳句甲子園主力の二人水疱瘡 チロリン
俳句甲子園石ころの声星の声 菜々枝
俳句甲子園終えてお城は月祀る 篠原そも
句帳に連れ帰った俳句甲子園の余熱  日暮屋

《天》
俳句甲子園朱夏に止めを刺しに行く  空見屋


【硬】
蚯蚓鳴く硬骨魚類大辞典 ほろよい
秋草硬く反芻の牛光る 篠原そも
山河荒れ厄日と記す硬きペン いそこ
秋冷の喉へ名水てふ硬度 野風
白露の朝硬直してゆくお母さん 菜々枝
風鈴や硬骨の氏と讃えられ もも
硬質な日を沈ませてかなかなは 妙
夜は硬い球形釣瓶落しかな  ドクトルバンブー
青白き月の硬さを計りたし 鍛冶屋
福島の齧れば林檎硬し硬し 樫の木
強硬か否か悌梧の揺れやまず だんご虫

《天》
我硬派なれど二星の位置を知る  不知火



※ 掲載の俳句は、有志によって朧庵(http://575sns.aritani-mahoro.com/)の掲示板「落書き俳句ノート」に書き込まれたラジオの聞き書きをもとに活字化したものです。俳句ならびに俳号が実際の表記とは異なっていたり、同音異義語や類音語などで表記されてしまっている場合がありますのでご了承ください。



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

10月12日

季語ではない兼題です。「磨」の字が詠み込まれていれば、読み方は問いません。季語は当季を原則として自由に選んでください。

芋虫【三秋/動物】
蝶や蛾の幼虫のうち呼び名のとおり主に芋の葉によく付いているものをいう。体長5cm程でころころと太っており無毛。毛虫や青虫、尺取虫などとは区別される。

10月26日
蕪【三冬/植物】
アブラナ科の根菜。原産はヨーロッパとされ、中国中部から西日本に渡来したアジア型と、シベリアや朝鮮から東日本に渡来したヨーロッパ型に分類される。

千歳飴【初冬/人事】
11月15日の七五三に、縁起物として食べられる飴。子供の長寿を願った細く長い飴は、縁起の良い紅白で着色されており、鶴亀などのめでたい絵柄の袋に入れて売られる。



《参考文献》『カラー版 新日本大歳時記』(講談社)


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100年俳句計画 掲示板



NHK総合テレビ(四国四県)
 しこく8「学生俳句チャンピオン決定戦! 2014 俳都松山の陣(仮)」
  10月31日(金)19時30分〜

NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  10月7日/21日(火)11時40分〜

あいテレビ(TBS系列、全国)
 『プレバト!!』
   隔週木曜 19時〜20時49分
  9月4日&9月18日予定
※組長がゲストの俳句ランキングづけで出演! 放送日番組欄を要チェック!

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
 兼題「敗荷 鯔」10月12日〆
   「冬支度 セロリ」10月26日〆
 インターネットでも配信中。詳しくは番組webサイトへ。
  HP http://www.baribari789.com/
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)、住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム チャンヒのイラストポストカードが贈られます。


執筆
松山市の俳句サイト「俳句ポスト365」
http://haikutown.jp/post/
 毎週水曜締切/翌週金曜結果発表

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

ジュニア愛媛新聞スマイル!ピント
 「集まれ俳句キッズ」
※ 毎週日曜発刊タブロイド判8ページ

朝日新聞愛媛俳壇(9月〜夏井選開始)
 投稿は葉書1枚に5句以内(未発表句)。裏面に作品と共に住所、氏名、電話番号を明記。朝日新聞松山総局(790ー0003 松山市三番町4ー9ー6 NBF松山日銀前ビル)まで。

愛媛県《吟行ナビえひめ》句&写真
 俳句選者:夏井いつき
 写真選者:キムチャンヒ
【募集期間】毎月1日〜 25日前後締切
【応募先】http://www.iyokannet.jp/ginkou/
 各季節上位4句(年間16句)には「愛媛県の旬な贈り物」をプレゼント。
【テーマ(兼題)】10月のしまなみ
(当地周辺でみつけた季語なら何でも可)
【問い合せ】愛媛県観光物産課
TEL 089ー912ー2491

俳壇11月号(10月14日発売)
 巻頭エッセイ 俳句甲子園について寄稿


句会ライブ、講演など

さくら学院公開授業
 10月4日(土) TFTホール

松山青年会議所シニアクラブ全国大会エクスカーション「坂の上の雲をめざして 俳句のまち松山探訪」
 10月11日(土)松山城〜道後

西条TKCアカウントレディース研修会句会
 10月14日(火)大和屋別荘

日帰り写真俳句吟行の旅
 10月18日(土)石手寺(キム)
 10月19日(日)大山寺(夏井&キム)
 ※今年は四国霊場1200年に因み、お遍路体験と写真俳句作り。詳しくは左記まで。
 ※松山はいく事務局 089ー945ー6445

第50回全日本不動産会議愛媛大会
 10月22日(水)ひめぎんホール

北宇和郡鬼北町句会ライブ
 10月26日(日)

日本石材産業協会中国 四国地区全体会議句会ライブ
 10月28日(水)

美須賀小学校4校合同句会ライブ
 10月31日(金)



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魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

句集スタイル全評文!
 なんて幸せな句集と作者でしょう。朗善さん、素晴らしい評文を有難うございました。小さな感動を大切にこれからも作句していきます。(松本だりあ)
編 自分の句集が誰かの手に取られるという喜び。評文を読んでひとつでも気になる句集ができてくれれば幸いです♪

去る7月のボウリング
 先日のボーリング大会では、三瀬社長、キム編集長さんには大変お世話になりました。楽しいひとときをありがとうございました。また、同組だった「竜胆さん、きとうじんさん、ひでやんさん」とは初対面でしたが、相手を思いやる優しい心配りに感心させられました。また、ペアでゲームを戦ったマーペーさんはやさしく素敵な方で、力を合わせて好成績を上げる事が出来ました。これからも「いつき組」の皆さんと、機会があればご一緒したいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。(ターナー島)
編 去る7月26日のボウリング大会。久しぶりにやると楽しいですね〜。ちなみにマーペーさんの旦那さん 日暮屋さんはぎっくり腰で悲惨な状況だったらしい(21ページ参照)。

突発企画「天の句いろはカルタ」 発案者 北伊作さんより
 前略 早速採用して頂き誠に有難うございます。
 さて「ん」「ぬ」「る」「を」「ゐ」「ゑ」の文字の件ですが、皆さんのどんな秀句が集まるか大変楽しみです。宜敷くお願いします。(北伊作)
編 アブク限定のお遊び企画になろうかとは思いますが、どうぞ宜しくお付き合い下さい。

天の句いろはカルタ
兼題「ん」で始まる句
編 さて、兼題に無理がある「ん」。応募あるんか?と思ってましたが何句か届きました。入稿リミット9月18日時点で届いた句をご紹介。

 投句一覧(計7句)

ンジャメナで続くしりとり春炬燵
ンジャロンジャロキリマンジャロの雪光る
ンジャメナの月を眺むる駱駝かな
んで始まる言葉遊びや天高し
んの言葉言ひて負けたや汀女の忌
んに似る也の草書や鰯雲
「ん」と言うたきりで西日の治療室

編 前回、募集締切が曖昧だったのでここで告知。兼題「ん」の締切は9月末日とさせて頂きます。来月号アブクで全句一覧を掲載しますので、好きな句を一つ選んで選評をお寄せ下さい。投句 選句の投稿はmagazine@marukobo.comまで、件名を「天の句いろはカルタ」としてお送り下さい。

「天の句いろはカルタ」蘊蓄編
 たぶんチャド共和国の首都ンジャメナの句がそうとう来てるだろうと思い、いろいろ探したところ、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロはキリマ(山) ンジャロ(白く輝く)だということを知りました。標高5895mの山頂は氷雪に覆われていて氷河もありますが、近年、地球温暖化の影響で小さくなっているそうです。でも、ほぼ赤道直下でギラギラ照りつける太陽の光を受けて雪が光っている不思議な光景を実際に見てみたいですね。(ンジャロの作者)
編 まさか他にも「ん」で始まる語が!? 初めて見ました、その切り口(作者がバレるので名前は伏せときます)。最近テレビで見ましたが、山頂の氷河は20年後には消滅してしまうのだとか。おそろしや温暖化。登るなら今だ!

天の句いろはカルタ 原案 ※北伊作さんより。「私が私なりに作者がカブラない様に作りました」とのこと。壮観。
〔い〕 色という色あつまって夜店かな ミズスマシ
〔ろ〕 ロンドンは晴日本の余寒かな 紅孔雀
〔は〕 春寒やこんちくしようと石を蹴り 新居浜のトンボ
〔に〕 ニュース見る本日の鮭しょっぱかり 斉藤由鈴
〔ほ〕 ポインセチア十九二十の頃の事 唐変木
〔へ〕 ヘルメット脱いで河鹿を聞く女 桂雪
〔と〕 当初より目付きの悪き福達磨 めろめろ
〔ち〕 蝶休むかたち入江のヨット群 さわらび
〔り〕 離陸する45に風光る 草心
〔ぬ〕 
〔る〕 
〔を〕 
〔わ〕 私は大地の子です夏の河 むうん
〔か〕 枯園をゆく不機嫌な猫になり まりん
〔よ〕 よもぎ餅良く食べ田舎嫌いけり 伊予市のエプロン
〔た〕 体育の日のアテネまで続く空 オペラオー
〔れ〕 連敗やパイナップルが甘すぎて 天玲
〔そ〕 蕎麦掻をねる中指の爪に土 ちろりん
〔つ〕 月見草眠りの船の舵をとる 緑
〔ね〕 猫の恋ガードレールの擦過傷 美和
〔な〕 苗木市夕日に値下げしてくれぬ 常痔照れまん
〔ら〕 羅生門閉じる薄暑の停留所 みさこ
〔む〕 むしり喰う流刑の島の干鰈 理酔
〔う〕 茴香の花カタカナは読めた母     ちび桜80ん才
〔ゐ〕 
〔の〕 野焼き終ふ降り出す雨を誉め合うて ポメロ親父
〔お〕 狼の耳した少年探偵団 冴戒椎也
〔く〕 暗き窓何もうつさぬ夜学かな 音吉
〔や〕 焼き芋のしっぽくらいの未解決 夏秋
〔ま〕 まなうらに雪輝けり点字読む ミスター菊池
〔け〕 けいとうや母の大事な箱一つ 友鈴
〔ふ〕 ふくろうに問わず語りの昨日かな マトムくん
〔こ〕 こほろぎや男は家を捨てたがる からすのカー子
〔え〕 枝豆や酒屋の隅に放浪記 だんご虫
〔て〕 天道虫宇宙の果てはたぶん此 モモ
〔あ〕 あの船はロシアをめざす月見草 やよひ
〔さ〕 さくらさくらせんかんやまと裂けてゆく ねこのこい
〔き〕 競漕の声を捉えし双眼鏡 きとうじん
〔ゆ〕 夕方のハンカチ靴底に小石 有馬まりあ
〔め〕 女正月締りの甘い勝手口 睦
〔み〕 みのむしやオカリナおくる誕生日 てんさいラジオくん
〔し〕 指名手配ポスター虻の凝視せり 凪太
〔ゑ〕 
〔ひ〕 引鶴や礼儀正しき薬売り 酒洛
〔も〕 黙祷のサイレン遠し水着干す 稲穂
〔せ〕 節分や家出のすすめ読み終えて 西原みどり
〔す〕 するするとひかる噴水音持たず 岩宮鯉城
〔ん〕 



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鮎の友釣り

195
俳号 てんきゅう

名前の由来 天使とキューピッドのハーフなので、てんきゅうと名乗っています。妖精科に属します。背中に羽根が生えているので一所に留まれず落ちつきがありません。今日は俳句、明日は芝居、次は韓流コンサート……。誰か私を捕まえて下さい。

写真 去年の初雪盃ジャズライブで見事キムさんの絵をゲットしました。宝物です。俳句はエロいですが……、句柄ですからしょうがない。

次回…光海さんへ 次回はジャズ句会、土曜カルチャーでご活躍の光海さんです。フェイスブックにアップされる風景写真がとても優しくて大好きです。


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告知


夏井いつきとあなたも一句!
俳句新聞いつき組
復刻創刊
2015年1月発刊!

A4サイズ8ページフルカラー仕様
参加登録料(※初回のみ)1,000円(税込)
年間購読料 3,500円(税込)/年4回発行
*年1回、夏井いつきの句集シングル付録あり。

2015年1月の発刊に先駆けて
俳句新聞いつき組0号を無料でお届けします!

無料の創刊準備号でひと足先に『俳句新聞いつき組』に参加しよう!!

俳句新聞いつき組0号(創刊準備号)
A4サイズ1枚両面フルカラー仕様

0号はこんな内容
1 番組プロデューサーが語る「プレバト!!」の裏も面白い!
2 夏井いつきの俳句とエッセイ「放歌高吟」
3 1号に向けて読者から「雪」の俳句を募集 「雪の座」投句募集
……などなど、お楽しみ満載!

「0号」お申し込み方法

0号申し込みの旨、本名(ふりがな)、俳号(無ければ不要)、郵便番号、住所、電話番号を明記して、下記のいずれかの方法で申し込んでください。また、『俳句新聞いつき組』へのメッセージ等ございましたら、ぜひ書き添えてください。(メッセージは紙面上で紹介させていただく場合があります。ご了承ください。)

 ハガキで申し込む
  790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
  有限会社マルコボ.コム
  「『俳句新聞いつき組』0号申込」係

 FAXで申し込む
 FAX番号:089−906−0695

 メールで申し込む
 kumi@marukobo.com
 (件名を「いつき組0号申込」としてください。)

※『俳句新聞いつき組』1号以降をご購読いただくには別途のお申し込みが必要です。お申し込み方法についての詳細は0号ならびに今後の俳句マガジン『100年俳句計画』誌上でご案内いたします。

※本誌をマルコボ.コム直販で定期購読されている方には、お申し込みの有無にかかわらず次号のお届け時に0号を同封してお届けします。
※既に0号をお申し込みいただいている方にも、お申し込み頂いた分とは別に別途同封いたします。また次号への同封以降も、お申し込みいただいた方には別途お届けいたします。なお、いち早く0号を入手したい方は、本誌次号の発送前に0号の発送が開始される予定となっておりますので、ぜひ事前に0号をお申し込み下さい。



HAIKU LIFE 100年俳句計画
第4回
大人のための句集を作ろうコンテスト
作品募集

主催 マルコボ.コム 共催 朝日新聞社 松山市教育委員会(予定)

 第四回「大人のための句集を作ろう!コンテスト」(通称「大人コン」)の作品募集がスタートしました。
 「大人コン」は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』が開催する俳句コンテストです。
 共催 朝日新聞社 松山市教育委員会(予定)

「受賞作品が句集になるってホントですか」
 最優秀賞作品は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』の付録冊子として読者諸氏に広く読んで頂きます。付録とはいえ、お洒落なデザインの句集だと評判です。
 受賞者には一切の金銭的負担をかけず、読者にとっても安価な句集をどんどん生み出していきたいという志を一つの形にしたのが、この企画なのです。

「俳句マガジンを購読してないんですが、コンテストへの応募はできますか」
 どなたでも応募できます。購読の有無は一切関係ありません。勿論、応募は無料です。

「審査は誰がするのですか」
 本コンテストの受賞者は、「大人コン」選考会員の投票によって決まります。「大人コン」選考会員は、月刊俳句マガジン『100年俳句計画』購読者の内、各総合誌等の俳句賞受賞者あるいは最終選考に残った実績のある人たち等によって構成されます。第二回の有資格者は三十二名。年々選考会員数は増えていくことになります。
 多くの目利きの力を借りて「百年先の未来に残したい作品と作家」を見い出し顕彰していくことが「大人コン」の目的。我こそは!という皆さんのご応募を、心からお待ちしております。

既作新作を問わず81句の作品集を募集。
最優秀賞作品は句集にし、本誌付録として配布します。

募集要項

応募資格
15才以上(高校生以上)の方なら、本誌購読の有無に関係なく、どなたでも応募できます。

応募方法
1:Eメールでの応募の場合
応募用のエクセルファイルに必要事項を全て入力し、Eメールの添付ファイルにして、応募して下さい。
応募用ファイルのダウンロード先
http://81ku.marukobo.com/

2:郵送の場合
B4判四百字詰め原稿用紙に81句とその表題、俳号、本名、年齢、住所、電話番号を必ず明記して応募して下さい。

締め切り 2014年12月10日(水)必着

賞 賞状および応募作品による句集20冊
*賞品句集は縦横135ミリメートル 36ページとなります。句集は本誌付録として配布します。

発表 本誌2015年4月号誌上(予定)

送り先
〒790-0022 愛媛県松山市永代町16ー1
有限会社マルコボ.コム
月刊俳句マガジン『100年俳句計画』編集室Eメール:81ku@marukobo.com



第三回 
俳句対局 龍淵王決定戦
出場者&観覧者募集中!!

 俳句対局とは、囲碁や将棋の対局戦を模した、一対一の句合わせ対決の句会です。只今、出場者を募集しています。

日時:11月1日(土)14時〜(13時30分開場)

場所:松山市立子規記念博物館4F和室
 ※出場が決まった方は、当日はスーツや着物にてお越し下さい。観覧のみの方は、服装の指定はありません。

参加申込 問い合わせ先
 氏名〈俳号〉 連絡先 申込み人数をお知らせ下さい。
 申込はinfo@marukobo.comまで



100年俳句計画
季語付スケジュール帳の
俳句甲子園バージョン登場

10月1日販売開始
定価 580円(税込)

A5サイズ 48ページ

*内容は本誌年間購読者へのプレゼントと同じです。
*ビニールカバー付



選評大賞2014

今年も選評大賞を行います。300字以内でビシッと決まった選評をお寄せください。審査は例年通り、堀内統義、中西淳、夏井いつきの3名が行います。
多数の応募をお待ちしております。

応募方法

選句の対象となる句
  「100年の旗手」掲載句(2013年10月号〜2014年9月号)の中から、心を打たれた俳句を1句選んで、選評をお寄せ下さい。

記載事項
  掲載句1句(掲載号、作者名を必ず明記)
  選評 20字×15行(300字)以内厳守(多すぎても少なすぎても減点の対象となります)
  俳号、本名、住所、電話番号(必ず明記)

最優秀賞 賞金1万円(来年の「大人のための句集を作ろうコンテスト審査委員会」への参加資格も得ます。)

優秀賞(数名) 賞金3千円

締め切り 10月20日(月)必着

応募先 100年俳句計画編集室まで、ハガキ 封書 FAX メールでお送り下さい。

送付の際、件名 タイトルに「選評大賞2014」と明記下さい。

ご応募の際、他の投稿とは別にお願いいたします。

結果は2014年12月号にて発表します。



12月の第1土曜日は恒例の
100年俳句計画大忘年会のお知らせ

毎年12月の第1土曜日は「大忘年会」の日。今年も盛大に開催いたします。
抱腹絶倒まちがいなし。たくさんのご参加をお待ちしています。

日時
平成26年12月6日(土)
18:30〜21:00(予定)
※正式な時間は次号、及びハガキで
ご確認ください。

場所
いよてつ高島屋
9F ローズホール
愛媛県松山市湊町5丁目1−1
089-948-2111(代表)

会費
 大人 6,500円
 大学生以下 4,000円
 小学生以下 2,500円

参加申込締切
11月21日(金)必着!

参加方法
 忘年会参加希望の旨と、郵便番号 住所 氏名 俳号 会費区分(大人/大学生以下/小学生以下) 連絡先電話番号を明記して、ハガキ、FAX、Eメール、または電話にてお申し込み下さい。ご家族等複数でお申し込みの場合は、代表の方の〒住所 連絡先電話番号に加え、全員の氏名 俳号 会費区分をお知らせ下さい。

★投句 投稿に添えてのお申込はご遠慮ください。
※受付対応が遅れる場合があります。

 お申し込みをいただいた方には順次、受付完了をお伝えするハガキを郵送いたします。
※締切までにお申込いただいた方で、11月28日(金)までにハガキが届かない方は、お手数ですがマルコボ.コムまでご連絡ください。

問い合わせ 申し込み先
(有)マルコボ.コム
〒790-0022 愛媛県松山市永代町16-1
TEL 089-906-0694
FAX 089-906-0695
E-mail magazine@marukobo.com



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編集後記


 現在「百年百花」にて連載中の眠さんの前の俳号はふじみん。そのふじみんこと岡田一実さんが、第32回現代俳句新人賞を受賞された。
 ふじみんがメインに活動している句会は、中年ジャンプ句会と象さん句会。先日行った中年ジャンプ句会では、ふじみんの受賞をみんなで分かち合った。
 本誌「句会カレンダー」にも案内されている中年ジャンプ句会は、
毎月7句出しの雑詠句会である。ふじみん以外にも本誌で活躍中の桜井教人さんやマイマイさん、今年の大人コンの優秀賞を受賞した日暮屋さんに、大抵の季語のことを知っているポメロ親父さん、ジャズ句会の蛇頭さんほかが参加している。
 この句会に特徴があるとすれば、必ず実験的な句を投句こと。7句の内2句は、そんな句を入れ、その実験の検証を行う点にある。従って、清記用紙の2〜3割は、見たことのないような俳句が占める。超絶的に面白い句もあれば、どう判断して良いのか分からない句も沢山現れる。そんな中に、次世代の俳句の芽が潜んでいる。
 ふじみんは受賞を機に、句集を編むことになった。11月初めに完成する。これも楽しみ。
(キム)


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次号予告 (204号 11月1日発行予定)


次回特集
俳都松山宣言

去る8月25日俳句甲子園17回大会を記念して行われたシンポジウム「俳都松山宣言 〜十七音が世界を変える〜」の報告を行います。


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2014年10月号(No.203)
2014年10月1日発行
価格 617円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子