100年俳句計画7月号(no.176)


100年俳句計画7月号(no.176)

注意
これは視覚障がい者の100年俳句計画年間購読者のためのテキストファイルです。
通常の著作物と同様、許可無く複製/転載することを禁止します。





目次


表紙リレーエッセー
俳句甲子園の思い出 ゆき


特集
学校での俳句の種蒔きから大人も楽しむイベントまで 句会ライブアラカルト



好評連載


作品

百年百花
 渡部州麻子/理酔/キム・チャンヒ/加根兼光


100年俳句計画作品集 100年の旗手
 大五郎/ターナー島/まりん

百年琢磨 しなだしん


初学道場 へたうま仙人

雑詠道場 くらむぼんが笑った

放歌高吟/夏井いつき

新100年への軌跡
 俳句/希望峰/宮下航
 評/桜井教人/とりとり


読み物
私たちの100年俳句計画

Letter from spider garden/ナサニエル・ローゼン(訳:朗善)
JAZZ俳句ターンテーブル/蛇頭
ラクゴキゴ/らくさぶろう
本家 慶弔俳句帖/桃ライス
お芝居観ませんか?猫正宗
まつやま俳句でまちづくりの会通信/暇人

一句一遊情報局
句集の本棚

読者のページ
選句&投句欄 ザ・句会
100年俳句計画掲示板
魚のアブク
くざとも
鮎の友釣り
告知
編集後記
次号予告




表紙リレーエッセー


俳句甲子園の思い出
ゆき

 八月には、「俳句甲子園」が始まる。三年前に観戦した。商店街での予選。真夏。西村和子先生は首に「ひんやりシート」を貼ってらっした。坊城先生は首にタオル。高校生も採点の先生方も汗にまみれての戦い。もちろん我々観戦者も、「熱中症にご注意くださあい。水分補給を忘れずに」とスタッフの方からの注意をうけながら。本選の会場は多くの先生方と応援隊、「優勝するぞ」の意気込み満載の高校生の熱気で暑い。言葉の多様さ、巧みさ、表現力の高さに圧倒され、感動しまくった。印象的だったのは、ある先生の「選をするのは真剣、自分の選が良いのか悪いのか旗をあげる時は恐い」というお言葉。プロを震えあがらせる魔物の甲子園。又行きたいなあ。(あの暑さを思い出さないようにして)そして何よりこの「100年俳句計画」と出合わせてくれた御礼の意味もこめて……。


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特集

学校での俳句の種蒔きから大人も楽しむイベントまで 句会ライブアラカルト


文 キム・チャンヒ


 毎年全国各地で行っている、「夏井いつきの句会ライブ」。僕も賞品の即興俳画担当として、ついて行くようになり、10年を超えた。しかしまだ、「句会ライブって何ですか?」という質問を受けることがある。句会ライブの魅力を一言で説明するのは難しい。参加して貰うのが一番、もしくは、夏井いつき著の「五七五だからおもしろい! 100年俳句計画」(2007年・そうえん社)を読んでよ、と言いたいところ(笑)。まずは句会ライブ入門ということで、最近の句会ライブを三つ紹介する。


 「句会ライブ」を一言で言えば、大人数で楽しめる句会。と、言いつつ、本誌読者の中には、一度も句会に参加したことがないという人もいるだろうから、まずは句会の説明。
 句会にはいろいろなやり方があるが、大抵、数人〜数十人が俳句を持ち寄り、その俳句を作者が分からないように書き写して、そこから好きな句を選び合う。句会の楽しみは、もちろん自分の持ってきた俳句が他の人に選ばれるかどうかというところがまずあるが、それにくわえて、誰がどんな俳句をどんな理由で選んだかという、講評にある。一つの俳句でも人によって捕らえたかが違ったり、ロマンチックな俳句に思いも寄らぬ作者が現れたりと、意外なことが起こるのが句会。そんな人と人との交流が楽しめるのが句会の魅力でもある。
 句会ライブは「俳句なんて難しそうで私には関係ない」と思っている人に対して、そんな句会や俳句の面白さを伝える新しい形の句会。

学校編
 2012年5月31日
 岐阜県大垣市立静里小学校

*前半戦 俳句入門
 句会ライブは、学校で行うことが多い。ほとんど俳句を作ったことがない子どもたちが集まっているので、俳句の簡単な作り方から教えることから始める。
 本誌の表紙裏にも掲載されている、

 五音の季語
   +
 十二音の季語とは関係のないフレーズ(俳句の種)

という取り合わせの基本の公式を説明。俳句の種に、伝えたい気分に合わせて、「風薫る」または「梅雨曇」の季語を選び、俳句を作る。俳句を作る制限時間は、5分。投句が終了した子どもたちから、15分の休憩に入る。
 通常の句会なら全員の俳句から、みんなで俳句を選び合いをするのだけれど、何百人もいるとそうはいかない。そこで休憩時間に、組長(+スタッフという名のワタクシ)が予選を行い、その中から組長選の7(〜10)句を優秀句に選ぶ。

*後半戦 句会
 まずは、優秀句から漏れた楽しい俳句を紹介。俳句を紹介するごとに笑いや歓声が起こる。そして、作者を紹介すると、再び歓声があがる。会場が盛り上がってきたところで、いよいよ優秀句の発表。
 大短冊に書かれた優秀句が登場。この大短冊には、俳句のみが書かれてあり、作者はまだ分からない。会場の子どもたちは、作者はだれだろうとドキドキしながら俳句を見つめている。ここからが真剣勝負。
 優秀句の中から上位三句を決めるため、まずは、応援したい句に手を挙げて貰う。子どもたちは、通常の句会のように、その句のどこがいいかを発表し合う。他の人の意見を参考に、子どもたちは最終的に、どの句に点を入れるかを決める。
 いよいよ点数集計。優秀句それぞれに手を挙げた人の数を集計し、この日の一位から三位を決める。そしてこのあと、いよいよ作者が明かされる。
 個人的にはこれからが出番。上位三句の俳句には、その場で巨大俳画を描くのが僕の役目。三句が決まった段階で図案を考え、その場で絵を描く。描いた絵は表彰状代わりに作者にプレゼントし、句会ライブは終了。
 ちなみにこの日の一位の句。

梅雨曇次の塁までふみだせない 颯人

 この句会ライブにとって重要なことは、俳句なんて作れないと思っていた子どもたちが俳句を作り、そして人の俳句のいいところを語り合い、最後に自分たちで一等賞を決めることである。
 学校での句会ライブでは、人前で上手に話したり、勉強が苦手な子どもが優秀賞に入ることがよくある。そんな子どもたちに貼られてしまった、本人にとっては不本意なラベルを、句会ライブを通じて貼り替えることができる。それは、子どもたちが作者を知らない状態で、自分たちで好きな俳句を選ぶという、句会ライブの手順のおかげでもある。

教員向け編
 「音俳句」句会ライブ
 2012年5月20日
 パイオニア プラザ銀座

 句会ライブが、子どもたちの心の育成に役に立ちそうだということは、経験的に分かっている。しかしそれを広めるには、いくら何百人を対象に句会ライブができるからといっても、組長の体一つでは限界がある。毎日子どもたちと接している先生方が、句会ライブをマスターし、年に数回子どもたちの楽しみとして行ってくれれば、もっと風通しの良い教育環境が生まれるのではないか。
 そんな思いではじめたのが、教員向けの句会ライブ。今回は、パイオニアプラザ銀座にて、電子黒板を活用した「音俳句」句会ライブを行った。
 先ほど説明した子どもたちへの句会ライブは、俳句初心者のためのプログラム。年に何回も同じことを繰り返すと、たちまち子どもたちは飽きてしまう。また、飽きないような教材を先生方が毎回考えるのも負担が大きい。そんな時有効なのが吟行である。
 野山や街を歩いて句作を行うことを吟行という。同じ場所でも季節が変われば風景も変わる。また、同じものを見て俳句を作っても、人それぞれに風景の切り取り方や、とらえ方が違う。「こんな風に世の中を見られるとカッコイイ」なんて思えるのが、吟行会の楽しみでもある。
 しかし、授業中に子どもたちを教室の外に放ち、俳句を作らせるのはリスクが大きい。広い場所に子どもが分散するだけで、それぞれに目が届かなくなってしまう。そこで救世主となるのが「音俳句」句会である。
 パイオニアのホームページには、Sound Lab(http://pioneer.jp/soundlab/)というページがあり、そこで毎月「音俳句」を募集している。今回はそこで紹介された音源を使って「音俳句」を作ってもらった。
 何の音か分からない「音」だけを聴いて、その場所の光景を思い描き、それを俳句にする。同じ音を聞いても、そこから思い浮かぶ光景は人それぞれに違う。その違いを評価するようにすれば、人とは違った新しい視点の俳句が生まれる可能性がある。そんな創作の醍醐味を味わうこともできる。
 今回は、教育現場に導入されている「電子黒板」を使っての句会ライブ。俳句の添削の仕方や評価の仕方を解説した。電子黒板をはじめて触った組長は、あっという間に使い方を覚え、「私が教員の時にあったら、めっちゃ便利やったのに」としきりに言っていた。
 この日一位になった句は、

ささやきもコップに注ぐ熱帯夜 陽一

 ちなみに今回用意した音は、南仏ニースの有名なホテルのバーの音。音俳句句会ライブは、音当てゲームではなく、音からどれだけ発想を飛ばせるかが重要。参加者は、音の種明かしの後、音と俳句の世界の距離を大いに楽しんだ。

 ちなみに僕も急遽、電子黒板で上位2句の俳画を描くことになった。初めての電子黒板に久しぶりに緊張したけど、意外と上手く描けた(と思う)。作者にはプリントアウトしたものを進呈した。

イベント編
 重信川自然再生・保全プロジェクト
 夏井いつきの松原泉句会ライブ
 2012年6月2日
 松山市森松町「重信川緑地公園」

 句会ライブは、学校で行うことが多いため、句会ライブ=(イコール)教育現場の教材だと思っている人もいる。しかし、普通の句会がそうでないように、誰もが楽しめるのが句会ライブ。
 今回は、河川改修のために一度は姿を消した、重信川の松原泉の自然再生・保全プロジェクトの一環として開催した。
 当日は自然を愛する俳句初心者から本誌読者の強者達まで、総勢150名が集結。俳句の作り方をレクチャーした後、清掃活動をしながらの吟行開始。約一時間の清掃活動終了と同時に投句終了。
 そして、いよいよ句会ライブのスタート。
 今回は五回戦の句合わせ対決。五回の対戦には、それぞれテーマがあり、そのテーマに合った俳句の中から優秀句二句が句合わせ対決を行った。また、事前に隠しテーマも用意しておき、そのテーマにあった俳句の中から選ぶことで、初心者も勝ち抜けられる(かも知れない)ようにした。

以下対戦結果

一回戦 テーマ 清掃
  行々子遊ぶ清掃活動日 ほろよい
勝 分別の百袋つばめひるがえる ふづき

二回戦 テーマ 泉
  松原の泉ににほふ英語かな えりんご
勝 草しげる泉をあらう手と手と手 橋田

三回戦 テーマ 羽根のあるもの
  せせらぎの糸トンボ羽水映る 柴田
勝 夏蝶と同じ高さに清掃す 游士

四回戦 テーマ 恋
  恋泉松原にふく南風 小泉
勝 在りし日の想いは枯れぬ泉かな フェス男

五回戦 テーマ 火バサミ
勝 草茂る子らは火バサミ響かせる 鈴木
  火ばさみでつつくアメンボ雨蛙 あひる

 そして勝ち抜けた五句の内、一位に輝いたのがこの句。

草しげる泉をあらう手と手と手 橋田

 作者は国土交通省の職員で、俳句初心者、恋人募集中だとのこと。会場には、小学一年生から60代の方までの、幅広い年齢層の方が参加。清掃活動から俳句が生まれ、年齢を超えて楽しんだ。
 句会ライブは、全くの俳句初心者でも参加でき、会場一帯となって盛り上がるイベントだと改めて実感した。



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百年百花


大人コン選考会員4名による4ヶ月間競詠2012年度 第一期 4回目


「くらり」渡部州麻子

薫風や吾が猫は黒真珠色
黄を尽くしをり頭取の家の薔薇
母の日をかくも大きく飯握る
雨の香や図書室は蛾の死にやすき
鏡中を薔薇沸々とたぎるなり
黒揚羽くらりと海のくつがへる
水清き国に白玉たひらげる
夏シャツの裾に拭ひしサキソフォン
夕涼や本売つて本買うてくる
誘蛾灯署名集めに来て無口
はらわたを抜かれて魚の涼しき眼
蝸牛つるむ日食前夜かな


1960年生。第8回俳句界賞受賞。句集『黒猫座』。




「ねえ」理酔

「ねえ」と覗き込む眼に夏兆す
サンダルの縫い目解れしターミナル
大夏野ミッキーマウス蹴っ飛ばす
ぺたこんと女座りの梅酒かな
向日葵が中途半端に延びている
昼の月呑み込む雲の峰の怠惰
安物の風鈴がよく鳴る朝
赤牛のだらだら群れる夏岬
踝に蛭の寄り来る田植えかな
うどん掻き込む2番ホームのアロハ
入梅を猫は匂いで確認す
犬連れて梅雨の街から梅雨の海


1960年生まれ。性別「男」。年齢「51歳」。国籍「日本」。出生地「下関市」。所在地「福岡市」。賞罰「無し」。身体的特徴「内臓完全逆位」。




「誰か」キム・チャンヒ

蟻だって独りぼっちの夜だった
軽薄を愛と信じていた蜥蜴
先生が好む白靴ほど白痴
神様を売り込むための夏の本
注射器の跡が数多の揚羽蝶
向日葵を小さく咲かす家の犬
銭湯の富士の裾野に暮らす黴
いつだって大蚊は誰かの手先
ドアを開け、またドアを開け、また開けて、蛾
悪態をつき蛞蝓を悦ばす
また誰か泉を支配したつもり
8階に夏のイルカを探す窓


1968年生、愛媛県出身。 『100年俳句計画』編集長。




「雲を重ねて空を束ねて」加根兼光

口笛やはかなきものに躑躅の葉
初夏は影の生まれるように来る
一駅で降りる鉄線花を忘る
梅雨闇の森のこだまを聴きに行く
バラード流れ三千体の蠑 の死
睡蓮の風をまとってよりの午後
七月の島戦場のような島
あこがれて薄翅蜉蝣より軽き
夕凪の全てを黙らせてしまう
クーラーのおと天上のひとのこと
サイダーの泡のひとつが昨日の夢
踏みつけしトマトに海の青残る


「悲しみは楽器のように聖五月雲を重ねて空を束ねて」
連載の題名はひとつの歌となった。
春に亡くなられた方への追悼としての連載。
俳句の表現の多様性も心にあった。
1949年生、大阪出身、第9回俳句界賞受賞。



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読者が選ぶ人気俳人!

100年俳句計画作品集 100年の旗手


(2012年7月号 〜 2012年9月号 1/3回目)


 知恵の輪 大五郎

童貞のやうに海月を愛しをり
夕焼けが好きで孤独が大嫌ひ
かき氷溶けて知恵の輪解けなくて
四桁の数字を忘る蚊に刺さる
ドラム缶錆びて孑孑ふらんふらん
蝿払ひまた蝿の来る昼餉かな
端居して端居の妻の小言など
玉の汗長男だけが叱られて
反省の出来ぬ男や心太
やはらかき遺影の前の昼寝かな


東京都あきる野市出身。松山に来て十八年、すっかり松山を気に入って永住を決意。営業の仕事の傍ら、俳句を作る豊かな日々を送っています。妻一人、息子一人、娘一人の四十二歳男性です。



 白日 ターナー島

子蟷螂足ふんばって朝の風
葬送やひらききったる山法師
ゆすら梅赤し壁画の鴎たち
指入れてみる白日の蝉の穴
水底に日のゆらぎいる麦こがし
てんと虫膝に来ている山日和
南吹く日なりぎょろ目の鍾馗さま
軽きめまいや仙人掌に花あまた
どの窓も馬が顔出す大西日
はたた神来つつありけり夜の粥


団塊の世代。エッセイ・短歌・川柳・詩との相性は良いが、感性に乏しい私にとって俳句は苦手。愛媛新聞「へんろ道」友の会会員。近未来に「愛媛の随筆大賞」を獲るのが、目下の夢。



 蛍 まりん

看護師に預けるピアス晶子の忌
留守電の点滅怖し芥子の花
白薔薇の褪せてキングは逃げ上手
守宮横切る娼館の飾り窓
街薄暑11桁の走り書
少年の腰の鍵束信長忌
蟻動く死臭は低く流れきて
諍いの飛び火逃れて籐椅子へ
五代めの僧は美声で汗かきで
蛍来よ忌中の紙を剥がす背に


広島から嫁いで早幾歳。あるときは今治三日月句会の重し(?)役。あるときはラジオバリバリの「俳句チャンネル」のちゃかし役。あるときは今治五七五実行委員会の下足番。楽しく元気に下手の横好きやってます。



読者が選ぶ人気俳人!
「100年の旗手」連載者推薦募集

 今求められているのは、読者が読みたいと思う俳句作家。「100年の旗手」は、連載する俳人を、編集室ではなく、読者が選ぶコーナーです。
 「この人の作品集を読んでみたい」と気になる俳人を、1人3名まで推薦してください。その中から、推薦の多かった方に、編集室より原稿依頼を行います。
 あなたのお勧めの俳人を是非推薦してください。

 推薦の方法

 「この人の作品集を読んでみたい」という人を3名まで選んで(自薦は不可)、その俳号と活動場所(俳句の缶づめ等)/推薦者ご自身の俳号(本名)/住所/電話番号を明記して、100年俳句計画編集室「作品集推薦」係へ送ってください。ハガキ/FAX/Eメールで受け付けています。Eメールの場合は件名を「作品集推薦」としてください。また、誌上句会インターネット投稿フォームでも受け付けています。(アクセス場所は誌上句会コーナー末を参照してください。)なお、投稿フォームの場合を除き、推薦は他の投稿等とは分けてください。

締切 6月末日

 現在連載している3名の方以外なら、一度連載された方も含め、どなたでも推薦できます。
 また、今回連載を行っている3名の方への感想もお待ちしています。よろしくお願いします。



百年琢磨
先月号の「100年の旗手」に寄せて

対象との関わりと距離感 しなだしん

「蜘蛛の巣の朝」 朗善
お見合ひのやうに歩いて鵜舟まで
 掲句の面白みは、鵜飼の出発地まで歩く場面を「お見合いのように」と比喩しているところ。俳句は一人称であるから作者が誰かと歩くと解するのが常套だろう。「やうに」だから実際はお見合いではない。見合いの二人のような微妙な距離感で、という位の意味合いだろう。作者が鵜飼に関わりがあるのか、観光なのか、やや分かりにくい気もしたが、こういう鵜飼の捕らえ方の句は見たことがない。

蟹を描くことに飽きたり蟹を捕る
 夏の季語である「蟹」は大型の冬の蟹ではなく、小さな沢蟹や磯蟹を指す。夏、桶などに蟹を入れて涼を得るのも風情がある。この句では蟹を描いていて、それに飽きて本格的な蟹捕りになってしまう。こういう作り方はあるにはあるが、夏の蟹ならではの面白さがある。


「馬上公」 みちる
標本の蠍磔刑の基督
 「蠍」が夏の季語として歳時記に載っていることは少ない。日本では八重山や小笠原に生息するとされるが、野生の蠍を見ることはまずないだろう。また掲句の蠍は標本であり、季語性はほぼない。無季として読んでも構わないのかもしれない。いずれにしても磔のキリストと標本の蠍はかなり近しいものだが、敢えて並列にすることで強さが出た。

プロぺラが五臓を揺する沖縄忌
 「沖縄忌」は沖縄慰霊の日。昭和20年6月23日に沖縄戦の終結に因んだ記念日。この季語も歳時記にないことが多い。掲句、沖縄の米軍基地近くの酷い騒音を思った。作者がどの程度沖縄忌に近しいのか存じ上げないが、「プロペラ」という言葉からは、時間を遡って戦時中も示唆しているようで空恐ろしくもある。


「みどり」 緑の手
アーチへも蝶番へも薔薇の風
 綺麗な薔薇の庭が想像される。アーチは薔薇を這わせるもので、「蝶番」は庭への扉のそれだろう。薔薇の庭ならアーチも扉も白が映えそうだ。掲句は「扉」とせず「蝶番」と絞ったところが技。

きいーんと離陸見送るソーダ水
 近頃「空美ちゃん」と称し、飛行機に萌える女子が増えていると聞く。作者がそうかは存じ上げないが、空港の施設のカフェ等での景とも読める。「きいーん」という擬音は離陸の機体の音であろうが、取りあわせの「ソーダ水」の冷たさも思わせる。


しなだしん
1962年新潟県生まれ、新宿区在住。「青山」同人、俳人協会会員。句集に『夜明』『隼の胸』。



読者の感銘句

松ぼっくり 「男目覚めて蜘蛛の巣の朝を待つ」朗善。「荒梅雨を睨む招福神楽面」みちる。「あをあをと賢治の句碑やみどりの冬」緑の手。シリーズの最後に相応しく見事な三役揃い踏みに感服しました。

三月 100年の旗手、感銘句です。「男目覚めて蜘蛛の巣の朝を待つ」朗善。「馬上公青銅の汗滴らす」みちる。「代掻を終へれば月は滑るすべる」緑の手。三ヶ月楽しませていただきました。




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初学道場 へたうま仙人


文責:大塚めろ

 雑詠道場は、「くらむぼんが笑った」か「へたうま仙人」か、どちらかへ3句1セットでの選択投句となります。選が厳しい「くらむぼん」に挑戦するか、必ず一人一句以上選評付きで載る「へたうま仙人」を相手に“巧すぎるのでへたの聖地追放”を目指すか。その選択も楽しんで頂けたらと思います。


 今月もこの道場をおそるおそる覗いていただき恐縮ぢゃ。
 ところでみなさんは年に一回の梅雨を十分に受け入れておりますかのう?今年の夏は猛暑にならんことを祈るのみぢゃ。これ以上、苛めんといて欲しいものぢゃ。
 今月もへたうま俳人をおおいに堪能してくだされ。

印象をイメージとよむ十二歳  いっちゃん
 無季で無機質な作句方法は、俳界の一歩先を行っているようで空恐ろしいぞ。前例のない道をおおいに開拓してくだされ。

アイウエオイロハニホヘトアロハシャツ  逆ベッカム
 カタカナを読むのは苦手ぢゃが、これならすんなり読めるぞ! 難しい漢字や述語が出ると、とりあえずパスするのが常ぢゃ。やっぱり読みやすいのが一番ぢゃからのう。

どうなるのあなたと作った竹灯籠 実峰
 灯った灯篭に思いを馳せる作者が、けなげで切ないのう。去年と今年とのギャップも灯篭の灯に凝縮されておるんぢゃろうな。

炎天に打って出るべくゴーヤーカレー  ケンケン
 茶漬飯の代わりにゴーヤーカレーを食し、負けるものかと炎天に叫ぶ作者の心意気に目頭が熱くなったぞ。今年の炎天はこれで大丈夫ぢゃ。

赤たすきお田植え祭り春の泥 たっ君
 新しい俳句への果敢な(無謀ともいう)挑戦が見事ぢゃ! この領域に到達したらもう怖いものは無い。野生を秘めた作者の世界に、つい惹かれるのう。

拓郎のピックが飛んだ夏休み だなえ
 そういえば拓郎さんにそういう歌がありましたのう。ピックと共に汗とつばが飛んできそうな臨場感がたまらんぞ。「夏休み」でも「りんご」でもよさそうな気はするが……。

五月尽美女の唄声聴く女 豊原清明
 なんとも摩訶不思議な世界ぢゃのう。美女は決して美声をもっているとは限らず、そのあたりの感覚が、五月が尽きてやがてやってくる梅雨の不穏さを暗示しているのか? ようわからんところに魅かれるのう。

柿若葉まぶし老女の高笑い カラ嵩ハル
 前後の物語をいろいろと考えさせられる句ぢゃ。柿若葉を見ても笑うお年頃の老女は、結構好みぢゃ。

日にやけて少女の反抗今さかり 炉草
 体全体の反抗は特権ぢゃ。暑苦しくも開放的な反抗はまさしく夏ぢゃのう。ワシもたまには思い切りじたばた駄々をこねてみたいのう。

ビールを継ぎあって話す事もなし  猫ふぐ
 継ぎ(注ぎ)あう事が会話なのだ、との思いが言外に含まれていて、なかなか含蓄があるぞ。下戸同士の酒盛りだったら更に物語が深くなるのう。

どくだみのひよつとせずとも人見知り  小木さん
 人を見たら白い花びらをぽっと紅らめるのかものう。よくよく見れば可憐などくだみの花のことを言い得て妙ぢゃ。


へたの聖地追放

万緑や始発列車のベルは澄み てん点
 「は」の斡旋が見事ぢゃ。全ての言葉が過不足無く反応し合っておるのう。色と光と音のハーモニーが心地良いぞ。こんな気持ちの良すぎる句は当然追放ぢゃ。

当番の新茶上司へドンと置く 郁
 置かれた上司の顔が浮かんで痛快ぢゃ。また違った、新茶のある風景を提示してもらって満足ぢゃ。「当番」のいやいや感が何ともニクいのう。人生の苦渋をさりげなく表現できる人間は追放で当たり前ぢゃ!

ジャスミンの甘き香を避け遠回り 未々
 香りには理性を失わせる魔力もあるようぢゃな。ワシもついふらふらと着いて行きたくなることもままあるが、その心境を赤裸々に綴られたようで我が身を振り返ったぞ。ワシを過去へ誘わせるような句は、全くもって追放ぢゃ。

失恋をちぎってちぎってパセリ食む  洋子
 「パセリは失恋の味」とでもコピーをつけたらパセリは爆発的な売り上げを記録するかものう。今までパセリを食ませた女子たちの事を思うと、ワシにとって忘れられん句になったわい。罪なワシですまなんだの。こんな過去の罪を暴くような輩は当然追放ぢゃ!

百年の天井高し夏座敷 更紗
 旧家の夏座敷の広さと高さがいかにも涼しそうぢゃ。畳と杉天井の間の空気が連綿と息づいておるのう。家の壁を透過してきた蝉時雨まで聞こえてきそうぢゃ。ぢゃが、情景描写がうますぎるのは好みではない。とっとと追放ぢゃ。

万緑の鉢は二百を越えにけり 柊つばき
 壮観な眺めじゃのう。ミニ万緑に囲まれて、作者までも躍動しているようぢゃ。こんな生命感にあふれている句はまぶしすぎて苦手ぢゃ。ええい、追放!

引っ越しの荷がでたあとの新樹光  ひでこ
 箪笥が塞いでいた窓から思いもよらぬ差し込んできた新樹光が明るくて救われるのう。何も言わんこんな句はおおいに好みなんぢゃが、ヘタが好物の身としては困ってしまうのう。困らせ過ぎて今月も追放! 二度と帰ってくるなよ。

桜蘂降る葬列は坂の上 ぽけっと
 足元の桜蘂と、見上げた葬列のアングルがまるで映画のワンシーンのようぢゃ。こんな説得力のある句はワシの範疇ではない。おおいに追放ぢゃ!

 今月も追放者がかなり出てしもうた。力作にも困ったもんぢゃ。来月も今月以上に「へた」と「うま」の微妙な領域を大いに闊歩して下され。「へたうま句」で世の「うまいだけの句」を凌駕するのぢゃ!
 油断召されるな!


 初学道場「へたうま仙人」ではみなさんのへたうま俳句を大募集しておるぞ。見たところ、くらむぼんにもわし好みの句がちらほらとあるのう。実にもったいない! へたうま俳人の素質を秘めたみなさんにはぜひこっちの道場を覗いてもらいたいものぢゃ!


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雑詠道場 くらむぼんが笑った


夏井いつき選


今月の天
おたがひのからだをつかふ鞦韆に なゝ
 ヘンな句だなあ。エロティックなようで、下手くそなようで、それでいて心に引っかかる。「おたがひのからだをつかふ」の歴史的仮名遣いがいかにも曲者。平仮名がここまで扇情的になり得ることに軽い驚きを感じる。
 言うまでもないことだが、この句の仕掛けの真骨頂は、季語の選択にある。仮に「ブランコ」「ふらここ」等の傍題に置き換えてみると、その効果は一目瞭然。「鞦韆」という季語の象徴ともなっている三橋鷹女の名句「鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし」が、掲出句の奥底に燦然と存在し、掲出句を通して読者は鷹女の一句を味わい直すこととなる。ぎいぎいと揺れ合う「鞦韆」は、陶然たる性愛の感触としてほのほのと反芻されることとなる。


今月の地
揺らぎしはこの身向日葵直立す さわらび
 真夏の太陽の下での一瞬の目眩。揺らいだのは「この身」であって、地ではないことを「この身」に確認させる作者。それらの状況と心理一切を後半の措辞に託せるのが、この作家の実力である。

夏帽のまへ折りあげて双眼鏡  神楽坂リンダ
双眼鏡正しく下げて万緑へ 亜桜みかり
 共に中七の措辞が的確な「双眼鏡」二句。前句「まへ折りあげて」で「夏帽」の状態がありありと見え、それが「双眼鏡」を覗くための仕様であることにも納得がいく。後句、「双眼鏡」の下げ方に特別な御作法があるわけではないが、「正しく下げて」にささやかな高揚が感じとれる。下五「万緑へ」に期待感も溢れて。

郭公や村に九十九の鬼の塚 樫の木
 「郭公や」の切字が見事に利いている一句。「九十九の鬼の塚」を持つ「村」の奥深さやその地に残るであろう伝説なども彷彿とさせる。全ての「塚」を宥めるように「郭公」の声が響き渡る。

春草を預かっている靴の紐 牛後
 「春草」を預かるとはどういうことかと思った瞬間、「靴の紐」というモノが見えてくる鮮やかさ。ひっかかっている柔らかな「春草」を抓んでとる行動も、この句の先に見えてくる。

蜥蜴来る神社の隅の机かな 朗善
 何に使われる「机」であるのか、置きっぱなしにされた埃っぽさが、いかにも「蜥蜴来る神社」のそれらしき感触。本殿の「隅」に置かれた「机」に目を止めてしまうのが、写生派俳人たる資質。

葉巻切る携帯ナイフ大西日 木琴
 映画のワンシーンのような上五中七。「葉巻」の香りと「携帯ナイフ」の鈍い光が、季語「大西日」を外国の光景のように演出する。

麦秋の海へミサイル搭載車 桜井教人
風死すや兵士並びてコーラ飲む 青蛙
 前句、北朝鮮の「ミサイル搭載車」のニュース映像を思い出したが、季語は「麦秋」。下五「〜海へ」という措辞が、豊かな実りを守るための不穏な「ミサイル」の存在を浮き上がらせる。後句、なぜかベトナム戦争の報道写真を思い出した。米軍の象徴の如き「コーラ」をにこやかに飲む「兵士」たちの足下に、死体が転がっているかのような幻想。季語「風死す」が怖ろしい静けさとなって一句を支配する。

写生する猿が見返す子どもの日 和音
こどもの日やけに大きな月と立つ うに子
 前句、動物園での写生大会の光景か。描かれている「猿」がまじまじと描いている子を「見返」している愉快。後句、一日を楽しく過ごした実感の宵。「やけに」の口語的表現、「月と立つ」の姿に「こどもの日」の満足が広がる。

蝸牛鳴くな少年鑑別所 浜田節
 「亀鳴く」が春の季語、「蚯蚓鳴く」が秋の季語ならば、「蝸牛鳴く」を夏の季語としよう!という主張は、作者が所属する結社『童子』の新季語プロジェクト。「蝸牛鳴くな」の呼びかけのなんと優しくも切ない「少年鑑別所」である。

谷いくつ越えてぽんぽん鳥飛来 お手玉
 「ぽんぽん鳥」という名を知らなかった。調べてみると「筒鳥」のことだそうな。鳥というものは「谷いくつ越えて」やってきたり去ったりするものだが、この句の措辞におかれた「ぽんぽん鳥」はまさにハマリ役の名。ポンポンと鳴くのでこの名がついたそうな。


今月の人(じん)
あと五分待たうか夕藤のさやや ふづき
アドレスを交わす緋薔薇のロビーかな
一匹の蟻のぼりくる懺悔台 ターナー島
一片のメロン載せきて皿くもる
青き薔薇記憶は甘い嘘をつく うに子
カーネーション欲しいものさへ言えぬ手に
人ひとり入れて古墳の草茂る 鯛飯
七間塚古墳に立ちて見る卯波
卯の花腐し欠席示すななめ線 紗蘭
しばらくは守宮相手に暮らそうか  浜田節
ががんぼや甲斐性無しの貧乏ゆすり  あらた
この芸人浅草育ちソーダ水 藍人
小三治のぶっきらぼうに汲む新茶 もね
賽銭を投げて入れたる日傘かな 朗善
生前戒名決めて南風来たる 稲穂
陽や侵され潦には水馬 みちる
麦の秋古稀なるラ・マンチャの男 かのん
荒梅雨や暗渠に下る湯殿の湯 さわらび
ででむしや草木匂ふ雨猛し 蓼蟲
葉桜へ伸ばす母の手猫の声 まくわ
徹夜して硝煙臭き蛍の死 西連寺ラグナ
つぶアンパンの臍のぼさんを偲ぶ春  一走人
湧泉や涙は一つだけ落とす ほろよい
はみだして引く口紅やアマリリス  神楽坂リンダ
少女らの声の近づく新樹かな じろ
ミルクティ下さい薔薇を切らないで  権ちゃん
黙すると決めて葬儀の薄衣 のり茶づけ
明日の朝までは生かしておく浅蜊  ポメロ親父
客船の消灯時刻夏の星 錫樹智
ぶらさげて乱反射する金魚かな 犬鈴
摘みたての花の息づく梅雨はじめ  こぼれ花
半坪の花壇の隅のパセリかな 八木ふみ
犬の骨埋めて置く石桜の実 樫の木
夏めくや目薬のよく透き通る 不知火
子烏や南の山の錆びた空 Blanca
犬の墓掘る夫と子へ緑雨かな 空
母の日の母ばかりゐる帽子店 なゝ
卯浪立つ岬の果てに赤き屋根 一心堂
頬白の声近くある古墳かな 桜井教人
終電は零時三分蛍籠 柱新人
突進の蠅避くる吾のいくぢなし 野風
五月雨や古文書を解く日曜日 迂叟
はんざきのしつぽ岩根をつかみをり  春告草
夏来たる静止画像の水しぶき 瑞木
夏潮や師の師の句碑のあらあらし 緑の手
大南風天守へ届く時報鐘 ふじばかま
青鷺の首立てなおす防波堤 恋衣
人の鼻厭き厭きしたる薔薇である しんじゅ
掃き寄せた花がらも白青水無月 今比古
鳥ごえさみどり編集後記 親タカ
鉄橋の真中停車場風薫る なづな
亀鳴くを聞きたくて百年生きる 人日子
けものめく少女の匂ひ夏兆す 省三
ウミウシの定義の難し原爆忌 ちろりん
ふた駅を歩くと決めて薄暑かな 蕃
アネモネの音聴きながらたそがれて  アンリルカ
石楠花や鳥葬の谷風の谷 北伊作
妹の母の日そっと過ぎて行き コナン
新緑に鉄塔は気を取られない 三竜
足踏みの水車の子供夏帽子 えつの
青嵐痩せし野犬のさ迷へる むらさき
オフェリアは金網を越え夏の川 ソラト
人の死を誰も知らざる黄砂かな 鯉城
麦秋や焔立つ野の夕まぐれ 哲白
通学の班長合図は草笛で 八十八
豆飯や単語カードを後ろから えりぶどん
自分史に号外のあり夏の蝶 藍人
夏燕賢治の町の無言劇 レモングラス


今月の並選
丸木橋目指し立夏の沢登り もね
苦き過去黙せば繭の太りけり
ソーダ水ノック三回なら開ける 木琴
世の中の課長集えよビアガーデン
湯の町の雨を律儀に山法師 空
あめんぼの細き足ごと水くぼむ
指先の血は鉄の味薔薇に棘 のり茶づけ
逃水や自分の影を踏む遊び
初夏の背骨を鳴かせ歪む空 西連寺ラグナ
香水をほどきて母となる厨
薫風や地図を逆さに橋の上 まくわ
またあした塾の軒下燕の子
昼休みと午後の間を囀れり 牛後
廃屋の大樹に寄り掛かる雪解
梅雨一蹴思い思いの傘百花 野風
アマリリス正論ばかり反芻す
頬白はてつぺんが好き人が好き 亜桜みかり
蛇去つて竪笛を吹くまねをして
安静の枕ひしゃげし半夏生 瑞木
柿若葉の光よ静粛に静粛に
夏草や無抵抗主義説く車窓 緑の手
散る薔薇の緑とどめん萼の星
夏柳棹さす水の光りたる ふじはかま
花うばら櫓門ある幼稚園
樹齢二千年神木より蜻蛉 恋衣
六月の風が行きつく言海序
臨終の深さを測る雲の峰 稲穂
夏めきし駅舎に紅き野球帽
鉄線花母は気丈夫働き者 なづな
花吹雪止みて吐息の一つかな
郭公の湖面百町声渡る 人日子
逃水の浸みる所のなかりけり
時鳥のんどの奥といふところ 省三
ゆさゆさと乳房ゆるゝ薄暑かな
隣国の原発増えて子供の日 ちろりん
先に頬膨らむ風船カラスウリ
青葉風ダンス教師の大胡坐 蕃
樟若葉解剖学の受講生
春の夢切なさの香り残して アンリルカ
かなしみをもて余しつつ朧月
蔦につる絡まりて藤山の藤 北伊作
芽はどれも尖りて堅し白蕾
鳶悠々からす小忙がし聖五月 三竜
部屋に入り十八時間で死んだ蜂
風光る怪盗を追ふ探偵は ポメロ親父
麦秋や老農達の立ちあがる
新緑や外来棟のリノリウム 錫樹智
白妙のふんどしを干す立夏かな
曝木の龍の形や花みかん えつの
雑草に元気をもらう青葉風
しっとりと穀雨恵みの日なりけり むらさき
「恕」の精神引き継ぎ日日を夏立ちぬ
旅佳境渡る吊橋青葉騒 鯉城
一万年前のとどろき那智の滝
一面のじゃが芋の花夕餉刻 哲白
若葉風堂の庇の波紋かな
紫陽花の藍に老若ありにけり じろ
万緑に押されてゐたり身と心
剥製の強がる爪や夏の月 犬鈴
風鈴を吊る足裏の白さかな
初陣の元親像や桜の実 こぼれ花
正座して食す漢や聖五月
黒猫のまなこを探す木下闇 しんじゅ
蜜蜂の目を固くして抱く蘂
西向きの千枚代田茜色 八木ふみ
足湯客くらり振り向く花みかん
地球座に地下鉄轟と梅雨に入る 元旦
さみだるるフイルム跳びし三番館
受付の末席に座す仲夏かな 不知火
パイナップル囓り取り置きの食事
園丁の薔薇屑のぞく御一行 すな恵
薔薇園のアコーデオンの坂本九
髪洗う老父は幼子のごとく 空山
日に三度蛇にでくわすこともあり
献花朽ち隧道の空桐の花 ソラト
甘藷植う都市ゲリラただ一人きり
葉桜の光りと影の中に入る 一心堂
紫陽花やふる雨ごとに藍染まる
今生の金環食や聖五月 柱新人
書き止しの細断掛くる夕薄暑
南風鳥獣保護区に入りにけり 春告草
葉ざくらをころころころとぬける風
つぶやくもおぬしはまさに牛蛙 親タカ
ツギハギだらけの言葉パセリ食む
春祭空を掴んで子獅子舞ふ コナン
ぼうたんの人恋しげに終りけり
曇りのち日食やがて青嵐 八十八
薫風や天まで伸びて舞う獅子児
首たれし小判草一軍の兵 かのん
空豆や雨上がりの天のあをし
クリムトへ春光裸婦像の歓喜 青柘榴
夏風邪の夫婦仲良く鼻声なり
純白のドレス五月の空に投げ ゆき
言葉なき二人の前のソーダ水
夏立つや河越えてゆく広島よ 青蛙
砂糖菓子シャリと崩れて加賀の初夏
酒飲んで呑まれて飲んで蜆汁 一走人
ぽつぽつと申し訳なさそうに咲くさつき
母の日の洗濯槽に残る愛 ほろよい
暗き夜を紡いで繭の玉光る
もどらない濁った心啜る新茶 磨湧
五月来るトイレの洗剤なくなって
聖五月行くユーミンの飛行機雲 未貫
ミンセーとミンセーと鳴く蝉時雨
流木を椅子どこまでも初夏の海 権ちゃん
餌まきて跳ねる目高をいつまでも
道端の五月の雨に猫抱かれ ふーみん
沖アミの匂いに噎せる夏が来る
暮れて後満ち来る香り花蜜柑 樹朋
麦秋の金環日食雲の中
麦の秋部屋干ししたる男子寮 迂叟
海の青集めてをりぬ鯖の背
広島に永久に咲かせし夾竹桃 カシオペア
愛おしい常磐木落葉愛おしい
ところてん筧の水を得て元気 松ぼっくり
父の日や寡黙を生きる健やかに
夏の夜に勢い余って深爪す ペプチド
手習いの文机あたりほたるをり
初夏の五色のペンはほのかな胸に まんぷく
水無月を待たずドクダミ咲き初めし
平成の世に腰据える雨蛙 西条の針屋さん
スカイツリー天にはむかう木の芽時
ものの芽が散歩の足をおそくする  エノコロちゃん
雛罌粟の風の吹くままゆれるまま
ひそひそと聖金曜日の乳酸菌 えりぶどん
深く深く鱶は地球の青に棲む 藍人
万緑の包みこんだる岬かな 浜田節
眠り姫の名前はチェリーソーダ水 あらた
抜け出せぬ陽気けだるさ五月病 サキカエル
豆飯や訃報並べる新聞紙 紗蘭
柏手のゆつくり響く暑さかな 朗善
蝕の陽や泰山木の葉は厚く みちる
浮き桟橋ひたひたひたと夏来る 蓼蟲
福耳にかかる白髪の涼しさよ さわらび
噴水に服を次々脱ぐ子ども 和音
おはようのハグ夏燕ひるがえる ふづき
草取りや我を偵察する羽音 神楽坂リンダ
よく笑ふ女棟梁柿若葉 樫の木
駒鳥のヒンカラカラを聞いている お手玉
紫陽花の生みし音階ドソラシド Blanca
性愛のこと話しては風光る なゝ
老鶯に壬生御門を開け放つ 桜井教人
裁ち鋏光るや金魚ひるがえり ターナー島
同校にセザンヌとゾラ青りんご 今比古
南蛮のカルタ版木や聖五月 レモングラス
サングラスの男古墳をのぞきこむ 鯛飯


雑詠道場番外編「くらむぼんが困った」

勝手にアドバイス講座
ふはふはの仔猫三匹吹かれをり 鯉城
 「ふはふは」がいかにも「仔猫三匹」の感触で、猫好きがヨダレをたらしそうな可愛い句です。が、残念なことに、小澤實さんの句に「ふはふはのふくろふの子のふかれおり」がありますので、なかなかキビシイと言わざるを得ません。類想類句の存在は、俳句の宿命。この「仔猫」の様子をまた違った言葉で表現できるよう、もう一度仔猫に会いに行ってみてくださいね。



【雑詠句募集】
投句三句/俳号(本名)/〒住所/電話番号と、「○月末日締切分」を明記して、編集室「くらむぼんが笑った」または「へたうま仙人」宛にお送りください。
締切は毎月末日《必着》です。
※末日を過ぎたものについては、翌月分とさせていただきます。
※ひと月に複数の投句があった場合は、一番最後に届いた投句のみを有効とさせていただきます。同一内容での二重投句はご遠慮ください!
 投句は誌上句会宛のハガキ&メールとは別でお願いします。
雑詠専用Eメールアドレス zatsuei@marukobo.com
インターネットや携帯電話からも投句できます。
http://www.marukobo.com/kuramubon/


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放歌高吟


パセリ
夏井いつき

らしからぬ手紙パセリのほろ苦き
朝虹や吹かれるためにある鬣
孑孑へ金環日食の波紋
夏霧を放ちて兄山の吼える
妖を信じ白玉よく食べる
蝙蝠の指の皮膜に透く太陽
栗の花噂に殺さるる村の
かんたろ蚯蚓と呼ばれて愚かなる長さ
草笛に佳き葉と誉めて鳴らぬなり
樽谷くんの班はいやです金盞花
無理数もチョークも白き更衣
バランスをくずし糸蜻蛉の恋は


 中原道夫さんの句集『巴芹』の表題句ともなっているのが、こんな一句。

はつなつのかう書いてみむ巴芹なら 中原道夫

 知ってる漢字を脳が勝手にリサーチし始め、「巴里(パリ)」の「巴」に「芹(せり)」だから、あ、パセリか!と気づく。「かう書いてみむ」という句意からすると「巴芹」は当て字らしい。そもそもパセリって漢字があるのか、と再び調べ始める。パセリの和名は、オランダゼリ。オランダは「和蘭」とも書くから、これらの字を当て嵌めると「和蘭芹」になるのは、納得の成り立ちだ。ちなみに中国語では「香芹」と書くということも初めて知る。
 たかが造語ならぬ造字をめぐるささやかな興味だが、「知る」ということの楽しさは果てしない海原へ漕ぎだす喜びにも似ている。
 ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』にて、兼題「薬降る」を募集したところ「組長、兼題難し過ぎ!」「こんな日本語があること初めて知りました」なんてお便りが山のように届いた。
 「薬降る」は、確かにマニアックな季語だ。陰暦五月五日は薬日と称され、その午の刻(午前十一時から午後一時)に雨が降ることを「薬降る」という。その雨は「神水」と呼ばれ薬の調合に用いると効き目があるのだそうだ。
 兼題「薬降る」に七転八倒したリスナー俳人たちの心には、この季語が生き生きと刻まれる。三百六十五分の一のその日のお天気を楽しみに待つ気持ちが生まれる。降ったら降ったで晴れたら晴れたで、俳句仲間との話題も広がる。
 今年の陰暦五月五日に当たるのは、六月二十四日。奇しくも俳句甲子園地方大会最終日だ。この原稿を書いている今、当日の晴雨は分からないが、「薬降る」という季語を知った俳人たちは、その日のお昼頃のお天気が気になるに違いない。自分の心に育つ知的好奇心を嬉しく掲げ、それぞれの空を見上げるに違いない。




夏井いつき公式ブログ「夏井いつきの100年俳句日記」

http://100nenhaiku.marukobo.com/


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新 100年の軌跡


第4回


実験室紀行 宮下航

眠りたる地球に赤き百合のあり
赤潮や綺麗な珠(たま)を拾い上ぐ
群棲の海月ふわふわと孤独
ミカヅキモ葉緑体に初夏のあり
寂しい日若葉の空へ白衣干す
指先に塩素の匂ひ新樹光
夕薄暑実験棟の鍵堅し
五月闇硫酸銅の燃ゆる色
桐の花劇薬取扱い注意
その金属テルルというの聖五月
茄子喰いて耳にブラックメタルかな
万緑の端に踏み切り一つかな
新緑や沈殿はどれも白色(はくしょく)
海老天の揚がる間に立夏となりぬ
夏めくやラーメンもやし大盛で


宮下航
宇和島東高校弁論部で俳句と出会う。現在は、愛大俳句研究会で活動中。




ZOO 希望峰

犬ふぐり人に生まれてきちまつた
空を飛ぶことに飽きたるサングラス
水差しの鼻偉そうに夜光虫
舞台の丘ほどの高さに蝶来る
貧乏が剥くマンゴーの皮である
襲ひ来るグリーンピース海の家
滝浴にヘ音記号を連れていく
捻られて踏まれ吸い殻梅雨の星
くらげくらげ胸のあたりが阿呆です
お手玉のどれが真だか泉湧く
十二人の廊下短し扇風機
黒南風呪文のごときベンガル文字
夏足袋で行こう寝起きの針鼠
たぶんちよつとまあそれなりに青蛙
雲の峰列車線路をうたがはず


希望峰
1990年生まれ、兵庫県神戸市出身。16歳より俳句を始め、現在はスウェーデンに留学中。俳句と教育が結びつく研究をしています。




低音部譜表 桜井教人

寂しい日若葉の空へ白衣干す  宮下航
 寂しいという言葉から入ったことが成功している。若葉の空へ干す白衣。白い光と作者の心情の対比を季語が包み込む。この句に関しては、単独句とした方が読み手にそれぞれの映像を与え読みがより深まる。

桐の花劇薬取扱い注意   宮下航
 日本では高貴なイメージをもつ桐。気品の象徴とされる紫を所持するその花は実は臭い。劇薬は使い方により非常に有益にも毒にもなる。その点でいえばこの世で一番の劇薬は、人間の存在そのものだろう。

空を飛ぶことに飽きたるサングラス 希望峰
 語順がよい。最初はパイロットのことかと思った。しかし、人や国の命運が自らの生命に懸かっているパイロットに「飽きる」の措辞は失礼であろう。高所恐怖症である私の生活の範疇にはないが、飛ぶことが生活の一部となっている人もいるに違いない。

滝浴にヘ音記号を連れて行く  希望峰
 滝浴を音楽として記譜するなら、低音部譜表のヘ音記号だと作者は言いたいのだろう。その発想に共感しかつ感嘆する。
 そう言えば両作品全体から感じる調べも低音部譜表に書かれたものであるような気がしている。


1958年生まれ。今治市在住。十年前に全国47都道府県を制覇するも渡航経験なし。第3回・第4回選評大賞入選。



眠りたる地球 とりとり

眠りたる地球に赤き百合のあり  宮下航
 いつの日か人類の滅び去ったあとのしんとした地球に咲く赤い百合を思いました。「赤き百合」にはそういうことを想像させる怖さというか魔力がある感じがしますね。ちょっと不思議な句ですが、「赤き百合」の力が句を支えていると思いました。

夕薄暑実験棟の鍵堅し   宮下航
 前の句とはうって変わってきっちりとした実景です。実験棟の頑丈な扉を照らす夕日。重い鍵。今日の実験を終えて帰るところでしょうか。汗ばむような夏のはじめを、自分の生活のなかで表現したところがいいと思いました。

滝浴にへ音記号を連れていく  希望峰
 ヘ音記号を滝に連れていくとどうなるのかな? 滝の音のメロディーに伴奏をつけることができるかな? 楽しい空想の広がる明るい句ですね。

黒南風呪文のごときベンガル文字  希望峰
 ベンガル文字ってなんか模様みたいですね。ベンガル文字に黒南風が吹けばたしかに呪文がたちあがるかもしれません。これは白南風ではだめで、やはり黒南風でしょうね。ただし黒南風は「くろはえ」で私の調べたかぎりでは「くろみなみ」とは読まないようです。「黒南風や」にしてはいかがでしょう。


1957年生まれ。三重県在住女性。第1回選評大賞優秀賞。


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私たちの100年俳句計画


俳句を使った試みをされている様々な分野の方を紹介します

第5回
宮崎県俳人化計画実行委員長
渡部 秀美
俳号 春告草

始めたきっかけ
 「糸瓜」で13年くらい前から俳句を始め、夏井さんの俳句番組にも投句していました。その後、夫の転勤で宮崎に移り住むと、公民館の催しや講座に参加して友達作りを始めました。その中で、宮崎には音楽などの文化はあるのに、言葉の文化があまりないように感じたんです。私には俳句がある、俳句で何か出来ないか、と思っていた時、宮崎には俳句甲子園出場校が無いと聞き、子どもたちに俳句を広めれば、いつか宮崎から俳句甲子園に出る子が育つのではと、宮崎東地区交流センターの放課後子ども教室で講座を始めました。

今までの活動
 5年ほど前、県主催の「夢創人」という出前講座で、専門学校生を相手に話をしました。それまでは子どもにしか教えていませんでしたが、時間が足りなくなるくらい興味を持ってもらえて、2010年からは交流センターの大人の講座も受け持つことになりました。
 「色紙のある風景」講座は、俳句と絵の初心者が色紙に絵を描き、そこへさらに俳句を書くというもので、完成した色紙を文化祭で飾ったりしました。

やってみた成果
 2011年、講座の担当職員だった河野さんが隣の宮崎地区交流センターに転勤になったことをきっかけに、そちらでも「色紙のある風景」の講座を担当させてもらいました。河野さんのご尽力により、作品をラミネート加工して緑道公園に飾ったりもしました。
 河野さんには「俳句や短歌を知らない人でも立ち止まってもらえる物があれば」という気持ちがあったようで、私の話にも共感を持ってもらえました。私は自分が居心地のいい場所にしたいという素朴な気持ちだけでしたので、河野さんの存在が、とても大きかったです。

今後について
 宮崎には「老いて歌おう」という、短歌の伊藤一彦先生が始めた、高齢者や障がい者、介護する人たちの全国的な催しがあります。「寝たきりでも出来る」と始まったささやかなものが、大きな大会になったようです。私が気づかなかっただけで、宮崎にも言葉の文化が根付いていました。
 この5月から自宅近くの「和楽」というセンターで短歌と俳句の講座を始めました。歳を取ったりして身体が不自由になっても、俳句や短歌は心で楽しめますよね。そういうことってすごく大事だと思うので、高齢者、病気の子どもたち、障がいを持った人たちにも広めたいですね。
 河野さんを始め、交流センターの職員の人たちにも「俳人化計画」は大変興味を持ってもらえています。そういう人たちと、俳句甲子園に行く子どもたちを育てるだけではなくて、高齢者や障がいを持った人たちにも、紙と鉛筆があれば始められる俳句を広げていけたらいいなと思います。


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Letter from spider garden


ナサニエル・ローゼン(訳:朗善)
松山市在住の世界的チェリスト ナサニエル・ローゼンのHAIKUとエッセイ


No.3

Summer fruit: hand-picked
kumquat tree with spider webs.
Our thanks; all is well.

蜘蛛の巣をこはさぬやうに金柑摘


I enjoy listening to the high school cellists in a neighboring prefecture when I come to teach them. I am afraid that they will not understand me, musically and linguistically. Their bright faces and earnest efforts show me that I have nothing to fear. Some of them are beginners and are very brave. I am grateful to the wonderful teachers who make the school music programs a success. They are heroes.

 お隣の県にチェロを教えに行き、高校のオーケストラの演奏を楽しんだ。ちょっと不安だったよ。彼女らが、僕の日本語や英語や、僕の音楽を理解できないかもって思うと。でも、彼女らの聡明な顔と熱心な姿に、心配が吹っ飛んだ。オーケストラの中の何人かは初心者だったのに、とてもとても勇ましかった。顧問の先生たちのおかげだ、ありがたい。こんな素晴らしい部活動を支え続けてこられた。先生たちこそ、ヒーローだよ。

訳:朗善



ナサニエル・ローゼン
Nathaniel Rosen
1948年カリフォルニア生まれ。
1977年アメリカ、ヌーンバーグコンクール優勝を機に米国内デビュー。ピッツバーグ交響楽団の首席チェリストに就任。
翌年、第6回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人初のチェリストとして金メダルを受賞、以降世界的名手として広く知られるところとなる。
2011年より松山市在住。


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JAZZ俳句ターンテーブル


文/白方雅博
(俳号/蛇頭)

第16話
「ジェントル・バラッズ 」
エリック・アレキサンダー

 仕事絡みの集会に出るため高知市に向かった。夕刻、市内の中古レコード・ショップで物色。ホテルに荷物を預けて遅めの夕食に出かけた。4月末の夜風は心地よい。さあ何を喰おうかと電車通りの横断歩道で信号待ちをしていたら、なんと隣りにナサニエル・ローゼンご夫妻が……。
 ローゼンさんといえば5月号からお隣の頁に「HAIKUとエッセイ」を寄せられている世界的チェリストだ。それだけで十分に恐れ多いが、僕は朗善(奥様)さんの訳にも平伏している。そのアメリカンさといったら超黒船級なのである。

モノトーンの背中夏の月涼し むうん

 集会のオプションで「アートゾーン藁工倉庫」を訪れた。藁工は江ノ口川のほとりに建つ、土佐漆喰の白壁と水切瓦のコントラストが美しい倉庫群を改修し生まれ変わった「再生と共生」の拠点である。アール・ブリュット作品を調査、保存、公開するために設けられた「藁工ミュージアム」と、高知の食材と地中海の食文化の融合を楽しむレストラン「土佐バル」に、ここでローゼンさんのチェロの生音を聴きたい、と思わせてくれたミニシアター「蛸蔵」を併設。障がい者も管理スタッフとして多数参画していて、代表の竹村利道氏と一緒に共に生きる社会づくりを実践している。

憲法記念日サックス千里を走りおり 猫正宗

 5月3日の「エリック・アレキサンダー&ジョー・ファンズワース・カルテット・スーパー・プライム・タイム・ツアー at 松山」は、松山市総合福祉センターのチャリティコンサート始まって以来の全席指定となった。そりゃそうだろう、世界的名声を誇るサックス・プレイヤーとドラマーの双頭リーダーに大物ピアニスト、ハロルド・メイバーン、そして人気ベーシスト、ナット・リーヴスが加わった超強力ユニットをステージに迎えるのだから。このツアーをプロデュースしたのは伊藤八十八氏。松山のライヴを実現してくれたマミコン(堤宏文氏の俳号)さんは「あの渡辺貞夫を世に送り出した人」と紹介していたが、僕には八十八さんとマミコンさんのつながりこそがグレイトなのである。

鍵盤に薫風のある黒き指 蛇頭

 その八十八さんが創立したレーベル、その名も「エイティ・エイツ」から今ツアーを記念して「スーパー・プライム・タイム」がレコーディングされた。契約の関係でファンズワース名義となっているが、同メンバーによる熱演がスタンダードを中心に記録されている。特にコンサートでも一際精彩を放ったメイバーンのピアノが上々の出来で、ハンマーのような指から弾き出される音は、ピアニストも音色を持つのだと認識させてくれるアルバム。

団扇は楽器ピアノをパタタタタ チャンヒ

 アレキサンダーはバラードが上手い。だから「ジェントル・バラッズ」シリーズを5までリリースしている。で、その3を今回のテーマとした。コンサートは意外にスローナンバーが少なかったけれど、アンコールナンバーでちょっとした事件が起きた。ステージは熱気を帯び、汗だくで弾いているメイバーンを気の毒に思ったのか、アレキサンダーは、最前列で声援を送る客の一人を引っ張り出し、団扇で扇がせた。「私たちの100年俳句計画」の第1回で紹介されたJAZZ句会メンバー、みしんさんのこの飛び入り参加を我々は「団扇セッション」と呼び珍重している。




http://www.baribari789.com/

「JAZZ俳句ターンテーブル」は、筆者がナビゲーターを務めるFMラヂオバリバリ(今治78.9MHz)の番組「JAZZ BLEND」の第2週に特集します。放送は毎週水曜日の深夜23時〜24時。再放送は日曜日の25時〜26時。


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ラクゴキゴ


第16話 文/俳句 らくさぶろう

『うなぎや』
〜ラジオじゃわからん?〜

あらすじ
 道ばたで友人に会った男、「ちょっと付き合え、一杯呑ましたろ。」と誘う。誘われた方は、以前別の友人に誘われたけど結局用事に付き合わされただけで、最後に道頓堀で「何ぼでも川の水呑め」と言われた苦い経験があるので断る。
 「そんなこと俺がするか、ちゃんと酒呑ましたる。」と、新しく開店したばかりのうなぎやへ連れて行ってくれると言う。
 どんな店かというと、隣町のうなぎやが新しい店を出したらしいが、板前が三日目でいなくなり、店のオヤジが下手くそながら自分でうなぎをさばいているという。さばくというが、さばくどころかニュルニュルとつかむだけで必死、せっかくつかめたうなぎは骨抜きもせずバンバンバンと一寸ぐらいのぶつ切りにして天ぷらにして出す始末。
 そんなオヤジが苦労しながらさばくのを見てチビチビやろうということで店へ行くことに。
 店主、うなぎそれぞれに「青べえ」「黒べえ」と名付けたりしているようで、男二人はその中から「青べえ」を注文する。したのはいいがこの「青べえ」、店主の話によると開店からいる元気な一匹で、一回つかまえようと立ち向かったがつかまえることが出来ず、それから自分の方をギロッとにらむようになり、「怖いんです」と嘆く。
 二人の男はつかまえ方を伝授するもののうまくいかない。
 「そっちから追おとくなはれ」と、店主は男に応援をたのみ、やっとうなぎをつかんだものの、ニュルニュルすべり、上の方へ向けたらだんだん上に、下へ向けるとだんだん下に逃げよう逃げようとするうなぎ。
 「前へ向けんか」と言われた店主、前へ向けたらうなぎも前へ前へ……。
店主「ちょっと留守番たのんます」
男「おやっさん、何言うとんねん。うなぎつかんでどこ行くねん?」
店主「わたいには分かりまへん。前へ回ってうなぎに聞いとくなはれ」



 東京では「素人鰻」という題名で演じられますが、全くあらすじが一緒かというとそうでもない。そういう噺はたくさんあります。
 また、この型は故桂枝雀師のもので、上方もやり方がいろいろあるようです。
 あらすじでは本当に簡潔に書いた前半の部分、男が以前「呑ましたる」と言われ用事につれ回されるシーンも本来は長く、爆笑の連続です。
 この噺は生の舞台やテレビには向いていると思いますが、ラジオではなかなかその面白さが伝わりにくいかも? というのも、後半うなぎをつかむ場面は両手の親指をうなぎに見立て、ニュルニュルと動かして上へ向けたり下へ向けたり。これがまた笑いを誘うので、ここだけは見ないとわかりませんからねえ。
 ストーリー性の高い噺やほろりとくる人情噺をゆっくり聴いてその世界にひたるのもいいのですが、こういう噺でただ笑うというのも落語の楽しみ。ぜひ生か画像でお楽しみ下さい。
 しかしまあ、うなぎの値段が上がりましたね。たまに行く店の女性経営者は嘆いております。
 「らくちゃん、もうつぶれるけん、つぶれる前にまた来てね。」
 何度も言われているんですが、まだつぶれません。
 今年は稚魚の値段が高騰しているそうなので、商品も値上げせざるを得ないとか。
 その店をつぶさないためにも、この夏、何度か通わなければ!


色紙の名誰か分からず鰻食ふ


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本家慶弔俳句帖 第46回


文 桃ライス

コンビニがなくて、振り込め詐欺不発
 和歌山県すさみ町で6月1日、役場職員を名乗る男から振り込め詐欺とみられる不審な電話が相次いだ。
 ネット情報によると、1日午後、同町内の男性(90)宅に、役場の「オカダ」を名乗る男から「医療費の過払い金の払い戻しが受けられる」などと電話があった。男性の娘が指定されたフリーダイヤルに電話すると、コンビニATMで口座を確認するよう指示されたが、「すさみ町内にコンビニはない」と言うと、一方的に電話を切られたという。
 県警串本署には他にも同様の届け出があり、注意を呼びかけている。
ちょっとばかり、ターゲットが田舎すぎたぜぇ。

蛭鳴くや早寝早起きすさみ町


総選挙第1位の大島優子君
 国民的アイドルAKB48の総選挙も無事に終った。彼女らのグループは48人ではないことも、国民はもうわかっているこの頃だ。
今から約4年前のテレビ番組をユーチューブで見てみた。まだ売れてない時代のAKBが出ていて、彼女らがガチ(?)でむちゃぶりを発揮するのだ。「滝修行」「写経修行」「ラーメン屋修行」など、数々の修行ロケをこなす。そのメンバーの中で断トツに目立つのが大島優子。ラーメン屋でもテキパキと注文をとり、にこやかにラーメンを運ぶ。「わらしべ長者修行」の時は、一本のアイスクリームの当り棒から、最終的に「着物一式」にかえた女王なのである。優子は交換した着物屋で、「今度成人式なんです。これ着れるじゃん〜」と喜んでいたが、番組の最後に業者が出てきて電卓をはじき、換金。彼女らがわずか三枚の松阪牛をわけあいながら頬張るシーンで番組は終了。テレビじゃのぅ。

舟虫や私の一句あげませう


桃ライス…自分のことをワシとよぶ婦人グループ会員


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お芝居観ませんか?


文&俳句 猫正宗

第五回 『樫の木坂四姉妹』
[劇団俳優座公演、作・堀江安夫、演出・袋正、出演・大塚道子、岩崎加根子、川口敦子、他、12年5月16日、ひめぎんホール(県民文化会館)サブホール]

 長崎、樫の木坂。樹齢数百年を超える樫の木を臨む葦葉家で暮らす三人の老女。姉妹である彼女たちは、一九四五年八月九日の原爆投下と、その時亡くなったもう一人の姉妹のことを背負いながら、それぞれの生き方をしようとしている。舞台は二〇〇〇年の「今」と一九四五年の「過去」を振り子のように往き来しながら、やがて彼女たちが抱えているものの形をくっきりと浮かび上がらせていく。

樫の木茂れども八月九日

 市民劇場の例会(公演)作品は、概ね二年前に決定します。劇団が作品として立ち上げるのはもっと前です。しかしながら、様々な状況によって、まさにその時宜にかなった作品になることがあります。本作も、不幸にもそういった作品になってしまいました。原発事故以降の「いま現在」に照らしあわせて観た人も多かったようです。
 ところで、本作には樫の木を始めとして、幾つかの植物(の名)が登場します。つまぐれ(鳳仙花)、梔子、鬼灯、チューリップ(を植える)、コスモス……。
 それらはもちろん、「八月九日」の頃を、実感させるためのものでしょう。しかしそれだけなら、これだけ多く登場する必要もないような気もするのです。
 もしかしたら、そこには、登場人物の心情や、物語の微妙なニュアンスが託されていたのかもしれません。
 残念ながら私には、それを汲み取ることはできませんでした。しかし、俳句を愛する本誌読者が観られたら、そこに込められたものをより深く受け止めることができたのではないか。そんな風にも思ってしまったのでした。

亡き人の化身なりしかコスモスは



このコーナーでは、松山市民劇場例会にて公演された芝居を紹介します。次回公演は表紙裏の広告をご覧ください。



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まつやま俳句でまちづくりの会通信


第18回 文/写真 暇人

番外編 甲斐ゼミ特別講義ふたたび謎の俳人登場
 約1年前、俳句甲子園一般ボランティア委員会メンバーによる「甲斐ゼミ特別講義」の模様を掲載したが、今年再びボランティア人材確保、出来ればその後末永く俳句甲子園に関わって欲しいという願望を秘め、5月17日午後12時から松山大学のとある教室にて1回生14名を相手に講義を行った。
 今回関わったメンバーは、今年から実行委員会副委員長に抜擢され大活躍中のわたる、一般ボランティア委員会から委員長大五郎、副委員長竜胆、あねご、しんじゅ、そして私(敬称略)。
 90分に渡る講義は、大五郎委員長による俳句との出会いについての話から始まり……そして俳句甲子園の説明へ。俳句を始めるきっかけは奥様のゴスペル発表会を観に行ったことから。その場所にいたのが夏井いつき先生。その時に「傘立ての傘混み合って文化の日」という句を聴いたときに衝撃を受けたという。そんなエピソードを学生に解るよう流暢に語っていた。途中で俳句甲子園のDVDを流し学生にボランティアの募集告知も。
 ここからが本番、なんと昨年に引き続きあの謎の俳人「イツイナツキ」が登場。イツイナツキ先生の語りは松山弁丸出しで学生の心をキャッチ。そこに「松山はいく」でおなじみのしんじゅさんも加わり、わかりやすく楽しい「俳句の作り方」の講義を展開。
 俳句の作り方も解ったところで、学生たちに俳句を一句、5分間で作ってもらうことに。委員会メンバーが学生にアドバイスを送る裏では、わたる、竜胆の両氏が学生の句を大短冊に清書。
 学生の句が揃い、大短冊がそろったところで句会ライブスタート。句合わせ方式でまず七句を選抜。そして多数決の結果次の句が天地人に選ばれた。

人  夏の昼眠気ただよう濃い茶色 仙波祥太
地  かえるさんほんとに無理だ嫌いです 乗松進之助
天  「元気だよ」少しさみしい夏の宵 坂本はな

 ゼミの甲斐先生も俳人らしく?句を。

 卯の花や二つにたたむ車椅子 かいともか

 天の句を観ていたら学生時代の自分を思い出した。
 第15回俳句甲子園は8月17日から19日まで行われます。例年のごとく18日(土曜日)は多くのボランティアが必要です。只今募集をしております。我こそはという方ぜひ俳句甲子園のホームページ等をご覧いただき申し込み下さい。最終〆切は7月17日となっております。
 講義を受けた学生の中からボランティアに参加志望という情報がちらほらと。本番が楽しみになってきたぞ。


次回は「Facebook×mhm」


mhmでは、ひきつづき松山市内外問わず会員および役員を募集中です。原則、毎月最終週の火曜日19時からマルコボ.コムにて会議がおこなわれます。偶数月は懇親会も開催! 興味のある方は事務局(mhm_info@e-mhm.com)まで。


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一句一遊情報局


有谷まほろ & 一句一遊聞き書き隊
協力 南海放送


金曜日優秀句
平成24年5月度


【田螺和】
瓢屋の主曲者螺和 山野遊造
田螺和一段低きおくどさん みいみ
秘伝まだ嫁に教えず田螺和 ばーりん
田螺和父の小言の染みる椅子 はなみずき
敵国とまだ父は言う田螺和 白鷺次郎
田螺和戦後を包む母の手や  ぺペロンチーノ
田螺和女将の根付は瑪瑙らし きうい
田螺和こりこり有線の誤報 ふづき
見せしめの左遷田螺和は右巻き 日暮屋
ショートホープ根元まで吸い田螺和 ねこ♪
沼きゅきゅと鳴く月の夜の田螺和 そも

《天》
グラマンに撃たれた欅田螺和  樫の木


【新酒火入れ】
金文字の玻璃戸新酒の火入れかな 太郎
金色の看板新酒火入れかな かなた・小6
拍手や煮酒の樽に金の熨斗 ふづき
新酒火入れ正宗の名を守るべく 酒洛
米山の大書の覗く酒煮かな 鍛冶屋
酒を煮る軒先かすめバスの行く 四方田
酒を煮て蔵の上なる太白星 もも
格子戸に月の差し入る煮酒かな 花菜
新酒火入れ松青々と雨が降る ミズスマP
新酒火入れ天保五年の火打石 八幡浜発
安達太良に雲なく新酒火入れかな 樫の木

《天》
新酒火入れ終え嫁取りの荷が来たる  そも


【袋角】
跳ねるたび揺れはすまいか袋角 とりとり
阿修羅立ち大仏は座し袋角 逆ベッカム
阿修羅の童顔は袋角に触れたのか  バーバパパ
月に濡れ薄絹びかり袋角 菜々枝
袋角超新星は青白く ひまわり
太陽は生まれたばかり袋角 八幡浜発
神々のめでたき雨や袋角 マイマイ
袋角熊野に雨後の貌ありて 藤実
雨降るや黒く濡れたる袋角 伊佐
袋角剥がれて黒き雄となる ちょっと横道
降りそそぐ木霊や眠き袋角 瀑

《天》
片方は神に捧げし袋角  睡花


【石楠花】
石楠花や千切れ千切れて雲と日と 樫の木
石楠花の宿の窓より記紀の山 桜井教人
石楠花や山地寄付者のご芳名 山野遊造
石楠花や遍路転がしなる高地 もね
石楠花や手を取り合いし道祖神  ひなぎきょう
膝を励まし石楠花へもう一歩 さわらび
石楠花や風神おわす深き谷 さくら
霊山や石楠花は空の結界  ドクトルバンブー
四方に煙る山石楠花の吐息 菜々枝
石楠花は昼の暗さを吸い上げて 天玲
石楠花や崖に薬莢の錆ゆく しょうパパ
石楠花摘むモントリオール昼の鐘 羅エル
石楠花に生まれる前は白拍子  あべかわもち

《天》
石楠花へし折り山姥のかんざし  痛快



※ 「落書き俳句ノート」を除く、朧庵(SNS)の利用、閲覧には登録が必要です。パソコン用のメールアドレスがあれば、無料で簡単に登録できます。


夏井いつきの一句一遊
南海放送ラジオ(愛媛県 AM1116kHz)
毎週月〜金曜 午前10時放送
週替わりの季語を兼題に、要努力の月曜日から優秀句の金曜日へと、紹介される俳句のレベルが上がっていきます。最優秀句「天」を目指せ!

投句の宛先は
〒790-8510 南海放送ラジオ 「夏井いつきの一句一遊」係
Eメール ku@rnb.co.jp

こちらからも番組へ投句できます!
http://www.marukobo.com/media/


投句募集中の兼題

7月8日
蝿取リボン【三夏/人事】
粘着性の加工をした細長い紙を天井から下げ、そこにとまった蝿を動けなくする仕掛け。「蝿」(三夏/動物)の傍題とする場合もある。

冷素麺【三夏/人事】
「冷素麺」とも書く。小麦粉を食塩水でこね、細く引き伸ばし乾燥させた麺を茹で、冷水や氷で冷やしたもの。様々な薬味や麺つゆをつけて食べる。

7月22日
鵤【三夏/動物】
「斑鳩」や「桑扈」とも書く。アトリ科の小鳥で、灰色に濃紺の羽毛と角張った太い黄色の嘴、開いた翼に見られる白い斑点が特徴。「いかるが」。

藻刈【晩夏/人事】
夏場に湖、池、沼、川などに繁茂した藻を、藻刈舟を出して刈り取る。


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句集の本棚





『天晴』 金子 嵩 著

  春の沖クジラゆっくり家出する
  ジュラ紀から宿題の出る夏休
  縁側に尻の形の汗を置く
 「天晴」とは造語だが、これまでの人生を思い「アッパレ」と断じた作者の視点の機微が詰まっている。作者はあとがきで日常生活から生まれる感情の表現を主とし、特に哲学や形式にこだわりなく楽しんで作ることに満足していると語る。だからこそ読者は日常のふとした時に同じように感じていたことを掬われたような感覚になるかもしれないが、半分では作者の視点に共感し、もう半分でその視点の表現のオリジナリティに唸らされる。
  卒業生急に上手な野球する
  好きですよ 落し文独り言
  欠片だけ録画してある初夢
  ヒカヒカと手相の中の螢かな
(書評:匠磨)

金子 嵩(2011年初版)
定価 2000円(税別)
全217ページ



『和実』 吉本伊智朗 著

 著者の第8句集は軸足のしっかりした描写を多く愉しめる。
  雪吊のまはりの空気魚臭なし
  林中に鯛の気満てり建国祭
 なぜ「魚臭なし」なのだろう。なぜ「鯛の気」なのだろう。
 磯の香りのするものは他にも多い。
  裂けて地にあれば分厚き海月かな
  太刀魚の銀色めくといふことなし
 感覚が新鮮で堂々としている。
  独活を切るおのが刃物を怖れけり
  人老いぬ芋茎を滅多切りにして
 著者も私もあなたも今この瞬間を老いていて、著者は「芋茎」なんてものを滅多切りにさせている。私は何かを滅多切りにしたりしているのだろうか。
  霊長目いつぴき坐り花終る
 私も霊長目として括られて坐ろう。
 「斧」主宰。
(書評:藤実)

本阿弥書店(2011年初版)
定価 2800円(税別)
全200ページ



『旧の渚』小池康生 著

 シンプルでそしてエネルギーに満ちていた昭和。そんな匂いを随所に感じさせてくれる句集である。
  浮寝鳥旧の渚はこのあたり
 句集名となった句。間違い探しの絵のように、変わらない景色の中に、確かに変わったものがある。旧の渚で出会い、過ぎたことも、また一方で新の渚から生まれる未来もある。
  さいごまであたまの味の目刺かな
  潮干狩どこを選べど沖のあり
  炬燵出す去年の匂ひしてきたる
  六月の何度か切れるアーケード
  香水やかつて中学二年生
  風呂吹のなかの炎にゆきあたる
 透き通った大根の、ぱっと見からは分からない「炎」に作者の情熱も感じられる。「銀化」同人。第一句集。
(書評:なぎさ)

ふらんす堂(2012年初版)
定価 2667円(税別)
全211ページ



このコーナーで紹介した句集は、100年俳句計画編集室にて閲覧できます。


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選句&投句欄 ザ 句会


 このコーナーは読者による誌上句会。先月号に掲載された投句への、選句&選評(互選)を掲載しています。不肖編集室一同も参加しています。

第174回兼題
 「鳥」の字の入った句
 出題者 まくわさん

 今月の互選『鰯の歯ぎしり』

7点句
エノコロちゃん、迂叟、青蛙、朗善、けら、のり茶づけ、しゅん選
手のひらに鳥の重さの残りけり 山ぐるぐる
  エノコロちゃん   いやあ〜、いいですねえ。鳥の軽さじゃなく、重さと言ったところが、すばらしいです。重さと言ったところで、死んでしまった鳥を手のひらに大切にのせたのでしょうね。命の重さが、充分に伝わってきました。無季にしたのもよかったです。「死」は、季節を選びませんものね。手のひらに……でしんみりしました。
  迂叟  無季?だけれども放してやった鳥の行く末を心配する優しい気持ちがよくでていると思います。
  青蛙  鳥は何処へ行ったんだろう。できれば土の中ではなく、元の空に自由に飛んでいったと思いたい。思い出の重さを残して。
  朗善  この重さリアル。巣から落ちてきたツバメの子を育て、巣立って行った嬉しさ、死なれた寂しさ、カチカチになってしまった重さ、さまざまの場面を思い出した。
  けら  拾って来たひな鳥が元気に飛び立って行ったのか、または飼っていた鳥が死んだのか手の感覚だけが記憶になっている、良い句です。
  のり茶づけ  掌に乗る鳥だからそんなに大きな鳥ではないだろう……その鳥のわずかな重みを「残りけり」と感嘆している心情は、逃げられてしまったのか、放してやったのか、そのシチュエーションは分かりませんが、心惹かれました。
  しゅん  縁日のひよこを思い浮かべました。無季の句ですが、季節感がないことで、鳥の重さという実体のないもの、無機質な感じとバランスがとれているのかなと思います。

もね、ほろよい、一走人、えりぶどん、和音、三月、兼光選
不死鳥の羽より夏の生まれたる 紗蘭
  もね  不死鳥の羽から夏が生まれる発想に脱帽。そうなんだ、妙に納得しました!
  ほろよい  自らの身体を焼いて再生するというフェニックス。その羽の炎から夏が生まれるという発想に感動。その発見に一票。
  一走人  死んでも生まれ変わるという不死鳥から夏が生まれたという発想に驚かされました。
  えりぶどん  こんな風に夏を表現した作者に拍手です
  和音  年々暑さを増す夏。夏の暑さや日射しは、まさに不死鳥の羽より生まれたと思えます。
  三月  一枚の羽根から夏が始まった。ファンタジーを感じます。
  兼光  不死鳥は名の通り、死から解き放たれた鳥。飛び立つ羽からは空いっぱいに拡がる夏が哀しいまでの永遠を伴って生まれる。

6点句
ひでこ、松ぼっくり、南骨、蓼蟲、まとむ、山ぐるぐる選
鳥一羽ぶち込んで炊く立夏かな 正人
  ひでこ  なんとも豪快なごはん!! 元気がでる句です。
  松ぼっくり  季語ともよく合った豪快な詠みっぷりに力を頂きました。
  南骨  威勢が良い。
  蓼蟲  東京スカイツリーから遡ること55年余、松山では城山にテレビ塔建設が進んでゐた。敗戦後10年、その頃鳥一羽ぶち込むなんてとんでもない贅沢だつた。この句、勢ひとリズムに魅かれた。
  まとむ  「ぶち込んで」が夏のイメージ。そこそこ大きい鳥でないと「ぶち込む」とは言わないので、大人数の食なのだろう。夏に立ち向かえそう。
  山ぐるぐる  ぶち込んで、と思いっきり乱暴なところに、愛がある、立夏にふさわしい飯です。

5点句
親タカ、たま、紗蘭、だりあ、あき選
五月闇鳥籠は肋骨めいて 鞠月
  親タカ  肋骨の中でさえずる鳥は、さしづめ心臓? そんな妄想をもたらす五月闇なんだね。
  たま  五月闇まったりと怖いですね 鳥籠が肋骨とはさもありなんです。何か物語りの展開がありそうです。
  紗蘭  読んだ時、すごい衝撃でした。鳥籠と肋骨の取り合わせがいいと思います。
  だりあ  空っぽの鳥籠でしょうか。寂しい心を囲む肋骨のように鳥籠の網目。
  あき   肋骨めいているという発見がおみごと。鳥籠を、鳥を愛でるためのものというより檻として捉えているからこその季語・五月闇。暗さが想像力をかきたてる魅力的な一句。

清流子、ソラマメの母、みちる、猫ふぐ、輝女選
鳥になりたいと思つた夏帽子 ポメロ親父
  清流子  皆んな幼少期を思い出すような一句。季語が生きてます。
  ソラマメの母  学生時代の物理の授業中、窓の外を眺めて、空の雲のようにここから逃れたい衝動にかられた事があり、夏帽子が学生時代の吾身に思えたもので……。
  みちる   夏帽子の気持ちがピタリと出ています。
  猫ふぐ  夏帽子が風に飛ばされた様子を子どもっぽく表現していると詠んでもいいし、自分自身の気持ちと詠んでもいいし、鳥の羽をつけた夏帽子のことがよく描けています。
  輝女  夏の入道雲がもくもくと湧き立つ大空を見て鳥になって空を飛べたらと思ったことが私にもあります。

柊つばき、魔心地、破障子、Blanca、みゆう選
金鳥渦巻に超緊張の蚊 青柘榴
  柊つばき  汗をかいて動けない蚊の姿を想像して笑ってしまい、はまってしまいました。
  魔心地  馬鹿馬鹿しさに一票(笑)。でも、近頃の蚊は渦巻くらいじゃ緊張しないんじゃないかなぁ?
  破障子  いやあ、こうゆう句、好きです。主役が「蚊」なのも天邪鬼でいいです。
  Blanca  締切日の今まで気になって気になって仕方ない句でした。「鳥」を「金鳥」としたところに驚き、蚊目線なのが面白いと思いました。
  みゆう  鳥そのものをよんだ人が多い中金鳥渦巻とは面白いと思いました。「超緊張の蚊」のリズムも楽しいです。

ふじばかま、浜田節、ペプチド、藍人、駝楽選
万緑や怯えた鳥を解き放て 猫ふぐ
  ふじばかま  万緑の生命力と色が鮮やかな印象をのこし、巣立っていく鳥への愛情を感じた。
  浜田節  怯えた鳥とたとえたのは何だろう。もしかしたら自分、もしかしたら今の日本、万緑の中だったら、解決があるだろうか。
  ペプチド   見渡す限りの木々による新葉の緑色の力が持っている力は、力の弱い者をも元気づける力を持っており、そこにあるだけで応援団になっている様に共感しています。
  藍人  数年前「人類が消えた世界」という本がベストセラーになった。人類が消えても、地球は緑覆う星とはならないようだが、せめて、万緑の中を自由に鳥たちが飛べるといいと思う。
  駝楽  その行為を行っている人の気持ちが慮られます。

コナン、瑞木、たかこ、八木ふみ、正人選
ひな鳥の口は火の色麦の秋 とりとり
  コナン  口の中の赤と麦の黄色。ピーピーピーと可愛い子燕の母鳥におねだりする姿も微笑ましいです。
  瑞木   あの赤は生きるエネルギーが燃えている赤だったんですね。
  たかこ  パチパチと命がスパークするような句だと思いました。
  八木ふみ  鳥の巣を見つけ、そっと覗いた瞬間に飛び込んできたひな鳥の大きく赤い口の迫力を思い出しました。
  正人 「火の色」が秀逸。生命力を核にした取り合わせがお見事。

4点句
ぜぶら、とりとり、桜井教人、いつき選
空き缶に集める会費愛鳥日 雨月
  ぜぶら   空き缶の愛すべきところは、打てば響くちょっぴり男前な音。この句では、とりあえずの空き缶のように思われますが、響く音に国境はありません。いつものように集める会費との相性はバッチリです。
  とりとり  空き缶に会費を集めているんだから戸外ですね。野鳥の会かなにかの会費かな。緑のなかの集まりが思われます。
  桜井教人  何の会費でしょうか。空き缶で集めるのだからたいした金額じゃないのでしょう。日常の光景が愛鳥週間とよく合っていると思います。
  いつき  「水漬く椋鳥風の唄が聞こえる」「ひな鳥の口は火の色麦の秋」にも惹かれたが、季語「愛鳥日」がこんなさりげない上五中七で生きるのだという事実が新鮮だった。

ちろりん、未々、もんきち、烏選
鳥葬の視線の果てや夏の空 蓼蟲
  ちろりん  モンゴルの岩の上の景色を思い出しました。想像すると残酷な図だけど自然なことですよね。
  未々  ドキッとした。昔「人間は犬に食われるほど自由だ」という言葉をつけた藤原新也氏の写真を見た時と同じ衝撃を受けた。「夏の空」としめたところに脱帽です。
  もんきち  鳥葬という弔い方があると聞いたことがありますが、残酷なようで、とても自然な気もします。自然の営みの中での儀式は悲しみを越えて青空が似合っていると思います。
  烏  魂を感じました。

えつの、カラ嵩ハル、稲穂、亜桜みかり選
薫風を飛ぶため拾う鳥の羽根 まほろ
  えつの  南風の気持のよい中を鳥のように飛んでみたいですね。夢があって好きです。
  カラ嵩ハル  ちょっと湿気った気分を、拾った鳥の羽根に乗せて、ひょいと薫風に投げたね。
  稲穂   薫風が気持ちいい。空を飛ぶための羽根を拾ってみたいです。
  亜桜みかり  夢を叶えるためのささやかな行動が素直に描かれているのが良い。薫風を飛びたいという希望にも共感した。

3点句
人日子、ちょっと横道、桃林選
大仏をものともせずに鳥交る 松ぼっくり
  人日子  恋は盲目、何憚ることなく。
  ちょっと横道  「ものともせずに」が素人っぽいようでいて、計算されているのか。とにかくこの骨太感が好きです。もちろん大仏が見事でした。
  桃林  大仏さんはさぞかし鬱陶しいことでしょう。鳥たちは大仏さんをどう思って飛び交っているのでしょうか。大仏さんの頭が回りだすような錯覚にとらわれそうです。

今比古、カシオペア、ゆりかもめ選
鳥の巣の寝息のような羽毛かな まとむ
  今比古  元々羽毛は、鳥自身の保護、保温、装飾の為にあり、ヒトの為にあるんじゃない。ヨシ、人の髪の毛、何かにリサイクルしてみよう!
  カシオペア  生まれて間もない赤ちゃんがすやすやと眠る光景が浮かびました。
  ゆりかもめ  繊細な感覚の俳句で、巣立ちの鳥の初々しさが想像できました。

波留夫、ゆき、まんぷく選
緑雨なる夜をねむらぬ鳥獣 いつき
  波留夫  五月闇の中で鳥獣が声をたてています。里山の初夏のきざしがうまく表現されています。
  ゆき  夜を眠れない動物の緊張と緑雨という美しい季語の対比が素晴らしい。原初的な思いを呼び覚まされた世界でした。
  まんぷく  新緑に降る雨の夜は鳥や獣だけでは無く人間も原始の血が騒ぎでもするのか、よく夜中に目覚めて眠られぬことがあります。

元旦、ポメロ親父、樫の木選
夏来る南鳥島風力3 柱新人
  元旦  NHKラジオ第2放送の気象通報。あの渋い声で淡々と伝えるところが、病みつきになり、それで癒やされるんですよ。「南鳥島、南東の風、風力3、天気は不明、15hPa、29度」。このまちにも夏が来るようです。
  ポメロ親父  いま南鳥島を過ぎた風力3の南風が、太平洋岸に届くまでどのくらいかかるのかなあ。
  樫の木  気象通報で「南鳥島」という地名を聴くと、風に乗って群れ飛ぶアホウドリを想像してしまう。彼の島の夏はどんなに輝いていることだろう。

2点句
サキカエル、杉山久子選
鳥居千くぐりて春の別れかな すな恵
  サキカエル  春は毎年やってくる主人の命日。普段は好きなように生きてる私……。でも主人の命日は必ず好物をお供えしてお墓参りもして主人の事を色々思い出してあげられる日にしています。鳥居千くぐりて春の別れかな……声を出して読んでいると涙が出てきました。
  杉山久子  朱の鳥居の連なりが見える。きっと言葉少なに潜ったのではないかと想像する。「千」の美しさが際立つ一句。

旧重信のタイガース、信野選
子供の日鳩追いかける三歳児 もんきち
  旧重信のタイガース  うちの長女も、7月3日で丁度三歳児。一歳くらいのときには、追いかけていたが、今では怖さを覚えたのか、逆に追いかけられる娘であります。
  信野  楽しそうな声もきこえてきます。いいですね。

オパール、ふーみん選
親鳥は素知らぬまなこ巣立ち鳥 未々
  オパール  巣立ちをさせる子鳥に対する親鳥の心が切なく心に響きます。
  ふーみん   何も感心ないよと見せる親心、同感です。

不知火、犬鈴選
ひな鳥がどうのかうのと聖五月 唐草サ行
  不知火  朱鷺が無事に育ってほしいものです。明るいニュースは気持ちを明るくしてくれます。
  犬鈴  ひな鳥の成長を見守る住人の日々の楽しさが伝わります。

半角、すな恵選
百千鳥けふはくしやみが止まらない ぜぶら
  半角  ざわざわ感が延々と続く感じが、よーく伝わります。
  すな恵  生命力の極みの「百千鳥」と、少しへたった自分の対比がおもしろい。

大阪野旅人、柱新人選
春愁や汀に拾ふ鳥の羽根 迂叟
  大阪野旅人  迷いましたがこの句に決めました。が季語が重たく思います。気持ちは分かります……。
  柱新人   春愁、汀、羽根の配置に惹かれました。

七草、まほろ選
帰る鳥見送る翼なき背中 たかこ
  七草  帰省息子の見送りを思い出しました。翼なき背中は見送る親側の淋しさを表現していると思います。
  まほろ  「翼なき背中」に込められた見送る側の心情。背中側のカメラ位置から、背中越しに見える広大な空は、来年また鳥たちがやってくる空へと繋がっている。

明日嘉、紫音選
片付けぬままの鳥籠西日さす 犬鈴
  明日嘉  縁側に射す西日の中に放置された主のいない鳥籠。子供の頃に見た景と感傷が甦ってきました。
  紫音  飼っていた鳥がいなくなった後、空になった鳥籠をなかなか片付けられずにいる……そんな場面が浮かんできました。その寂しい感じが「西日」と合っていて、とても印象に残る句でした。

豊原清明、さかえ選
青い鳥やママのハミング初夏の空 たま
  豊原清明  この「青い鳥」はとても元気で若い印象。清潔さがある。
  さかえ  ハミングしながら家事にいそしむお母さん。明るいご家族の様子を感じます。

ザッパー、チャンヒ選
剣道部梅雨の鳥居を鋭角に カラ嵩ハル
  ザッパー  鋭角が効いていますね(笑)。
  チャンヒ  「鳥の句」と「鳥の字の入った句」とは違う。ましてや、「鳥」の字の入っていない句は却下。結局自分は、「鳥の句」を詠んでしまったが、この句は「鳥の字が入った句」に違いない。鳥居の下、鋭角な剣道部の姿が新鮮。

しのたん、一心堂選
逃げ水や昨日潰れた焼鳥屋 理酔
  しのたん  何ともはや……逃げ水やとは……ああ無常……。
  一心堂  昨日潰れたはずの焼鳥屋が現れる“虚と実”がおもしろい、逃げ水の季語が効いている。

樹朋、青柘榴選
燕の子飛べ鳥人間コンテスト まるにっちゃん
  樹朋  琵琶湖で開催される「鳥人間コンテスト」は私も大好きで、毎年欠かさずテレビ観戦しています。高い巣から初めて飛び立つ燕の子もコンテスト参加者と同じ心境でしょう。思わず「飛べ」と応援したくなります。
  青柘榴  燕の子は鳥になれるだろうか? 勇気を持って飛ぶんだ! 人間だって鳥になりたいんだから。

権ちゃん、雪花選
鳥居くぐるや薫風に道ゆずる 白
  権ちゃん  神社の鳥居をくぐると清々しい緑の風が……。その風に道をゆずるかのように端っこ歩きます。
  雪花  薫風に道ゆずると言う表現が気持ち良い。鳥居のある場所も風の勢いも分かります。

海田、逆ベッカム選
生も死も夏のうしろにある小鳥 ケンケン
  海田  生と死という、我ら限りある生命にとっては極めて重大な概念そのものも、夏という自然の力溢れる季節の後ろに佇む小鳥にすぎない。そう言い切る姿勢に寧ろ生命を全肯定する清々しさを感じました。
  逆ベッカム  生死は、夏すなはち自然的なことではなく、セシウムやストロンチウムなどの人工的につくり出された元素によると言うことか……。

1点句
恐竜の眼を受け継ぎて鳥交る まんぷく
  唐草サ行  どんな種類の鳥なんだろうか? 恐竜との取り合わせが面白い。

夏の白鳥魔法解いてさしあげる のり茶づけ
  洋子  魔法が解かれたら黒鳥になるのかな? クワバラクワバラ……。

じやあ鳥取で暮らすかいあいの風 ソラト
  ケンケン   ええ、ぜひ鳥取に住んでみたいです(笑)。ユニークな内容の一句ですね〜。

焼鳥の串と生れて明早し めろ
  しんじゅ  焼き鳥の串に生まれたらなんて考えたこともなく驚きと共に、明け早しという季語に脱帽です。

渓谷の奥の夏へと鳥の声 魔心地
  まくわ  以前、渓谷の奥に行った事がある、夏でも渓谷の奥は静けさとひんやりとした内界的な空間、そこへ鳥の声が聴こえる、その鳥の声はくぐもって聴こえているような気がします。涼しげ。

残されしロッキングチェア夏燕 ひでこ
  漫歩  主を失った椅子にはまだ人の気配が感じられます。でも、燕は今年も変わらず軒先を飛び交っています。

母の日や留守番の九官鳥黙る しゅん
  遊人  明るくおしゃべりなお母様。おかしい。

鳥ですら飛ぶ気削がれるほどの夏 駝楽
  まるにっちゃん  夏ですから……。でも少しずつ前へ。できれば人として羽摶く、そして飛び立ちたい。頑張れ〜!! 夏に負けるな!!

後ろ手にしまってからの鳥の恋 親タカ
  西条の針屋さん  「そんな恋ってありって……」この句が目から離れませんでした。

南風や空になれずに鳥でいる しんじゅ
  ソラト  鳥を見上げる感情の一貫性を痛感します。

降るやうに鳩は五月の風となる だりあ
  レモングラス  鳩が乱舞する様は美しい、そのまま風となる様子は祈りにも似て希望がわく光景である。

鳥風や吼ゆる玄海波荒らし 一心堂
  こてぞう  先日、博多湾の能古島にいきました。玄界灘の波は荒く。風はここちよかったです。

母に嘘すこしつく夕時鳥 杉山久子
  鞠月  「すこし」だから、この嘘はきっとお母さんに心配をかけるまいという優しい嘘なのではないかと思います。でもそんなこちらの思いも母親には実はお見通しだったりするんですよね。

今年又我が家に帰るつばめかな 信野
  多久美  渡り鳥も毎年少なくなって来ている。今年も来てくれてありがとうという気持ち。

夏兆すゆらりゆらりと朱の鳥居 権ちゃん
  こまりやま  ゆらめく朱の鳥居が妖しくていいです。

春虹を追へば鳥人族の村 桜井教人
  生糸  子供の頃の疑問が一つ解けたかも。虹の向こうは選ばれた人達がいたんだと。

今月の無点くん 
夕日の絵描きて付け足す閑古鳥 紫音
百千鳥やさしく我を目覚めさす さかえ
そにどりのあをぬぎすべせ陶枕へ 破障子
蚊喰鳥大粒の雨避ける如 桃林
帰る鳥飛行機雲と競い合い 青蛙
枯木立烏百羽になりにけり 人日子
水漬く椋鳥風の唄が聞こえる 一走人
夏帽の高きところに白鳥座 藍人
我が鳥は羽根なく過ごす立夏父 豊原清明
帰る雁峠見上げる三度笠 波留夫
八重桜目白の揺らす枝の先 えつの
性的人間の考察鳥交る 逆ベッカム
南風吹き込む先の鳥瞰図 不知火
人の眼に似た眼の鳥の喰う毛虫 チャンヒ
海に向く老人ホーム揚雲雀 浜田節
太宰忌やブラック・コーヒー鴉鳴く 清流子
岩飛び過ぎてペンギンの玉の汗 ザッパー
鳥は涙初夏飛びまくる鳴きまくる ちょっと横道
大屋根の鳥騒めける雲の峰 雪花
「はやぶさ2」もいつか発つ空巣立鳥 海田
初夏の鳥籠はもう捨てました あき
森の国出湯は何処時鳥 西条の針屋さん
来る鳥の声高らかや青嵐 エノコロちゃん
車覗く小鳥首をかしげて右左 オパール
恐竜の遺伝子の鳥雲の峰 漫歩
愛鳥週間ポスターばかり目につく日 輝女
青い時烏帽子山笑う君笑う 洋子
雁飛ぶや新国劇の忠治さん 多久美
鳥のゐる枝を教えてゐる立夏 亜桜みかり
連休や長蛇の列に百千鳥 和音
子らの夢次々食らふ羽抜け鳥 レモングラス
アングリと嘴揃う燕の子 しのたん
羽抜鳥自分を値踏みしておりぬ えりぶどん
駒鳥やいくつも谷を越えて来し お手玉
夏落ち葉鳥になりたきペンギンは もね
七月の勝利導け八咫烏 かのん
原発は大きな家電鳥曇 三月
解き放つ朝待つ鳩の原爆忌 元旦
もう一度電線に来い水恋鳥 サキカエル
平泉見上げ眩しき百千鳥 こてぞう
時鳥往生際を如何にせむ 大阪野旅人
青鷺が友達道後けふも雨 朗善
墓参の手順板に付く鳥雲に 樹朋
新緑や鳥の世界も住宅難 柊つばき
春の山鳥類図鑑携えて ペプチド
引鳥の波の間に間に影の落ち ふーみん
鳥瞰のチチカカの舟夏つばめ 兼光
恋の歌練習中ですホケキョケキョ こまりやま
電線の鳩さみしげに走り梅雨 コナン
乙鳥の巣を避けなからベル鳴らし  旧重信のタイガース
ホオジロを聴いて父への手紙書く ちろりん
自治会を巻き込むゴミの親烏 カシオペア
黄砂ふる橋の真下のはぐれ鳥 今比古
大空をまう鳥こそが宙の神 ひまわり
山青葉鳥のさえずり求婚歌 生糸
アマリリス火の鳥現わる奥の底 Blanca
人間を忘れてをりぬ三光鳥 遊人
虎が雨境界線の鳥居立ち 狸穴けら
悲しみは鶏の羽ばたき鳥雲に ほろよい
吾子泣くな天岩戸開け巣立鳥 ソラマメの母
夏鳩の目を合わさずに通り過ぎ 半角




第174回兼題
「窓」の字の入った句
出題者 かのんさん

1 車窓より見渡す限り麦の秋
2 代数のクラスの窓辺夏の空
3 お〜いビール冷えたビールを窓から手
4 船窓へ降り満ちてゆく梅雨の星
5 朧月窓辺に白き空きベット
6 窓際に無力ぶら下げ半夏生
7 地下鉄の窓や夏の月はどこか
8 月見ず月なり月写入る窓
9 窓を打つ訪問者有りかなぶんか
10 白川郷窓の灯りや冬深し
11 七月の窓には不十分な空
12 能古島虹追いかける船の窓
13 シャガールのまる窓過る晩夏光
14 日雷天使の羽根の届く窓
15 牛窓で見た空ずっと忘れない
16 雨の香や見上ぐる窓辺花ざくろ
17 クイーンは笑む五月雨が覆う窓
18 梅雨入りに窓友になる一人の日
19 過去行きの寝台列車や天の窓
20 合歓咲いて窓いつぱいの虹の珠
21 麦秋をぱらぱらめくる汽車の窓
22 窓開けて夕陽に乾杯缶ビール
23 温泉の窓に翡翠のミニガエル
24 百物語窓から見えるグラウンド
25 四階の病室の窓梅雨晴れ間
26 パソコンを切って蛍の窓となる
27 雨蛙窓にへばりて類を待ち
28 深闇の螢火追ひて窓開く
29 丸窓の臥龍山荘青葉風
30 丸窓に鬼灯の花おさまらぬ
31 夏至の夜の窓に投げ込まるる爆竹
32 夜の風鈴夢の窓開く絵本かな
33 病む人と見上げる窓や遠花火
34 マドンナのまどろむ窓辺ねむの花
35 麦の秋観光列車の大窓
36 小窓には蛍火ひとつまたひとつ
37 天窓に鳥の影待つ桜桃忌
38 風鈴や窓にあなたがいるようで
39 美しくない車窓天道虫の死
40 窓口のあの娘の窓を開く夏
41 窓に火蛾ぶつかる夜の長電話
42 飾り窓小満ニンフの貌をして
43 封筒の窓のセロファン夏の風
44 閉ぢられし木棺の窓菊零る
45 窓に来る日々太り行く守宮かな
46 窓あけて薫風すいこむおはよう山
47 あの窓とこの窓結ぶ遠花火
48 海の日の電車の窓にヘリ探す
49 天窓を開け夜空の青葉木菟
50 金雀枝の揺れてフランス窓便り
51 万緑や窓は内側から開く
52 窓開けてより雲が峰つくりけり
53 牛窓のフェリー乗場の大夕焼
54 学窓のチャイム流れる田植かな
55 朱夏の底窓の向こうを深海魚
56 曇る窓もたれる君と夕立かな
57 窓ガラス一つも割らず卒業す
58 汚れてる窓を蝸牛が昇る
59 糸瓜の花もっとも近く子規の窓
60 窓枠にはまらぬ女性よ夏帽子
61 どの窓もはみ出している大西日
62 大南風二階に兄の部屋の窓
63 頬杖の図書室窓の薄暑光
64 丸窓の宇宙船でも更衣
65 窓越しのキスはモノクロ半夏生
66 窓枠の外れて落ちて梅雨に入る
67 窓に似たおいさんおつたお花畑
68 玻璃窓に緑雨走れり聖五月
69 窓という窓に硝子の無く青蔦
70 大窓は磨き上げらる若葉晴
71 若葉風掛け声響く窓の下
72 スカイツリーの壁とも窓とも透けて夏
73 開いてる窓すべる蠅見る私見る蠅
74 天窓を狙いすまして降る夏日
75 窓明り金環日食見て仲夏
76 野茂あけし窓やダルの熱き夏よ
77 凌霄伸びよ君待つ出窓まで
78 猫がカラス見張る窓に夕立雲
79 アイスティー甘し車窓越しに空
80 初夏の風朝日さす窓来て唄ふ
81 これからは守宮のための窓ガラス
82 窓口に赤子置き去る虎が雨
83 南風窓開け放ちたる時に
84 仙人掌の花や讃美歌揺るる窓
85 同窓会タイムスリップ木の芽降る
86 ハンカチをつまんで洗ふ窓みしり
87 このビルも水底となる窓若葉
88 まどみちおの詩蜜柑むくたび思はるゝ
89 夏の陽に白く膨れる朝の窓
90 紫陽花や空瓶ならぶ窓の内
91 日向りの見ゆる新築丸き窓
92 七月のこころの窓を開け放つ
93 そうめんを窓にピシッと性善説
94 窓に乗る放浪癖の天道虫
95 全開の窓抜け空へ夏燕
96 上野発窓は修司と缶ビール
97 五月雨やがたがた鳴りし窓ガラス
98 窓辺へと声投げつけて夏の朝
99 ジューンブライド色ガラスの天窓
100 よく見れば車窓の隅に青蛙
101 なんとなく窓を通して夏木立
102 挨拶は出窓に置いた枇杷七つ
103 窓枠をすきまなく埋め夏木立
104 窓軋むあばら家なれど蛍見ゆ
105 302号室の窓には富士の大夕焼
106 夏至や夏至窓という窓開け放て
107 新緑の出窓に大きなスヌーピー
108 天窓を額縁とする夏の月
109 五月の窓にムーミンとミイがいる
110 窓口に美人そろえて夏は来ぬ
111 独房の窓の格子へくる蛍
112 牛窓は白似合う海ヨット行く
113 窓の切り取る空青し夏燕


次回兼題「眩しい句」をテーマに 出題者 雪花さん
次々回兼題「オリンピック」をテーマに 出題者 八木ふみさん

【兼題の扱い方】
季語「xx」 … 副題含む季語を入れる。
「xx」をテーマに … 内容に沿って詠む。
「xx」の字の入った句 … 単語そのものを詠み込む。



めざせ!大漁旗(174号〜179号)
 誌上句会「ザ 句会『鰯の歯ぎしり』」では、選んでくれた人の数をすべて集計し、半年間で最も点数の多い方が「大漁旗」を獲得します。大漁旗を得た方は「最新十句」を本誌誌上にて発表することができます。

〈参加方法〉
 1 「今月の投句」から好きな句を選ぶ。(選句)
 2  その句の感想を書く。(選評)
 3 「次回兼題」の一句を書く。(投句)
 ※1〜3、俳号(本名)、〒住所、電話番号を明記して、編集室「ザ 句会」宛にお送りください。一人一句まで。選句は番号と俳句を共に記入して下さい。
  番号はお間違えなく!

  今回の締切は7月5日(木)必着です。
 Eメール宛先 kukai@marukobo.com
 インターネットや携帯電話から下記の場所にアクセスしていただくと、専用のフォームを使って簡単に投句&選句ができます。
 http://www.marukobo.com/kukai/


【現在の捕れ高】

13点
いつき

11点
とりとり

10点
ポメロ親父
のり茶づけ

8点
しゅん
ひでこ
山ぐるぐる
蓼蟲
松ぼっくり

7点
迂叟
青柘榴
紗蘭
正人
猫ふぐ


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100年俳句計画 掲示板


 組長&編集長&組員さんの出演執筆一覧

テレビ/ラジオ
NHK総合テレビ(愛媛ローカル)
 「えひめ おひるのたまご」内
 『みんなで挑戦!MOVIE俳句』
  7月3日(火)11時40分〜
  7月17日(火)11時40分〜

NHKラジオ俳句ネットワーク
 7月14日(土)生放送

NHKラジオオトナの補習授業
 7月31日(火)
 兼題「白」の一字が入った句
  投句締切 7月22日(日)24時
※詳しくは裏表紙広告を参照。

南海放送
ラジオ「夏井いつきの一句一遊」
 毎週月〜金曜日 10時〜10時10分
※ 投句募集中の兼題や投句宛先は、「一句一遊情報局」のページをご参照下さい。

FMラジオバリバリ俳句チャンネル
放送時間 … 月曜 17時15分〜17時30分
再放送 … 火曜 7時15分〜8時
 兼題「西日・箱庭」(7月8日締切)
    「夜釣・夕凪」(7月22日締切)
  mail fmbari@dokidoki.ne.jp
  FAX 0898-33-0789
※必ずお名前(本名)・住所をお忘れなく!
※各兼題の「天」句にはキム・チャンヒのイラストポストカードが贈られます。



執筆
フリーペーパー高速家族・夏号
7月10日発行

Pioneer Sound Lab. 音俳句
http://pioneer.jp/soundlab/
  ウェブサイト上に組長の選評が毎日一つ発表されます。投句も受け付けています。

テレビ大阪俳句クラブ選句
http://www.tv-osaka.co.jp/haiku_club/

角川「俳句」七月号
 『平成の名句600』(6月25日発行)

本阿弥書店「俳壇」八月号
 『巻頭エッセイ』(7月14日発売)

愛媛新聞
 「集まれ俳句キッズ」毎週土曜日

愛媛新聞(キム チャンヒ)
 「ヘンデス俳談」毎月第一土曜日 兼題「空蝉」締切 … 7月24日(火)


句会ライブ/講演など
西条市立大町小学校句会ライブ
 6月27日(水)

教員免許状更新講座・愛媛大学
 7月1日(日)

広島県至誠中学校句会ライブ
 7月4日(水)

子規ジュニア句会ライブ
 7月16日(月・祝)
 場所 … 子規記念博物館

伊予銀行プレゼンツ
 坊っちゃん劇場句会ライブ
 7月22日(日)


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魚のアブク


読者から寄せられたお便りをご紹介
お便りお待ちしています!
100年俳句計画編集室「魚のアブク」宛、もしくは互選や雑詠欄への投句に添えてお寄せください。

編=編集スタッフ

書道展への感想
すな恵 「こどもたちの書道作品展特集」楽しく読ませていただきました。拙句を書いてくれた大政君ありがとう。とてもやさしく書いてくれて、この句を作ったときのことを思い出しました。
編 先月号特集に寄せて。現場で見るとまた感動しますよ。巨大な書は圧巻。

企画へのおたよりいろいろ
朗善 ベルギーのルーヴェン大学日本語学科の学生に、百年俳句計画マガジンを送りました。みんな松山に来てくれたらいいな。
編 先月号「ベルギー訪問報告」の後日談。おいでませ俳都松山。
すな恵 「ホンヤクサイホンヤク」のコーナー面白いです! 大山のぶ代さんの物まねで読みたいコーナー名とともに。
編 くだらなさにかけては本誌史上最高。(褒め言葉)

瑞木 ローゼンさんのHAIKUを、試しに息子に訳してもらったら「夏雨のせいでチェロの音合わせがうまくいかない。最悪。やらないとなあー。」となりました。HAIKUは訳す力量が必要なんですね。
編 訳せるだけ偉い! ところで実際に雨が降ると調弦が難しくなるのでしょうか? 気になる。

写真の犬は……
藍人 六月号の写真部のお題の写真。香雪蘭さんの三頭の犬って、ロシアン・ウルフハウンドですよね。夜、公園をジョギングしていると、時々、この犬を散歩させている人に出会います。シュッとしてかっこいいですけど、飼い主曰く「意外とバカ犬」と仰ってました。ホントのところどうなんでしょ。
編 犬に詳しい人の情報求む。

100年の旗手に夢中
みちる 前回の「くらむぼん」、マガジンを見たら載っていないので、「あれ、全部落ちたのか」と一瞬思いましたが、実は「100年の旗手」で頭がいっぱいで、投句を忘れていました。それだけ夢中になっていたということでしょう(良く解釈すれば)。
編 念のため確認しましたが本当に投句されてなかった模様。三ヶ月の連載お疲れ様でした!

ザ・句会、易し難し
南骨 約1年ぶりの参加だと思います。「窓」は復帰しやすい兼題で、出題のかのんさんには感謝いたします。これからも変にりぐらず、素直な兼題が続くことを願います。
編 「りぐる」は「念を入れる、吟味する」といったような意味の土佐弁だそうです。へぇー。

破障子 「そにどり」すいません……っつ
編 なんのことかと言いますと選句フォームの投句一覧の件。変換できない漢字なので画像で作っておきました。圧倒的巨大文字……!

悠々自適へたうま仙人
洋子 へたうま仙人に恋して、これからも追放されない句作りに励みます。
北伊作 へたうま仙人の意図がもうひとつワカランゾナモシ。モウスコシ様子を見ようかのう……。
編 追放=真っ当に上手い句なので、本質的には追放される方が名誉なんぢゃがのう。わしは上手いだけの句より、味があるへたうま句の方が好きぢゃ!(へたうま仙人)

作句の沙汰のあれやこれ
元旦 先月号「くらむぼん」の「地」、さちさんの「陽炎や部室は酢酸の匂い」の句に懐かしさを覚えました。高校時代、部室に暗幕を張って写真の現像をしたことが蘇ります。酢酸の匂いのする赤い光の部屋で、印画紙に陽炎のようにじわーっと絵が浮かんでくるときのアノ感動。電気的なデジタルとは違うアナログな化学の不思議な感覚を思い出しました。
編 文化系部活の人に蘇る記憶はこのようなものであったか! 体育会系部活との対比が面白い。

のり茶づけ 「逃水や自分の影を踏む遊び」
 まったく何の先入観もなく作ったつもりでしたが、下五がどうも気になり、調べて見ると藤実さんの俳句(貌鳥で天を取られた)に下五がほとんど同じでした。こういう場合は違った言葉を探すか、破棄するかが好ましいのでしょうね。時々自分の句が大丈夫かなと不安になります。
編 藤実さんの俳句は「貌鳥の尾っぽ探しに行く遊び」でした。「遊び」の被りを類句と見るかどうか??

紗蘭 この前句帳をチェックしたら、5月に70句も作っていてびっくりしました。始めは一日一句、一ヶ月30句目標だったのに……スケジュール帳役立ってます!
編 活用いただきありがとうございます。今年の「句集コン」も楽しみにお待ちしていますぞ!

投句再開&新メンバー
まんぷく 出戻りですが又宜しくお願い致します。
稲穂 一年半ぶりに投句再開です。
てん点 こんにちは。初めの一歩がなかなか踏み出せなかったのですが老体に鞭打って応募させていただきます。よろしくお願いいたします。
ぽけっと 初めて投句致します。
うに子 初投句です。木曜カルチャーではじめの一歩踏み出してからいつも見てたものが違って見えるようになり楽しいです。
編 投句再開の方も、これから初参加の方もよろしくお願いします。今月号から始まった「句会紹介」のコーナーは46ページ!

一句一遊の伝説
だなえ 5月号一句一遊情報局を読みまして。過去には何十句を投句したのが小生ですが、便箋一枚に一句を書いていたため組長に怒鳴られました。〔中略〜後略〕。
編 伝説を生んだ男・だなえ。ちなみに、おたより全文掲載するとページが半分埋まったのでばっさりカットしやした。伝説健在。

パイオニアの「音俳句」
大阪野旅人 組長さんへ。パイオニアの音俳句の、「音G賞」及び「最優秀賞」続けざまにありがとう御座います。嬉しいです。感謝。
編 2月に「音G賞」、5月に「最優秀賞」を獲得した大阪野旅人さん。お見事でありますっ! パイオニア「音俳句」への投句はこちら。http://pioneer.jp/soundlab/

組員の生活
エノコロちゃん そろそろ梅雨のシーズンですねー。「ほどほどに降ってくれ」と祈るばかりですねー。
編 水不足にならない程度に降って欲しい。でも台風だけは勘弁な!

ケンケン 大学院は思ったよりもやりがいがあって楽しいです。
編 思ったより……って、最初どう思ってたの?

唐草サ行 8月の俳句甲子園、今年も車で熊本から仲間と行くのが楽しみです。
編 今年の俳句甲子園は8月18日、19日。皆様ぜひご覧下さい!


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くざとも

168
毎月たくさんの句会が各地で開催されています。それぞれの句座にそれぞれのカラーと名物キャラあり!! というわけでこのコーナーでは、句会の紹介とともに、句会の人気者、そして期待のニューフェイスを紹介していきます。

人気者
愛媛新聞カルチャー教室毎日が楽しくなる超俳句入門
俳号 道楽 & りんたろう

 NHKで放送された「それゆけ俳句キッズ」の収録で、道楽くんとりんたろうくんは知り合いました。
 中予地区代表として本戦に出場したのが2月26日。お互いの存在を認めつつも、この時はそれほど多くの言葉を交わした訳ではありませんでした。そんな二人が、「いつき組大花見大会」で再会します。意気投合した二人は、道後公園でキャッチボールをしたりサッカーをしたり……子供同士は急速に仲良くなります。
 2年前からりんたろうくんは、火曜カルチャー「毎日が楽しくなる超俳句入門」に通っています。それを知った、道楽くんも4月から一緒に通うようになりました。句会では、大人たちに混じって投句をし、選評もします。大人顔負けの句を作る二人の作品に、点が集まることもしばしば。 選評も彼らの言葉で、実直に語りあげます。二人の夢は、「それゆけ俳句キッズ」に出場したメンバーで再会して句会ライブをすること。行動力ある二人なら、本当に自分たちの手で句会ライブを開いてしまうかもしれません。
(文・大五郎)


新人
愛媛新聞カルチャー教室俳句のある生活を楽しみたい人のための俳句入門
俳号 楓&浜

編 俳句を初めたきっかけは?
楓 友達から聞いて、俳句のある生活に憧れてたんです。還暦を迎えたのをきっかけに、勇気を出して踏み出してみました。浜さんは去年ご両親を相次いで亡くされてて、立ち直れるようにと思って誘ったんです。一緒に楽しめたらいいな、と思って。
編 なぜカルチャー教室に?
楓 まずはどんなものか経験してみたいな、と思って。
浜 最初は木曜日の教室に行こうと思ってたんですよ。ほら、木曜日の教室は「超入門」っていうでしょ?(注:現在は「はじめの一歩をふみ出す人のための俳句入門」に名前が変わっています。)
楓 それでまずは木曜に行ってみたんです。1回だけ見学で参加させてもらったんですけど、定員いっぱいで入れなくて。それで土曜カルチャーを紹介してもらいました。
編 句会に来てみての感想を。
浜 とても楽しいんだけど、俳句を作るのは難しいですね(笑)。まだ力がないので他の方の句について評をするのは戸惑いもあります。私なんかがいいのかな……って。でも句会はとても楽しいですよ!
編 最後に、この教室のいいところを一言。
楓 先生がウェルカムな姿勢なのがとてもありがたかったです。最初、句会や句座って敷居が高いものかと思ってたけどそうじゃなかった。
浜 それに参加者のみなさんがすごく和気藹々としてるんですよ。それが嬉しいですね。
(文・編集室)



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鮎の友釣り

170

俳号 八木ふみ

雪花さんへ 釣っていただいてありがとうございます。吟行の際には一緒に楽しませてください。

俳号の由来 俳号は、本名ではありません。カルチャー「はじめの一歩をふみだす人のための超俳句入門」から「ふみ」をいただきました。子どもたちが巣立ち、自分が頑張れるものをと踏み出しました。

俳句との出会い 頑張るものとして俳句を選んだのは、気ままに俳句を楽しんでいた夫(八十八)の影響ですが、「いつき組」では私の方が先輩です。カルチャーでは、多くの友達ができ、切磋琢磨しながら、楽しく俳句を学んでいます。

写真 バリィさんと折り紙の薔薇。

次回…不知火さんへ 今治からの道中のおしゃべり楽しいです。カルチャーで不知火さんの句をよくとっていることご存じですか。


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告知


NHKラジオ第一オトナの補習授業〜俳句・自分らしさ〜

好評放送中のオトナの補習授業。テーマ「俳句」の第二回目放送は7月31日(火)です。あなたも番組ホームページから投句して参加してください!

 好評放送中のオトナの補習授業。テーマ「俳句」の第二回目放送は7月31日(火)です。あなたも番組ホームページから投句して参加してください!

放送 NHKラジオ第一
 7月31日(火)21時5分〜55分
 出演 夏井いつき・勝村政信・谷村奈南
兼題「白」(白の一字を入れた句)
締切 7月22日(日)24時必着
投句先
 【PC】http://www.nhk.or.jp/r1/otona/
 【携帯サイト】 メニュー→TV→NHK→ラジオ第一→「オトナの補習授業」俳句募集




100年俳句計画投稿締切カレンダー

 
 6/30(土) くらむぼんが笑った&へたうま仙人
 zatsuei@marukobo.com

 7/5(木)
  ザ 句会
 kukai@marukobo.com
  100年の旗手感想
  魚のアブク

 7/31(火)
 くらむぼんが笑った&へたうま仙人
 100年の旗手推薦募集

 応募先
  〒790-0022 松山市永代町16-1
  (有)マルコボ.コム内
    100年俳句計画編集室
  FAX 089(906)0695
  E-mail magazine@marukobo.com
 宛先/件名に、どこのコーナー宛かお書き添え下さい。俳号/ご本名/住所/電話番号もお忘れ無きよう、よろしくお願いいたします。
 ※ページの都合上お便りを全て掲載できない場合がございます。ご了承下さい。


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マルコボショッピング


マルコボ.コムのショップ店長まほろがアナタにオススメする逸品!
オンラインショップでは様々な商品を取り揃えて皆様のご来店をお待ちしています。


『文月のふみの日』花鳥風月スタンプ
単品200円(税込)
セット800円(巾着袋付き)

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かわいいスタンプで俳人らしさをアピール!?
 花・鳥・風・月、それぞれを意匠化したマークをスタンプにした、マルコボ.コムのオリジナル商品です。印面は11mm四方と、とってもかわいいサイズ。手紙や手帳などのワンポイントとして押してみたり、また並べて押して飾り付けをしてみたりと、使い方はアイデア次第で様々。スタンプパッドは付いていませんので別途ご用意ください。ファンシーグッズなどのカラフルなスタンプパッドがオススメです。



『花鳥風月句会ノート』
製作発行:マルコボ.コム
【花・鳥・風・月】A5判タテ/60ページ
【四季】B5判ヨコ/60ページ
【花・鳥・風】各200円
【月】250円(季寄せ付き)
【四季】250円
【花鳥風月セット】800円(A5判4種各1冊ずつのセットです)

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句会の記録をスッキリと!
 花・鳥・風・月、それぞれを意匠化したマークをあしらった、マルコボ.コムのオリジナルの、句会用ノートです。A5サイズ(縦)の横開きタイプ【花・鳥・風・月】は、持ち歩きにかさばらず、記録欄がゆったり。【月】には季寄せが収録されているので初心者の方にオススメです。B4サイズ(横)の縦開きタイプ【四季】は、記録欄が多少小さめである反面、見開きの上半分のページが白紙となっているため、たくさんメモができる仕様となっています。ご自分の記録スタイルに合わせてお選びください。



マルコボ.コムオンラインショップ
http://shop.marukobo.com/



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編集後記


 句会ライブで絵を描くようになって約10年。絵を描き始めた頃は、一枚の絵の図案を考えるのに、平均して5分ほどかかっていた。句会ライブでは優秀句10句の中から上位3句を描く場合が多くその3句が決まってから考えたのでは間に合わず、10句が決まった段階で考えはじめ、全ての図案が思いつくまでに50分近くかかっていた。
 状況が変わったのは、5年前。今治のFM局ラヂバリの「俳句チャンネル」で特選(天)句に選ばれた俳句にハガキサイズの俳画を描くようになってから。毎週収録が終わってからその場で俳画を描くのだけれど、一緒に番組を作っていたパートナーの予定もあるため、あまり時間をかけられない。できるだけ短時間で図案を考え、下書きもなしに描いてゆく作業を続けた結果、発想の飛ばし方が身につき、最近の句会ライブでは、上位3句が決まってから考えたので十分間に合うようになった。
 ちなみに「俳句チャンネル」のパーソナリティは、今治五七五委員会のメンバーに引き継いだが、今でも天の句には賞品としてハガキを描いて作者に送っている。ラジオが聞けない方でも応募できるので、多くの投稿を待ってます。
(キム)


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次号予告 (177号 8月1日発行予定)


次回特集
スポレク企画第2弾 どろんこバレー吟行 他


HAIKU LIFE 100年俳句計画
2012年7月号(No.176)
2012年7月1日発行
価格 600円(税込)

編集人 キム チャンヒ
発行人 三瀬明子